【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花

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1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 3-2

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「――っ! マジかよ……」

 騎士の背中に汗が流れる。こんな田舎道で出会うとは思わなかった。いや、むしろ田舎道だからこそ、魔物が居るのだろうか……。そう考えていたのも束の間、魔物は御者と馬をめがけて襲い掛かって来た。騎士が応戦しようと剣を抜いたが、間に合わなかった。御者は血まみれになり、馬は魔物に喰われていた。ガタガタと震えることしか出来ないアナベルは、ぎゅっと目を閉じて耳を塞いだ。

(悪い夢ならもう覚めて――!)

 彼女の願いも虚しく、魔物たちの唸り声、騎士の呻き声、自分の息遣い、すべてがこれは夢じゃなく現実だと教えていた。

(ここにいたら、殺されちゃう!)

 馬車から出て逃げようとするアナベル。魔物たちはいち早くそれに気付き、彼女に襲い掛かろうとした。
 しかし、幸いと言うべきか、不幸と言うべきか、足を滑らせたアナベルは、そのまま崖から落ちてしまった。

「きゃぁぁアアアっ!」

 アナベルが最後に見た景色は、落ちたアナベルを名残惜しそうに見る魔物と、騎士が腕を噛まれている姿だった――……。

「――ッ、ぅ……」

 ――生きている? とアナベルは恐る恐る目を開けた。どうやら、自分の身体はかすり傷程度で無事のようだと安堵すると、アナベルは落ちてきたところを見上げた。
 木の葉がクッションとなり、この程度の傷で済んだようだ。ゆっくりと起き上がり、服の汚れを払う。

「……ここは……どこ……?」

 森の中でたったひとりになったアナベルは、ぽつりと呟く。アナベルの目から大きな涙が零れ落ちるが、アナベルはごしごしと乱暴に目を擦って、深呼吸をした。
 村から一歩も外に出たことのないアナベルは、この現状をどうしようかと悩む。

(家族に会いたい……)

 優しい両親に兄と姉。とても幸せな家庭で生まれ育った彼女にとって、家族はとても大切な宝物だ。

「……村はどっちかな……」

 きょろきょろと辺りを見渡して、ふと黒い煙に気付いた。アナベルはドクンドクンと自分の鼓動が早くなるのを感じた。

(……行かなきゃ!)

 そして、確かめなければいけない。そう感じ取った彼女は、小さな足で黒い煙のほうへと駆け出す。一生懸命に走って、息を切らしたら歩いて息を整えて、を何回も、何十回も繰り返すうちに黒い煙に近付いていった。
 どのくらい時間が掛かったのか、正確な時間はわからない。とにかく黒い煙に近付きたくて、道なき道も駆けた。
 そして目の前に広がった光景に、彼女は息を飲んだ――……。
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