【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花

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1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 15-2

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「あたしで良ければ、協力させて」

 決意の固い、芯の通った声が響く。エルヴィスはその答えを聞いて、ほっと安堵したように息を吐き、アナベルの手を取って跪いた。

「――ありがとう、心からの感謝を、貴女に」

 恭しく手の甲に唇を落すエルヴィスに、周りに居た踊り子たちから「きゃぁああ、素敵~!」と黄色い歓声が聞こえた。
 ティオールに到着するまであと少し。少し早めに休むことになり、みんなテントを張ろうとしたり、食事の準備を始めようとしていたが、ふとエルヴィスがなにかに気付いたように顔を上げた。それと同時に、彼の護衛である騎士たちが剣を抜く。

「皆、下がっていろ」

 エルヴィスの真剣な表情に、アナベルたちは身を寄り添うように集まった。

(――一体、何が起きるの?)

 不安そうに周囲を見るアナベルに、アドリーヌがぽんぽんと彼女を落ち着かせるかのように背中を叩く。アドリーヌの表情も強張っていたが、アナベルはきゅっと唇を結んで心配そうにエルヴィスを見た。

「――まさか、王都に近い場所で魔物に遭うとは……」

 エルヴィスの言葉通り、どこから現れたのかわからないが異形のものが姿を現した。
 ドクン、ドクン、と鼓動がイヤな音を立てる。――魔物を見て思い出すのは、十五年前のあの時だ。冷や汗が滲んでくるのを自覚し、アナベルは手を震わせた。
 魔物がエルヴィスたちに襲い掛かって来た。黒いもやのように囲まれて、どのような魔物なのかは目視出来ない。しかし、エルヴィスも彼の護衛たちもバッサリと魔物を斬り倒していく。エルヴィスは片手で剣を振るう。剣は冷気を帯びているようで、魔物を斬るたびに凍らせている。よく見れば、魔物を凍らせた後に何かを壊すかのように剣を振るっているようだ。

「……陛下は何をしているのかしら……?」
「あれはねぇ、魔物の『核』を壊しているのよぉ」
「核?」
「魔物の心臓ってところかしらね? そっかぁ、そう言えば魔物を退治するところって、アナベルは初めて見るものねぇ……」

 その口ぶりからして、アドリーヌは魔物を退治しているところを見たことがあるようだった。

「魔物を倒す時は、『核』まで壊さないと復活しちゃうのよ。だから、ああやって止めを刺すの。そうじゃないと、魔物が人間を襲っちゃうから」
「……そうなんだ……」
「アナベルが入って来てから、あんまり魔物と遭遇することがなかったから、教えてなかったわねぇ~……」

 アドリーヌの言葉に驚いたように目を丸くするアナベル。……野生の動物たちには出会ったことがあるが、魔物と遭遇するのは片手で数えるほどだ。それに、遭遇した時は退治ではなく息を殺して通り過ぎるのを待ったり、気付かれていないうちにこっそりと逃げていた。

「……陛下が魔物を凍らせているのは、わざと?」
「あの氷の魔法を使うと、『核』が壊しやすくなるらしいわよぉ?」
「……なんでそんなことを知っているの?」
「陛下に聞いたから」

 ぱちん、とウインクをするアドリーヌに、アナベルは「えっ?」と驚いたように目を瞬かせた。
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