国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい

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第125話 青の王国の後継者

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 赤の王国軍と紺の王国軍が出陣した情報は周辺国も入手していた。
 赤の王国と不戦協定を結んだ青の王国も当然その情報を得ている。
 その青の王国の王城にて、第一王子セオドルは、父であるライゼル王の自室に呼ばれていた。

「失礼します」

 セオドルが王の部屋に入ると、部屋には一人ライゼルがソファにかけ、険しい表情を浮かべていた。

「……来たか」

「父上、お話とは赤の王国との不戦協定に反対していた件でしょうか? それでしたらもう納得はしておりますが?」

「そうではない……。まぁ、座れ」

 ライゼルは目で対面にあるソファを示したが、セオドルは指示通り素直には座らず、部屋の奥まで進んでいった。

「この部屋の空気が少しよどんでいるような気がします。こういう時は換気をした方がよいかと」

 セオドルはバルコニーに繋がる大窓の鍵を解除して開け放った。夜の空気が部屋の入ってくる。

「ここから見る王都はよいものですね。毎日この景色を見られている父上を羨ましく思います」

「お前の部屋からも見られるであろう」

「王の部屋から見るからこそ価値があるのですよ」

「…………」

 王位を狙っているとも取れる発言に、ライゼルは溜息をつく。

「……いいから座れ」

「わかりました」

 今度は素直に父王の言葉に従い、セオドルはライゼルの対面のソファに腰を下ろした。

「それで、お話とは?」

「……王位の件だ」

 笑顔だったセオドルの顔に一瞬緊張が走る。だが、その顔はすぐに元の笑顔へと戻った。

「儂は退位し、レオンハルトに次の王位を譲ろうと思う。……セオドル、お前はセリカに似て頭が切れる。その頭脳でレオンハルトを支えてやってくれんか?」

「…………」

 二人の間に長い沈黙が流れる。
 セリカとは前王妃であるセオドルの母の名だった。セオドルと同じ金の髪に白い肌の美しい才女だったと聞かされている。

「父上はまだ退位されるほどの年ではありません。このタイミングで退位を決意された理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「このまま儂に万一のことがあれば、お前とレオンハルトのどちらを次の王にするかで国が割れる。そうなれば、そこを他国に突かれ、この国は終わる。赤の王国と不戦協定を結んで対白の聖王国に専念できるこのタイミングは、儂が退くタイミングとしては好都合だ」

 ライゼルの言うことはセオドルも懸念していたことだった。セオドルはそうならないため、ライゼル存命中の後継者指名は必要なことだとも考えていた。ただ一つセオドルの思いと一つ違っていたのは、次の王には自分こそが相応しいと考えていたことだった。

「ならばなぜ私ではなくレオンハルトなのでしょうか? レオンハルトよりも私の方が優秀であると父上には理解していただいると思っておりました。……義母上ははうえの影響ですか?」

「それがまったくないとは言わん。だが、それ以上に儂はお前が恐ろしい。この国の人間を不幸にする代償として世界統一するか、一地方のままであるが民の幸せを守るか、その二つを天秤にかけた際、儂やレオンハルトは悩みこそすれ最後には後者を選ぶだろう。しかし、お前は躊躇いなく前者を選ぶ」

「それは当然でしょう。一時的に民を不幸にしても、統一を果たせばその後数百年民に幸福を与えることができます。何を迷う必要がありますか?」

 再びライゼルは深い溜息をつく。

「そう割り切れてしまうのが恐ろしいのだ。……お前には民の顔が浮かばんのだろうな」

「浮かんでいますよ。浮かんだ上で犠牲にすることを厭わないだけです」

 ライゼルはまた深く深く溜息をついた。

「……国の半分はお前の領地とする。それで納得して、レオンハルトを支える側に回ってくれ」

 ライゼルは再び最初と同じ言葉をセオドルに向けた。ライゼルには話し合いのつもりはない。彼の中ではもう決めたことだった。
 今度はセオドルが深く溜息をつく。

「……残念です、父上。父上がもっと賢明であれば、私もこんなことをせずに済むものを」

 セオドルは物憂げに天井を見上げ、右手を軽く上げた。
 ライゼルはその行動の意図が読めず、セオドルに問いかけようとしたが、その前に胸に熱いものを感じた。ライゼルは何事かと思って自分の胸に目を落とし、そこから突き出た血濡れの剣と襲ってきた激しい痛みで、自分に身に何が起こったのか理解する。
 ソファの後ろから何ものかに剣を突き立てられたのだ。

「……馬鹿な!? ここは警備の厚い王の部屋だぞ!?」

 胸から絶望的な量の血が吹き出るのを見ながらライゼルは呻く。
 表には城の衛兵達がいる。外にはバルコニーがあるがここは城の上階、城の中に手引きをする者がいるか魔導士でもいなければ侵入は容易ではない。それに窓には格子があり割っても中には入れず、内側からしか開けられない堅牢な鍵もかかっている。侵入者などあり得ないはずだった。
 だが、ライゼルはすぐに思い出す。その窓をつい先ほど内側から開けた人間がいたことを。

「……セオドル、ここまでするのか……」

 ライゼルはソファにかけたままの姿勢で動かなくなる。その言葉がライゼルの最後の言葉となった。
 ライゼルのその姿を見て、セオドルをクイッと窓の外に向け、侵入者に合図をする。侵入者は敢えて痕跡を残しつつ、バルコニーから夜の闇に消えていった。魔導士ならば高さの問題を解決する方法はいくらでもあった。
 侵入者が逃げるだけの時間を待って、セオドルは扉の外に向かって叫ぶ。

「誰か! 誰か来てくれ! 父上が侵入者に刺された!」

 セオドルの声を聞いて、廊下にいた衛兵達が慌てて王の部屋へと駆け込んできた。
 セオドルは慌てた様子で、ライゼルの亡骸を指さす。
 衛兵の一人がライゼル王に駆け寄り、すぐに傷の具合を確認した。
 しばし後、その衛兵はセオドルに顔を向け、ゆっくりと首を横に振る。

「残念ですがライゼル王はすでに……」

 別の衛兵がライゼル王に致命傷を与えた剣の柄に刻まれた紋章に目を留めた。

「セオドル様、剣の柄に赤の王国の紋章が!」

 その剣はセオドルが侵入者に用意させたものだったが、彼は初めて知ったかのように驚いて見せる。

「赤の王国だと!? 不戦協定を結んでおきながら、なぜこのようなことを!? ……まさか、不戦協定自体が我々を油断させる罠だったというのか!?」

 自分でも芝居じみているかとセオドルは思ったが、衛兵達はセオドルの言葉を信じたようで、赤の王国に対する憎しみの言葉を漏らしてている。
 そのうち、窓やバルコニーの方を調べていた衛兵達がセオドルのもとへ近づいてきた。

「侵入者が逃げた痕跡がありました。しかし、付近に怪しい人影は見当たらず、魔法で逃走している可能性もあります。すぐに兵を総動員してでも犯人を追いますが、果たして捕らえられるかどうか……」

 ほかに犯人がいるのならセオドルの父殺しが疑われることはない。内心でニタリと笑いながら、セオドルは悲壮な顔を衛兵達に向ける。

「全身黒づくめで顔も隠していて、どんな奴だったか私も確認できないかった……すまない。しかし、父を手にかけた者はなんとしても捕えたい。こんなことになり混乱もあるだろうが、探し出してくれ」

「はい! 全力を尽くします!」

「それと、弟や義母はは上、宰相や大臣、騎士団長らを王の間に集めてくれ。皆に父の最期の言葉を伝えねばならん」

「最期の言葉ですか?」

「ああ。己の死を悟った父上は、私に向かって最期に言ったのだ、『セオドル、この国をすべてお前に託す』と。それを皆に伝え、私は父の意志を継がねばならない!」

「わ、わかりました、すぐに!」

 王の亡骸の対応と、部屋の調査に数人の衛兵を残し、ほかの衛兵はセオドルの指示に従うために急ぎ部屋から出ていった。
 セオドルが語ったライゼル最期の言葉は、この衛兵達によっても城中に拡散されるだろう。一度広まればもうその話は消しようがない。

「すまないが、後は任せたぞ」

 セオドルは数人の衛兵を王に部屋に残し、王の間へと向かった。
 その顔は悲壮感に満ちていたものの、心は王への道を一歩一歩踏みしめるようで高揚感に満ちていた。
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