メカメカパニックin桜が丘高校~⚙①天災科学者源外君の躁鬱

風まかせ三十郎

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第13話 源外VS咲子 悲しみのぼっち対決

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 屋上に行ってみると、いたのだ、先客が、平賀源外が……。
 パラボラアンテナの傍らに胡坐を掻き、なにやらう~んと唸りながらノートパソコンと睨めっこしている。そしてまたキーを叩いてはう~んと苦し気に唸り声を発する。
 どうやら電波望遠鏡の情報を解析しているようだが、結果は思わしくないようだ。
 こんなときバカ源外は前頭葉狭窄症を発症している可能性が高い。

 触らぬ神に祟りなし。
 
 ここはトラブルに巻き込まれる前に、速やかに退散するに限る。
 そぉ~と差し足、抜き足、忍び足……。
 敵に悟られることなく撤退を完了するつもりだったが、そうは問屋が卸さなかった。
 バカ源外が、「曲者!」と叫んで内ポケットから抜き手で放ったものは、物理法則を無視して空中で直角に曲がり、わたしに向かって一直線に飛んできた。
 咄嗟にヘリポートの支柱の陰に隠れたわたし、--カキ~ンと鋭い金属音と共に支柱に突き刺さった物体は、なんと大昔に忍者が使用した”苦無くない”という武器だった。

「隠れても無駄じゃあ! 早く姿を現せ、桜井咲子!」
 
 怪人二十面相の変装を見破った明智小五郎よろしく、バカ源外に大上段から指さし名を明かす、名探偵のお歴々の決め台詞、--おまえが犯人だ! ポーズを決められては、もはや逃げ場を失った犯罪者のごとく(服毒したり、投身したりはしません)、おとなしくお縄に就くしかなかった。

「よくぞ見破ったわね。なぜ、わたしの正体を?」
「電波干渉計が微弱な電磁波を捉えたのじゃ! しかも発信源は屋上、となれば人造人間のおまえ以外考えられん」

ーー分解能は10万分の一秒角、世界最高性能の干渉型電波望遠鏡なんじゃ。むろん、造ったのはこのわし。同型のパラボラアンテナを月面に設置するのは、大変困難な作業を伴うんじゃが、わしが開発した大型ロケット0X-Ⅱ型を……。と天災自慢がだらだら続くのだけど、科学に疎いわたしにはさっぱり。

「で、何を探しているんですか?」
「宇宙人のメッセージじゃ」
「……はい?」
「宇宙の彼方から飛来する電波の中に、宇宙人の痕跡がないか調べておるのじゃ」

ーーどうじゃ、凄いじゃろう! と屈託のない笑顔で胸を張るバカ源外に、しばし呆れて物も言えない桜井咲子であった。
 そんなことのために何百億もの巨費を投じて、電波望遠鏡を造ったとは……。まあ、宇宙人の存在を探ること自体は強ち無駄とは思わないけど、なんか壮大な手間の割に成果が少しも上がらない気がして……。

「……で、見つかりました?」
「宇宙人は必ず存在する。人類最初の接触ファーストコンタクトは必ずわしが果たすのじゃ~!」
 
 不屈の闘志で宇宙人発見に全力を尽くすバカ源外。その頭の中にはヤ〇トやガ〇ダム、マク〇ス等のありとあらゆるSFアニメの宇宙船が所狭しと跳び回っているに違いない。
 幼少の砌、百万隻の宇宙艦隊を率いて銀河系の征服を夢見ていたアホに、宇宙人との地球外交渉を任せたら、……間違いなく星間戦争が勃発する!
 地上の戦争とは桁違いの戦死者が巷に溢れ、--異種間同士の戦争はどちらかが絶滅するまで終わらない。というB級SF活劇の法則に則って、ゼン〇ラーディとメル〇ランディの戦争のように、壮絶な殺戮劇が数百万年もの間に渡り繰り広げられるのだ。

 う~ん、なんだろ、この腐女子な感覚……。
 宇宙戦争といえば聞こえはいいが、頭の中ではイケメン宇宙戦士が宇宙戦艦に乗って、悪の宇宙人と戦うという、美少女あり、美男子あり、恋愛ありの、なんとも陳腐な物語が展開しているから救い難い。
 きっと八戒ダーの人工知能が、わたしの脳髄に悪影響を与えているのだろう。
 プログラムを入力したのがあの天災科学者では、わたしの意向が忖度されるはずもなく、科学的SF的素養が多くを占めるのも無理はない。

「ところで桜井よ、おまえ、どうして屋上にいるのじゃ?」
「それは……」
 
 凶悪な外見のため、昼食時には友達の輪に入れなかったこと。
 電池交換の際、人目に触れるのが恥ずかしいこと……。
 わたしは屋上に来た理由を手短に話した。

「う~ん、なるほどのう。まあ、昼休みに屋上に一人で来るのは、ぼっちか科学者くらいと相場が決まっておる」
「せめて外見だけでも、なんとかなりませんか?」
「よし、わかった! わしに任せるのじゃあ!」
 
 頭にパッと豆電球が点灯したバカ源外、ノートパソコンにCD-Rを挿入すると、凄まじい勢いでキーをバンバン叩き始めた。

「な、なにを?」
「必ずおまえを元の姿に戻してやるけん。大船に乗ったつもりでのう」
 
 八戒ダーも真っ青の地獄の大王さながらの鬼気迫る表情に、--わたし、この人に身体を委ねていいのかしら? と不安を抑えきれない桜井咲子であった。

「よし、でけたぁ~」
 
 何が出来たのかと気になって覗き込むと、なんとパソコンの画面には、--あら、懐かしや! 元のわたしの姿が、制服姿で端正に佇む桜井咲子の姿が映し出されていた。

「画像修正ソフトを使って、おまえの容姿を再現してみたんじゃ。本物より若干見栄えがよくなっておるが、まあ、問題ないじゃろ」
 
 若干どころか、かなり良くなってる感じで、--これ、ちょっと違います。と抗議する気になれなかった。
 これなら憧れの宝塚歌劇団に入団できるかも。ルンル~ン♪
 バカ源外も満足げに、「そうかそうか」と頷くと、

「よし、これで準備は整った。では桜井咲子よ、服を脱げ」とのたまった。
「……はあ?」
「服を脱げと言うておる」
 
 突然のセクハラ発言に、わたしは身体を庇うように身構えた。

「な、なにをする気?」
「決まっておろう。おまえを元の姿に戻すのじゃ!」
「で、できるんですか?」
「ああ、人工知能のプログラムをちょこちょこと書き換えれば、グラサンから桜井へ、わずか5分で早変わり、という訳やね」

 バカヤロォ~! 最初からそれをやれェええええ~~~~~!
 
 とツッコミを入れたところで、バカ源外は馬耳東風。
 機嫌を損ねようものなら、--わし、やめたぁ~! とプログラムの修正を中止する恐れすらある。
 そうなったら元の木阿弥。
 わたしは込み上げる怒りを抑えて、できるだけ平静を装い偽りの微笑みで取り繕った。それを承知の印と受け取ったのか、パソコンの端末を握ったバカ源外は、ニタラぁ~、と不気味な笑みを浮かべて、

「さあ、わかったら、早く服を脱いで胸を晒すのじゃあ~」

 ぐふふふふっ、と不気味な忍び笑いまで付け加えた。
 
 完全拒否したいけど、この機会を逃せば気紛れ源外のことだ。
 二度と元の姿に戻れないかもしれない。

「わ、わかりました」
 
 わたしはいま、たくましい肉体を持つ男子なのだと自分に言い聞かせつつ、革ジャンとTシャツを脱いだけど、やはり男子の目の前では気恥ずかしさが先に立つ。
 頬を赤く染め、俯き加減に、校舎の屋上で上半身裸の屈辱に耐えるわたし。
 思わず両手で胸を隠したのは、年頃女子の羞恥心の名残だろう。

「おい、早う、その手をどけるのじゃ。停止スイッチが押せぬではないか」
「……停止スイッチ?」
「そうじゃ、八戒ダーの停止スイッチはその乳首なんじゃ」
 
 バカ源外の説明によると、いったん動力源を停止させてからでないと、プログラムの書き換えはできないのだそうだ。

 最悪! でもこの壁を乗り越えなければ元の姿に戻れない。
 
 両腕を下ろして、胸をさらけ出して、きつく目をつぶると、闇の中から、

「いや~、わし、初めて見た。胸を隠す男子」とバカ源外のクククッと人を小バカにした苦笑と共に、乳首をポチッと押される感触がァああああ~~~~~!

「ーーあん」
 
 思わず反応してしまった。
 男子の乳首ってこんなにも感じるものかしら……。なんて思ったら、直後に視界がブチッとブラックアウトした。
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