【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花

文字の大きさ
上 下
27 / 122
1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 13-2

しおりを挟む

 もしも自分が寵姫の件を受け入れたら、もするのだろうか? アナベルはさらに頬を赤らめて、そんなふたりを見ていた旅芸人の人たちは「なんだありゃ」と呆れたように肩をすくめていた。
 食事を終えて各々がテントに入る。アナベルも自身のテントに向かい、簡易ベッドに座ると、まだ高鳴っている胸の鼓動にゆっくりと深呼吸を繰り返す。
 ぽす、とベッドに横になって目を閉じる。それでも、頬に集まる熱はそのままだった。

(恋? これが恋なの……?)

 初めての感情に悩んでいると、あっという間に真っ暗になった。この時期からは日が暮れるのが早い。
 アナベルは慌てて着替えとバスタオルを手にしてテントから外に出た。近くに川があったことは確認済みだ。真っ暗になった森の中を、慎重に歩いていく。
 新月のようで空を見上げても星々が輝いているだけだ。
 川に辿り着き、周りを見渡してから服を脱ぎ、そっと川の中に手を入れてみる。冷たくてぶるりと震えると、魔法を使って一部だけをお湯にした。ちゃぷり、とお湯の中に入り、「ふぅ」と息を吐く。
 恐らく、他の女性たちはもう川で身体を清めただろうと考えて、アナベルは自分がこの感情に振り回されていることを自覚した。
 ふるふると頭を左右に振ってアナベルは髪を洗ったり身体を洗ったり、とにかくなにも考えなくても良いように身体を動かした。
 髪も身体も洗ってスッキリしたところで、そろそろ上がろうとタオルを手に取ろうとしたら、足音が聞こえた。こんな時間に? とアナベルは辺りを警戒するように見る。
 がさ、と音が聞こえてそちらに顔を向けると、そこに居たのはエルヴィスだった。
 川のほうから音が聞こえたから、魔物の可能性を考えて剣をたずさえて確認のために来たエルヴィスは、アナベルが川に入っていることに気付きその姿に魅入ってしまった。
 アナベルはエルヴィスの姿を見て、そして今の自分の格好を思い出して頬を赤らめて隠すように背を向けた。足音が近付いて来る。ふわり、とバスタオルを肩に掛けられて、アナベルはちらりとエルヴィスを見上げた。

「あ、ありがとうございます……」
「いや、本当にすまない。覗くつもりはなかったんだ」

 弱々しくも聞こえるエルヴィスの声に、アナベルはそっとバスタオルで身体を隠す。
 ふたりとも黙ってしまい、沈黙が続いた。
 そして、意を決したようにアナベルが問いかける。

「……見た、よね……?」

 その問いに、エルヴィスが「……ああ」と肯定した。アナベルは「だよね……」と視線を泳がせる。女性以外に裸を見られたことがないから、余計に羞恥心を煽った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

妖精の園

カシューナッツ
恋愛
私はおばあちゃんと二人暮らし。金色の髪はこの世には、存在しない色。私の、髪の色。みんな邪悪だという。でも私には内緒の唄が歌える。植物に唄う大地の唄。花と会話したりもする。でも、私にはおばあちゃんだけ。お母さんもお父さんもいない。おばあちゃんがいなくなったら、私はどうしたらいいの?だから私は迷いの森を行く。お伽噺の中のおばあちゃんが語った妖精の国を目指して。 少しだけHなところも。。 ドキドキ度数は『*』マークで。

ヒュントヘン家の仔犬姫〜前世殿下の愛犬だった私ですが、なぜか今世で求愛されています〜

高遠すばる
恋愛
「ご主人さま、会いたかった…!」 公爵令嬢シャルロットの前世は王太子アルブレヒトの愛犬だ。 これは、前世の主人に尽くしたい仔犬な令嬢と、そんな令嬢への愛が重すぎる王太子の、紆余曲折ありながらハッピーエンドへたどり着くまでの長い長いお話。 2024/8/24 タイトルをわかりやすく改題しました。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

処理中です...