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第2章 ラジナ城砦

閑話~少年二人と、~

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「あるって……! あれは絶対ある……!」
 納屋の見える物陰から、こそこそとリウとシグが顔を出した。角度的にあまり全貌までは分からないが、木陰で隣り合って座っていることは見て取れた。
 興奮さめやらぬ様子のリウをさておいて、シグは神妙な顔つきで零す。
「……殿下がお眠りになってる」
「え?」
「この二週間、殿下はほとんど眠っておられなかった。仮眠なんて言っても、実際には目を閉じてただけだ。無理もない。あんな部屋で休息などとてもじゃないが……」

 シグの声が僅かに震えるのをリウは聞き逃さなかった。
「……殿下が眠れて良かったね、シグ。頃合いを見て運んでさしあげよう」
 リウの言葉に、シグは小さく頷いた。ふと、リウはシグの顔を覗き込む。
「泣いてる?」
「泣いてねぇよ!」

 冗談だよ、と小さく笑うリウに、シグは意趣返しとばかりに言った。
「お前よく平気な顔してられるよな。殿下がオメガ狩りの命令をしたってのに……」
「してないよ」
「は?」
 リウはけろりとした顔で言った。
「殿下がそんな命令するわけない。さすがに分かるよ。シグがコソコソ動いてたのも、それの証拠集めでしょ」
「……」

 任務内容を話すことはできない。返答ができずにいるシグに笑いかけ、リウはふと、木陰の方へ視線を戻した。
「多分、ヴェル様も気付いてるんじゃないかな」
「ヴェル……、ってあいつか」
「殿下のお客様なんだからちゃんと『様』付けしなよー。……ま。それはともかく」
 リウは顎に手をやった。
「なんとなくだけど、ヴェル様って生粋きっすいの農民じゃない気がするんだよね。妙に肝が据わってるところがある」
「只者じゃないってことか」
「あまり自分の事を話してくれないから、ただの勘だけどね……。あ」
 リウは「そういえば」と続ける。
「シグには先に言っておくよ。ノアの居場所が分かった」
「あいつ生きてたのか?」
「連絡が来てね。……こっちには来月戻るらしい」
「来月か。また変な事件が起きなきゃいいが……」
 シグの苦い表情に、リウは「そればかりは何とも」と、肩を竦めた。





「ノア殿」
 名を呼ばれ、長い黒髪を緩く三つ編みにしたノアが「はい?」と、振り向いた。
 この一週間、ノアはとある村に逗留とうりゅうしていた。村では半年前からはやり病が蔓延まんえんしており、たまたま立ち寄ったノアが一週間かけてそれを治療したのだ。
 村長はノアに頭を下げる。
「どうかこのまま村にいてくれませぬか。あなたのような魔導士様がいれば、この村も安泰です」
「うーん。とても魅力的なお誘いですが。ごめんなさい。近隣の村の病状も見ておきたいですし……、何よりも」
 ノアは切れ長の黒い瞳を細めて、柔らかく微笑んだ。

「可愛いアルファが私を待っているので。帰らないといけないのですよ」
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