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2章:寵姫になるために

寵姫になるために 2-2

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 アナベルはそっとエルヴィスの手を外して立ち上がり、自分の胸元に手を添えて口角を上げる。

「それはとても良い案だわ!」

 そう断言した彼女に、ふたりは驚いたように目を見開き、それからふっと表情を緩めた。

「ならば、その時は堂々たる剣舞を見られることを楽しみにしていよう。本気で私を惚れさせるくらいの剣舞を願おう」
「あら、陛下。あなたとあたしは運命共同体。覚悟なさい、このあたしを手に入れることが、どんなことなのか!」

 エルヴィスの胸元に人差し指をくっつけ、アナベルはぱちんとウインクをした。それを見たダヴィドがぷはっと吹き出す。

「驚いた、君みたいなタイプが寵姫になるのは初めてだ」
「あら、そうなの?」
「そうだよ。今までのタイプはどちらかといえば弱気な子が多かったから。というか勝手に宮殿に送られてきたんだっけ?」
「……家族に捨てられたような女性ばかりだったからな。帰る場所がないと泣きつかれたら……な」
「……なるほどね、帰る場所がなければ、勝手に朽ちろってことかい……」

 貴族の考え方を想像して、ゾッとしたように自分を抱きしめるように二の腕を掴む。一歩遅かったら自分もそのような扱いを受けていたかもしれない。
 そう思うとあの時魔物に出会い、崖から落ちたことは不幸中の幸いだったのかもしれない。アナベルがそんなことを考えていると、エルヴィスがそっとアナベルのことを抱きしめた。

「……陛下?」
「いや、今までたくさん苦労して来ただろう。イレインを廃妃にした後は――……」
「それを言うのはまだ早いわ。敵をしっかりと根本から取り除いてからじゃないと」

 未来のことよりも、今は出来ることを。
 王妃イレインを廃妃にした後のことよりも、どうやってイレインを廃妃にするかを考えなければならない。

「――本当、良い女性を見つけたな、エルヴィス」
「そうだろう? ……では、私が留守の間のことを聞かせてもらえるか?」

 アナベルのことをソファに座らせると、エルヴィスも座り直した。ダヴィドは執事にお茶を用意するように頼み、紅茶とマカロンがテーブルの上に置かれると、執事を部屋の外に出した。

「……相変わらず、王妃の宮殿で自由に過ごしているぜ」
「……そうか」
「お前が魔物討伐に向かってから数ヶ月、その間に亡くなったのはメイドが三人ほど、だな」
「メイド……?」
「ああ。確か子爵家の令嬢で、意気揚々と『王妃殿下に仕えられるなんて幸せです』って目を輝かせていた子たちだ。もちろん、王妃よりも若い少女たちだった」
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