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2章:寵姫になるために
寵姫になるために 6-2
しおりを挟むアナベルは一歩前に出て、汗を掻いているブトナに向かい、にっこりと満面の笑みを浮かべてみせる。
――アナベルには、自分の笑みに自信があった。
だからだろうか、ブトナはぶわっと顔を真っ赤にし、すいっと視線を逸らした。
ハンカチを取り出して汗を拭き、ふう、と息を吐いた。
「へ、陛下。彼女を本当に城へ?」
「ああ。これだけの美しさだ。機会を逃せば二度と手に入らないかもしれないだろう?」
エルヴィスは繋いでいた手を離し、アナベルの腰に手を回して、ぐいっと引き寄せた。
アナベルは驚いたように目を丸くして、エルヴィスを見上げて妖艶に微笑む。
そっとエルヴィスに身を預けるように頭を傾ける。
「――さて、用がそれだけならば、私はここで失礼しよう。ダヴィド、彼女をこのまま攫っても?」
「彼女が良ければね」
ちらりとアナベルを見るダヴィド。アナベルは目元を細めて微笑んだ。
「――攫ってくださる?」
「――貴女のお望みのままに」
ちゅ、とアナベルの髪に唇を落すエルヴィスを見た会場内の女性たちは「まぁ、本気なのですね……!」と黄色い声を上げていた。ドラマチックね、なんて声も聞こえてくる。
アナベルとエルヴィスは互いに視線を交えて、小さくうなずき、そのままパーティー会場を後にした。
「――大成功、と言っても良いかしら?」
「そうだな。今日来た貴族たちには、印象深いものになっただろう」
「はぁ~……、緊張した!」
パーティー会場を後にしたアナベルは、エルヴィスから体を離すと伸びをした。緊張で体に力が入りすぎていたようで、柔軟すると心地よかった。
「それにしても、本当に美しいな」
「これ? 急いで作ってもらったのよ」
スカートの裾を持ち上げて、そのままくるりと回転してみせた。
ふわりと広がるスカートに、エルヴィスが感心したように息を吐く。
「これをあの数日で? 良く出来たな……」
「そりゃあ、旅をしていたもの。あたしだってほんの少し刺繍をしたけれど、剣舞の確認もあったから……ほとんど衣装係の人が作ってくれたんだけどね」
舞っていた時の高揚感を思い出して、アナベルの声が弾む。
「……エルヴィス陛下。あたしを舞台に上げてくれるのはいつになりそう?」
「……すぐにでも、と言いたいところだが、ダヴィドに頼んだ家庭教師と話し、アナベルが教養をつけてから、になるな」
「……教養……」
「そうだ。マナーなどは完璧に覚えてもらわないといけないだろう」
「……それは……燃えるわね」
その言葉が意外だったのか、エルヴィスは目を見開いた。
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