国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい

文字の大きさ
上 下
120 / 157

第118話 ルイセ&ミュウvs黒騎士&修羅

しおりを挟む
 応接室には、セオドル、ルルー、キッドの3人が入り、護衛の修羅と黒騎士は部屋の外の廊下に待機する。その二人を警戒するために、ミュウとルイセも廊下に残った。
 4人は廊下の通路を挟んで、壁を背にして2対2で向き合う。ルイセは黒騎士の対面に立ち、わずかな変化も見逃さないよう黒騎士に集中する。

「黒騎士さんでしたっけ? 以前どこかでお会いしたことがありませんか?」

「…………」

 黒騎士の反応をさぐるためのジャブとしてルイセは問うてみたが、黒騎士に反応はなかった。黒衣の鎧のせいで、表情の動きや体の微細な動きを探るのはルイセでもさすがに無理だった。ルイセは兜の奥の黒騎士の呼吸や、鎧の奥の鼓動に集中して耳を澄ます。

「すまんな、そいつは無口な奴なんだ」

 沈黙する黒騎士に代わって答えたのは修羅だった。ルブルックの声ならばルイセも白の聖王国での戦いの際に耳にしている。その声を聞いた回数は多くはなかったが、ルブルックの声の記憶はルイセの中に残っている。
 今聞こえた黒騎士の声に、ルイセは聞き覚えがなかった。もっとも、修羅の口もとには魔力の反応がある。魔法で口もとの空気を歪めて声を変えているのは明らかだった。
 修羅が魔法を使えることはわかったが、声から正体を探るのは残念ながら不可能だった。

(わざわざ声色を変えるとはますます怪しいですが、逆に敢えてルブルックかもしれないと私達に思わせるためという可能性も捨てきれませんか……)

 ルイセは視線を一瞬修羅へと向けたが、すぐに黒騎士へと戻す。

(やはり揺さぶりをかけるのなら黒騎士の方でしょうか)
「黒騎士さん、よかったら私と手合わせしていただけせんか? 同じ女性同士ですし、ぜひお相手願いたいのですが?」

「その人、女の人だったの!?」

 ルイセの言葉に真っ先に反応したのはミュウだった。全身を鎧で覆った人間の性別を見抜くことができるのはルイセくらいのものだ。黒騎士の中身は男だと思い込んでいたミュウは、驚きの顔をルイセに向ける。

「おいおい、これでも俺達は青の王国の王子の護衛なんだぞ。あんまり適当なことを言ってからかうのはよしてくれないか」

 修羅はたしなめるような口調でルイセに抗議の声を上げた。
 だが、そう言われてもルイセには慌てた様子もない。

「――――? 適当なこととは何のことですか? 立ち居振る舞いや仕草、どう見ても女性のものでしたが?」

 当たり前のことを言っただけなのになにがいけなかったのかわからない、そんな不思議そうな顔をルイセはしていた。

「……修羅、そいつは鎌をかけているわけではない。確信をもって口にしている。我々とは見えているものが違うのだろう」

 初めて黒騎士が喋った。その声は中世的で、声による性別の判別は難しそうだった。

(声を変えていますが……サーラの声に似ていますね)

 ルイセは疑いをますます濃くする。

(ならば、さらに揺さぶりをかけるとしましょうか)
「それで、どうですか? 一つお相手いただけますか?」

「……我々はここに戦いに来たわけではない」

 黒騎士は身動き一つせず、にべもない。

「というわけだ、悪いなお嬢さん」

「……そうですか。残念です」

 修羅にも念押しで拒否をされたが、もともとルイセも立ち合いの申し出を受け入れてもらえるとは思っていない。引き出したいのは黒騎士の反応だった。だが、勝負も申し出をしても、黒騎士の心を動かすことはできず、ルセイは自分の目論見が外れたことを自覚する。

(……何かもっとほかのアプローチが必要ですね)

「ねぇねぇ、ルイセ。その人達と知り合いなの?」

 思案し始めたルイセの横からミュウが興味深そうに話しかけてきた。ルブルックともサーラとも面識のないミュウにとって、目の前の二人は今のところ怪しい護衛という認識でしかない。ルイセやキッドが持っている疑惑には気づいておらず、完全に興味本位によるものだった。

「……知っている人達に似ていましたが、私の勘違いだったかもしれません」
(ここでミュウさんに事情を説明すると、二人を警戒させて正体を探りづらくなります。すみませんがミュウさん、ここはおとなしくしておいてください)

「勘違いなの? それは残念ね。でも、黒騎士さんが女の人と聞いてちょっとびっくりしたけど、言われてみれば納得だよ」

「納得?」

「うん。二人の空気感が仲間というのとはちょっと違う感じだったからね。……もしかして、黒騎士さんと修羅さんって付き合ってたりします?」

 ルイセと話していたミュウが、急に二人の方に話を振った。
 二人に向けるミュウの目は、ルイセが二人に向ける目とは明らかに違い、どこかキラキラしていた。

(黒騎士の呼吸と心音が明らかに変化しました!)

 いくら揺さぶりをかけても動じなかった黒騎士が初めて見せた動揺をルイセは見逃さなかった。

「悪いが俺達は仕事上のパートナーだ。互いに信頼し合っているが、それだけだ。下手な勘ぐりはやめてくれないか」

「でも、長く二人でいて、相手の頼れる姿を見ていると、最初はなんとも思ってなくても、自分でも知らないうちに惹かれたりするじゃないですか?」

 修羅に否定されてもミュウは引き下がらない。まるで自分も経験したかのように情感たっぷりこめた言葉で追撃する。

(黒騎士の心臓がまた激しく震えましたよ!)

 黒衣の鎧で身体を覆っているため黒騎士の外見上の変化はまるで見えない。しかし、ルイセは黒騎士の心の動揺を確実に捉えていた。

「それに、黒騎士さんって確実に修羅さんのことを意識してますよね? 異性を意識する感じで。最初男同士だと思ってたから不思議に思ってたけど、女の人って聞いて合点がいきました。女の子が男の子に恋焦がれる感じっていうんですか? 近くでも見てるからそういうのわかっちゃうんですよね」

 得意げに語るミュウの言葉を受け、修羅は黒騎士の方へ顔を向ける。仮面の上からでもわかるくらい修羅の顔には驚きが浮かんでいた。

「……そうなのか?」

「…………」

 黒騎士は何も答えず、鎧のせいでわかりにくいが震えているようにも見える。

(黒騎士さんの心臓の鼓動がすごいことに!)

 3人の視線が黒騎士へと集中する。
 驚き、ワクワク、疑念と3人の胸中は三者三様だったが、黒騎士の反応に注目するという点では一致していた。

「…………」

 黒騎士は沈黙を貫いていたが、3人が依然として固唾をのんで見守り続けるため、こらえきれなくなったのかついに顔を隣の修羅の方へ向けた。

「……くだらないことを言っていると斬るぞ」

 ドスの聞いた黒騎士の重い声に、口もとだけでわかるほどに修羅の顔が引きつる。
 ミュウも黒騎士の声のトーンから、これ以上触れては自分の身にも危険が及ぶことを察知し、顔をそむけて素知らぬふりをした。

(ミュウさん、お手柄です。見事に黒騎士の動揺を誘っています! ……あ、でも、これで動揺させたところで、黒騎士ってわからないですよね……。困りました)

 静かに怒る黒騎士、どうしていいかわからない修羅、気まずいミュウ、悩むルイセ、そんな4人により、応接室の前の廊下には重い沈黙が訪れたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...