国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい

文字の大きさ
上 下
146 / 157

第143話 親書

しおりを挟む
 キッド達が紺の都に戻ってから、すでにふた月が経過していた。

 その間に、青の王国ではセオドルの即位式が華々しく行われ、彼は正式に王としての地位を確立した。セオドルは自身の信頼する者達で政治と軍部の中枢を固め、堅牢な支配体制を築き上げていた。しかし、彼が新たに獲得した赤の王国の領地――青赤領の整備にはまだ時間を要しており、他国に手を出すだけの余裕はなかった。
 そのため、青の王国と白の聖王国との間の争いは、一時的な休戦状態にあり、紺、青、白、緑の4国は緊張感を漂わせつつも、表面的には静けさを保っていた。

 そんな情勢の中、キッド達は白の聖王国のレリアナと互いに使者を送り合い、両国の今後の関係について協議を重ねていた。
 かつて紺の王国は、白の聖王国に対して、国力でも積み重ねた歴史でも劣っていたが、紺赤領を得たことで、国力の面ではすでに白の聖王国に並ぶまでに成長していた。
 現在、4国の中で最大の勢力を誇るのは、赤の王国領土の半分を手中に収めた青の王国だが、紺の王国と白の聖王国が手を組めば、その青の王国を凌駕することも可能である。そのため、かつて白の聖王国内には紺の王国を下に見て、同盟に否定的な者達がいたが、今ではそのような考えを持つ者はほとんどいなくなっていた。

「白の聖王国との同盟締結も、ここまで来れば時間の問題ですね」

 軍師用の執務室には、キッドとルルーの二人だけがいた。ミュウとルイセは、騎士や魔導士達の訓練に出ている。キッドは白の聖王国から届いた親書に目を通しながら、安堵の表情を浮かべて呟いた。親書には、同盟締結後の協力条件が詳細に記されており、これは先にキッドが提示した内容に対する修正案だった。まだ詰めが必要な部分は多いが、それはすでに両国が同盟締結に向けて具体的な段階に進んでいる証拠でもあった。

「それもこれも、キッドさんのおかげです!」

 向かいに座るルルーが輝く瞳でキッドを見つめたが、彼はゆっくりと首を横に振る。

「いえ、ルルー王女がレリアナ様と良好な関係を築かれていたおかげですよ」

「確かにそれもあるでしょうが、レリアナ様はずいぶんとキッドさんのことを信頼されているみたいですよ。そのキッドさんが中心になって動いてくれているのが、やっぱり大きいんですって」

「そうなんですか? 確かにレリアナ様とは共に戦いもしましたが……」

 キッドはかつて、青の王国の侵攻に対抗するため、ルルーの願いを受け、ルイセと共に白の聖王国を支援し、レリアナと共に戦った。とはいえ、その時の役割はほぼ別動隊としての動きであり、レリアナの信用を勝ち得るほどの働きをしたとは思っていなかった。

「レリアナ様からの手紙には、キッドさんのことがたびたび出てきますが、キッドさんに対する感謝の気持ちがひしひしと伝わってきます。私としても、それはとても誇らしいです」

 ルルーとレリアナは、公式の親書とは別に、個人的な手紙のやりとりもしていた。その内容について、キッドは一度も見たことがなく、国に関する案件でないのならと、こまれでたいして気にしていなかった。しかし、自分のことが書かれていると知っては、さすがに少しは気になってくる。

「一体どんなことが書かれているのやら……。ルルー王女、一度俺にも二人がやりとりしている手紙を見せてもらえませんか?」

「ダ、ダメです! あれは絶対に見せられません! 特にキッドさんには絶対ダメです!」

 冗談めいたキッドの言葉に、ルルーは予想外に真剣で慌てた様子を見せた。顔を赤らめて首と手を大きく振り、必死に拒絶している。

「その反応……怪しいですね。まさか、俺をネタにして二人で笑ってるんじゃないでしょうね?」

「違いますよ! むしろ逆です!」

「逆? 逆って何ですか?」

「――――!! い、いえ、逆じゃないです!」

 ルルーは裏返った声で、今しがた言ったばかりの言葉を否定した。その姿は、どこか年相応の少女のようであり、キッドはその様子にどこか嬉しさを感じた。

「いや、今ルルー王女が自分で逆って言ったじゃないですか」

「言ってないですっ!」

「いやいや、それは無理がありますって。ちゃんとこの耳で聞きましたよ?」

「言ってないって言ったら言ってないんです! それより、同盟の話です! 同盟の調印式は白の聖王国でお願いしますね! 今度は私が聖王国に行く番なんですから!」

 レリアナは既に紺の王国を訪れており、キッドも白の聖王国へ行っている。まだ聖王国へ足を踏み入れたことのないルルーは、白の聖王国での調印式を熱望していた。

「さすがにまだ調印式の話には至っていませんが、こちらから出向くのであれば、相手も断ることはないでしょう。国の格としては白の聖王国の方が上。こちらが窺うのが妥当ですし、その要望は叶えられると思いますよ」

「本当ですか! よろしくお願いしますね」

 ルルーは自分の要望が叶えられそうなこと、そしてなによりさっきの手紙の話がうやむやになったことに密かに安堵した。

 と、そこへ、執務室の扉がノックされた。

「入って構わないぞ」

「失礼します」

 キッドの許可を得た文官が、数通の封筒を手に執務室に入ってきた。

「用件はその封筒か?」

「はい。先ほど、緑の公国の使者が参りまして、ルルー様、キッド様、ミュウ様、それぞれ宛の親書をお預かりしました」

「使者はまだ残っているのか?」

 キッドは、緑の公国の使者なら知り合いかもしれないと考え、挨拶をするつもりだったが、文官は首を横に振った。

「いえ、この親書を渡すようにとの指示だけで、すぐに公国へ戻られました」

「そうか……。この時期に俺やミュウ、そしてルルー王女宛の手紙とは、一体どういうつもりなのか……。まぁ、いい。俺の分と、あとミュウの分も預かろう。ミュウには俺から渡しておく」

「承知しました」

 文官はルルーに一通、そしてキッドに、キッド自身宛とミュウ宛の二通の親書を手渡し、執務室を後にした。

「赤の王国に勝ったことへの祝いのお手紙でしょうか?」

「それにしては、時期が遅すぎますがね……。ジャンには、近いうちに聖王国との同盟の話をしようとは思っていましたが、もしかしたら、それに気づいてのことかもしれませんね」

 二人は多少疑問には思いつつも、軽い気持ちで封を開き、自分宛の親書に目を通した。

「――――!?」

 親書を読み進め、キッドは驚愕の表情を浮かべ、声を失う。
 そこには、キッドに対し、紺の王国への出向を解き、緑の公国に帰国せよとの命令が記されていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...