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2章:寵姫になるために
寵姫になるために 3-2
しおりを挟む「――俺の婚約者が、王妃に殺された」
ダヴィドはつらそうに顔を俯き、アナベルに取って衝撃的な言葉を発した。
「――殺された?」
「そうだ。彼女はアレルギーを持っていたのだが、お茶会で……」
すべて聞かなくても理解出来た。アレルゲン物質が入った食べ物を口にしたのだろう。
「……俺が傍にいない時にやられた。視察に行っていた時を狙っていたんだろう。王妃に誘われて、行かないわけにもいかなっただろうからな」
きっと婚約者のことを愛していたのだろう。
当時を思い出したのか、ぎゅっと手を組んで忌々しそうに息を吐く。
「――君がエルヴィスに協力するというのなら、俺も協力する。あの王妃は、国を滅ぼすための存在にしか思えない」
ダヴィドはそういうと顔を上げる。そして、真剣なまなざしをアナベルに向けた。
アナベルはそのまなざしを真正面から受け止めて、――微笑んだ。
「――必ず、王妃サマに復讐しましょう」
「……本当、良い瞳をしている。それじゃあ、まずは近日のパーティーの手筈から話し合おうか」
ダヴィドがパンッ! と両手を叩いて笑う。エルヴィスは「そうだな」と答えて、旅芸人の一座がこの街に来ていることを話す。
クレマンがいることを知ったダヴィドは目を丸くして、「え、マジであいつがこっちに来てるの!?」と驚いたように声を上げた。
「……うちの座長を知っているのかい?」
アナベルが怪訝そうに眉を顰めて尋ねる。エルヴィスとも面識があり、公爵であるダヴィドとも面識があるとなると、クレマンの正体が気になってしまう。
「クレマンは元々、騎士団に所属していたんだよ」
エルヴィスが穏やかな声で、アナベルへ視線を向けながら答えた。
(――え?)
だが、考えてみれば腑に落ちる。剣を振るうところを見たことがあるが、確かに強かった、と思う。一度だけしか見たことがないから、遠い記憶を手繰り寄せてアナベルは目を閉じた。
「……騎士団にいた座長が、なぜ旅芸人に……?」
「ミシェルの一件が原因だろうな」
――ミシェルの名を聞いて、目をカッと見開くアナベルに、エルヴィスはなぜクレマンが旅芸人になったかを簡単に教えてくれた。
その理由を知り、アナベルはわなわなと肩を震わせた。
「王妃サマには、人の心がないの?」
「ないから出来るんじゃないか?」
「……教えてくれてありがとう。これは、ミシェルさんの復讐にもなるかしらね……」
ぐっと拳を握って復讐への炎を瞳に宿すアナベルに、エルヴィスもダヴィドも大きくうなずく。
「……さて、まずはパーティーの準備だ。クレマンたちも呼んで、盛大にしようじゃないか」
ニヤリと口角を上げるダヴィドに、アナベルとエルヴィスはうなずいた。
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