白き淵に沈む時

駒元いずみ

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本編

つもりて淵となりぬるは 四

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「姫様!」
感極まったらしいニールが抱きついてきた。
その勢いのまま、後ろに押し倒される。
「ちょっと! ニール!」
「あぁ、姫様! 俺、幸せです! 姫様のことも絶対幸せにしますから!」
「わたくしの夫としてそのようなことは当たり前で、やっ、どこに触ってっ」
リディアに頬ずりしながら、ニールの不埒な手がスカートの中に差し込まれた。
柔らかな内腿をいやらしい手つきで撫で回される。
一瞬にして真っ赤になったリディアは、ニールを引き剥がそうと肩を押すがびくともしない。
ニールは満面の笑みを浮かべ、リディアの胸に顔を埋めて言う。
「気持ちいいのも幸せの元ですよね。姫様に満足頂けるように俺、頑張りますから」
「そんな頑張りはいらないわ! 結局身体目当てではないの!」
「だから身体も心も姫様の全部が欲しいって言ったじゃないですか。俺、欲張りになってしまったんです。姫様も気持ちいいのはお嫌いじゃないでしょう? 遠慮なさらず」
「遠慮ではないわ! この阿呆あほうが! あんっ」
罵倒を嬉しげに聞き流したニールが、胸当てをずらして胸の蕾に吸いついた。
思わず漏れてしまった嬌声に、リディアは手で口元を押さえる。
ニールは口に含んだ蕾を舌先で転がしながら、反対の胸の頂きもきゅっと指でつまみ上げた。
快楽を覚えさせられた身体はそれだけで抵抗する力が緩み、次の刺激を期待してしまう。
いやらしい身体に作り替えられてしまったようで、恥ずかしくて仕方がない。
ねっとりと蕾を舐め上げながら、ニールが言う。
「ほら、姫様。ぷっくりと赤く色づいて、とても美味しいですよ」
「そんなこと、口に出さな、んっ……いやっ」
スカートの中でリディアの脚を撫で回していた手が、下着越しの秘所に触れた。
ふにふにと柔らかな丘を押される。
「やっ、やめなさっ」
「本当に? 本当に、止めて欲しいですか?」
ちゅぱっと音を立てて胸から口を離したニールが、上目遣いに尋ねてくる。
ぞっとするほど色気に溢れた顔で問われ、リディアはとっさに返答出来なかった。
口先だけの拒否に過ぎなかったと己の願望に気付き、リディアは耳まで真っ赤になる。
それを見たニールが、にやりと笑った。
快楽に屈したことを悟られては堪らないと、リディアは慌てて否定する。
「ちがっ」
「へぇ? じゃあ止めます?」
ゆるゆると撫で回していたニールの指が、秘所に添えられたままピタリと止まった。
余裕ぶった顔で尋ねてくるニールが、ひどく憎らしい。
リディアは言葉が出ずにぱくぱくと数度口を開閉する。
まだ夕餉も済ませていない時刻だ。
ここは止めると言うべきなのだろうが、身体の熱をリディアはどうしても無視出来なかった。
不承不承という体で言う。
「ゆ、湯で身体を清めてからなら……」
「後で俺が隅から隅まで洗って差し上げますから、いいじゃないですか」
「あ、後? ちょっと! ひゃあっ」
ちゅぷり。
下着の隙間から指を差し入れられる。
秘所そこはもう潤んでいた。
「おあずけはもう無理です。ねぇ、姫様。いいでしょう?」
指を蜜口で遊ばせたまま、ニールが唇を寄せた。
リディアの下唇を軽くみ、ちろちろと唇の縁を舐めて強請ねだってくる。
「湯は、後でもいいですよね?」
「し、躾がなっていない駄犬ね。待ても出来ないの、お前は」
「湯殿で最後までしてもいいなら従いますけど……あぁ、それもいいですね」
濃い茶の目がキラリと光る。
リディアは顔をひきつらせた。
ニールのしつこさは経験済みだ。
きっと一度では終わるまい。
湯殿でそう何度も盛られては、のぼせてしまう。
すぐさま実行されそうになり、リディアは慌てて許可を出した。
「し、仕方がないわね。湯は後でいいわ」
「ありがとうございます。姫様」
ニールがにっこりと笑い、穏やかな口付けをする。
そして、スカートの中に顔を突っ込んだ。
「ニール!?」
「昨日の今日ですし、丁寧にほぐさないといけませんから」
ニールはそう言って、リディアの下着を脱がせた。
しかも脱がした下着は完全には取り払わず、何故か右足首にひっかかった状態のままだ。
その中途半端さが気持ち悪く、リディアは眉間にしわを刻んだ。
「……何故ちゃんと脱がさないの」
「この中途半端さがいいんです。いやらしい感じが増すので」
「馬鹿ではないの」
快楽には弱いものの特殊な嗜好があるわけではないリディアは冷静に断じた。
行儀は悪いが、足を振って下着を足から抜き取ろうとする。
「駄目ですって。姫様」
右足首を掴まれて、阻止されてしまった。
もう片方の足首も掴まれ、ひっくり返った状態で足を折り畳まれる。
そのままぐっと開かされた状態は、カエルのようだ。
スカートでリディアからは見えないとはいえ、この体勢は卑猥過ぎる。
罵倒のために口を開こうとした所で、秘所にふぅっと息を吹きかけられた。
口からは罵倒の代わりに悩ましい声が漏れる。
次いで、蜜口をぺろりと舐め上げられた。
リディアの脚が跳ね上がりそうになったが、ニールに押さえられているために叶わない。
「ゆ、湯で清めてもないのにっ……汚っ……ふあっ」
「姫様の身体から出たものなら、なんだって美味しく感じますよ」
「おかしなことをっ、あっ、言うのではっ、やぁ」
ひだを順に口に含まれ、ねっとりと舐め回される。
あまりの恥ずかしさに、リディアの勝ち気な目に薄らと涙が浮かんだ。
スカート越しにニールの頭を手で押さえ退けようとするが、ニールの動きは少しも緩まない。
「ひゃんっ」
ちゅうっと花芽に吸いつかれ、リディアの身体がびくっと跳ねた。
花芽を根本からゆっくりと舌全体を使って舐め潰され、ちろちろと舌先で触れるか触れないかの微かな刺激を与えられた。
緩急をつけて攻められるとリディアは快感に震えっぱなしになってしまう。
時折、蜜口に吸いつきながら愛撫を続けるニールに、リディアは悲鳴じみた声を上げた。
「んあっ、しつこいっ」
「だって、昨日は早く姫様の中に入りたくておざなりになってしまいましたからね。今日はたっぷりとご奉仕させてください」
「あれでおざなりのつもりなの!?」
リディアにしてみれば、昨日の愛撫もだいぶねちっこいと感じたのだ。
それをおざなりだなどと言われたら、ニールとの感覚の違いにおののいてしまう。
「好きなことはじっくりゆっくり時間をかけて楽しむ方なんです、俺」
じゅるじゅる愛液をすすり上げて、ニールが言う。
「へ、変態!」
「否定はしません。姫様限定の、ですけど」
ぬぷりと、舌を蜜口に差し入れられた。
「やぁ……あ、……はぁっ」
ぐるりと蜜壷の入り口近くの内側を舐め回しながら、ニールが舌を出し入れする。
指とは違う縦横無尽な動きに、リディアは喘ぐことしか出来ない。
快感を逃そうと脚がびくびく動く。
その脚を腕で抱え直したニールの指が花芽へ伸びた。
蜜口を舐められながら敏感なそこを擦られると、リディアの身体は一気に一番高いところまで上り詰めてしまう。
「あっ、あっ、やぁんっ」
快楽の奔流にあらがえず、リディアは大きく震えた。


「あ、姫様。今イきました?」
スカートの中から顔を出したニールが、見せつけるように自身の唇をぺろりと舐めた。
リディアは真っ赤な顔でニールをにらみつける。
その顔は言葉より雄弁に、リディアの状態を語っていた。
しかし、ニールはわざとらしく首を傾げ、獰猛な笑みを浮かべる。
「まだイってないなら、もっと、ってことですよね」
「え?」
快楽に浮かされた頭がニールの言葉の意味を理解する前に、蜜壷に節くれ立った中指が差し入れられた。
指は舌よりも固く長い。
腹側の内壁を探られ、絶頂を味わされたばかりの身体には過ぎた快感を擦り込まされる。
「やぁっ」
「イったって素直にお認めになれば、楽にして差し上げますよ」
ニールがリディアの耳元で囁く。
いやらしい言葉を言わされるのは、我慢出来ない。
リディアはかぶりを振って、ニールをにらみつけた。
「お、お前の目は節穴なの?」
「んー。そうかも知れません。俺には姫様がイったかどうか見ただけじゃ分からないので、このまま続けますね」
「あっ、だめっ」
人差し指も蜜口に侵入し、いやらしく動きながらリディアを追いつめていく。
しかし、リディアが頂点に登り詰める直前になると、ニールは蜜壷に指を入れたままその動きをピタリと止めた。
「……ニール?」
もどかしい身体の疼きに苛まれながら、リディアは艶を帯びた青の瞳をニールに向ける。
ニールは薄く笑って、リディアの汗が滲んだ額に口付けた。
「だって、姫様が『だめ』っておっしゃったんですよ。止めて欲しいってことですよね? 俺はご命令に従っただけですよ」
少し前の発言を上げられて、リディアは顔をしかめた。
ニールがにやりと笑う。
「きちんと言葉でおっしゃって頂かないと。俺の目は節穴のようなので」
「……何を戯けたことを」
リディアは呆れ返って息を吐いた。
ニールは余程リディアにいやらしい言葉を言わせたいらしい。
気にかける覚悟は決めたが、リディアがニールにくだったわけではない。
何でも言うことを聞くと思ったのなら、大きな間違いだ。
呆れ返ると同時に、少し身体が覚めてしまったようだった。
それに気づいたニールが、蜜壷の中に入れたままだった指の動きを再開した。
二本の指が蜜壷の中をゆっくりとかき回し、親指の腹で花芽をくるくる円を描くように撫で回される。
「はぁ……あ……ひゃんっ」
秘所を攻められ、空いたもう一方の手でむっちりした太股の内側を撫で回されて、敏感な身体はすぐに熱を取り戻す。
しかし、また後一歩で達するというところで、ニールは指を止めた。
「ニール!」
「姫様が『ニールの指で気持ちよくして、イかせなさい』ってご命令くだされば、すぐに実行しますよ」
涙目でにらむリディアの顔をのぞき込み、ニールが意地悪く笑う。
リディアはますます顔をしかめた。
「誰がそのような卑猥なことを言うものですか!」
「そうですか。じゃあ、このままですね」
残念そうにつぶやいて、ニールの指がゆっくりと緩慢な動きで蜜壷の内壁を擦る。
しかし、そこはリディアのよい所ではない。
稀によい所に指が動き、達する寸前まで持ち上げ、イきそうになると動きを止める。
それを何度も繰り返されると、もう駄目だった。
もどかしい熱が下腹の奥にこもり、苦しくて堪らない。
「ほら、姫様。我慢は身体によくありませんよ。一言、命令くださればいいんですから」
そう言うニールも苦しげだ。
ズボンの前が盛大に突っ張っている。
我慢しているのはどちらだと、頭の隅で思うが言葉にならない。
口から出てくるのは意味のない嬌声ばかりだ。
「ねぇ、姫様。言ってください」
己の本能と欲の間で揺れているらしいニールが、情けない顔で懇願してくる。
卑猥な言葉を口にするのは絶対に嫌だと、リディアは溶けかけた頭を何とか働かせた。
もう少し我慢出来れば、ニールの方が先に根を上げそうではある。
しかし、リディアももう限界だった。
リディアは快感と屈辱に震えながら手を延ばし、ニールのシャツの袖をぎゅっと握った。
「ニール……んぁっ……もうっ、あ、……ニール」
「……本当に、姫様はずるくていらっしゃる」
ごくりと生唾を飲み込んだニールが、リディアの胸にむしゃぶりつく。
舌で胸の蕾を転がされ、反対の胸も乳房を揉まれ頂きを指で摘み上げられた。
蜜壷に差し込まれていた指は、リディアの良い所を擦り上げてくる。
「ああんっ」
感じる箇所を同時に攻められて、散々じらされた身体はあっと言う間に達してしまった。
「俺も、もう」
ニールが切羽詰まった声を上げ、リディアのスカートをたくし上げた。
力の入らない膝を開かされ、いつの間にかズボンの中から取り出されていた陽根が蜜口に挿入はいってくる。
「くっ」
十分過ぎるほどほぐされたとはいえ、慣れないリディアのそこは狭い。
ニールはゆっくりと、しかし容赦なく腰を進める。
「んっ」
「あぁ、やっぱり、すっごくイイです」
陽根の全てをリディアの中に収めたニールは、恍惚とした表情で息を吐いた。
異物感に眉をひそめるリディアの顔についばむような口付けを落とし、形の良い耳を食みながらニールが言う。
「大丈夫ですよ。もう少し馴染むまでじっとしてられますから。リディア様」
「な!?」
きゅっとリディアの下腹が痺れ、蜜壷の中がうごめいた。
「ふええええぇ?!」
ニールが素っ頓狂な声を上げるのと、腹の奥に熱い奔流を感じるのは同時だった。
「え? な、に?」
何が起きたのか分からず、リディアが戸惑いの声を漏らす。
ニールは泣きそうな顔でつながったままリディアにおおい被さり、ぎゅうぎゅうと抱きついた。
「い、今のはリディア様がいけないんですよ。俺のを搾り取ろうとうごめいて締め付けて……ものすんごく気持ちよくて……可愛いおねだりにギリギリだったから一たまりもなかったんです。決して俺が早漏ってわけでは……ってまた!」
「ええっ」
リディアの意志に関係なく蜜壷が締まり、ニールの陽根を刺激してしまった。
あっと言う間に硬さを取り戻した陽根ソレが、リディアの蜜壷ナカで存在感を主張する。
赤面し戸惑うリディアを見下ろして、相対的に平静さを取り戻したニールがニヤリと笑う。
「もしかして、お名前を呼ばれて興奮してしまわれました?」
「ち、ちが」
「リディア様」
「ふぁっ」
甘い痺れが走り、下腹にまた力が入った。
「くっ」
ニールが苦しげに顔をしかめる。
どうやら今度は我慢出来たらしい。
しかし、煽りに煽られたニールの平凡なはずの顔は、獰猛な肉食獣のようだった。
これはまずいと本能で悟ったリディアは、精一杯不愉快だという顔をして言い放つ。
「リ、リディアとだけ呼ぶのは不敬でしょう!」
賢妃にあやかって付けられる『リディア』という名は、現代の王族女子によく付けられる名前だ。
しかし『リディア』とだけ付けることは不遜であると、複合名で付けられるのが普通だった。
今世のリディアの名は『リディア=グレイス』であるし、五人姉妹の内、同じくリディアと名の付く二人は『リディア=ヴァネッサ』と『リディア=エミリア』だ。
家族内ではそれぞれ『グレイス』や『ヴァネッサ』と呼ぶ。
「でも、リディア様は『リディア』と呼ばれたいのでしょう? ご姉妹の方々は下の者からもご家族からと同じように呼ばれることを好まれましたけど、貴女は『リディア=グレイス』と呼ぶように命令なさった」
「…………」
リディアはむっつりと黙り込み、恨みがましい目でニールを見た。
ニールが言っていることは、概ね的を射ている。
リディアは物心つく頃から『リディア』だった。
今よりももっと、前世であるリディア・ブライトウェルとしての意識を引きずっていたのだ。
『グレイス』も自分の名前の一部だと今では認識出来ているが、幼い頃は違和感があった。
親愛の情を示す呼び方は『グレイス』の方だと頭では分かっていたので、家族からの呼び名に文句を付けたことはない。
代わりに、下の者たちには『リディア=グレイス』と呼ぶように言いつけたのだ。
それを見抜かれていたとは、悔しいのか嬉しいのか自分でもよく分からない。
ごちゃごちゃした自身の気持ちの代わりに口にしたのは、一般論だった。
「……その名で呼ぶのは、人に礼儀知らずだと思われるわ」
苦い顔をして言うリディアに、ニールが悪戯いたずらっぽく笑う。
ねやの中でだけです。外では今まで通り姫様とお呼びしますから。二人だけの秘密、というのもいいでしょう? リディア様?」
「…………好きにしなさい」
「ありがとうございます。リディア様」
にっこりと笑ったニールが、リディアごと身体を起こした。
「ふぁあっ」
あぐらを掻いた自身の上にリディアをまたがらせる。
いわゆる対面座位の体勢だ。
自重でより深くニールの陽根を飲み込むはめになり、リディアはあごを上げて震えた。
「やっ……これ……」
羞恥のあまりリディアは逃れようと投げ出された足に力を入れようとする。
しかし、ニールにがっちりと腰を掴まれてしまった。
「さっきはリディア様に気持ちよくして頂きましたから、今度は俺の番ですね」
そう言うや否や、ニールが深い口づけを仕掛けてくる。
同時に腰を持ち上げられ、落とされた。
蜜口ギリギリまで陽根を引き抜かれた上で、一気に深くを犯される。
陽根の先がよいところに当たり、あまりの気持ちよさにリディアは目を見開いた。
「むぐっ」
リディアが喘ぐために開けた口に、舌が差し入れられた。
舌をからめられ、唾液をすすられる。
「やっ……だめっ……ニールっ」
「んっ、……はぁ……リディア様」
ニールはリディアの身体を持ち上げては降ろすという動きを繰り返す。
時折、腰を押しつけた状態でぐるりとかき回されるとニールの身体に花芽が押しつけられて、くらくらする程の快楽を引き出された。
「ああっ……ふぁっ」
「どうです? リディア様。気持ちいいですか?」
ニールに問われ、リディアはふるふると首を横に振った。
ここまで攻められても、リディアは強情だった。
しかしニールは「へぇ」と笑い、リディアの身体を持ち上げる。
「んっ……やぁ……あっ」
先ほどまでの激しい動きとは異なり、ゆっくりと身体を降ろされる。
蜜壷の中の陽根をより意識してしまう動きに、リディアの身体は震えっぱなしだ。
「ほら、リディア様の腰、俺のをもっとむさぼりたいって動いていますよ」
「!?」
無意識の内にはしたなくも腰を振っていたことを指摘され、リディアの頬がこれ以上ないほど朱に染まる。
「そんなことっ……んあっ……ちがっ……違うのっ」
「リディア様の上のお口は、本当に意地っ張りですよね。下のお口はこんなに素直なのに。ほら、美味しそうに俺をくわえ込んで締め付けてますよ」
「ば、馬鹿! そのようなことは、ひゃ、言わなくて、んっ、いい!」
「はぁ、素直なリディア様も見たいですけど、罵られるのもやっぱりいいなぁ」
うっとりした目で見つめながら腰を押しつけてくるニール。
「まぁ、まだ先は長いですから。いつかエロい命令も下してくださいね。リディア様」
「絶対にしなっ、はぁんっ」
再び激しく動かれて、リディアは背中を反らした。
腰を支えられているものの縋れるものがない不安定さが嫌で、ニールの胸元にすがりつく。
「あっ……ああっ……ニールっ……ニールっ」
「リディア様!」
一際奥を突かれ、熱い白濁がリディアの中で迸る。
リディアの蜜壷ナカもきゅっと締まり、びくびくっと身体が震えた。
何度か腰を振って精液を吐き終えたニールがリディアの身体を寝台に横たえて、ずるりと中から出ていった。
散々揺さぶられたリディアは、ほっと息を吐いて身体の力を抜く。
(……また夕餉ゆうげも食べない内にしてしまった……)
しかも二日連続だ。
まだリディアが館に着いて二日目なのだ。
どれだけ盛っていると使用人たちに思われているか、考えるだけで目眩がした。
ニールが変態なのもそうだが、自身が快楽に弱過ぎるのも問題で……。
「ちょっと……ニール。何をしているの」
いそいそとリディアの服を脱がし始めたニールをリディアはにらみ上げた。
ニールはにこにこと笑いながら、手を止めずに答える。
「え? だって湯浴みをなさるんでしょう? 今日も俺が洗って差し上げますから」
「嫌よ。侍女を呼んでちょうだい。別々に入るわ」
「ええっ」
ニールが愕然とした表情を浮かべる。
次いで泣きそうになりながら、リディアにすがり付いた。
「どうしてですか!? 俺、下手くそでした!? 気持ちよくありませんでした!?」
「そういう問題ではないのよ。一緒に入れば、また不埒なことをするでしょう。お前は」
「それは……しますね。姫様のお身体に触って、ただ洗うだけなんて出来ません」
堂々と言うニールに、リディアは呆れたとため息を吐いた。
「それが嫌なのよ。今日こそは食堂で普通に夕餉を食べるの。二日連続で夕餉抜きなど嫌なの」
「そんな……ふ、不埒なことはしませんから……」
なるべく、と小さく付け足されては、信じられるわけがない。
「言うことを聞けないなら、しばらく寝台を別にしましょう。わたくしの旅の疲れが出たという名目で……」
「そんな! 嫌です!! せっかく一緒に暮らせるようになったのに寝台が別なんて!」
「では聞き分けなさい」
ここで譲ると、ずるずると淫蕩いんとうな生活を続けるはめになってしまう。
それは駄目だ。
仲睦まじいと思われるのは良いが、淫乱だと思われては下の者たちに示しが付かない。
リディアは半裸という締まらない格好ではあるが、毅然とした態度を崩さずニールを見据えた。
「リディア様……」
ニールが哀れっぽい声でリディアの名を呼ぶ。
「名前を呼んでも駄目なものは駄目」
「でもぉ……」
「やはりしばらくは復興に注力するということで寝室を別に……」
「分かりました!」
リディアが折れないと悟ったニールは、最低限の後始末とリディアの服を整えてから侍女を呼ぶために立ち上がった。
とぼとぼと扉に向かう後ろ姿は、先の戦の英雄とはとても思えないほど情けない。
その背中を見送って、リディアは仕方のない男だと小さく笑った。


隣国の侵攻を受けて領主が亡くなり多大な被害を受けたバンフィールド辺境伯領は、平民騎士上がりの新しい領主と降嫁した第三王女の治世の下、いくつかの事件を乗り越え、やがて元通り以上の発展を見せることになる。
文武に秀でた優秀な領主と、それを支える心優しく聡明な領主夫人。
身分差を乗り越えての恋だと後に多くの恋愛小説や舞台の題材となり、感動的な愛の物語として後世に語り継がれることになるが、二人の本当の姿を知る者は一様に半笑いで目をそらした。

「ねぇ、リディア様。もう一回、もう一回だけ、お願いします!」
「いい加減になさい! この戯けが!」
「あぁっ、この痺れるような罵声! さすが俺の姫様!」
「ちょっと! やめっ、抱きつくのではっ、ニールっ、……この馬鹿!」

表沙汰にならない所ではあまり普通でない二人だったが、その領地経営の手腕とおおむね幸せな人生を送ったことだけは、世間に知られている通りなのだった。
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