【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花

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1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 13-1

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 それは、遠い昔の物語。レアルテキ王国の始まりの物語。幼い頃、寝る前に母が良く話してくれた……。アナベルが懐かしむように目元を細めると、エルヴィスが「どうした?」と軽く首を傾げた。

「母が話してくれた物語を思い出したんです。この国の始まりの物語」
「ああ、あれか……」

 エルヴィスにも覚えがあった。まだ幼い頃、眠れないエルヴィスに優しい声で話してくれた物語だ。恐らく、この国のほとんどの人が知っている始まりの物語。真実かどうかを知る者はいない。

「……陛下は本当に氷の魔法が使えるのですか?」
「使える。正直に言えば、城に居なくて良いという点で、この魔法に助けられている」
「……ふぅん……?」

 元々レアルテキ王国は寒さが厳しい土地で、中々作物に恵まれず様々なことを試していた。そのうちに、どんどんと人間も野生動物も魔物も倒れていき、それを哀れに思った神がこの土地に祝福を掛けた。その祝福で寒さが少しだけ和らぎ、作物が育つようになった。さらに、神は一部の人間に魔物を倒せる力を授けたという。それが――王族の使う『氷の魔法』だ。だから、レアルテキ王国の王族は『氷の血族』と呼ばれている。
 その魔法はとても強く、魔物たちをなぎ倒すことが出来た。そして段々とレアルテキ王国の基盤が築かれていった。

「……確か、こんな感じの内容だった……ような?」
「そうだ。神の祝福なのか妖精の情けなのかは人によって違うらしいが……」
「妖精説もあるんですね。あたしは神の祝福でした」

 母はいつも寝る前にこの話をしていたと説明すると、エルヴィスはぽんとアナベルの頭に手を置いた。

「……陛下?」
「……いや……、すまない」

 エルヴィスは自身がどうして彼女の頭を撫でたのかと一瞬目を見開き、すぐに彼女の頭からぱっと手を離して顔を逸らした。
 アナベルはそんなエルヴィスに首を傾げつつも、彼の耳が赤くなっているのを見て、小さく笑う彼女に、ちらりと視線を向けるエルヴィスに、アナベルはそっとその頬につん、と人差し指で触れた。

「謝らないで」

 アナベルがにこりと微笑むと、エルヴィスの頬の赤さが増した。その姿を見て、アナベルも頬を朱に染める。ばっと彼から顔を逸らして、両手で包むように頬に触れる。

(どうしたの、あたし……)

 トクントクンと胸の鼓動が高鳴るのを感じて、アナベルは困惑するように眉を下げた。
 今までいろいろな男性を見て来た。その誰よりも、彼はキラキラと輝いて見えた。
 アナベルは考える。そして、ミシェルの言葉を思い出す。

(初めては素敵な人と……かぁ……)
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