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第2章 恐怖の残渣
第35話 エルフの集落もですね
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ヒュー ヒュー
あたりは風の音だけ。
私たちは今、エルフの森に向かって歩いている。
道中、もう少し鳥の囀りや虫の鳴き声が聞こえてきてもいいと思うのだけれども…。これもやっぱり、ファントム・デーモンの仕業なのだろうか。
30分前、私は「絶対に他言無用ですよ」と前置きをしてからレオンさんに勇者であることを話した。
こんな突拍子もない話、信じてくれないと思っていたのだけれど、防御結界の魔法を見ていたからか意外にも素直に受け入れてくれた。
「でも、さすがにメアリー様がご一緒するのは…。」
レオンさんは最初、メアリーの同行を拒んだ。
しかし私は勇者がついているから大丈夫、と半ば強引に押し通した。
確かにいつどこでファントム・デーモンに襲われるか分からない。そんな状況下なので、勇者の傍を離れるより、勇者とともにいた方が安全…と言えなくもないかもしれない?
これは迷った末にレオンさんが出した結論。
ごめんね、レオンさん。メアリーは親の私と離れるわけにはいかないんだ、特にこのアヴァロンでは。「お前はここに居なさい、大丈夫だから」という言葉を最後にメアリーの本当のご両親は帰ることはなかった、それはメアリーにとって最大のトラウマだから…。
私は領主邸全体に防御結界の魔法を施した。レオンさんは無事な人を全員領主邸に避難させるようアドルフさんに指示を出した。
そして今。
この危機的な状況の説明、それと防御結界魔法を施すため、私たちはエルフの集落に向かっている、というわけだ。
ファントム・デーモン討伐隊…と言えば聞こえはいいけれど、メンバーは私とメアリーとレオンさんの3人。まぁ、敵の能力が特殊すぎて、普通の人について来られても足手まといというのもあるのだけれど。
「メアリー、疲れたら遠慮なく言うのよ?無理は一番の敵だから。」
「うん、ユメ。わかった。」
私とメアリーはお互い顔を見合わせてにっこり笑う。
それを見たレオンさんに
「お二人は本当に仲がいいですね。」
と言われた。うん、確かに。私もそう思ってるよ。
「そろそろ森ですので、矢除けの防御魔法を使いますね。」
そう言ってレオンさんは歩きながら呪文を詠唱した。
私たち3人を中心に半径3メートルほどのほんのり緑色をしたほぼ透明な球状の壁ができる。
「この壁の外に出てしまうと危険ですので、ご注意ください。」
ふむふむ、こういった防御魔法もあるのね。
アヴァロンのエルフは人に対して好戦的。もしかしたら問答無用で矢を放ってくるかもしれないとういうことで、この防御魔法を使ったわけだ。
という話をした直後、私たちの目の前の地面に矢が飛んできて突き刺さった。
「止まれ、人間!ここはエルフの地。これ以上足を踏み入れるなら、次は脳天に矢を射るぞ!」
こちらからは相手が見えない。どうやら離れたところからエルフに狙撃されているようだ。
「私の名前は、レオン。このアヴァロンの監督官として赴任してきた一等魔法使いだ。長老にお目通り願いたい!」
エルフの声が聞こえてきた方向に向かって、レオンが大声で返事をする。
樹々の葉が擦れ合う音に交じってザワザワした声も聞こえる。
「レオンさん、返事がかえってきませんけれど、もしかしてレオンさんが本当に一等魔法使いかどうか疑っていらっしゃるのかも。」
「なるほど、その可能性はありそうですね。勇者様が魔法を披露されますか?」
「レオンさん、勇者様はやめてください、その…恥ずかしいので。今までどおりユメ、でお願いします。それと私、魔力制御ができないので、私が披露しちゃうとエルフの集落ごとこの森を消滅させちゃいますけれど、いいですか?」
レオンは驚きつつも
「な、なるほど、わかりました。」
と言って、再びエルフがいるらしき方向に向かって大声をあげる。
「エルフたちよ、信じられないのであれば目に焼き付けるがよい。一等魔法使いの魔法を!」
――若木よ幾年の月を重ね豊穣ならん!オブストバウムフロウフト!
レオンさんは詠唱とともに、傍に生えていた一本の若木に魔法をかけた。
すると、2メートルくらいの若木はあっという間に幹の周りが5メートルはあろうかという大木に成長し、枝からはリンゴとマンゴーをあわせたような、甘い香りのする実が垂れ下がった。
「どうだろうか!森の恵みは君たちのもの。この実をお腹をすかせた集落の皆に届けてほしい。そのついでに我々を案内しては貰えぬか!?」
なるほど、レオンさん上手い!
若木が大木に成長するという魔法の実力を見せつけ、ファントム・デーモンによって恵みが減少した森の民に手土産を用意し、森の恵みはエルフのものと監督官が自治権を改めて認める。
一回の魔法で3つの効果とは。
エルフは元来は森の賢者ともよばれるほど聡明な人たちで、アヴァロンに住むエルフも同じように賢い。ただエルフにしては珍しく肉も食べること、人間をひどく忌み嫌っていることから好戦的な脳筋に見えるだけなのだ。
なのでアヴァロンのエルフたちもここまでされて、なお私たちを追い払うようなことはしない。
これ以上睨み合っても意味がない、そう悟ったエルフたちは私たちを集落に案内してくれた。
エルフの集落でも人間の集落と同じように無気力に座り込む人がたくさんおり、ファントム・デーモンの影響をまざまざと見せつけられた。
「ここが長老の屋敷です。」
そう言って案内された屋敷の中にも、何人ものエルフたちが寝かされていた。
無気力な顔、生気のない瞳。
このまま死を待つだけのひとたち…。早く、早くなんとかしないと…。
20畳ほどの広い部屋には、エルフ族の長老のほか、きっと重要な役職の人であろうエルフが両脇に3人ずつ座っていた。
「なるほどのぅ。ファントム・デーモンか。」
レオンさんが自身の目で見たことと知見からあわせた推論を話すと、エルフの長老も心当たりがあったようで、納得するのにそう時間はかからなかった。
「それで、お前さんたちはどうするのじゃ?たとえ一等魔法使いと言えども強敵には違いあるまいて。」
長老が眼光鋭くこちらを見てくる。
「幸い、私は聖なる魔法『ハイリグベアディグン』を習得しています。これが切り札になるかと。」
「光属性魔法というだけでも珍しいのにハイリグベアディグンを習得済みとはのぅ…さすがは一等魔法使いといったところか。確かにあれは死者の魂やアンデッド系モンスターに対する特効魔法。また、生者の魂は傷つけぬ…ということはファントム・デーモンさえ倒せれば奴に吸収された魂は元へと戻る、という算段かのぅ?」
「さすがです、長老殿。こちらの計画をすべてお見通しとは。それでは、討伐にあたってお願いしたいことももう察していらっしゃいますね?」
「うむ、人間との友和、じゃな?」
長老以外のエルフは驚きを隠せない表情を浮かべた。
ファントム・デーモンはエルフや人間の霊体、とりわけ憎しみなどの感情を抱いた霊体を捕食することを好み、その感情はファントム・デーモンにとって大きな力の元となる。
アヴァロンの地はエルフと人間がいがみ合っている土地。
これ以上の対立が続き、憎しみの感情を持つ霊体の捕食をファントム・デーモンが繰り返せば、強くなりすぎて討伐ができなくなるかもしれない。いや、もう既に討伐できるレベルなのかもわからないのだけれど…。
「人間にも同じように言い聞かせております。人間への憎しみが一朝一夕で消えることはないことは、重々承知しております。しかしながら、このまま対立が続けば、そう遠からぬうちにアヴァロンの生命は全て絶滅するでしょう。そうなってからでは遅いのです。」
レオンは必死になって訴えた。
長老はゆっくりと頷いたが、臣下のエルフたちは違った。
「人間が頭を下げるというなら許してやらなくもない」
「ぜんぶ作り話じゃないのか?」
「俺たちをだまそうという手の込んだ芝居なのだろう?」
「そもそもファントム・デーモンだという証拠がどこにある?」
と好き勝手な言葉を口にする。
「証拠…は、何も持っていないのでお見せできません。信じてください、としか…。」
レオンが悔しそうにうつむく。
「ほうら見ろ。一等魔法使いだか監督官だか知らないが、こいつだって人間だ。人間は俺たちの敵だ!」
「よさぬか、お前たち!!」
長老は年齢に似合わない大声で一喝した。
「我らは森の賢者、聡明であることを誇りとするエルフじゃ!それが人間憎しですっかり馬鹿になってしもうたようじゃの!」
そう言って長老は臣下のエルフを睨みつける。
「そも、この者たちがエルフを邪険に扱うのであれば、我々に脅威を知らせることなく、見捨てておけば良いのじゃ。わざわざこの集落に来た意味を考えぬのか!?」
絶対的な上下関係があるのだろう。臣下のエルフたちは先ほどの威勢はどこへやら、すっかりおとなしくなってしまった。
「監督官殿、すまなかったの。」
長老は場を収めるとレオンさんに一礼した。
「いえ、こちらこそ助かりました。それではさっそくこの屋敷に防御結界の魔法を施しますね。」
そう言ってレオンが立ち上がろうとすると、一人のエルフが駆け込んできた。
「報告!報告!」
「なんだ、騒々しい。今は会議中であるぞ!後にせい!」
臣下のエルフが怒鳴りつけると、部屋に入ってきたエルフは息を切らせながらも「あの…その…」と言うだけですっかり委縮してしまった。
「よい、急ぎなのであろう?申してみよ。」
すかさず長老が助け舟を出す。
「集落の南から例の現象が現れました!」
「な、なんじゃと!?犠牲者は出たのか?」
その場が凍り付くような緊張感に包まれる。
「いえ、自分は急いで報告に来たので認知しておりませんが、霊の現象が起きたところで魔力眼を持つ者が確認したところ、モンスターを確認し、そして…」
「そして、なんじゃ?」
――この屋敷に向かってきています!
あたりは風の音だけ。
私たちは今、エルフの森に向かって歩いている。
道中、もう少し鳥の囀りや虫の鳴き声が聞こえてきてもいいと思うのだけれども…。これもやっぱり、ファントム・デーモンの仕業なのだろうか。
30分前、私は「絶対に他言無用ですよ」と前置きをしてからレオンさんに勇者であることを話した。
こんな突拍子もない話、信じてくれないと思っていたのだけれど、防御結界の魔法を見ていたからか意外にも素直に受け入れてくれた。
「でも、さすがにメアリー様がご一緒するのは…。」
レオンさんは最初、メアリーの同行を拒んだ。
しかし私は勇者がついているから大丈夫、と半ば強引に押し通した。
確かにいつどこでファントム・デーモンに襲われるか分からない。そんな状況下なので、勇者の傍を離れるより、勇者とともにいた方が安全…と言えなくもないかもしれない?
これは迷った末にレオンさんが出した結論。
ごめんね、レオンさん。メアリーは親の私と離れるわけにはいかないんだ、特にこのアヴァロンでは。「お前はここに居なさい、大丈夫だから」という言葉を最後にメアリーの本当のご両親は帰ることはなかった、それはメアリーにとって最大のトラウマだから…。
私は領主邸全体に防御結界の魔法を施した。レオンさんは無事な人を全員領主邸に避難させるようアドルフさんに指示を出した。
そして今。
この危機的な状況の説明、それと防御結界魔法を施すため、私たちはエルフの集落に向かっている、というわけだ。
ファントム・デーモン討伐隊…と言えば聞こえはいいけれど、メンバーは私とメアリーとレオンさんの3人。まぁ、敵の能力が特殊すぎて、普通の人について来られても足手まといというのもあるのだけれど。
「メアリー、疲れたら遠慮なく言うのよ?無理は一番の敵だから。」
「うん、ユメ。わかった。」
私とメアリーはお互い顔を見合わせてにっこり笑う。
それを見たレオンさんに
「お二人は本当に仲がいいですね。」
と言われた。うん、確かに。私もそう思ってるよ。
「そろそろ森ですので、矢除けの防御魔法を使いますね。」
そう言ってレオンさんは歩きながら呪文を詠唱した。
私たち3人を中心に半径3メートルほどのほんのり緑色をしたほぼ透明な球状の壁ができる。
「この壁の外に出てしまうと危険ですので、ご注意ください。」
ふむふむ、こういった防御魔法もあるのね。
アヴァロンのエルフは人に対して好戦的。もしかしたら問答無用で矢を放ってくるかもしれないとういうことで、この防御魔法を使ったわけだ。
という話をした直後、私たちの目の前の地面に矢が飛んできて突き刺さった。
「止まれ、人間!ここはエルフの地。これ以上足を踏み入れるなら、次は脳天に矢を射るぞ!」
こちらからは相手が見えない。どうやら離れたところからエルフに狙撃されているようだ。
「私の名前は、レオン。このアヴァロンの監督官として赴任してきた一等魔法使いだ。長老にお目通り願いたい!」
エルフの声が聞こえてきた方向に向かって、レオンが大声で返事をする。
樹々の葉が擦れ合う音に交じってザワザワした声も聞こえる。
「レオンさん、返事がかえってきませんけれど、もしかしてレオンさんが本当に一等魔法使いかどうか疑っていらっしゃるのかも。」
「なるほど、その可能性はありそうですね。勇者様が魔法を披露されますか?」
「レオンさん、勇者様はやめてください、その…恥ずかしいので。今までどおりユメ、でお願いします。それと私、魔力制御ができないので、私が披露しちゃうとエルフの集落ごとこの森を消滅させちゃいますけれど、いいですか?」
レオンは驚きつつも
「な、なるほど、わかりました。」
と言って、再びエルフがいるらしき方向に向かって大声をあげる。
「エルフたちよ、信じられないのであれば目に焼き付けるがよい。一等魔法使いの魔法を!」
――若木よ幾年の月を重ね豊穣ならん!オブストバウムフロウフト!
レオンさんは詠唱とともに、傍に生えていた一本の若木に魔法をかけた。
すると、2メートルくらいの若木はあっという間に幹の周りが5メートルはあろうかという大木に成長し、枝からはリンゴとマンゴーをあわせたような、甘い香りのする実が垂れ下がった。
「どうだろうか!森の恵みは君たちのもの。この実をお腹をすかせた集落の皆に届けてほしい。そのついでに我々を案内しては貰えぬか!?」
なるほど、レオンさん上手い!
若木が大木に成長するという魔法の実力を見せつけ、ファントム・デーモンによって恵みが減少した森の民に手土産を用意し、森の恵みはエルフのものと監督官が自治権を改めて認める。
一回の魔法で3つの効果とは。
エルフは元来は森の賢者ともよばれるほど聡明な人たちで、アヴァロンに住むエルフも同じように賢い。ただエルフにしては珍しく肉も食べること、人間をひどく忌み嫌っていることから好戦的な脳筋に見えるだけなのだ。
なのでアヴァロンのエルフたちもここまでされて、なお私たちを追い払うようなことはしない。
これ以上睨み合っても意味がない、そう悟ったエルフたちは私たちを集落に案内してくれた。
エルフの集落でも人間の集落と同じように無気力に座り込む人がたくさんおり、ファントム・デーモンの影響をまざまざと見せつけられた。
「ここが長老の屋敷です。」
そう言って案内された屋敷の中にも、何人ものエルフたちが寝かされていた。
無気力な顔、生気のない瞳。
このまま死を待つだけのひとたち…。早く、早くなんとかしないと…。
20畳ほどの広い部屋には、エルフ族の長老のほか、きっと重要な役職の人であろうエルフが両脇に3人ずつ座っていた。
「なるほどのぅ。ファントム・デーモンか。」
レオンさんが自身の目で見たことと知見からあわせた推論を話すと、エルフの長老も心当たりがあったようで、納得するのにそう時間はかからなかった。
「それで、お前さんたちはどうするのじゃ?たとえ一等魔法使いと言えども強敵には違いあるまいて。」
長老が眼光鋭くこちらを見てくる。
「幸い、私は聖なる魔法『ハイリグベアディグン』を習得しています。これが切り札になるかと。」
「光属性魔法というだけでも珍しいのにハイリグベアディグンを習得済みとはのぅ…さすがは一等魔法使いといったところか。確かにあれは死者の魂やアンデッド系モンスターに対する特効魔法。また、生者の魂は傷つけぬ…ということはファントム・デーモンさえ倒せれば奴に吸収された魂は元へと戻る、という算段かのぅ?」
「さすがです、長老殿。こちらの計画をすべてお見通しとは。それでは、討伐にあたってお願いしたいことももう察していらっしゃいますね?」
「うむ、人間との友和、じゃな?」
長老以外のエルフは驚きを隠せない表情を浮かべた。
ファントム・デーモンはエルフや人間の霊体、とりわけ憎しみなどの感情を抱いた霊体を捕食することを好み、その感情はファントム・デーモンにとって大きな力の元となる。
アヴァロンの地はエルフと人間がいがみ合っている土地。
これ以上の対立が続き、憎しみの感情を持つ霊体の捕食をファントム・デーモンが繰り返せば、強くなりすぎて討伐ができなくなるかもしれない。いや、もう既に討伐できるレベルなのかもわからないのだけれど…。
「人間にも同じように言い聞かせております。人間への憎しみが一朝一夕で消えることはないことは、重々承知しております。しかしながら、このまま対立が続けば、そう遠からぬうちにアヴァロンの生命は全て絶滅するでしょう。そうなってからでは遅いのです。」
レオンは必死になって訴えた。
長老はゆっくりと頷いたが、臣下のエルフたちは違った。
「人間が頭を下げるというなら許してやらなくもない」
「ぜんぶ作り話じゃないのか?」
「俺たちをだまそうという手の込んだ芝居なのだろう?」
「そもそもファントム・デーモンだという証拠がどこにある?」
と好き勝手な言葉を口にする。
「証拠…は、何も持っていないのでお見せできません。信じてください、としか…。」
レオンが悔しそうにうつむく。
「ほうら見ろ。一等魔法使いだか監督官だか知らないが、こいつだって人間だ。人間は俺たちの敵だ!」
「よさぬか、お前たち!!」
長老は年齢に似合わない大声で一喝した。
「我らは森の賢者、聡明であることを誇りとするエルフじゃ!それが人間憎しですっかり馬鹿になってしもうたようじゃの!」
そう言って長老は臣下のエルフを睨みつける。
「そも、この者たちがエルフを邪険に扱うのであれば、我々に脅威を知らせることなく、見捨てておけば良いのじゃ。わざわざこの集落に来た意味を考えぬのか!?」
絶対的な上下関係があるのだろう。臣下のエルフたちは先ほどの威勢はどこへやら、すっかりおとなしくなってしまった。
「監督官殿、すまなかったの。」
長老は場を収めるとレオンさんに一礼した。
「いえ、こちらこそ助かりました。それではさっそくこの屋敷に防御結界の魔法を施しますね。」
そう言ってレオンが立ち上がろうとすると、一人のエルフが駆け込んできた。
「報告!報告!」
「なんだ、騒々しい。今は会議中であるぞ!後にせい!」
臣下のエルフが怒鳴りつけると、部屋に入ってきたエルフは息を切らせながらも「あの…その…」と言うだけですっかり委縮してしまった。
「よい、急ぎなのであろう?申してみよ。」
すかさず長老が助け舟を出す。
「集落の南から例の現象が現れました!」
「な、なんじゃと!?犠牲者は出たのか?」
その場が凍り付くような緊張感に包まれる。
「いえ、自分は急いで報告に来たので認知しておりませんが、霊の現象が起きたところで魔力眼を持つ者が確認したところ、モンスターを確認し、そして…」
「そして、なんじゃ?」
――この屋敷に向かってきています!
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