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夏のごちそう

花火

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 美咲みさきたちは一度家に戻り、午後八時頃に再び恵子けいこの家に訪れた。

「きたよー、けーこばあばー!」

 元気の良い芽衣めいの声に、恵子は「はいはーい」と玄関に向かう。

「美咲ちゃん、手伝ってくれない?」
「え? う、うん……なにを?」
「このバケツに、水をお願い」
「……ああ! そういうことね、わかった、待ってて!」

 美咲はバケツに水を汲んで戻ってきた。芽衣は不思議そうに恵子と美咲を見て、首を傾げている。そんな彼女に、恵子は「じゃーん!」と花火セットを見せた。

「花火だぁ!」
「せっかくだからね。一緒に楽しみましょう?」

 夏休みに入る前から、手持ち花火セットがスーパーに並ぶ。

 田舎だからこそ、できること。家の庭で花火を楽しむのが毎年恒例だ。

「わーい!」
「スイカも冷やしているから、あとで食べようねぇ」
「やったー! けーこばあばだいすき!」

 両手を上げて大喜びする芽衣を見て、美咲は大きく目を見開く。そして、恵子に顔を向ける。

「火は危ないから、私か美咲ちゃんからつけてもらってね」
「うん!」

 芽衣の目がキラキラと輝いているのを見て、美咲はきゅっと唇を結んでから笑顔を浮かべた。

「けーこばあばの言葉に甘えて、今日は手持ち花火大会だー!」
「わーっ!」

 パチパチと両手を叩く芽衣に、恵子はうんうんとうなずき、花火セットの袋を開けて「どれから火をつける?」と問いかける。

 芽衣はじっくりと花火を眺めて、「これ!」と二本の花火を持ち上げた。

「芽衣、花火を振り回しちゃダメだからね」
「はぁい」

 ワクワクとした表情で芽衣が返事をする。それを聞いてから、美咲は芽衣の持っている花火の先にライターで火をつけた。すると、勢いよく火花が暗闇に咲く。

「わぁああっ! きれーっ!」

 芽衣のはしゃぐ声に、恵子はにこりと微笑みを浮かべて、自分も手持ち花火を持って彼女に近付いた。

「芽衣ちゃん、私にも火をちょうだい」
「いいよー!」

 芽衣の花火から火を分けてもらい、恵子も花火を楽しむ。ソワソワとしている美咲にも、声をかけ、手持ち花火を持つように言うとすぐに近付いてくる。

「たくさん買ったから、たくさん遊びましょうね」
「うん!」
「ありがとう、けーこばあば」

 美咲がふわりと微笑む。日中に見た複雑そうな微笑みではなく、心の底から楽しんでいるような……そんな表情だった。

「どういたしまして。線香花火は最後に取っておきましょうね」
「そうだね。三人で勝負だ!」
「見てみてー! すっごくきれいだよー!」

 花火を両手に持った芽衣がふたりを呼ぶ。

 夏の暗闇の中に咲く火花は、とても美しかった。

 その後、たくさんの花火を楽しみ、スイカを食べてから美咲と芽衣は実家に戻る。

 線香花火の勝者は、――三人だけの秘密だ。
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