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第118話 ルイセ&ミュウvs黒騎士&修羅
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応接室には、セオドル、ルルー、キッドの3人が入り、護衛の修羅と黒騎士は部屋の外の廊下に待機する。その二人を警戒するために、ミュウとルイセも廊下に残った。
4人は廊下の通路を挟んで、壁を背にして2対2で向き合う。ルイセは黒騎士の対面に立ち、わずかな変化も見逃さないよう黒騎士に集中する。
「黒騎士さんでしたっけ? 以前どこかでお会いしたことがありませんか?」
「…………」
黒騎士の反応をさぐるためのジャブとしてルイセは問うてみたが、黒騎士に反応はなかった。黒衣の鎧のせいで、表情の動きや体の微細な動きを探るのはルイセでもさすがに無理だった。ルイセは兜の奥の黒騎士の呼吸や、鎧の奥の鼓動に集中して耳を澄ます。
「すまんな、そいつは無口な奴なんだ」
沈黙する黒騎士に代わって答えたのは修羅だった。ルブルックの声ならばルイセも白の聖王国での戦いの際に耳にしている。その声を聞いた回数は多くはなかったが、ルブルックの声の記憶はルイセの中に残っている。
今聞こえた黒騎士の声に、ルイセは聞き覚えがなかった。もっとも、修羅の口もとには魔力の反応がある。魔法で口もとの空気を歪めて声を変えているのは明らかだった。
修羅が魔法を使えることはわかったが、声から正体を探るのは残念ながら不可能だった。
(わざわざ声色を変えるとはますます怪しいですが、逆に敢えてルブルックかもしれないと私達に思わせるためという可能性も捨てきれませんか……)
ルイセは視線を一瞬修羅へと向けたが、すぐに黒騎士へと戻す。
(やはり揺さぶりをかけるのなら黒騎士の方でしょうか)
「黒騎士さん、よかったら私と手合わせしていただけせんか? 同じ女性同士ですし、ぜひお相手願いたいのですが?」
「その人、女の人だったの!?」
ルイセの言葉に真っ先に反応したのはミュウだった。全身を鎧で覆った人間の性別を見抜くことができるのはルイセくらいのものだ。黒騎士の中身は男だと思い込んでいたミュウは、驚きの顔をルイセに向ける。
「おいおい、これでも俺達は青の王国の王子の護衛なんだぞ。あんまり適当なことを言ってからかうのはよしてくれないか」
修羅はたしなめるような口調でルイセに抗議の声を上げた。
だが、そう言われてもルイセには慌てた様子もない。
「――――? 適当なこととは何のことですか? 立ち居振る舞いや仕草、どう見ても女性のものでしたが?」
当たり前のことを言っただけなのになにがいけなかったのかわからない、そんな不思議そうな顔をルイセはしていた。
「……修羅、そいつは鎌をかけているわけではない。確信をもって口にしている。我々とは見えているものが違うのだろう」
初めて黒騎士が喋った。その声は中世的で、声による性別の判別は難しそうだった。
(声を変えていますが……サーラの声に似ていますね)
ルイセは疑いをますます濃くする。
(ならば、さらに揺さぶりをかけるとしましょうか)
「それで、どうですか? 一つお相手いただけますか?」
「……我々はここに戦いに来たわけではない」
黒騎士は身動き一つせず、にべもない。
「というわけだ、悪いなお嬢さん」
「……そうですか。残念です」
修羅にも念押しで拒否をされたが、もともとルイセも立ち合いの申し出を受け入れてもらえるとは思っていない。引き出したいのは黒騎士の反応だった。だが、勝負も申し出をしても、黒騎士の心を動かすことはできず、ルセイは自分の目論見が外れたことを自覚する。
(……何かもっとほかのアプローチが必要ですね)
「ねぇねぇ、ルイセ。その人達と知り合いなの?」
思案し始めたルイセの横からミュウが興味深そうに話しかけてきた。ルブルックともサーラとも面識のないミュウにとって、目の前の二人は今のところ怪しい護衛という認識でしかない。ルイセやキッドが持っている疑惑には気づいておらず、完全に興味本位によるものだった。
「……知っている人達に似ていましたが、私の勘違いだったかもしれません」
(ここでミュウさんに事情を説明すると、二人を警戒させて正体を探りづらくなります。すみませんがミュウさん、ここはおとなしくしておいてください)
「勘違いなの? それは残念ね。でも、黒騎士さんが女の人と聞いてちょっとびっくりしたけど、言われてみれば納得だよ」
「納得?」
「うん。二人の空気感が仲間というのとはちょっと違う感じだったからね。……もしかして、黒騎士さんと修羅さんって付き合ってたりします?」
ルイセと話していたミュウが、急に二人の方に話を振った。
二人に向けるミュウの目は、ルイセが二人に向ける目とは明らかに違い、どこかキラキラしていた。
(黒騎士の呼吸と心音が明らかに変化しました!)
いくら揺さぶりをかけても動じなかった黒騎士が初めて見せた動揺をルイセは見逃さなかった。
「悪いが俺達は仕事上のパートナーだ。互いに信頼し合っているが、それだけだ。下手な勘ぐりはやめてくれないか」
「でも、長く二人でいて、相手の頼れる姿を見ていると、最初はなんとも思ってなくても、自分でも知らないうちに惹かれたりするじゃないですか?」
修羅に否定されてもミュウは引き下がらない。まるで自分も経験したかのように情感たっぷりこめた言葉で追撃する。
(黒騎士の心臓がまた激しく震えましたよ!)
黒衣の鎧で身体を覆っているため黒騎士の外見上の変化はまるで見えない。しかし、ルイセは黒騎士の心の動揺を確実に捉えていた。
「それに、黒騎士さんって確実に修羅さんのことを意識してますよね? 異性を意識する感じで。最初男同士だと思ってたから不思議に思ってたけど、女の人って聞いて合点がいきました。女の子が男の子に恋焦がれる感じっていうんですか? 近くでも見てるからそういうのわかっちゃうんですよね」
得意げに語るミュウの言葉を受け、修羅は黒騎士の方へ顔を向ける。仮面の上からでもわかるくらい修羅の顔には驚きが浮かんでいた。
「……そうなのか?」
「…………」
黒騎士は何も答えず、鎧のせいでわかりにくいが震えているようにも見える。
(黒騎士さんの心臓の鼓動がすごいことに!)
3人の視線が黒騎士へと集中する。
驚き、ワクワク、疑念と3人の胸中は三者三様だったが、黒騎士の反応に注目するという点では一致していた。
「…………」
黒騎士は沈黙を貫いていたが、3人が依然として固唾をのんで見守り続けるため、こらえきれなくなったのかついに顔を隣の修羅の方へ向けた。
「……くだらないことを言っていると斬るぞ」
ドスの聞いた黒騎士の重い声に、口もとだけでわかるほどに修羅の顔が引きつる。
ミュウも黒騎士の声のトーンから、これ以上触れては自分の身にも危険が及ぶことを察知し、顔をそむけて素知らぬふりをした。
(ミュウさん、お手柄です。見事に黒騎士の動揺を誘っています! ……あ、でも、これで動揺させたところで、黒騎士ってわからないですよね……。困りました)
静かに怒る黒騎士、どうしていいかわからない修羅、気まずいミュウ、悩むルイセ、そんな4人により、応接室の前の廊下には重い沈黙が訪れたのだった。
4人は廊下の通路を挟んで、壁を背にして2対2で向き合う。ルイセは黒騎士の対面に立ち、わずかな変化も見逃さないよう黒騎士に集中する。
「黒騎士さんでしたっけ? 以前どこかでお会いしたことがありませんか?」
「…………」
黒騎士の反応をさぐるためのジャブとしてルイセは問うてみたが、黒騎士に反応はなかった。黒衣の鎧のせいで、表情の動きや体の微細な動きを探るのはルイセでもさすがに無理だった。ルイセは兜の奥の黒騎士の呼吸や、鎧の奥の鼓動に集中して耳を澄ます。
「すまんな、そいつは無口な奴なんだ」
沈黙する黒騎士に代わって答えたのは修羅だった。ルブルックの声ならばルイセも白の聖王国での戦いの際に耳にしている。その声を聞いた回数は多くはなかったが、ルブルックの声の記憶はルイセの中に残っている。
今聞こえた黒騎士の声に、ルイセは聞き覚えがなかった。もっとも、修羅の口もとには魔力の反応がある。魔法で口もとの空気を歪めて声を変えているのは明らかだった。
修羅が魔法を使えることはわかったが、声から正体を探るのは残念ながら不可能だった。
(わざわざ声色を変えるとはますます怪しいですが、逆に敢えてルブルックかもしれないと私達に思わせるためという可能性も捨てきれませんか……)
ルイセは視線を一瞬修羅へと向けたが、すぐに黒騎士へと戻す。
(やはり揺さぶりをかけるのなら黒騎士の方でしょうか)
「黒騎士さん、よかったら私と手合わせしていただけせんか? 同じ女性同士ですし、ぜひお相手願いたいのですが?」
「その人、女の人だったの!?」
ルイセの言葉に真っ先に反応したのはミュウだった。全身を鎧で覆った人間の性別を見抜くことができるのはルイセくらいのものだ。黒騎士の中身は男だと思い込んでいたミュウは、驚きの顔をルイセに向ける。
「おいおい、これでも俺達は青の王国の王子の護衛なんだぞ。あんまり適当なことを言ってからかうのはよしてくれないか」
修羅はたしなめるような口調でルイセに抗議の声を上げた。
だが、そう言われてもルイセには慌てた様子もない。
「――――? 適当なこととは何のことですか? 立ち居振る舞いや仕草、どう見ても女性のものでしたが?」
当たり前のことを言っただけなのになにがいけなかったのかわからない、そんな不思議そうな顔をルイセはしていた。
「……修羅、そいつは鎌をかけているわけではない。確信をもって口にしている。我々とは見えているものが違うのだろう」
初めて黒騎士が喋った。その声は中世的で、声による性別の判別は難しそうだった。
(声を変えていますが……サーラの声に似ていますね)
ルイセは疑いをますます濃くする。
(ならば、さらに揺さぶりをかけるとしましょうか)
「それで、どうですか? 一つお相手いただけますか?」
「……我々はここに戦いに来たわけではない」
黒騎士は身動き一つせず、にべもない。
「というわけだ、悪いなお嬢さん」
「……そうですか。残念です」
修羅にも念押しで拒否をされたが、もともとルイセも立ち合いの申し出を受け入れてもらえるとは思っていない。引き出したいのは黒騎士の反応だった。だが、勝負も申し出をしても、黒騎士の心を動かすことはできず、ルセイは自分の目論見が外れたことを自覚する。
(……何かもっとほかのアプローチが必要ですね)
「ねぇねぇ、ルイセ。その人達と知り合いなの?」
思案し始めたルイセの横からミュウが興味深そうに話しかけてきた。ルブルックともサーラとも面識のないミュウにとって、目の前の二人は今のところ怪しい護衛という認識でしかない。ルイセやキッドが持っている疑惑には気づいておらず、完全に興味本位によるものだった。
「……知っている人達に似ていましたが、私の勘違いだったかもしれません」
(ここでミュウさんに事情を説明すると、二人を警戒させて正体を探りづらくなります。すみませんがミュウさん、ここはおとなしくしておいてください)
「勘違いなの? それは残念ね。でも、黒騎士さんが女の人と聞いてちょっとびっくりしたけど、言われてみれば納得だよ」
「納得?」
「うん。二人の空気感が仲間というのとはちょっと違う感じだったからね。……もしかして、黒騎士さんと修羅さんって付き合ってたりします?」
ルイセと話していたミュウが、急に二人の方に話を振った。
二人に向けるミュウの目は、ルイセが二人に向ける目とは明らかに違い、どこかキラキラしていた。
(黒騎士の呼吸と心音が明らかに変化しました!)
いくら揺さぶりをかけても動じなかった黒騎士が初めて見せた動揺をルイセは見逃さなかった。
「悪いが俺達は仕事上のパートナーだ。互いに信頼し合っているが、それだけだ。下手な勘ぐりはやめてくれないか」
「でも、長く二人でいて、相手の頼れる姿を見ていると、最初はなんとも思ってなくても、自分でも知らないうちに惹かれたりするじゃないですか?」
修羅に否定されてもミュウは引き下がらない。まるで自分も経験したかのように情感たっぷりこめた言葉で追撃する。
(黒騎士の心臓がまた激しく震えましたよ!)
黒衣の鎧で身体を覆っているため黒騎士の外見上の変化はまるで見えない。しかし、ルイセは黒騎士の心の動揺を確実に捉えていた。
「それに、黒騎士さんって確実に修羅さんのことを意識してますよね? 異性を意識する感じで。最初男同士だと思ってたから不思議に思ってたけど、女の人って聞いて合点がいきました。女の子が男の子に恋焦がれる感じっていうんですか? 近くでも見てるからそういうのわかっちゃうんですよね」
得意げに語るミュウの言葉を受け、修羅は黒騎士の方へ顔を向ける。仮面の上からでもわかるくらい修羅の顔には驚きが浮かんでいた。
「……そうなのか?」
「…………」
黒騎士は何も答えず、鎧のせいでわかりにくいが震えているようにも見える。
(黒騎士さんの心臓の鼓動がすごいことに!)
3人の視線が黒騎士へと集中する。
驚き、ワクワク、疑念と3人の胸中は三者三様だったが、黒騎士の反応に注目するという点では一致していた。
「…………」
黒騎士は沈黙を貫いていたが、3人が依然として固唾をのんで見守り続けるため、こらえきれなくなったのかついに顔を隣の修羅の方へ向けた。
「……くだらないことを言っていると斬るぞ」
ドスの聞いた黒騎士の重い声に、口もとだけでわかるほどに修羅の顔が引きつる。
ミュウも黒騎士の声のトーンから、これ以上触れては自分の身にも危険が及ぶことを察知し、顔をそむけて素知らぬふりをした。
(ミュウさん、お手柄です。見事に黒騎士の動揺を誘っています! ……あ、でも、これで動揺させたところで、黒騎士ってわからないですよね……。困りました)
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