【完結】四季のごちそう、たらふくおあげんせ

秋月一花

文字の大きさ
上 下
20 / 29
秋のごちそう

栗まんじゅう 1話

しおりを挟む
 ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴る音が耳に届き、恵子けいこは立ち上がる。

「はいはーい。いらっしゃい、美咲みさきちゃん、芽衣めいちゃん」

 玄関の扉を開けて、ふたりを招き入れると美咲と芽衣は「お邪魔します」と一言挨拶をしてから中に入った。

 スーパーで買ってきたものを恵子に見せる美咲。

「これで良かった?」
「重かったでしょう? ありがとうねぇ」
「なんのなんの、栗まんじゅうのためなら!」

 にやりと口角を上げる美咲に、くすくすと笑って頼んで買ってきてもらったものを受け取り、ふたりに手洗いうがいを勧める。

 ふたりとも素直に洗面台へ向かい、恵子は中身を確認すると気合いを入れるようにうなずいてから、台所へ足を進めた。

 三人ともエプロンと三角巾を身につけ、まんじゅう作りをする準備は万全だ。

「では、栗まんじゅうを作ります」
「はい」
「はーい!」

 美咲が買ってきた五キロの小麦粉を使い、栗まんじゅうを作る。

 やかんにたっぷりとお湯は用意しているので、まずはこの前の山栗を茹でで中身をくり抜いたものを用意し、丸めることから始めた。

 栗をくり抜くときはスプーンを使うので、粉のような栗もあるので、全部をくっつけるイメージで丸めていく。

 それからまんじゅうの皮作りだ。

 大きめの器に小麦粉と砂糖、お湯を入れて混ぜていく。なんせ五キロもあるので、なかなかの重労働だ。

 お湯を使うのは、皮を柔らかく仕上げるためだ。

 水を使えば皮は硬くなる。お湯を使うと表面がぬらぬらするといって、硬い皮を好む人もいるが、これも好みだろう。

「……なんかすごいね」
「あっはっは。量が量だべ?」
「うん、量もすごい。五キロの小麦粉なんであんなに売れるんだろ、って思っていたけど、こういうことだったのね……」
「美穂ちゃんは作らんの?」
「見たことない」
「今は市販の彼岸まんじゅうもたくさんあるからねぇ」

 彼岸時期になると並ぶ彼岸まんじゅうを思い浮かべながら、恵子はくすくすと笑う。作りたい人が作ればいいのだ、彼岸まんじゅうは。

「今年も無事にあげもすことができそうね」
「あげもす?」

 芽衣が不思議そうに首を傾げる。どうやら知らない方言だったらしい。

「ご先祖さまにお供えするのよ。神さまにお供えするときも使うわ」
「おそなえが、あげもすっていうの?」
「そうよぉ」

 まんじゅうの皮を捏ねながら、芽衣に教えると芽衣は「あげもす」と口の中で繰り返す。

「おまんじゅう、お父さんにもあげもす?」
「あれまぁ」
「芽衣はどうしたい?」
「えっとねぇ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...