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第14話 激突! 源外VS咲子 その死闘の果てに

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 目を覚ました時、もしそこに源外のドアップがあったら、それを怪獣映画の出現場面と観る向きは少なくないと思う。
 わたしは多少見慣れているので、たとえ瞳が少年のようにキラキラ輝いていても、興奮して鼻腔がブタ鼻のように広がっていても、開かれた大口から滝のように涎を垂れ流していても、それがバカ源外だと判別できるのだけど、顔一杯に狂気の表情を漲らせる理由までは分からず、その答えを求めて視線を徐々に下げてゆくと、彼の両の人差し指が、……わたしの両の乳首に触れている。
 
 グラサンの乳首なら何の問題もなかった。
 でもわたしの、桜井咲子のBカップ、--やや小振りながらも肉まんのように柔らかく、その中央に映える桜色の美しい乳輪と乳首であれば、事は国際問題に発展する。
  
 キャアアアアア~~~~~!
 
 直後、目も眩む大爆発が起こり、ドクロ状のキノコ雲がボヨヨ~ンと屋上から立ち上った。

 核爆発だ! こうなったら核管理に厳しいアメリカ政府が黙っちゃいない。

 惑星破壊衝撃波ギャラクティカパンチがこんなにも凄まじいなんて……。
 
 その余りの破壊力に、胸を隠すのも忘れて茫然と佇むわたし……。
 脳裏に浮かぶのは愛輝さんとの猛特訓の日々。汗と涙と根性のスポ根の世界だった。

 ■■■

 平賀邸でまだ復学も叶わず、悶々とした日々を送っていたわたし……。
 愛輝さんの勧めもあって、脳髄と身体の適合性を向上させるリハビリを兼ねて、惑星破壊衝撃波の修得に励むことになった。
 早朝のロードワーク。
 わたしはランニング、愛輝さんはスポーツサイクルに乗って、朝もやの住宅街を黙々と走り抜けてゆく。
 合間に愛輝さんが、「もっと腰を引いて!」とか、「上体が起きすぎです!」とか厳しい檄を飛ばす。
 立ち止まって素軽い動きでシャドーボクシングに移行すれば、「脇が甘い!」とか、「内角を狙い抉り込むように!」とか、いろいろボクシングの専門家みたいなことをおっしゃる。
 その左目には黒眼帯が、--目を怪我したわけでもないのに、海賊に憧れているわけでもないのに、なぜか装着しているから不思議だ。その謎を直接本人に訊くと、

「ああ、これ? これはね、伝説のボクサーを指導した伝説のコーチの遺品なの。白木〇子女史からグローブと一緒に託されたのよ」と少し寂し気にほほ笑んだ。
 
 そんな愛輝さんの憂いに満ちた表情を見ていると、その伝説のコーチって、きっと素敵な方だったんだろうなぁ~て、女の直感が囁くのだ。
 
 まっ、わたしが想像するに、--歳のころは二十代。長身で、面長で、髪は長く、緑のジャージがよく似合う、春風のようにさわやかな方で、その切れ長の涼しい瞳で愛弟子を見つめると、「桜井、エー〇をねらえ!」とCV野沢〇智ばりの魅惑的な声音で渋く語りかける。
 でも心の底には愛弟子に対する溢れんばかりの愛情がァああああ~! と、まあ、そんな感じの方なんでしょう? と愛輝さんに尋ねると、

「桜井さん、あまり現実リアルに期待すべきではないわ」
「……はあ、どういう意味です?」
「それは、こういう意味よ」
 
 思わず目が点になった。
 愛輝さんの差し出した写真には、その伝説のコーチの姿が、--歳のころは五十代。背は低く、強面こわもてで、左目に黒眼帯、髪はなく、代わりに古傷の継ぎがあり、着古した長袖シャツに腹巻、ニッカボッカというドヤ街の腐臭漂うオヤジで、その充血した目で愛弟子を見つめると、「立て、立つんだ、ジョオオオオー~~~~~!」 とCV藤岡〇慶ばりのだみ声で熱く語りかける。その懐に大事そうに一升瓶を抱えて、赤ら顔で写真に納まっていた。

「もしよかったら、その写真、差し上げましょうか?」
「いえ、結構です」
 
 その霊験あらたかな黒眼帯と、愛輝さんの適切な指導のおかげで、わたしは惑星破壊衝撃波をわずか三日で修得した。

 ■■■

 源外が保健室に運び込まれたのは、これが初めてだった。
 全身を包帯でぐるぐる巻きにされたその姿は見ていて痛々しい限りだが、彼はベッドの上でうんうん呻きながらも、ーーなんて凄まじい破壊力なんじゃ~! 愛輝のパンチがクロスカウンターなら、桜井のパンチはダブルクロス、いや、トリプルクロスに匹敵する破壊力じゃあ~! ありゃ、人間じゃなかあ~! と桜井が人造人間であることを忘れてガタガタと恐怖に震えていた。
 
 傍らに忠犬ハチ公のごとく寄り添う犬型スーパーコンピューター”おはよう! スパコン”に、源外は音声で、「このアホバカマヌケ、さっさと桜井咲子の分析結果を出さんかい!」と乱暴な口調で命令した。
 イライラしながら待つこと三十分。
 ようやく出された分析結果は、「走る速度、時速12キロ。ジャンプ力50センチ。握力20トン。背筋力20トン。パンチ力、厚さ30センチの鋼鉄を打ち抜く。キック力、重さ100トンの岩を蹴り砕く。チョップ力、毛利元就の三本の矢を一瞬でへし折る」そして出された最終結論が、「桜井咲子は人間ではありません。人造人間です」
 おはスパの背負ったデータスクリーンを確認して、茫然自失の源外。

 な、なんて高性能な人造人間なんじゃあ。設計した奴はきっとわしに匹敵する才能の持ち主に違いないのじゃ……。

「で、誰が設計した?」
「平賀源外。桜が丘高校二年一組出席番号一〇番。あなたです。このアホバカマヌケ」
「ええ! わし?」
 
 画面一杯に表示された己のアホづらを、口をあんぐりと開けて見つめる源外。
 ショックから回復すると、頭髪をぐしゃぐしゃに掻きむしり、悪魔の発明に手を染めし科学者の苦悩の雄叫びを上げた。

「しもたあ~! わし、世界を破滅させる発明をしてしまったのじゃあああああ~~~~!」
 
 八戒ダーのパワーと惑星破壊衝撃波のエネルギーが融合すれば、それは核兵器を凌駕する新たな最終兵器となりうる。
 人類は制御不能な”雷の槍”を手に入れたことで、旧約聖書の創世記の預言のごとく滅亡への道を歩み始めるのだ。
 開祖、平賀源内の遺戒の一つ、--オッ〇ンハイマードクターアトミック博士のてつを踏んではならぬ。を源外はあっさりと踏み越えてしまったのだ。

ーーあれは悪魔の申し子、悪魔が産み落とした破壊神じゃあ~! いずれその正体を現したとき、わしは生みの親として、自らの手で決着をつけねばならんのじゃああ~~! それが狂気の科学者の愛情なのじゃあああ~~~! 源内先生ぃ、源外は命を懸けて闘いますのじゃああああ~~~~! 日本の、いや、世界の平和はわしが守るのじゃあああああ~~~~~! 
 
 放課後の誰もいない校舎の中を、バカの雄叫びが木霊する。
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