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本編
リディア=グレイス・バンフィールド 中編
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リディアに男性経験はない。
それはリディア・ブライトウェルであった前世でも、リディア=グレイスとなった今世でもそうだ。
それでも何の知識もないというわけではない。
王侯貴族の娘の役割の一つは、各家を継ぐ次代を産むことだ。
純粋培養で育てたまま輿入れした場合、いざ閨に入った時に相手の男の行動に戸惑って暴れたり悲観したりする可能性がある。
なので年頃になった娘たちは、母親や年嵩の侍女などから閨房で何が行われるか、男がどう振る舞い、女はどう振る舞うべきかを学ぶのだ。
多くの場合、手管を仕込むことはせず、男の言う通りに従いなさい、と教わる。
リディアもそう教わった。
ニールが何をしようとしているかは、分かっているつもりだ。
だが、分かっていることと、受け入れられることは別だった。
平民の男に体を許す。
それはリディアの使命だとしても、屈辱に他ならなかった。
これは作業だ。
ニールがリディアの中に入り、子種を吐き出す。
それだけの作業だと、必死に思い込もうとする。
そんなリディアを嘲笑うように、ニールの動きは緩慢だった。
ゆっくりとリディアの細い首筋に舌を這わせ、服をくつろげてさらされた白い胸元をちゅうっと吸い、赤い花を散らす。
絡めとった腕をとり、華奢な指を順番に口に含み、指の間もぺろぺろと丹念に舐めた。
手首を軽く吸い、手首から肘までの内側を一気に舐め上げる。
「っ!」
緩急をつけたニールの舌の動きに、リディアは声を上げそうになり歯を食いしばる。
ニールはくくっと喉の奥で笑い、リディアの額に軽い口付けを落とした。
「声を出してくださって、全然まったく構わないんですよ、姫様。というか、出してください」
「お前を喜ばせるようなことはしないわ」
リディアがきっぱりと拒否すると、ニールは濃い茶色の目を細めた。
「では、鳴かせられるように頑張りますね」
ニールはリディアの体をうつ伏せにして、ドレスの上からその背に指を這わした。
「女性の服ってややこしいですよね。これって一人で着れるんですか?」
「……着れないわね」
毎回二人がかりで着せられるドレスは、ボタンがたくさんあったり編み上げ紐を背中に通して締め上げたりする必要がある。
元々、使用人をたくさん抱える上流階級用に作られたものだ。
一人で着られるようには出来ていない。
「まぁ、ややっこしいのも脱がす楽しみがあっていいですね」
ニールがそんなことを言いながら、しゅるしゅると背中の紐を解いていく。
リディアは柔らかな枕に胸を圧迫されながら、顔をしかめた。
「変態」
「男は大抵、変態なもんです」
「お前はその中でも特別に変態でしょう」
背中の紐を緩め終えたニールは、リディアを抱き起こして朗らかな笑みを浮かべた。
「否定はしませんよ。でもここまで偏狂的に愛でたいと思うのは、姫様だけですけどね」
「ふん。よく言うわ」
「鼻で笑うなんてひどい姫様ですね」
ニールが抱き起こしたリディアの背中側に回り、緩めた服の衿をずり下ろした。
剥き出しになった肩が艶めかしい。
ニールはうなじから肩にかけて、丁寧にねちっこく口付けを落とし、舌を這わしていく。
リディアはなるべく反応すまいと体を固くするが、肩に軽く歯を立てられた時はびくっと震えてしまった。
「痛かったですか?」
歯を立てた所をぺろぺろと舐めて、ニールが尋ねてきた。
「別になんともないわ」
虚勢を張るリディアは、後ろから抱き締めてくるニールの顔を見ないまままくし立てる。
「それより、脱がすなら脱がすでさっさとしてちょうだい。何なのさっきから中途半端な所で止めて」
「……姫様。もう少し情緒ってもんを考えてください」
「わたくしが何故、お前におもねらなくてはならないの」
リディアが小馬鹿にするように言うと、ニールはぎゅっと抱き締める腕に力を込め、リディアの肩にぐりぐりと顔を押しつけた。
熱いニールの息が首筋にかかってくすぐったい。
「はぁ。もう姫様、俺を煽らないでください」
「……今のわたくしの言葉のどこに、お前を煽る要素があったというのかしら」
リディアは呆れた気持ちを隠さず、大きなため息を吐いた。
「俺が気が強くて人を見下している姫様が好きだって分かっていておっしゃっているんですよね。本当にひどい姫様だ。でも、そういうひどい所がものすんごくそそられます」
「…………」
また戯けたことを! と罵りたかったが、罵れば罵る程この変態を喜ばすだけだとリディアは口をつぐんだ。
本当に、こんな変態に目を付けられてしまった自分が悲しくてならない。
遠い目をするリディアにお構いなく、ニールはちゅっと彼女のつむじに唇を落とした。
「あ、姫様のご質問にお答えしてませんでしたね。完全に脱がさないのは、我慢しているからです」
「我慢?」
それこそこの男には相応しい言葉ではないと、リディアが聞き返す。
「そうです。用意が整うのを待っているんですけど……」
と、ニールが言った時、コンコンと部屋の扉が叩かれた。
「あぁ、ちょうど用意が出来たみたいですね。行きましょう」
「え?」
リディアが疑問を口にする暇もなく、ニールはリディアの服を剥ぎとった。
「ちょっと! ニール!」
そして、下着姿になったリディアを軽々と抱き上げ、廊下につながるものとは別の扉へ向かって行く。
「どこへ行くの!?」
「湯殿です」
その答えに、リディアは目を瞬かせた。
ニールはそんなリディアの目元に唇を寄せて、にっこりと微笑んだ。
「着替えの時に多少体は拭かれたでしょうけど、長旅ではゆっくり湯に浸かる機会はなかったでしょう。湯は体も心も和らげますから」
お前にしては気が利くではないの、と褒めかけて、リディアは気付いた。
その可能性に顔をひきつらせて、恐る恐る尋ねる。
「……わたくし一人、もしくは侍女が付くのよね?」
「まさか。明日の昼までは、俺が姫様を独り占めするんですから」
丁寧に隅から隅まで洗って差し上げますね、と満面の笑みを浮かべるニールが、リディアには悪魔のように見えた。
脱衣所で抱え上げていたリディアを下ろしたニールは、リディアに抵抗する暇を与えず、さっさと下着を剥ぎ取った。
「なっ」
一糸まとわぬ己の姿に驚いたリディアは、その白い肌を朱に染め、自身を腕にかき抱いてしゃがみ込む。
「湯くらい、ゆっくり浸からせなさい! 侍女を呼んで! お前は出て行って!」
「嫌です」
そっけない返答が、衣擦れの音と共に頭上から降ってくる。
「姫様を好きに出来ると思ったからこそ、辺境伯みたいな面倒くさい爵位を受けて、面倒くさい領主の仕事に励んできたんですよ。これからは姫様の湯浴みを手伝うのは俺の特権です」
「冗談ではないわ! 戯けたことを言うのは止めなさ、っ!?」
交差させた腕で胸を隠したまま、リディアは顔を上げニールをにらもうとして、すぐに下を向いた。
艶やかなブルネットの髪の隙間から覗く耳が真っ赤だった。
下履きを脱ぎ終えたニールが、くすくす笑いながらリディアの側に片膝を着き、丸まった背中に浮き出た背骨をすすっと手の平でなぞる。
「あぁ。初な姫様もお可愛らしい」
「痴れ者が! お前まで服を脱ぐなんて!」
「俺も一緒に湯に入るんですから、脱がないわけがないじゃないですか」
顔を上げた一瞬で焼き付いた下履き姿のニールが脳裏に浮かび、リディアは顔に熱が集まっていることを自覚した。
ニールはその平凡な顔立ちに似合わず、均整のとれた身体をしていた。
無駄のないしなやかな筋肉に覆われたそれは、王城に飾られた若い男の裸体を象った彫刻より、血が通っている分艶めかしく見えた。
そう思ったこと自体が悔しくて、リディアは顔を伏せたまま声を荒げる。
「ニールのくせに生意気な!」
「姫様がどういう思考の末にその言葉が出てきたのかを考えると、たぎりますね」
見透かされたような言葉に、リディアの機嫌が更に降下する。
張り手を食らわして部屋に戻ろうと手を振り上げたところを捕獲され、また抱き上げられた。
「!?」
お互いに裸をさらしている状態で抱き上げられると、ニールの体温を直に感じられて、リディアは身体を固くした。
肌から伝わる自分とは違う堅い身体は、ニールが男であることを意識せざるを得なくなる。
無性に恥ずかしくなったリディアは声を荒げた。
「下ろしなさい!」
「仰せのままに」
慇懃な言葉と共に、リディアは湯気の漂う湯殿の洗い場に置かれた簡易椅子に下ろされた。
「お前は出て行きなさい」
「まず化粧を落としましょうか?」
リディアの言葉を聞き流し、ニールは脱衣所から新しい糠袋をとって来る。
命令を無視されたリディアは不機嫌な口調で言った。
「お前に素顔をさらせというの」
「湯に浸かると熱と汗でどろどろになって気持ち悪いから、先に化粧を落とすって聞きましたよ」
「随分とあけすけな女と付き合っていたのね」
リディアの嫌みに、ニールは嬉しそうに答えた。
「あ、嫉妬ですか? 心配しないでくださいね。姫様のお世話をする為に、こちらに元々居た侍女たちに手順を聞いただけですから」
「都合のよい解釈をしないでちょうだい」
ぴしゃりと否定して、リディアは大きく息を吐いた。
随分とくだらないやりとりで気力を消耗している気がする。
恥ずかしがっていることが、段々馬鹿らしくなってきた。
リディアは元々、他人に世話をされていることに慣れている。
相手はもちろん女性だが、裸身をさらすことも洗われることにも抵抗はない。
もうニールも侍女と同じと思ったらいいだろう。
どうせ抵抗したところで、ニールの好きにされるのだ。
慌てたり恥じらったりして、ニールを喜ばせることはない。
リディアはもう一度、わざとらしくため息を吐いた。
「姫様?」
「好きになさい」
「はい! そうさせてもらいます!」
許可を得たニールが、嬉々として椅子に座るリディアの前にひざまずいた。
するとリディアの視界に、臍に着くまで反り返ったモノが入る。
それが何であるかは、知識として知っていた。
(実物を見るのは初めてだけれど、随分と醜悪な見た目をしているのね)
わずかに嫌悪をにじませた冷たい目で、リディアがそれを見下ろす。
すると、顔を上気させたニールがぶるりと身体を震わせた。
「あぁっ、姫様! 反則です!」
ぶしゃっと、赤黒いそれから白濁した液体が飛び出し、ニールの腹から下を濡らす。
飛び散った精液がリディアの爪先にもかかり、その青臭い臭いも合いまって、リディアは思い切り顔をしかめた。
「……ニール」
「だって! 姫様がいけないんですよ! 俺の上半身を見た時はあんなに恥じらっていらしたのに、俺のモノを見た時は冷静に蔑んだ目をするなんて! イってしまうに決まってるじゃないですか! 姫様の中に出すんだって溜めてたのに!」
悔しげにわめきながら、四つん這いになって床を拳で叩くニール。
それを見たリディアは、呆れ顔を隠さずに命じる。
「馬鹿なことを言っていないで、さっさと後始末なさい。臭いわ」
「ぐうっ、姫様が冷たい。でもやっぱりそこがいい」
情けなく背中を丸めたまま、ニールが桶に湯を汲んできてリディアの足をゆすぎ、自身の身体や床にかかった精液を洗い流す。
新たな糠袋をとってきてリディアの化粧をさっぱりと落としたところで、ニールはやっと気持ちを切り替えられたようだった。
「すみません。醜態をお見せしました」
「お前の気持ち悪さは今に始まったことではないわ」
どうでも良さそうに、リディアは言う。
「冷たい姫様は素敵ですけど、気分が醒めてしまわれたのは問題ですね。今度は俺が姫様をイかせますから」
何やら決意したらしいニールが、ぐっと拳を握った。
「じゃあ、失礼しますね」
リディアの背中に回ったニールが、大きな手で石鹸を泡立て、そっと首から肩にかけて撫ですさる。
「……布を使ってこすると教わらなかったの?」
「布越しじゃあ、姫様のすべすべのお肌を堪能出来ないじゃないですか」
いけしゃあしゃあと、ニールが言う。
(どこまで自分本位なの!)
リディアは罵り言葉が喉まで出かかったが、我慢して飲み込んだ。
またニールが興奮して、あの臭いものをかけられては堪らない。
それに丁寧な手つきで身体を擦られるのは、存外に気持ち良かった。
リディアの首から肩、両腕を洗い終えたニールは、たっぷりと泡をたくわえた手を前に回した。
「おぉ、やっぱり柔らかい」
たぷたぷとリディアの両胸を下からすくい上げたニールが感嘆の声をあげた。
「服の上からでも分かりましたけど、姫様って結構おっぱい大きいですよね」
「……そういうことを口に出すのは止めなさい。下品な」
「えー。こういうことを口に出すから興奮するんじゃないですか」
下乳から脇にかけてぬるりと撫で上げ、ニールが小さく笑う。
悪寒とは違うぞわぞわしたものを感じたリディアは、それを誤魔化すように「しなくて良いわ」と、吐き捨てるように言った。
リディアの変化に目敏いニールが、目を細めて尋ねてくる。
「姫様、気持ちいいですか?」
「良くない」
「じゃあ、もっと頑張りますね」
そう言って、ニールはやわやわとリディアの豊かな胸を揉み始めた。
揉まれること自体がそう気持ち良いわけではないが、己の胸がニールの無骨な手で形を変えているのを見せつけられると、何か変な感じがしてくる。
たぷたぷ、ふにふに、としばらく胸を弄られている内に、胸の中心にある赤い蕾がつんっと立ち上がり、その存在を主張し出した。
「んっ」
すかさず蕾を親指の腹で擦られ、リディアは思わず色めいた声をもらしてしまう。
「ここ、気持ちいいですか?」
熱のこもった声を耳元で囁かれ、リディアは首を横に振った。
「へぇ? そうですか?」
固くなったそこを、親指と人差し指で摘まれる。
「ふぁっ」
くにゅくにゅと親指と人差し指に挟まれたまま擦られると、下腹の奥にじんわりとした熱が生まれた。
それが話に聞く、感じている証拠だとは認めたくなくて、リディアは息を吐いてその感覚から逃れようとする。
「我慢は身体によくありませんよ、姫様」
「やっ」
きゅっと強めに蕾を摘まれ、痛いのか気持ちいいのか分からない感覚に、リディアは身を震わせた。
「姫様は感じやすいんですね」
ニールはそう言って、ちゅっちゅとリディアの耳裏に唇を落とした。
「ひ、人を淫乱みたいに言わないでちょうだい」
息を切らせつつ、リディアは顎を上げてニールをにらみ上げる。
その額にも音を立てて口付けたニールが、ふわりと笑った。
「別に姫様を貶めようってわけじゃないです。俺の手で感じてくれて、嬉しいってことですよ」
あどけなく見えるその笑みに、リディアは毒気を抜かれてしまった。
続くはずだった罵詈雑言が、喉の奥に引っ込む。
それがまた悔しくて、リディアは顔をそむけた。
「いつまでも揉んでいたいほど姫様のおっぱいは気持ちいいですけど、そろそろ別のところも洗いますね」
「んあっ」
最後に蕾を指で弾いて、ニールの手がリディアの胸から離れた。
また石鹸を泡立てたニールが、片方の手で脇腹を撫で上げ、また片方の手で下腹を円を描くように撫ですさる。
先程、散々胸を弄ばれていた影響か、バラバラにリディアの肌の上を這いずり回る手の感触が嫌に敏感に感じられた。
上半身を洗い終えたニールが、前に回ってひざまずいた。
股間のモノはすっかり元気を取り戻し、立ち上がっている。
リディアはそれを先程までの行為でほんのりと頬を染めつつ、呆れ顔で見下ろした。
「ちょっ、姫様! だからそんな目で見ないでください! 二発目も無駄打ちしたら、俺、立ち直れないです!」
「わたくしの知ったことではないわ」
「目! 目ぇ閉じててください! 俺がいいって言うまで絶対に開かないで!」
きゃんきゃんと吠えるニールが煩わしく、リディアは顔をしかめて目をつむった。
言う通りにしなければ、更にうるさいだろう。
はぁっと、重たいため息を吐くと、
「ため息を吐きたいのは俺の方ですよ」
と、更に重たいため息が聞こえた。
「姫様の裸を見て触って、俺、大興奮中なんですよ。今すぐにでも姫様に突っ込みたいのを我慢してご奉仕中なのに……」
「あっ」
ぬるっと、足の指の間にニールの指が差し込まれる。
目を閉じている分、ニールの行動が読めずに声をあげてしまった。
丁寧に指の一本一本とその間をなぞられ、また下腹がうずき出す。
足の甲、足の裏は大きな手の平で擦られた。
肉刺がつぶれて固くなった手の平だが、石鹸の泡のおかげで滑りはいい。
細い足首からふくらはぎを撫で上げられ、リディアは息を吐いてむずむずした感覚を逃そうとする。
丸い膝をくるくると撫でられた後、とうとうニールの手は太股へと差し掛かった。
「んっ」
必要以上にゆっくりと、ニールの手が太股の内側を這う。
目を閉じている分、他の感覚が鋭敏になるのか、胸を揉まれた時よりも大きな快感が沸き上がった。
いやらしい手つきで太股を撫で回され、リディアは身をよじった。
「やっ、そんな所ばかり、止めなさい!」
「嫌ですよ。それに、姫様も気持ちいいんでしょう?」
「良くなんか!」
リディアが虚勢を張り否定すると、ニールの手が脚の付け根まですすっと動いた。
にちゃ。
「!?」
そこを指で広げられ、リディアは固まった。
「んあっ」
ぬぷりと、ニールの中指と人差し指で蜜口を撫でられ、堪らず声を上げてしまう。
「ほら、目を開けてください。姫様」
初めての刺激に頭が働かないリディアは、言われるがまま目を開く。
ニールが蜜口を撫でた指を差し出し、にちゃっと擦り合わせた。
「ほら、これ石鹸の泡やお湯じゃないんですよ。姫様の中から溢れたものです」
「そんなもの見せないで」
「そんなものだなんて。姫様の身体が俺を受け入れる準備をしている証拠じゃないですか」
己を翻弄する手が離れて一時的に落ち着いたリディアが、ニールをにらみつける。
しかし、身体中をほてらせたリディアには、常の迫力に欠けていた。
釣り上げられた目も、歪められた口元も、雄を煽る要素にしか見えない。
ほんのりと朱に染まった白い肌は、むしゃぶりつきたくなる程だった。
ニールはごくりと唾を呑み込み、上気した顔に獣のような笑みを浮かべる。
「もっと溢れさせて、ほぐして差し上げますね」
左腕でリディアを抱えるように押さえつけたニールの右手が、再びリディアの脚の付け根へと伸ばされる。
「やっ」
リディアは先程の刺激を思いだし、反射的にぎゅっと太股を閉じた。
むっちりとした太股に手を挟まれたニールは、はぁっと熱い息を吐いて、宥めるようにリディアの背中を撫でる。
「姫様、脚の力を抜いてください。よくほぐしておかないと痛いのは姫様なんですよ」
「し、知らないわ。痛かったらお前が下手なせいよ」
この期に及んで悪態をつくリディアに、
「このお姫様はホントにもう」
と、ニールは小さくつぶやき、頭をかきむしる。
自身の雄の暴走を収めるように数度深呼吸した後、胡散臭い程にこやかな笑みを浮かべて言った。
「じゃあ、強制的に力抜かせて差し上げますね」
「きゃっ」
ぐいっと左手であごを掴み顔を上げさせたニールは、リディアの口腔内を自身の舌で容赦なく犯す。
「やっ、ニー、んふっ、くるし」
「ん、姫様、息継ぎは、鼻で、するんですよ」
そう言いながら、ニールは左手で胸をやわやわと揉み、気まぐれのように蕾を擦った。
「あぁっ」
右手ではいやらしく指を動かしながら、太股を撫ぜる。
「ふぁ」
口を犯され、胸を弄られ、太股をいいようにされて、リディアは段々と身体に力を入れることが出来なくなった。
リディアの目がとろんとし始めたのを見てとったニールは、唇を合わせたまま両手でゆっくりとリディアの膝を開かせる。
リディアはそれに抵抗出来なかった。
力が抜けたリディアの身体を支えつつ、ニールは再び脚の付け根へ指を這わせる。
「ひゃん」
リディアの口から嬌声が漏れた。
それに気をよくしたニールが、蜜口の周りをぐるりと撫でる。
指にたっぷりととろとろした蜜液をたくわえると、ニールはそっと羽根で撫ぜるように花芽に触れた。
途端、リディアの身体が小さく震える。
「気持ちいいですか? 姫様」
リディアはいやらしい声が自身の口から漏れるのが嫌で、口を手で押さえながら、いやいやと首を横に振った。
「はぁっ、強情な姫様ですね」
興奮した息を吐いたニールが、親指でくるくると花芽を弄ぶ。
「ん、ふっ」
リディアはぎゅっと目をつぶり、過ぎた快感を逃そうとする。
ニールはそんなリディアを追いつめるように、緩急をつけて花芽を擦り、時折蜜口に指を遊ばせた。
ぬちゃぬちゃと、淫らな水音が湯殿に響く。
「そろそろいいかな」
「あぁっ」
ニールが節くれ立った中指をリディアの蜜壷へと差し入れた。
突然の異物感に、リディアが目を見開く。
「やっ、抜いて! 抜きなさい!」
「姫様、落ち着いて。大丈夫ですよ」
ちゅっちゅっとリディアの顔中に口付けを落としながら、ニールはゆっくりと指を動かす。
同時に親指の腹で、花芽を丁寧に撫で回した。
「あっ、あっ」
得体の知れない感覚がこみ上げてきて、リディアの深い青の瞳に涙が浮かぶ。
「はぁっ」
さぐるようにリディアの蜜壷の中で指を動かしていたニールは、一際反応のよい部分を見つけた。
そこをくにくにと弄りながら、にぃっと笑う。
「姫様、一回、イっておきましょうね」
ぺろりとリディアの目の端の涙を舐めとり、左手できゅっと胸の蕾を摘みつつ、とろとろと蜜をこぼす下の口の中を擦り上げる。
「ああんっ」
頭の中が真っ白になったリディアは、びくんと大きく身体を震わせ、ぐったりとニールへ寄りかかった。
それはリディア・ブライトウェルであった前世でも、リディア=グレイスとなった今世でもそうだ。
それでも何の知識もないというわけではない。
王侯貴族の娘の役割の一つは、各家を継ぐ次代を産むことだ。
純粋培養で育てたまま輿入れした場合、いざ閨に入った時に相手の男の行動に戸惑って暴れたり悲観したりする可能性がある。
なので年頃になった娘たちは、母親や年嵩の侍女などから閨房で何が行われるか、男がどう振る舞い、女はどう振る舞うべきかを学ぶのだ。
多くの場合、手管を仕込むことはせず、男の言う通りに従いなさい、と教わる。
リディアもそう教わった。
ニールが何をしようとしているかは、分かっているつもりだ。
だが、分かっていることと、受け入れられることは別だった。
平民の男に体を許す。
それはリディアの使命だとしても、屈辱に他ならなかった。
これは作業だ。
ニールがリディアの中に入り、子種を吐き出す。
それだけの作業だと、必死に思い込もうとする。
そんなリディアを嘲笑うように、ニールの動きは緩慢だった。
ゆっくりとリディアの細い首筋に舌を這わせ、服をくつろげてさらされた白い胸元をちゅうっと吸い、赤い花を散らす。
絡めとった腕をとり、華奢な指を順番に口に含み、指の間もぺろぺろと丹念に舐めた。
手首を軽く吸い、手首から肘までの内側を一気に舐め上げる。
「っ!」
緩急をつけたニールの舌の動きに、リディアは声を上げそうになり歯を食いしばる。
ニールはくくっと喉の奥で笑い、リディアの額に軽い口付けを落とした。
「声を出してくださって、全然まったく構わないんですよ、姫様。というか、出してください」
「お前を喜ばせるようなことはしないわ」
リディアがきっぱりと拒否すると、ニールは濃い茶色の目を細めた。
「では、鳴かせられるように頑張りますね」
ニールはリディアの体をうつ伏せにして、ドレスの上からその背に指を這わした。
「女性の服ってややこしいですよね。これって一人で着れるんですか?」
「……着れないわね」
毎回二人がかりで着せられるドレスは、ボタンがたくさんあったり編み上げ紐を背中に通して締め上げたりする必要がある。
元々、使用人をたくさん抱える上流階級用に作られたものだ。
一人で着られるようには出来ていない。
「まぁ、ややっこしいのも脱がす楽しみがあっていいですね」
ニールがそんなことを言いながら、しゅるしゅると背中の紐を解いていく。
リディアは柔らかな枕に胸を圧迫されながら、顔をしかめた。
「変態」
「男は大抵、変態なもんです」
「お前はその中でも特別に変態でしょう」
背中の紐を緩め終えたニールは、リディアを抱き起こして朗らかな笑みを浮かべた。
「否定はしませんよ。でもここまで偏狂的に愛でたいと思うのは、姫様だけですけどね」
「ふん。よく言うわ」
「鼻で笑うなんてひどい姫様ですね」
ニールが抱き起こしたリディアの背中側に回り、緩めた服の衿をずり下ろした。
剥き出しになった肩が艶めかしい。
ニールはうなじから肩にかけて、丁寧にねちっこく口付けを落とし、舌を這わしていく。
リディアはなるべく反応すまいと体を固くするが、肩に軽く歯を立てられた時はびくっと震えてしまった。
「痛かったですか?」
歯を立てた所をぺろぺろと舐めて、ニールが尋ねてきた。
「別になんともないわ」
虚勢を張るリディアは、後ろから抱き締めてくるニールの顔を見ないまままくし立てる。
「それより、脱がすなら脱がすでさっさとしてちょうだい。何なのさっきから中途半端な所で止めて」
「……姫様。もう少し情緒ってもんを考えてください」
「わたくしが何故、お前におもねらなくてはならないの」
リディアが小馬鹿にするように言うと、ニールはぎゅっと抱き締める腕に力を込め、リディアの肩にぐりぐりと顔を押しつけた。
熱いニールの息が首筋にかかってくすぐったい。
「はぁ。もう姫様、俺を煽らないでください」
「……今のわたくしの言葉のどこに、お前を煽る要素があったというのかしら」
リディアは呆れた気持ちを隠さず、大きなため息を吐いた。
「俺が気が強くて人を見下している姫様が好きだって分かっていておっしゃっているんですよね。本当にひどい姫様だ。でも、そういうひどい所がものすんごくそそられます」
「…………」
また戯けたことを! と罵りたかったが、罵れば罵る程この変態を喜ばすだけだとリディアは口をつぐんだ。
本当に、こんな変態に目を付けられてしまった自分が悲しくてならない。
遠い目をするリディアにお構いなく、ニールはちゅっと彼女のつむじに唇を落とした。
「あ、姫様のご質問にお答えしてませんでしたね。完全に脱がさないのは、我慢しているからです」
「我慢?」
それこそこの男には相応しい言葉ではないと、リディアが聞き返す。
「そうです。用意が整うのを待っているんですけど……」
と、ニールが言った時、コンコンと部屋の扉が叩かれた。
「あぁ、ちょうど用意が出来たみたいですね。行きましょう」
「え?」
リディアが疑問を口にする暇もなく、ニールはリディアの服を剥ぎとった。
「ちょっと! ニール!」
そして、下着姿になったリディアを軽々と抱き上げ、廊下につながるものとは別の扉へ向かって行く。
「どこへ行くの!?」
「湯殿です」
その答えに、リディアは目を瞬かせた。
ニールはそんなリディアの目元に唇を寄せて、にっこりと微笑んだ。
「着替えの時に多少体は拭かれたでしょうけど、長旅ではゆっくり湯に浸かる機会はなかったでしょう。湯は体も心も和らげますから」
お前にしては気が利くではないの、と褒めかけて、リディアは気付いた。
その可能性に顔をひきつらせて、恐る恐る尋ねる。
「……わたくし一人、もしくは侍女が付くのよね?」
「まさか。明日の昼までは、俺が姫様を独り占めするんですから」
丁寧に隅から隅まで洗って差し上げますね、と満面の笑みを浮かべるニールが、リディアには悪魔のように見えた。
脱衣所で抱え上げていたリディアを下ろしたニールは、リディアに抵抗する暇を与えず、さっさと下着を剥ぎ取った。
「なっ」
一糸まとわぬ己の姿に驚いたリディアは、その白い肌を朱に染め、自身を腕にかき抱いてしゃがみ込む。
「湯くらい、ゆっくり浸からせなさい! 侍女を呼んで! お前は出て行って!」
「嫌です」
そっけない返答が、衣擦れの音と共に頭上から降ってくる。
「姫様を好きに出来ると思ったからこそ、辺境伯みたいな面倒くさい爵位を受けて、面倒くさい領主の仕事に励んできたんですよ。これからは姫様の湯浴みを手伝うのは俺の特権です」
「冗談ではないわ! 戯けたことを言うのは止めなさ、っ!?」
交差させた腕で胸を隠したまま、リディアは顔を上げニールをにらもうとして、すぐに下を向いた。
艶やかなブルネットの髪の隙間から覗く耳が真っ赤だった。
下履きを脱ぎ終えたニールが、くすくす笑いながらリディアの側に片膝を着き、丸まった背中に浮き出た背骨をすすっと手の平でなぞる。
「あぁ。初な姫様もお可愛らしい」
「痴れ者が! お前まで服を脱ぐなんて!」
「俺も一緒に湯に入るんですから、脱がないわけがないじゃないですか」
顔を上げた一瞬で焼き付いた下履き姿のニールが脳裏に浮かび、リディアは顔に熱が集まっていることを自覚した。
ニールはその平凡な顔立ちに似合わず、均整のとれた身体をしていた。
無駄のないしなやかな筋肉に覆われたそれは、王城に飾られた若い男の裸体を象った彫刻より、血が通っている分艶めかしく見えた。
そう思ったこと自体が悔しくて、リディアは顔を伏せたまま声を荒げる。
「ニールのくせに生意気な!」
「姫様がどういう思考の末にその言葉が出てきたのかを考えると、たぎりますね」
見透かされたような言葉に、リディアの機嫌が更に降下する。
張り手を食らわして部屋に戻ろうと手を振り上げたところを捕獲され、また抱き上げられた。
「!?」
お互いに裸をさらしている状態で抱き上げられると、ニールの体温を直に感じられて、リディアは身体を固くした。
肌から伝わる自分とは違う堅い身体は、ニールが男であることを意識せざるを得なくなる。
無性に恥ずかしくなったリディアは声を荒げた。
「下ろしなさい!」
「仰せのままに」
慇懃な言葉と共に、リディアは湯気の漂う湯殿の洗い場に置かれた簡易椅子に下ろされた。
「お前は出て行きなさい」
「まず化粧を落としましょうか?」
リディアの言葉を聞き流し、ニールは脱衣所から新しい糠袋をとって来る。
命令を無視されたリディアは不機嫌な口調で言った。
「お前に素顔をさらせというの」
「湯に浸かると熱と汗でどろどろになって気持ち悪いから、先に化粧を落とすって聞きましたよ」
「随分とあけすけな女と付き合っていたのね」
リディアの嫌みに、ニールは嬉しそうに答えた。
「あ、嫉妬ですか? 心配しないでくださいね。姫様のお世話をする為に、こちらに元々居た侍女たちに手順を聞いただけですから」
「都合のよい解釈をしないでちょうだい」
ぴしゃりと否定して、リディアは大きく息を吐いた。
随分とくだらないやりとりで気力を消耗している気がする。
恥ずかしがっていることが、段々馬鹿らしくなってきた。
リディアは元々、他人に世話をされていることに慣れている。
相手はもちろん女性だが、裸身をさらすことも洗われることにも抵抗はない。
もうニールも侍女と同じと思ったらいいだろう。
どうせ抵抗したところで、ニールの好きにされるのだ。
慌てたり恥じらったりして、ニールを喜ばせることはない。
リディアはもう一度、わざとらしくため息を吐いた。
「姫様?」
「好きになさい」
「はい! そうさせてもらいます!」
許可を得たニールが、嬉々として椅子に座るリディアの前にひざまずいた。
するとリディアの視界に、臍に着くまで反り返ったモノが入る。
それが何であるかは、知識として知っていた。
(実物を見るのは初めてだけれど、随分と醜悪な見た目をしているのね)
わずかに嫌悪をにじませた冷たい目で、リディアがそれを見下ろす。
すると、顔を上気させたニールがぶるりと身体を震わせた。
「あぁっ、姫様! 反則です!」
ぶしゃっと、赤黒いそれから白濁した液体が飛び出し、ニールの腹から下を濡らす。
飛び散った精液がリディアの爪先にもかかり、その青臭い臭いも合いまって、リディアは思い切り顔をしかめた。
「……ニール」
「だって! 姫様がいけないんですよ! 俺の上半身を見た時はあんなに恥じらっていらしたのに、俺のモノを見た時は冷静に蔑んだ目をするなんて! イってしまうに決まってるじゃないですか! 姫様の中に出すんだって溜めてたのに!」
悔しげにわめきながら、四つん這いになって床を拳で叩くニール。
それを見たリディアは、呆れ顔を隠さずに命じる。
「馬鹿なことを言っていないで、さっさと後始末なさい。臭いわ」
「ぐうっ、姫様が冷たい。でもやっぱりそこがいい」
情けなく背中を丸めたまま、ニールが桶に湯を汲んできてリディアの足をゆすぎ、自身の身体や床にかかった精液を洗い流す。
新たな糠袋をとってきてリディアの化粧をさっぱりと落としたところで、ニールはやっと気持ちを切り替えられたようだった。
「すみません。醜態をお見せしました」
「お前の気持ち悪さは今に始まったことではないわ」
どうでも良さそうに、リディアは言う。
「冷たい姫様は素敵ですけど、気分が醒めてしまわれたのは問題ですね。今度は俺が姫様をイかせますから」
何やら決意したらしいニールが、ぐっと拳を握った。
「じゃあ、失礼しますね」
リディアの背中に回ったニールが、大きな手で石鹸を泡立て、そっと首から肩にかけて撫ですさる。
「……布を使ってこすると教わらなかったの?」
「布越しじゃあ、姫様のすべすべのお肌を堪能出来ないじゃないですか」
いけしゃあしゃあと、ニールが言う。
(どこまで自分本位なの!)
リディアは罵り言葉が喉まで出かかったが、我慢して飲み込んだ。
またニールが興奮して、あの臭いものをかけられては堪らない。
それに丁寧な手つきで身体を擦られるのは、存外に気持ち良かった。
リディアの首から肩、両腕を洗い終えたニールは、たっぷりと泡をたくわえた手を前に回した。
「おぉ、やっぱり柔らかい」
たぷたぷとリディアの両胸を下からすくい上げたニールが感嘆の声をあげた。
「服の上からでも分かりましたけど、姫様って結構おっぱい大きいですよね」
「……そういうことを口に出すのは止めなさい。下品な」
「えー。こういうことを口に出すから興奮するんじゃないですか」
下乳から脇にかけてぬるりと撫で上げ、ニールが小さく笑う。
悪寒とは違うぞわぞわしたものを感じたリディアは、それを誤魔化すように「しなくて良いわ」と、吐き捨てるように言った。
リディアの変化に目敏いニールが、目を細めて尋ねてくる。
「姫様、気持ちいいですか?」
「良くない」
「じゃあ、もっと頑張りますね」
そう言って、ニールはやわやわとリディアの豊かな胸を揉み始めた。
揉まれること自体がそう気持ち良いわけではないが、己の胸がニールの無骨な手で形を変えているのを見せつけられると、何か変な感じがしてくる。
たぷたぷ、ふにふに、としばらく胸を弄られている内に、胸の中心にある赤い蕾がつんっと立ち上がり、その存在を主張し出した。
「んっ」
すかさず蕾を親指の腹で擦られ、リディアは思わず色めいた声をもらしてしまう。
「ここ、気持ちいいですか?」
熱のこもった声を耳元で囁かれ、リディアは首を横に振った。
「へぇ? そうですか?」
固くなったそこを、親指と人差し指で摘まれる。
「ふぁっ」
くにゅくにゅと親指と人差し指に挟まれたまま擦られると、下腹の奥にじんわりとした熱が生まれた。
それが話に聞く、感じている証拠だとは認めたくなくて、リディアは息を吐いてその感覚から逃れようとする。
「我慢は身体によくありませんよ、姫様」
「やっ」
きゅっと強めに蕾を摘まれ、痛いのか気持ちいいのか分からない感覚に、リディアは身を震わせた。
「姫様は感じやすいんですね」
ニールはそう言って、ちゅっちゅとリディアの耳裏に唇を落とした。
「ひ、人を淫乱みたいに言わないでちょうだい」
息を切らせつつ、リディアは顎を上げてニールをにらみ上げる。
その額にも音を立てて口付けたニールが、ふわりと笑った。
「別に姫様を貶めようってわけじゃないです。俺の手で感じてくれて、嬉しいってことですよ」
あどけなく見えるその笑みに、リディアは毒気を抜かれてしまった。
続くはずだった罵詈雑言が、喉の奥に引っ込む。
それがまた悔しくて、リディアは顔をそむけた。
「いつまでも揉んでいたいほど姫様のおっぱいは気持ちいいですけど、そろそろ別のところも洗いますね」
「んあっ」
最後に蕾を指で弾いて、ニールの手がリディアの胸から離れた。
また石鹸を泡立てたニールが、片方の手で脇腹を撫で上げ、また片方の手で下腹を円を描くように撫ですさる。
先程、散々胸を弄ばれていた影響か、バラバラにリディアの肌の上を這いずり回る手の感触が嫌に敏感に感じられた。
上半身を洗い終えたニールが、前に回ってひざまずいた。
股間のモノはすっかり元気を取り戻し、立ち上がっている。
リディアはそれを先程までの行為でほんのりと頬を染めつつ、呆れ顔で見下ろした。
「ちょっ、姫様! だからそんな目で見ないでください! 二発目も無駄打ちしたら、俺、立ち直れないです!」
「わたくしの知ったことではないわ」
「目! 目ぇ閉じててください! 俺がいいって言うまで絶対に開かないで!」
きゃんきゃんと吠えるニールが煩わしく、リディアは顔をしかめて目をつむった。
言う通りにしなければ、更にうるさいだろう。
はぁっと、重たいため息を吐くと、
「ため息を吐きたいのは俺の方ですよ」
と、更に重たいため息が聞こえた。
「姫様の裸を見て触って、俺、大興奮中なんですよ。今すぐにでも姫様に突っ込みたいのを我慢してご奉仕中なのに……」
「あっ」
ぬるっと、足の指の間にニールの指が差し込まれる。
目を閉じている分、ニールの行動が読めずに声をあげてしまった。
丁寧に指の一本一本とその間をなぞられ、また下腹がうずき出す。
足の甲、足の裏は大きな手の平で擦られた。
肉刺がつぶれて固くなった手の平だが、石鹸の泡のおかげで滑りはいい。
細い足首からふくらはぎを撫で上げられ、リディアは息を吐いてむずむずした感覚を逃そうとする。
丸い膝をくるくると撫でられた後、とうとうニールの手は太股へと差し掛かった。
「んっ」
必要以上にゆっくりと、ニールの手が太股の内側を這う。
目を閉じている分、他の感覚が鋭敏になるのか、胸を揉まれた時よりも大きな快感が沸き上がった。
いやらしい手つきで太股を撫で回され、リディアは身をよじった。
「やっ、そんな所ばかり、止めなさい!」
「嫌ですよ。それに、姫様も気持ちいいんでしょう?」
「良くなんか!」
リディアが虚勢を張り否定すると、ニールの手が脚の付け根まですすっと動いた。
にちゃ。
「!?」
そこを指で広げられ、リディアは固まった。
「んあっ」
ぬぷりと、ニールの中指と人差し指で蜜口を撫でられ、堪らず声を上げてしまう。
「ほら、目を開けてください。姫様」
初めての刺激に頭が働かないリディアは、言われるがまま目を開く。
ニールが蜜口を撫でた指を差し出し、にちゃっと擦り合わせた。
「ほら、これ石鹸の泡やお湯じゃないんですよ。姫様の中から溢れたものです」
「そんなもの見せないで」
「そんなものだなんて。姫様の身体が俺を受け入れる準備をしている証拠じゃないですか」
己を翻弄する手が離れて一時的に落ち着いたリディアが、ニールをにらみつける。
しかし、身体中をほてらせたリディアには、常の迫力に欠けていた。
釣り上げられた目も、歪められた口元も、雄を煽る要素にしか見えない。
ほんのりと朱に染まった白い肌は、むしゃぶりつきたくなる程だった。
ニールはごくりと唾を呑み込み、上気した顔に獣のような笑みを浮かべる。
「もっと溢れさせて、ほぐして差し上げますね」
左腕でリディアを抱えるように押さえつけたニールの右手が、再びリディアの脚の付け根へと伸ばされる。
「やっ」
リディアは先程の刺激を思いだし、反射的にぎゅっと太股を閉じた。
むっちりとした太股に手を挟まれたニールは、はぁっと熱い息を吐いて、宥めるようにリディアの背中を撫でる。
「姫様、脚の力を抜いてください。よくほぐしておかないと痛いのは姫様なんですよ」
「し、知らないわ。痛かったらお前が下手なせいよ」
この期に及んで悪態をつくリディアに、
「このお姫様はホントにもう」
と、ニールは小さくつぶやき、頭をかきむしる。
自身の雄の暴走を収めるように数度深呼吸した後、胡散臭い程にこやかな笑みを浮かべて言った。
「じゃあ、強制的に力抜かせて差し上げますね」
「きゃっ」
ぐいっと左手であごを掴み顔を上げさせたニールは、リディアの口腔内を自身の舌で容赦なく犯す。
「やっ、ニー、んふっ、くるし」
「ん、姫様、息継ぎは、鼻で、するんですよ」
そう言いながら、ニールは左手で胸をやわやわと揉み、気まぐれのように蕾を擦った。
「あぁっ」
右手ではいやらしく指を動かしながら、太股を撫ぜる。
「ふぁ」
口を犯され、胸を弄られ、太股をいいようにされて、リディアは段々と身体に力を入れることが出来なくなった。
リディアの目がとろんとし始めたのを見てとったニールは、唇を合わせたまま両手でゆっくりとリディアの膝を開かせる。
リディアはそれに抵抗出来なかった。
力が抜けたリディアの身体を支えつつ、ニールは再び脚の付け根へ指を這わせる。
「ひゃん」
リディアの口から嬌声が漏れた。
それに気をよくしたニールが、蜜口の周りをぐるりと撫でる。
指にたっぷりととろとろした蜜液をたくわえると、ニールはそっと羽根で撫ぜるように花芽に触れた。
途端、リディアの身体が小さく震える。
「気持ちいいですか? 姫様」
リディアはいやらしい声が自身の口から漏れるのが嫌で、口を手で押さえながら、いやいやと首を横に振った。
「はぁっ、強情な姫様ですね」
興奮した息を吐いたニールが、親指でくるくると花芽を弄ぶ。
「ん、ふっ」
リディアはぎゅっと目をつぶり、過ぎた快感を逃そうとする。
ニールはそんなリディアを追いつめるように、緩急をつけて花芽を擦り、時折蜜口に指を遊ばせた。
ぬちゃぬちゃと、淫らな水音が湯殿に響く。
「そろそろいいかな」
「あぁっ」
ニールが節くれ立った中指をリディアの蜜壷へと差し入れた。
突然の異物感に、リディアが目を見開く。
「やっ、抜いて! 抜きなさい!」
「姫様、落ち着いて。大丈夫ですよ」
ちゅっちゅっとリディアの顔中に口付けを落としながら、ニールはゆっくりと指を動かす。
同時に親指の腹で、花芽を丁寧に撫で回した。
「あっ、あっ」
得体の知れない感覚がこみ上げてきて、リディアの深い青の瞳に涙が浮かぶ。
「はぁっ」
さぐるようにリディアの蜜壷の中で指を動かしていたニールは、一際反応のよい部分を見つけた。
そこをくにくにと弄りながら、にぃっと笑う。
「姫様、一回、イっておきましょうね」
ぺろりとリディアの目の端の涙を舐めとり、左手できゅっと胸の蕾を摘みつつ、とろとろと蜜をこぼす下の口の中を擦り上げる。
「ああんっ」
頭の中が真っ白になったリディアは、びくんと大きく身体を震わせ、ぐったりとニールへ寄りかかった。
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