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第01話 幻のプロローグ その一
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「大変だぁ~、遅刻ぅ、遅刻ぅ~!」
私立桜が丘高校一年三組出席番号十八番、桜井咲子がなぜ旧来のラブコメのオープニングにありがちな、こんな陳腐な台詞を絶叫できたのか?
それには歴とした訳がある。なぜなら彼女は口に生焼けの食パンをくわえてはいなかったからだ。
額に玉の汗を浮かべ、肩まで伸びた青い髪を振り乱し、息を切らして激走するその姿は、食パンをくわえていないことを除けば、そこいら辺に転がっているマンガやアニメに出てくる女子高生となんら変わりがない。そう、あなたの頭の中に存在するモブキャラ女子高生となんら変わりがないのだ。
現実の間尺に合わせれば、それは日常に溶け込んだ風景の一コマ。
通行人は何の違和感もなく彼女と擦れ違い、偶発的に発生した異次元サイクロンや、御都合主義的に出現した異次元モンスターに命を奪われることもなく、あと六十年くらいは生き長らえるはずだ。
だがここはいい歳こいて未だ中二病の後遺症に悩む作者の脳内世界であり、その異常な脳が紡ぎ出す学園系ラノベが舞台なのだ。
脇役とはいえ、物語のオープニングを飾る女子高生がモブキャラだなんて有り得ないではないか……。
桜井咲子は腕時計に眼を落した。
時刻は午前八時三十分。
学校の正門が閉まるまで、あと一〇分……。
急げばまだ間に合う。でもこんなとき加速装置があったら……。
桜井咲子は己のアホな発想に苦笑した。
だが北欧神話の巨人たちはそのアホな発想を否として、彼女に天罰を下すことを決めたのだ。
その瞬間、舗装道路が真っ二つに割れて、中から巨大な岩を想わせる巨人が姿を現した。
凍り付いた桜井咲子。
迫り来る巨人の巨大な掌。
もう、駄目。ああ、わたしに加速装置があったら……。
二度目の祈りは切実だった。
でもそれは虚しい願い。
彼女は自身の死を予感した。
が、そのとき……。
彼女は自身の身体がつむじ風に巻かれて連れ去られたように感じた。
巨人の大地を揺るがす音が遥か遠方から聞こえてくる。
恐る恐る目を見開く。
瞳に映る優しい微笑み。
自身を死の淵から救ってくれたその人物こそ……。
「大丈夫かい? サイボーグ0X3と1/2、桜井咲子……」
「あ、あなたは……、サイ〇ーグ0X9!」
目の前に永遠の憧れ人、島〇ジョーがいた。
その背後には、その他七人のサイボーグ戦士たちの姿が……。
(一名ほど欠けているが、それは桜井の都合によるものと推測される)
巨人が大地に足跡を穿ちながら接近してくる。
その掌が再び大地を震撼させたとき、0✕ナンバーサイボーグは素早く四方へ散った。
愛しの0✕9の胸に抱かれて、桜井咲子も共に宙を跳んだ。
安全な場所へ着地すると、0✕9は彼女の両肩を掴んだ。
「さあ、早く学校へ行くんだ! 今ならまだ間に合う!」
「嫌です! わたしも共に戦います!」
「咲子、我がままを言っちゃいけないよ。君にとって最も大切な使命は学校に遅刻しないこと……。君は気づいていないだろうけど、それが全人類を救う最良の手段なんだ。だからあの巨人は僕らに任せて、君は早く学校へ……」
永遠の別れを予感して桜井は涙ぐんだ。
彼方で0✕2が叫んだ。
「クソッ、俺たちだけじゃ防ぎきれねえ。おい、0✕9、なにやってる? 早く彼女を……。うわ~~~~~!」
「0✕2~~~~~!」
仲間のピンチに、思わず絶叫して駆け出そうとする0✕9。
その腕に激しく縋り付く桜井。
「お願い、行かないで……」
「仲間を見捨てるわけにはいかないんだ。わかってくれ、咲子……」
桜井が面を上げた。
「最後に一つだけ。お願い、キスして!」
言うなり、0✕9の首を抱え込んで、その唇に自分の唇を重ね合わせた。
そのまま一分の時が過ぎた。それは二人にとって永遠を想わせる時間だった。
戦場では0✕6の「あっちゃ~! お尻に火が点いたあるねえ~」という断末魔の叫びが聞こえてきた。
加速装~~~置!
0✕9の奥歯が光った。
刹那、桜井の目の前から彼は永遠に姿を消した。
「さようなら、ジョー……」
全力疾走の桜井。もう彼女の瞳に涙はなかった。
桜井咲子は腕時計に眼を落した。
時刻は午前八時三一分。
学校の正門が閉まるまで、あと九分。
急がなければ……。
そんな桜井の焦りを見透かしたかのように、地面からポコポコ現われたのは毎度お馴染みスライムの群れだった。
こんなザコキャラ、わたし一人で十分!
まさかゲーム業界最弱キャラ相手に、無敵の0✕ナンバーサイボーグの力を当てにするわけにはいかない。
彼女は学生鞄(?)から昭和の銘刀、コクヨの竹製50センチ定規を取り出すと、スライムの群れ目がけて単身突撃を開始した。
楽勝、楽勝!
大量殺戮の快感に酔い痴れながら、彼女は群がるスライムをバッタバッタと切り裂いてゆく。
その鬼気迫る姿に怯えて逃げようとするスライムですら、--逃がすかぁ~! と叫んで情容赦なく止めを刺す。
スライムが原のスライムたちは一匹残らず全滅した。
桜井咲子は腕時計に眼を落した。
時刻は午前八時三二分。
学校の正門が閉まるまで、あと八分。
急がなければ……。あっ!
焦る桜井咲子の前に、またしても正体不明の怪人が立ち塞がった。
頭に女物のおパンツを被り、全裸に黒マント、腰に黒十字ベルトを巻いたその姿は、名乗りを受けなくとも、ひと目で変態仮面(黒十字軍版)とわかるのだが、とりあえず彼の話を聞いてみよう。
「わが名はおパンツ仮面! 桜井咲子、おまえの命はもらったあ~!」
残念、ちょっと違った。犯罪性がやや薄らいだ感じだ。
だが桜井咲子の目からすれば、変態仮面もおパンツ仮面も成敗すべき同列の犯罪者のようだ。
「お、おのれぇ~」
桜井、激しい怒りを露にすると、コクヨの竹製50センチ定規を八相に構えた。
そのとき……。
私立桜が丘高校一年三組出席番号十八番、桜井咲子がなぜ旧来のラブコメのオープニングにありがちな、こんな陳腐な台詞を絶叫できたのか?
それには歴とした訳がある。なぜなら彼女は口に生焼けの食パンをくわえてはいなかったからだ。
額に玉の汗を浮かべ、肩まで伸びた青い髪を振り乱し、息を切らして激走するその姿は、食パンをくわえていないことを除けば、そこいら辺に転がっているマンガやアニメに出てくる女子高生となんら変わりがない。そう、あなたの頭の中に存在するモブキャラ女子高生となんら変わりがないのだ。
現実の間尺に合わせれば、それは日常に溶け込んだ風景の一コマ。
通行人は何の違和感もなく彼女と擦れ違い、偶発的に発生した異次元サイクロンや、御都合主義的に出現した異次元モンスターに命を奪われることもなく、あと六十年くらいは生き長らえるはずだ。
だがここはいい歳こいて未だ中二病の後遺症に悩む作者の脳内世界であり、その異常な脳が紡ぎ出す学園系ラノベが舞台なのだ。
脇役とはいえ、物語のオープニングを飾る女子高生がモブキャラだなんて有り得ないではないか……。
桜井咲子は腕時計に眼を落した。
時刻は午前八時三十分。
学校の正門が閉まるまで、あと一〇分……。
急げばまだ間に合う。でもこんなとき加速装置があったら……。
桜井咲子は己のアホな発想に苦笑した。
だが北欧神話の巨人たちはそのアホな発想を否として、彼女に天罰を下すことを決めたのだ。
その瞬間、舗装道路が真っ二つに割れて、中から巨大な岩を想わせる巨人が姿を現した。
凍り付いた桜井咲子。
迫り来る巨人の巨大な掌。
もう、駄目。ああ、わたしに加速装置があったら……。
二度目の祈りは切実だった。
でもそれは虚しい願い。
彼女は自身の死を予感した。
が、そのとき……。
彼女は自身の身体がつむじ風に巻かれて連れ去られたように感じた。
巨人の大地を揺るがす音が遥か遠方から聞こえてくる。
恐る恐る目を見開く。
瞳に映る優しい微笑み。
自身を死の淵から救ってくれたその人物こそ……。
「大丈夫かい? サイボーグ0X3と1/2、桜井咲子……」
「あ、あなたは……、サイ〇ーグ0X9!」
目の前に永遠の憧れ人、島〇ジョーがいた。
その背後には、その他七人のサイボーグ戦士たちの姿が……。
(一名ほど欠けているが、それは桜井の都合によるものと推測される)
巨人が大地に足跡を穿ちながら接近してくる。
その掌が再び大地を震撼させたとき、0✕ナンバーサイボーグは素早く四方へ散った。
愛しの0✕9の胸に抱かれて、桜井咲子も共に宙を跳んだ。
安全な場所へ着地すると、0✕9は彼女の両肩を掴んだ。
「さあ、早く学校へ行くんだ! 今ならまだ間に合う!」
「嫌です! わたしも共に戦います!」
「咲子、我がままを言っちゃいけないよ。君にとって最も大切な使命は学校に遅刻しないこと……。君は気づいていないだろうけど、それが全人類を救う最良の手段なんだ。だからあの巨人は僕らに任せて、君は早く学校へ……」
永遠の別れを予感して桜井は涙ぐんだ。
彼方で0✕2が叫んだ。
「クソッ、俺たちだけじゃ防ぎきれねえ。おい、0✕9、なにやってる? 早く彼女を……。うわ~~~~~!」
「0✕2~~~~~!」
仲間のピンチに、思わず絶叫して駆け出そうとする0✕9。
その腕に激しく縋り付く桜井。
「お願い、行かないで……」
「仲間を見捨てるわけにはいかないんだ。わかってくれ、咲子……」
桜井が面を上げた。
「最後に一つだけ。お願い、キスして!」
言うなり、0✕9の首を抱え込んで、その唇に自分の唇を重ね合わせた。
そのまま一分の時が過ぎた。それは二人にとって永遠を想わせる時間だった。
戦場では0✕6の「あっちゃ~! お尻に火が点いたあるねえ~」という断末魔の叫びが聞こえてきた。
加速装~~~置!
0✕9の奥歯が光った。
刹那、桜井の目の前から彼は永遠に姿を消した。
「さようなら、ジョー……」
全力疾走の桜井。もう彼女の瞳に涙はなかった。
桜井咲子は腕時計に眼を落した。
時刻は午前八時三一分。
学校の正門が閉まるまで、あと九分。
急がなければ……。
そんな桜井の焦りを見透かしたかのように、地面からポコポコ現われたのは毎度お馴染みスライムの群れだった。
こんなザコキャラ、わたし一人で十分!
まさかゲーム業界最弱キャラ相手に、無敵の0✕ナンバーサイボーグの力を当てにするわけにはいかない。
彼女は学生鞄(?)から昭和の銘刀、コクヨの竹製50センチ定規を取り出すと、スライムの群れ目がけて単身突撃を開始した。
楽勝、楽勝!
大量殺戮の快感に酔い痴れながら、彼女は群がるスライムをバッタバッタと切り裂いてゆく。
その鬼気迫る姿に怯えて逃げようとするスライムですら、--逃がすかぁ~! と叫んで情容赦なく止めを刺す。
スライムが原のスライムたちは一匹残らず全滅した。
桜井咲子は腕時計に眼を落した。
時刻は午前八時三二分。
学校の正門が閉まるまで、あと八分。
急がなければ……。あっ!
焦る桜井咲子の前に、またしても正体不明の怪人が立ち塞がった。
頭に女物のおパンツを被り、全裸に黒マント、腰に黒十字ベルトを巻いたその姿は、名乗りを受けなくとも、ひと目で変態仮面(黒十字軍版)とわかるのだが、とりあえず彼の話を聞いてみよう。
「わが名はおパンツ仮面! 桜井咲子、おまえの命はもらったあ~!」
残念、ちょっと違った。犯罪性がやや薄らいだ感じだ。
だが桜井咲子の目からすれば、変態仮面もおパンツ仮面も成敗すべき同列の犯罪者のようだ。
「お、おのれぇ~」
桜井、激しい怒りを露にすると、コクヨの竹製50センチ定規を八相に構えた。
そのとき……。
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