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第04話 それ行け! ブラックビューテフル号
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「たっ、大変だあ~! ハルマゲドンだあ! 地球があ、地球が壊滅するううううう~~~~~!」
今更、源外が意味不明の言葉を叫んだところで、それは日常の一コマ。何ら驚くに値しないのだが、それに追体験現象が伴うと少々厄介だ。パニック症状が治まらなくなるのだ。
大変だあ~、大変だあ~!
と雄叫びを上げながら左往右往する源外に、いよいよ腸の煮えくり返った愛輝が遠慮会釈のない往復ビンタをビシバシ噛まして大喝した。
「さっさとやれ! このタコのキンタマ!」
愛輝の愛らしい唇が形作ったとは思えない下品で卑猥な単語に、女子生徒は凍り付き、男子生徒は股間を熱くした。
そして源外はその恫喝に恐怖したのか、それともその卑猥な単語に興奮したのかは知らないが、ともかく蘇った。
不死鳥のごとく蘇った。
別人のごとく蘇った。
ヒーローのごとく蘇った。
パンパンに腫らした頬を一瞬で引き締めると、強引に本郷猛似のイケメンに顔を作り替えて、失血死状態の桜井の身体を雄々しく抱き上げた。
そして視界の隅に捉えた石見に向かって叫んだ。
「爺、起きろ! 目を覚ませ!」
「お坊ちゃま。もうよろしゅうございますか?」
石見も立ち上がった。
家令に似つかわしい取り澄ました表情のうちに、まるでこの時を待っていたといわんばかりのクールな微笑を湛えながら……。
落ち着いた物腰で礼服に付着した土を払うと、周囲の驚嘆の目を他所に、源外に続いて颯爽とリムジンに乗り込んだ。
死んだと思われていた人間が立て続けに二人も蘇ったのだ。
想像を絶する状況に、周囲の者が正常な判断力を失うのも無理はないが、ーーゾンビだ、ゾンビだ、と喚き散らすホラーマニアの輩には、さすがに高校生としての良識を求めたくなる。
念のため言い添えておくと、石見に限っていえば、源外の死体ごっこにお付き合いしただけの話。つまり死んだふりをしていただけなのだ。
家令という要職にありながら、暴走王子源外の御付きを兼務できるのも、若いころ培ったお笑い芸人の素養があればこそ。彼自身も、まさか執事という職業に芸歴が生かされるなどとは夢にも思わなかったろう。
「わたくしも同伴します。あなた方に任せてはおけません」
保護者ヅラして乗り込んできた愛輝に、露骨に嫌な顔して叛意を示した源外だが、彼女の冷たい一瞥に気圧されると、文句も言わずに大上段に構えたステッキをサッと一振り、お抱え運転手のカトー・B・リーに指令を出した。
「コンバットA体制、緊急発進だ。さあ、行け! ブラックビューティフル号!」
「了解」
カトーがステアリングの赤いAボタンを押すと、なんとトランクのボンネットが自動で開いて、中から航空用ターボエンジンが迫り出してきたから大迫力!
同時に台車の両サイドからデルタ翼が展開して、リムジンはわずか30秒で飛行形態へと変形を完了した。
あれ、飛べるのか?
源外の自己改造リムジンは桜が丘高校生徒の広く知るところではあるが、その性能を知る者は只の一人もいなかった。
大統領専用車と同等の仕様だろうという、理工系生徒の推測はものの見事に外れたことになる。
巨大ロボットに変形するのでは? というアニメオタクの指摘は当たらずしも遠からずといったところか……。
いずれにせよ、学校伝説の一端が開示されようというのだ。
野次馬の期待はMAXモード全開だ。
彼らが固唾を飲んで見守る中、ついにターボエンジンがドッカ~ンという轟音と共にオレンジ色の火を吹いた。
突風が渦を巻いて吹き荒れ、再び女子生徒のスカートを捲り上げたまではよかったが、その風圧に耐え兼ねて、慌てて腕で顔を覆う者が続出したため、またしても男子生徒は誰一人として秘密の花園を目撃することができなかった。
源外はいい仕事をするのだが、それが人の役に立った試しはない。
今回の一連の騒動を通じて、多くの男子生徒がその言葉の意味を痛感した。
突風は止み、再び辺りが朝の静けさを取り戻したとき、既にリムジンの姿はなく、ただ茫然と佇む野次馬のみが取り残された。
あれ、飛んだのか?
空を飛んだか、地に潜ったか、それともただ走り去っただけなのか……。
誰もが己の胸に問いかけ、そして結論を出すことをためらう。
源外の自己改造リムジンはその性能を誇示することなく、今度はその噂のみが学校怪談の類に埋没した。
今更、源外が意味不明の言葉を叫んだところで、それは日常の一コマ。何ら驚くに値しないのだが、それに追体験現象が伴うと少々厄介だ。パニック症状が治まらなくなるのだ。
大変だあ~、大変だあ~!
と雄叫びを上げながら左往右往する源外に、いよいよ腸の煮えくり返った愛輝が遠慮会釈のない往復ビンタをビシバシ噛まして大喝した。
「さっさとやれ! このタコのキンタマ!」
愛輝の愛らしい唇が形作ったとは思えない下品で卑猥な単語に、女子生徒は凍り付き、男子生徒は股間を熱くした。
そして源外はその恫喝に恐怖したのか、それともその卑猥な単語に興奮したのかは知らないが、ともかく蘇った。
不死鳥のごとく蘇った。
別人のごとく蘇った。
ヒーローのごとく蘇った。
パンパンに腫らした頬を一瞬で引き締めると、強引に本郷猛似のイケメンに顔を作り替えて、失血死状態の桜井の身体を雄々しく抱き上げた。
そして視界の隅に捉えた石見に向かって叫んだ。
「爺、起きろ! 目を覚ませ!」
「お坊ちゃま。もうよろしゅうございますか?」
石見も立ち上がった。
家令に似つかわしい取り澄ました表情のうちに、まるでこの時を待っていたといわんばかりのクールな微笑を湛えながら……。
落ち着いた物腰で礼服に付着した土を払うと、周囲の驚嘆の目を他所に、源外に続いて颯爽とリムジンに乗り込んだ。
死んだと思われていた人間が立て続けに二人も蘇ったのだ。
想像を絶する状況に、周囲の者が正常な判断力を失うのも無理はないが、ーーゾンビだ、ゾンビだ、と喚き散らすホラーマニアの輩には、さすがに高校生としての良識を求めたくなる。
念のため言い添えておくと、石見に限っていえば、源外の死体ごっこにお付き合いしただけの話。つまり死んだふりをしていただけなのだ。
家令という要職にありながら、暴走王子源外の御付きを兼務できるのも、若いころ培ったお笑い芸人の素養があればこそ。彼自身も、まさか執事という職業に芸歴が生かされるなどとは夢にも思わなかったろう。
「わたくしも同伴します。あなた方に任せてはおけません」
保護者ヅラして乗り込んできた愛輝に、露骨に嫌な顔して叛意を示した源外だが、彼女の冷たい一瞥に気圧されると、文句も言わずに大上段に構えたステッキをサッと一振り、お抱え運転手のカトー・B・リーに指令を出した。
「コンバットA体制、緊急発進だ。さあ、行け! ブラックビューティフル号!」
「了解」
カトーがステアリングの赤いAボタンを押すと、なんとトランクのボンネットが自動で開いて、中から航空用ターボエンジンが迫り出してきたから大迫力!
同時に台車の両サイドからデルタ翼が展開して、リムジンはわずか30秒で飛行形態へと変形を完了した。
あれ、飛べるのか?
源外の自己改造リムジンは桜が丘高校生徒の広く知るところではあるが、その性能を知る者は只の一人もいなかった。
大統領専用車と同等の仕様だろうという、理工系生徒の推測はものの見事に外れたことになる。
巨大ロボットに変形するのでは? というアニメオタクの指摘は当たらずしも遠からずといったところか……。
いずれにせよ、学校伝説の一端が開示されようというのだ。
野次馬の期待はMAXモード全開だ。
彼らが固唾を飲んで見守る中、ついにターボエンジンがドッカ~ンという轟音と共にオレンジ色の火を吹いた。
突風が渦を巻いて吹き荒れ、再び女子生徒のスカートを捲り上げたまではよかったが、その風圧に耐え兼ねて、慌てて腕で顔を覆う者が続出したため、またしても男子生徒は誰一人として秘密の花園を目撃することができなかった。
源外はいい仕事をするのだが、それが人の役に立った試しはない。
今回の一連の騒動を通じて、多くの男子生徒がその言葉の意味を痛感した。
突風は止み、再び辺りが朝の静けさを取り戻したとき、既にリムジンの姿はなく、ただ茫然と佇む野次馬のみが取り残された。
あれ、飛んだのか?
空を飛んだか、地に潜ったか、それともただ走り去っただけなのか……。
誰もが己の胸に問いかけ、そして結論を出すことをためらう。
源外の自己改造リムジンはその性能を誇示することなく、今度はその噂のみが学校怪談の類に埋没した。
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