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夏のごちそう
煮しめ
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ミーンミンミンミン、ミーンミンミンミン。
セミの鳴き声が夏を感じさせる――いや、暑さからして夏なのだが。
「やれやれ、相変わらずこの時期はスーパーが混むねぇ」
八月のお盆前。特に十二、十三日はとっても混んでいる。それもそのはず。お盆の準備があるからだ。
「勇さんの好物を作ろうねぇ」
恵子は買ってきたものに視線を落とし、ぐっと拳を握る。帰省してくる人たちも多い時期なので、いろいろと準備が必要な時期。
大きめの鍋に水を入れ、キッチンタオルを濡らして出汁用の結び昆布をきれいに拭いてから鍋へ。火にかけて沸騰したら止め、十分ほど放置しているあいだに、他の食材も用意する。
高橋家の煮しめの具材は、焼き豆腐、ちくわ、さつまあげ、にんじん、ごぼう、しいたけだ。
一人暮らしなので少なめの材料にしたが、それでもそれなりにボリュームのある煮しめが出来上がる。
焼き豆腐は三分の一、ちくわは縦半分に切ってから二分の一、さつま揚げは半分に切り、しいたけはキッチンタオルできれいにしてから、軸を切り、傘に包丁を入れてバッテンになるように飾り切りをした。
しいたけの石づきを落とし、軸を斜めに薄く切る。これはあとで天ぷらにしようと考え、別皿に置く。
ごぼうはよい出汁になるので、入れるのがお勧めだ。アルミホイルを適当に破り、くしゃくしゃにしてから広げて、ごぼうを包み込むように軽くこすりながら水洗いをする。食べやすい大きさに切り、水につけて灰汁を抜く。酢水を作っておき、切ったらすぐにつけると色がきれいなままだ。
一分ほど放置し、水気を切る。切った食材を鍋に入れ、酒、みりん、めんつゆ、少しの砂糖を入れて、最後にかんずりを入れる。
以前娘に教えてもらい、試しに入れてみたらかんずりからも出汁が出て、美味しくなったので、それ以降かんずりがあるときは入れている。調味料に関してはすべて目分量だ。
落し蓋をして、蓋をずらしてしてから火にかける。最初の味付けは適当でも良い。沸騰したら味見をするから。
このときに薄いと感じれば、塩や醤油を足せばいい。
くつくつとした音を聞きながら、恵子はゆっくりと息を吐いた。
「……味がしみたほうが美味しいからね。勇さん、柔らかくなった焼き豆腐好きだったわよねぇ」
懐かしむように目元を細め、恵子はくすりと笑みをこぼす。勇が生きていた頃は、もっと大量に作っていたが、今はそんなに作っても食べきることができないので、年々作る量は減っている。
それでも毎年作ってしまうのは、勇の好物だったからだ。
「たらふくおあげんせ、勇さん」
きっと、自分のところに来てくれていると信じて、そっと目を伏せる。
「……美咲ちゃんたち、大丈夫かねぇ……?」
美咲と芽衣は、直樹の実家に行くと聞いている。以前、彼女が話してくれた内容を思い出し、恵子は頬に手を添えた。
セミの鳴き声が夏を感じさせる――いや、暑さからして夏なのだが。
「やれやれ、相変わらずこの時期はスーパーが混むねぇ」
八月のお盆前。特に十二、十三日はとっても混んでいる。それもそのはず。お盆の準備があるからだ。
「勇さんの好物を作ろうねぇ」
恵子は買ってきたものに視線を落とし、ぐっと拳を握る。帰省してくる人たちも多い時期なので、いろいろと準備が必要な時期。
大きめの鍋に水を入れ、キッチンタオルを濡らして出汁用の結び昆布をきれいに拭いてから鍋へ。火にかけて沸騰したら止め、十分ほど放置しているあいだに、他の食材も用意する。
高橋家の煮しめの具材は、焼き豆腐、ちくわ、さつまあげ、にんじん、ごぼう、しいたけだ。
一人暮らしなので少なめの材料にしたが、それでもそれなりにボリュームのある煮しめが出来上がる。
焼き豆腐は三分の一、ちくわは縦半分に切ってから二分の一、さつま揚げは半分に切り、しいたけはキッチンタオルできれいにしてから、軸を切り、傘に包丁を入れてバッテンになるように飾り切りをした。
しいたけの石づきを落とし、軸を斜めに薄く切る。これはあとで天ぷらにしようと考え、別皿に置く。
ごぼうはよい出汁になるので、入れるのがお勧めだ。アルミホイルを適当に破り、くしゃくしゃにしてから広げて、ごぼうを包み込むように軽くこすりながら水洗いをする。食べやすい大きさに切り、水につけて灰汁を抜く。酢水を作っておき、切ったらすぐにつけると色がきれいなままだ。
一分ほど放置し、水気を切る。切った食材を鍋に入れ、酒、みりん、めんつゆ、少しの砂糖を入れて、最後にかんずりを入れる。
以前娘に教えてもらい、試しに入れてみたらかんずりからも出汁が出て、美味しくなったので、それ以降かんずりがあるときは入れている。調味料に関してはすべて目分量だ。
落し蓋をして、蓋をずらしてしてから火にかける。最初の味付けは適当でも良い。沸騰したら味見をするから。
このときに薄いと感じれば、塩や醤油を足せばいい。
くつくつとした音を聞きながら、恵子はゆっくりと息を吐いた。
「……味がしみたほうが美味しいからね。勇さん、柔らかくなった焼き豆腐好きだったわよねぇ」
懐かしむように目元を細め、恵子はくすりと笑みをこぼす。勇が生きていた頃は、もっと大量に作っていたが、今はそんなに作っても食べきることができないので、年々作る量は減っている。
それでも毎年作ってしまうのは、勇の好物だったからだ。
「たらふくおあげんせ、勇さん」
きっと、自分のところに来てくれていると信じて、そっと目を伏せる。
「……美咲ちゃんたち、大丈夫かねぇ……?」
美咲と芽衣は、直樹の実家に行くと聞いている。以前、彼女が話してくれた内容を思い出し、恵子は頬に手を添えた。
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