【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花

文字の大きさ
上 下
13 / 122
1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 6-2

しおりを挟む

 アナベルは、考えを巡らせた。このままこの旅芸人の一座に入ることと、孤児院に入ること。アナベルにとってはどちらのメリットも、デメリットもわからないことだった。ただ、旅芸人と言うことは少なからず、様々な情報を得られるのではないかと考えたのだ。

「……たくさん、練習します。だから、アナベルをこの一座に入れてください!」

 村を焼いた犯人を捜すためにも、情報は多いほうが良い。アナベルは頭を下げてこの一座に入ることを懇願した。
 ミシェルとクレマンは、互いに顔を見合わせて、それからクレマンがアナベルの脇の下に手を入れてひょいと持ち上げる。そして、自分の肩に座らせると、大きな声でこう言った。

「新人のアナベルだ! 徹底的にいろいろ教え込め!」

 わぁぁああ、と歓声が上がった。どうやら、アナベルのことを歓迎してくれるようだった。そして、村にいた時はあれだけ人見知りだったのに、ここの人たちとは普通に話せている自分に気付いた。

(きっと、ショックなことが多すぎたのね……)

 自分を花嫁にしようとした貴族、魔物に襲われて崖から落ちたこと、焼かれた村……。そのすべてが、アナベルの心に強いショックを与えてしまい、心身ともに疲労していた。
 そんなアナベルに救いの手を差し伸べたこの旅芸人一座に感謝しつつも、アナベルは自分の目的のためにがんばろうと心の中で決意を固める。

「これからよろしくねぇ、アナベルちゃん」
「よろしくお願いします、ミシェルさん」

 ミシェルとアナベルが握手をすると、

「あ、ミシェルだけずるーい」とみんなアナベルに触れようとした。
「ゲッ、こっち来るなよ!」
「座長が肩車してるのがいけないんですよー」
「わかった、わかったから……、どさくさに紛れて股間を撫でんな、尻を揉むな!」

 きゃっきゃと楽し気に笑う女性たちにたじろいているクレマン。ミシェルが「おいで」と腕を広げたので、避難するようにミシェルに手を伸ばす。そして、ひょいと抱っこをされて女性たちに翻弄されているクレマンの姿を見たミシェルが肩をすくめて、

「本当、うちの座長は女性にモテモテだわー。教育に悪いだろうから、隠れてようね~」

 と、アナベルを抱っこしたままテントの中に入った。
 そして、テントの中に入ると、先程の若い男性がミシェルに「コートを」と渡してくれた。

「ありがとう。さっきの剣舞、どうだった?」
「え、ぁ、えっと、……とても、セクシーでした……」
「うふふ、ありがとう」

 毛皮のコートを受け取ってそれを羽織ると、男性に感想を求めたミシェル。男性の感想を聞いて、パチンとウインクすると、男性は顔を真っ赤にさせてテントから出て行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】訳あり追放令嬢と暇騎士の不本意な結婚

丸山 あい
恋愛
「私と結婚してほしい」リュディガーらしい真っ直ぐな飾り気のない求婚に、訳ありのキルシェは胸が締め付けられるほど苦しさを覚えた。 「貴方は、父の恐ろしさを知らないのよ……」 令嬢キルシェは利発さが災いし、父に疎まれ虐げられてきた半生だった。そんな彼女が厳しい父に反対されることもなく希望であった帝都の大学に在籍することができたのは、父にとって体の良い追放処置にもなったから。 そんなある日、暇をもらい学を修めている龍騎士リュディガーの指南役になり、ふたりはゆっくりと心を通わせ合っていく。自分の人生には無縁と思われていた恋や愛__遂には想い合う人から求婚までされたものの、彼の前から多くを語らないままキルシェは消えた。 彼女は、不慮の事故で命を落としてしまったのだ。 しかし、ふたりの物語はそこで終わりにはならなかった__。 相思相愛からの失意。からの__制約が多く全てを明かせない訳ありの追放令嬢と、志を抱いた愚直な騎士が紡ぐ恋物語。 ※本編は完結となりますが、端折った話は数話の短いお話として公開していきます。 ※他サイト様にも連載中 ※「【完結】わするるもの 〜龍の騎士団と片翼族と神子令嬢〜」と同じ世界観で、より前の時代の話ですが、こちらだけでもお楽しみいただける構成になっています。

処理中です...