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第23話 源外君と愛輝さんの微妙な関係

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 う~ん、あのビリビリであそこをビリビリされたら、気持ちいいかもしれん。
 彼女のレーザー銃から放たれる電撃に、不埒な妄想を逞しくする源外。
 その不健全な頭にゴツンとコンクリートの塊が落下すれば、それは神の下した天罰に違いない。

「源外君!」
 
 目を回して卒倒した彼を、素早く抱き起した愛輝。
 そのときーー、

 ゴゴゴゴゴッ!
 
 不意に校舎全体が激しい揺れに包まれた。

 じ、地震?
 
 震度八の耐震基準を満たした校舎も、度重なる人造人間の攻撃に相当脆くなっていたようで。
 壁の亀裂は瞬く間に蜘蛛の巣状に伸びて、床や天井へ拡大した。
 床のタイルが剥離し、天井のコンクリートが剥落する。
 激しい縦揺れに、校舎全体が悲鳴を上げた。

「み、みんなぁ~、逃げるのじゃあ~!」
 
 我先に逃げ出そうとした源外の襟首を、がっちりと掴んで離さない愛輝。

「まさか、桜井さんを置いてゆくつもりですか!」
「桜井? ああ、あやつなら大丈夫じゃ。たとえ瓦礫の下敷きになっても、八戒ダーの身体は壊れたりはせん」
「でも機能停止状態で長時間放置すれば、培養液の循環が停止して、桜井さんの脳髄は死んでしまうのです。そんなことになったら、あなたは殺人犯です!」
「だから、その前に瓦礫の下から八戒ダーを掘り起こせば」
「駄目です! もし桜井さんを置いてゆくというのであれば、わたくし、あなたを生かしてはおきません!」

 必ず殺します。
 
 この土壇場にきて突発性狂騒病の兆候を見せ始めた愛輝。
 そんな状態の彼女に逆らって、命を全うした者はいない。
 そのことを誰よりも理解している源外。
 最早、単独での脱出は不可能と判断して、周囲の人々に協力を求めた。
 が、八戒ダーの一五〇キロという重量を考えると、人手が足りないのは明白で、はてさて、どのようにして運び出したものか、頭を捻る平賀一座の面々。

「その役目、俺に任せろ!」
 
 現れたるは相撲部員で高校生横綱の羽山大樹。
 全身の包帯は既になく、松葉杖など不要とばかりに両足で床をしかと踏みしめ、分厚い胸板を拳で叩いて健在ぶりを主張アピールした。
 源外、諸手を上げて歓迎すると、

「おお、羽山! いいところへ来たのじゃ! もし無事に脱出できたら寿司奢ってやるのじゃ。だから死に物狂いで頑張るのじゃ!」
「おうよ! それが俺様の狙いよ。平賀、よろしく頼むぜ」
「よし、全員で八戒ダーを持ち上げるのじゃあ!」
 
 羽山が八戒ダーを背負い、植杉兄弟が左右の足を、愛輝が右腕を、そして源外が左腕を、その他がそれぞれ適当なところを分担した。

 グオオオオオ~~~~~!
 
 羽山、裂ぱくの気合を込めて、見事、八戒ダーの身体を背負い上げた。
 源外も八戒ダーの左腕を肩に担いで同時に持ち上げたが、片腕だけでも二〇キロ超の重量に思わず腰が砕けそうになった。
 が、「男の意地を見せるのじゃあああああ~~~~~!」と歯を食いしばって全力で耐え忍んだ。
 天井からコンクリート片が落下して、廊下の各所に長い亀裂を走らせた。
 校舎の一部は既に崩壊し、辺りを粉塵で押し包んだ。

「急げ、急ぐのじゃ!」
 
 平賀一座が階段に差しかかったとき、右腕を担った愛輝が、--あっ、と叫んでステップを踏み外した。
 足首を押さえて蹲る彼女に、お蝶婦人(竜崎華麗)が駆け寄って、痛々しく腫れ上がった患部を診た。

「大変! こむら返りよ」
 
 源外、お蝶婦人を押し退けて、愛輝を抱き起こすと、

「みんなぁ、早く行くのじゃあ! 愛輝はわしが引き受けるのじゃあ!」
「源外君、あなたこそ早く……」
 
 弱々しく呟く愛輝を無視して、源外は叫んだ。

「わしらの心配は無用じゃ! 行けぇ、行くのじゃあああああ~~~~~!」
 
 羽山の手が源外の肩にかかった。

「校庭で待ってるぜ。必ず生きて帰ってこいよ。この偽ヒーローが……」
「偽ヒーロー? ハハ、そりゃないじゃろ」
 
 お蝶婦人が愛輝の頭をそっと撫でた。

「あなたの無事を祈ってるわ。わたくしの永遠の好敵手ライバル、そして最愛の友……」
「……お蝶婦人」
 
 全員、後ろ髪引かれる想いで階下へ姿を消した。
 あとには源外と愛輝だけが取り残された。

 踊り場で、一座の姿を見送った源外と愛輝。
 粉塵で薄汚れた顔を見合わせると、にっこりとほほ笑んだ。

「さてと、脇役サブキャラも消えたことだし、ぼちぼち行こうかのう」
「源外君、ごめんなさい。わたくしのせいで……」
「安心せい。せっかく愛輝が作ってくれた見せ場じゃ。絶対に無駄にはせん」
 
 感極まった愛輝、ほほ笑みながら人差し指で涙を拭うと、

「わたくし、源外君と一緒なら、死んでもかまいませんのよ」
 
 一瞬、おろっ、と狼狽うろたえた源外。

「つまらん冗談じゃ。わし、センスの悪い女と一緒に死ぬのは御免じゃ」
「源外君……」
 
 源外の差し伸べた手に、愛輝は自身の手を重ね合わせた、そのときーー、

 コキ~ン☆
 
 珍しくヒーロー然とした源外に、神が嫉妬したのだろうか?
 またもやコンクリートの塊が、彼の頭を直撃するに至っては、最早、--天は我を見放したあああああ~! と猛吹雪の中で絶叫するしかない。

「源外君、源外君!」
 
 愛輝の必死の呼びかけにも、源外は一向に眼を覚まさない。
 瓦礫の山と化しつつある校舎の中で、彼女は最後の決断を下した。
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