【完結】四季のごちそう、たらふくおあげんせ

秋月一花

文字の大きさ
上 下
26 / 29
冬のごちそう

ひっつみ 2話

しおりを挟む
 今日の野菜は白菜、にんじん、長ネギ。それと、冷凍庫にある豚バラを入れる予定。

 美咲みさきにはボウルに小麦粉と水を入れてこねてもらう。そのあいだに野菜を切った。

 にんじんは火が通りやすいように薄めに切り、白菜も食べやすい大きさに切り、長ネギは斜め切りにした。そして、冷凍の豚バラはそのまま包丁で一口サイズに切る。

 お湯が沸いてから全部まとめて鍋に入れた。

「けーこばあば、このくらい?」
「うんうん、良い感じ。これをこうちぎって、鍋に入れていくのよ」
「寝かせないの?」
「うちは寝かせないねぇ……。場所によっては手でこねてから一時間寝かせるらしいけど、高橋たかはし家ではしません」
「場所によっていろいろだね」

 こねた小麦粉を一口サイズにちぎり、鍋の中に入れていく。

「そしてうちはめんつゆです」

 と、言いながら恵子けいこはとぽとぽめんつゆを入れた。ふわりと出汁の良い香りが漂うと、美咲のお腹がくぅ、と鳴いた。

「お腹空いちゃった」
「ふふ。美咲ちゃん、辛いの平気?」
「大好きよ」
「なら、これも入れちゃいましょう」

 冷蔵庫からかんずりを取り出して、スプーンで掬って鍋に入れる。

「もっと辛くしたかったら、一味唐辛子もあるわよ」
「寒い日に辛いもの! いいねぇ」

 美咲との会話を楽しみながら、具材が煮えるのを待つ。くつくつという音を聞きながら、会話を弾ませた。

「そろそろいいかしら。美咲ちゃん、どんぶり出してくれる?」
「はいはーい」

 美咲は恵子の家の食器棚からどんぶりを取り出して、恵子に渡す。

 どんぶりを受け取った恵子は、火を止めてお玉で鍋からどんぶりへ移した。

「あと、チューブで悪いんだけど……これ、おろししょうがね、好みだろうから」
「わ、しょうが好き! ありがとう!」

 ふたり分のどんぶりを食卓に置いて、箸とレンゲを用意して椅子に座る。チューブのおろししょうがをひっつみの中に入れ、かき混ぜる。

「それじゃあ、たらふくおあげんせ、美咲ちゃん」
「ありがたく、いただきます」

 両手を合わせて小さく頭を下げる美咲に、恵子も両手を合わせて「いただきます」と口にした。

 まず一口スープを飲む。ひっつみを入れたことで、小麦がスープに溶けて少しとろみがつき、めんつゆとかんずり、野菜と豚バラの出汁が良く出ている。

「あったまるぅー……」

 美咲もスープを飲んだようで、ほぅ、とゆっくり息を吐いた。

 くたくたになった白菜を食べると、甘みを感じた。冬の葉物野菜は美味しい、と心の中でつぶやきながら、恵子はにんじんや長ネギも食べ、ひっつみも食べる。

 ほどよい弾力のあるひっつみを噛み、「おいしいねぇ」と微笑んだ。

「寒いときにはとっても良いよね、ひっつみ……」
「んだな。小麦粉と水があればできるし」

 たっぷり作ったのでお代わり分もある。美咲はぱくぱくとよく食べてくれ、身体の中からぽかぽかと温まってくる。かんずりとしょうがの作用もあるだろう。

 それから美咲はおかわりをして、「ごちそうさまでした! とってもおいしかった!」と満面の笑みを浮かべた。その表情を見て、恵子はふふっと目元を細めてうなずいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ズッ友宣言をしてきたお隣さんから時々優しさが運ばれてくる件

遥 かずら
恋愛
両親が仕事で家を空けることが多かった高校生、栗城幸多は実質一人暮らし状態。そんな幸多のお隣さんには中学が一緒だった笹倉秋稲が住んでいる。 彼女は幸多が中学時代に告白した時、爽やかな笑顔を見せながら「ずっと友達ならいいですよ」とズッ友宣言をしてきた快活系女子だった。他にも彼女に告白した男子も数知れずいたもののやはり友達止まり。そんな笹倉秋稲に告白した男子たちの間には、フラれたうちに入らない無傷の戦友として友情が芽生えたとかなんとか。あくまで友達扱いをしていた彼女は、男女関係なく分け隔てない優しさがあったので人気は不動のものだった。 「高校生になってもずっとお友達だよ!」 「……あ、うん」 「友達は友達だからね?」 やんわりとお断りされたけどお友達な関係、しかもお隣同士な二人の不思議な関係。 本音がつかめない女子、笹倉秋稲と栗城幸多の関係はとてもゆっくりとした時間の中から徐々に本当の気持ちを運ぶようになる――

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。 兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。 リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。 三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、 「なんだ。帰ってきたんだ」 と、嫌悪な様子で接するのだった。

処理中です...