能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神

文字の大きさ
19 / 45
第1章 異世界に転生しちゃいました?

第19話 ここをお家とします!

しおりを挟む
 ユサ ユサ
 男性はぐっすりと眠っていたのか、身体を強くすったらようやく目を開けた。
「わ!わ、寝てないよ!?」
 いやいや、おじさん…かなり熟睡じゅくすいしていましたよ?
 というツッコミを私は入れたかったが、ぐっとこらえて挨拶あいさつをする。
「初めまして。私はユメと申します。オルデンブルク伯爵家はくしゃくけから参りました。町長さんにお取り次ぎ願えますか?」
 ここミューレンの町は辺境へんきょうとは言え、土地をおさめる領主りょうしゅ様の家名かめいは効果絶大。
 おじさんは大あわてで、ピンと背筋を伸ばしたかと思うと「少々お待ち下さい!」と叫んで、街中に走って行った。
 ポツンと残された私だったが、数分すると先程さきほどのおじさんともう一人、若いお兄さんがこちらに向かって走ってきた。
 こういう時、スマホが無いのは不便ふべんだ。
 スマホに代わる通信魔法ってないのかな…?落ち着いたら調べてみよう。

 はぁっはぁっ
 二人とも息があがっている。慌てなくてもいいのに、かえって申し訳ない気持ちになる。
「お待たせしました。ミス…えっと…」
「ユメと申します。かしてしまったようで、すみません。」
「いえ、こちらこそ失礼しました。私は町長の屋敷で身の回りの雑務をしております、ライアンと申します。その…本日のご用件は何でございますか?」
 ふむふむ。こちらのお兄さんはライアンさんというのね。
「あの…私はアレクサンドラ先生の弟子として、こちらで診療所しんりょうじょを開業させて頂けないかと思いまして、先ずは町長さんにご相談させて頂きたかったのです。」
「かの高名こうめいなアレクサンドラ先生のお弟子様ですか!それは有り難いことです。さぁ、どうぞこちらへ。」
 おじさんも一緒について来たそうだったが、しぶしぶ警備の仕事に戻り、私はライアンに案内されて町長の家に向かった。

 町長の家は町の中でも山側に近く、立派な3階建ての屋敷やしきだった。
 壁はレンガ造りで目地めじ漆喰しっくいが白くまぶしい。屋根瓦は朱色しゅいろで、一番上には黒い金属製の風見鶏かざみどりが取り付けられている。
 このレンガと朱色しゅいろの屋根瓦の組み合わせは、ミューレンの町の標準仕様しようらしく、あちらこちらの家で見られる。
 一見似たような建物だらけで道に迷いそうだが、鉄製の窓枠には家々の個性が出ているので、慣れたら大丈夫そうだ。というか、きっと大丈夫だろう。なにせ知力最大値カンストなのだから…。

 家の応接間に案内されると、そこには町長さんが先に座っていた。
 軽く挨拶あいさつませると私は早速本題に入る。
「こちらが伯爵はくしゃく様から頂いた身元証明。そして、こちらが開業許可証になります。本日はこの町での診療所しんりょうじょ開業の許可を頂きたく参りました。」
 そう言って私は町長に書類を見せた。
「確かに、アルスベルド・オルデンブルグ伯爵はくしゃく様の書類ですね。ようこそミューレンへ、ユメさん。町を代表して歓迎いたします。」
 町長さんは、てっきりおじいさんかなと思っていたのだが、初老というのは当たっていたものの、男性ではなく女性だった。
 前世の日本では女性の町長って、ほとんど記憶にない。どうも私にはまだ前世の日本の先入観せんにゅうかんが残っているようだ。
 しかし私は今から女手おんなでひとつで診療所しんりょうじょを開業しようとしていたところなので、女性の町長ということに少し勇気づけられた。
「ありがとうございます。町長さん。」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。私のことは町長ではなく、フリーダと呼んで下さいな。」
「はい、フリーダさん。あの、早速質問があるのですが…」
「なんでしょう?」
 フリーダは屈託くったくのない笑みを向けてくる。とても温厚で優しい人なのだろう、きっと人望もあるんだろうなと思った。

「この町に不動産屋さんはありますか?借家しゃくやを探しているのですが。」
 この町に住むからには、まずは生活の拠点きょてんを確保しないといけない。
 …ところで、この世界にも不動産屋さんってあるのかな?
「不動産屋はないのだけれど、空き家は私の方から紹介できますわ。ちょっと待ってね。」
 そう言うと、フリーダ町長はハンドベルを鳴らした。

「お呼びでしょうか?」
 隣の部屋で待機していたライアンが現れる。
「ライアン、確かノアさんご夫婦が娘さんの町にお引っ越しされたので、家が空き家になっていましたよね?」
「はい。私どもで空き家の管理をしております。」
 おそらく…だけれどこの異世界、不動産屋はあっても、ミューレンの町ではそれを生業なりわいとしている人がいないのだろう。
借家しゃくやの条件はあったかしら?」
「はい。まず、家賃は不要とのことです。ただし、家具には思い入れがあるので、壊れて使えなくなるまでは捨てないで欲しい、というご要望でした。建ててから30年以上経っているので、リフォームは必要であれば構わない、とのこと。以上になります。」
 ライアンはよどみなくスラスラと説明した。
「それは重畳ちょうじょうね。どうかしら?ユメさん。勿論もちろん、見てから決めて頂いて構わないのだけれど、あそこならきっと気に入ってくれると思うわ。」

 聞くところによると、ノアさんはこの町の薬屋さんだったらしい。いわゆる店舗てんぽ兼住宅で、一階の道路側半分が店舗てんぽスペース。もう半分側はプライベートスペースの台所やお手洗い、お風呂などの水回り。二階は寝室や客間きゃくまになっている。
 私にとってはまたとない超優良物件なのだけれど、薬屋としての店舗てんぽ構造や家具が使いづらくて、なかなか次に住む人がいなかったらしい。

 物件は町長の家から20メートルほど坂を下ったところにあった。
 ちょっとした商店街の中にある物件で、出入り口は北側だった。もしかしたら、直射日光で薬が変質しないようにとの配慮はいりょがあったのかもしれない。
 築30年以上とのことだが、中に入ると清掃が行き届いており、とても清潔せいけつだった。ノアさんも、その後管理していたライアンさんも大事にしてきたことは容易よういに想像できた。

 自宅スペースの水回りは意外にも近代的とさえ思えるほど水道が行き届いていて、それをキッチンやトイレ、お風呂などに利用していた。ここミューレンはホルン山脈から豊かな水が流れてきており、それを各家庭に引き込んでいる。ゆるやかな斜面に作られた町ということもあって、自然に流れる勢いで蛇口から水が出る、というわけだ。
 驚いたのは、下水道も整備されていたことだ。浄水場じょうすいじょう浄化槽じょうかそうといったものはなく、汚水は流しっぱなしになるのだそうだが、前世の日本とは違い、例えば石けんは自然素材のもの、トイレットペーパーも植物の葉から作られたものを使うので、環境への影響は全くないらしい。
 
 2階には部屋が3つ。家の南側には、広めの庭までついていた。洗濯物を干すのに良さそうだし、家庭菜園なんかもできそうだ。
 庭には人の高さほどの細長い倉庫のようなものがあった。ライアンに何なのか尋ねるとまきを貯めておく場所とのことだった。たしかに4000メートル級のホルン山脈のふもとの町、冬はとても寒そう…。

 見れば見るほど素敵な家。
 迷うことなく、ここに住むことを決めた私は、町長の家に戻って、手早く契約の手続きを済ませ、ライアンから家のかぎ受領じゅりょうした。
 女性の一人暮らし。もちろん施錠せじょうするにしたことはないが、この町は平和そのもので50年間犯罪が起こったことはないそうだ。きっと皆が心豊かに暮らせているんだろうなと思った。

 ご近所さんに挨拶をしつつ、日用品を買い込んで整理していると日が傾き始めた。
 今日の夕食は、町長さんのホームパーティーに招待された。私の歓迎会を兼ねて頂けるらしい。
 何を着ていこうかと迷っていたら、その魔女の装備でよいと言われた。なので、特に着替えることもなく夜天やてんの装備を身につけたまま町長さんの家に向かった。

 コンコン
 町長さんの家のドアについている金属の輪のようなものでノックをすると、ライアンさんが現れた。
「お待ちしていました、ユメさん。皆さんお揃いですよ。」

――え?皆…さん?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。 今年で33歳の社畜でございます 俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう 汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。 すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。 そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな

処理中です...