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1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 5-2

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「テント張り終わったぞー」

 と言う声を合図に、みんな湖から上がりバスタオルで身体を拭いたり髪を拭いたりしてから服を着替える。アナベルの服は誰が用意したのかピッタリな服を用意されていた。

「あ~ん、すっごく可愛い~! やっぱり女の子って可愛いわよねぇ」

 ミシェルのはしゃぎように、アナベルは顔を赤くする。子ども用の服だ。水色のワンピースに白いエプロン、寒くないように、とふわふわの防寒着まで用意されていた。

「風邪ひかないように髪を乾かさないとね」

 そっとミシェルがアナベルの髪に触れて、手櫛で梳かすように動かす。アナベルの髪が一瞬で乾き、「これで仕上げよ」とヘアオイルをつけた。

「うん、髪もつやつや、ほっぺもぷるぷる、最高に可愛いわぁ!」

 大袈裟なくらいに褒め称えられて、アナベルはモジモジと手を動かす。みんな、アナベルの愛らしさを微笑ましそうに見ていた。

「どれどれ、おお、本当に可愛いじゃないか。……さてと、いろいろ話したいところだが、その前に飯にするか」

 そう言ってアナベルに差し出されたのは、温かなスープとパンだった。

「移動の途中だから、こんなもんしか用意できなくて悪いな。本当は行くはずだった村で、食材を買うつもりだったんだが……」

 クレマンが言葉を濁した。アナベルは、その村が自分の住んでいた村に違いないと確信する。あの焼け方では、作物もなにも燃えてしまっただろう。あとに残ったのは焼かれた時に出た灰だけだ。

「ちょっと問題が起きてな。もう少しすれば、別の場所に辿り着くはずだ。その時にうまいもん食わせてやるから、今日のところはそれだけで勘弁してくれ」
「……アナベルが、食べても良いの? これは、みんなのごはんでしょ?」
「良いんだよ、小さい子が遠慮すんなって。さて、オレらも食うか。それじゃあ、食事の前にお祈りだ!」

 クレマンの言葉で、みんなにスープとパンが行き渡っていることを知った。そして、みんな目を閉じて手を組み、祈りを捧げている。アナベルも同じように目を閉じて両手を組み、祈りを捧げた。
 カチャリ、と音が聞こえて目を開けると、クレマンがスープを口にしていた。アナベルもスプーンを手にして、スープを口にした。温かなスープが喉を通り、胃の中に落ちていく。ほぅ、と息を吐いて今度はパンを手にした。硬めのパンだ。

「硬いからスープに浸して食べると良いよ」

 とミシェルが実際にやってみせた。一口サイズにちぎったパンを、スープに浸して柔らかくしてから食べる。
 アナベルも真似して食べてみた。スープの水分を含んだパンは、とても食べやすかった。
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