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第80話 青の陣営
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青の王国軍が占拠した砦の中、4度目の戦いを目前にしても、ルブルックとサーラはさほど緊張感もなくカードゲームに興じていた。
二人が行っているのは、兵士のカードと武器や魔法や罠のカードを使い、互いの王を倒すという戦術的要素のあるカードゲームだ。
「ここで私の青の騎士で、あなたの青の魔術師に突撃攻撃よ!」
サーラの攻撃宣言を聞き、ルブルックはニタリと口もとに笑みを浮かべながら、伏せていたカードを表に向けた。
「残念だが、ここで落とし穴トラップ発動だ。これで青の騎士の体力はゼロ。次は俺のターンだが、青の魔術師がそっちの王に攻撃をして勝負あり。俺の勝ちだな」
サーラは顔を歪ませながら持っていたカードを机の上に投げ捨てた。
「……つまんない。私の五連敗じゃない」
「サーラは相手の狙いをもっと考えたほうがいいぞ。自分が勝つパターンしか考えてないだろ?」
ルブルックの指摘に、おもしろくないサーラは唇を尖らせる。
「そんなことはないけど……あなたが私の手を読みすぎてるのよ! 何をやってもすべて見透かされているようで腹が立つわ! ……今回の白の聖王国との戦いも、あなたが指揮を執っていれば、もっとスムーズに勝てているんじゃないの?」
「いや、レオンハルト殿下もサイラス殿も、よくやっているさ」
王族批判とも取られかねないサーラの言葉を聞いても、ルブルックは咎めもせず笑っていた。
今回の遠征軍に、ルブルックは立場上軍師として同行しているものの、戦いの指揮は執っていない。この遠征軍の総大将は第二王子のレオンハルトが務め、実際の指揮はその腹心とも言えるサイラス将軍が執っていた。
青の王国には、第一王子のセオドルと、第二王子のレオンハルトによる後継者問題があり、貴族や軍人もそれぞれの派閥にわかれている。
セオドルとレオンハルトとでは母親が違い、セオドルは若くして亡くなった前王妃の子で、レオンハルトは現王妃の子である。王宮内でも力を示す現王妃の後ろ盾もあり、弟でありながら、レオンハルトを推す者達は多い。セオドルが知性派なのに対して、レオンハルトは肉体派であり、軍関係者の人気も高かった。
今回の遠征軍も、王子がわざわざ出向く必要はなかったのだが、兄セオドルに対して自分の力を示すためにレオンハルトが総大将に名乗りをあげていた。そのレオンハルトの下で指揮を執るサイラス将軍はレオンハルト派の急先鋒とでも言える人物の一人であり、二人の結束は固い。
ルブルックはどちらの派閥にも属しているつもりはなかったが、自分の派閥でないものは相手の派閥とでも考えているのか、レオンハルトとサイラスからは距離を置かれ、今回の戦いでは指揮権を与えられていない。
それでも、青の王国最高の魔導士であるルブルックの力は戦いにおいて絶対に必要となるものなので、戦いへの参加と自由な行動は認められていた。また、ルブルックからの戦略や戦術の提案にも二人は聞く耳を持ち、サイラス将軍はここまでは概ねルブルックから事前に提案された戦術通りの行動を取っている。
ルブルックが直接指揮を執った方がよりスムーズに動けていただろうが、結果自体はそこまで大きく変わっていないというのがルブルックの見立てだった。
「先代の聖王が相手ならともかく、聖王レリアナが相手なら我が軍は負けんよ」
「まぁ、私も負けるとは思っていないけど」
「それより、もうここらでゲームはやめるか?」
「……もう一勝負よ。まだ私が勝ってない」
サーラは机の上にぶちまけたカードを拾い集め始めた。
青の導士ルブルックは、白の聖王国にキッドが加わったことをまだ知らない。
◆ ◆ ◆ ◆
数日後、青の王国軍と白の聖王国軍が戦場で相対した。これが4度目の戦いとなる。
「聖王国は性懲りもなく前回と同様兵同士の間を開けた防御陣形のようね」
「もう少し何か手を打ってくるものと思っていたが……ただの小娘がトップではこんなものか」
サーラとルブルックは、青の王国軍の主力本隊から離れたところから戦場を見ていた。
この陣形に対する戦術はすでにサイラスやレオンハルトに提案してある。それを活かすかどうかは彼ら次第だとルブルックは割り切っていた。
とはいえ、彼らに重用されていないからといって投げやりになるような男でもない。彼らが自分の戦術通りに動く動かないにかかわらず、ルブルックは自軍のために自分のすべきことをするつもりだった。
「こちらから動くようね」
サーラが自軍の兵達に目を向ける。
青の王国軍の騎兵隊が先頭に立ち、それに続いて軽装歩兵達が進軍を開始していた。
三度目の時と同様、騎兵とそれに続く歩兵により、密集陣形を組めない敵の弱いところを突いて一気に陣形を崩す作戦のようだった。
「今回もあなたの進言した戦術そのままね。自分達で策を練らないのなら、あなたに指揮を任せればいいのに」
「下手なプライドで俺の言葉を受け入れず、独自の戦術で動くより余程いい。レオンハルト殿下にもサイラス殿にも、何が最善か判断する能力はある。それで十分だ」
「あなたはそれでいいの?」
少なくともサーラ自身にはルブルックのことをどうこう思う気持ちはないつもりだ。しかし、実力がある者が正当に評価されず、能力に見合う待遇を受けないことには腹立たしく感じる。
サーラは自分のイラつきをそう解釈していた。
「かまわんさ。……さてと、この状況ならわざわざ俺が海王波斬撃を使わずとも勝てるだろうが、俺が動くことでより楽に勝てるのならそっちの方がいい。俺達も前に出るとしようか」
ルブルックは手綱に力を込め、自分の馬を前に進めた。
「わかったわ」
サーラもそれに続いていく。
敵に近づくにつれ、聖王国軍の陣形がより詳しく見えるようになり、サーラは眉をひそめた。
「ねぇ、ルブルック。聖王国軍の隊列だけど……」
「サーラも気づいたか。明らかに脆いところがあるな。いくら小娘がトップだとしても、お粗末すぎる……」
サーラが気づいた聖王国軍の陣形の綻びには、ルブルックもすでに気づいてた。
とはいえ、訝しく思いはしたものの、指揮権のないルブルックはそれ以上何かしようとはしなかった。
たとえその綻びが、相手の仕掛けた罠だったとしても、今の青の王国軍の勢いなら罠ごと叩き潰してしまうだろう。それに、もし何かあっても自分の海王波斬撃でなんとでもなる。ルブルックにはそういった自信があった。
しかし、ルブルックは知らない。その敵陣の最も脆いところに、キッドという魔導士がいるということを。
二人が行っているのは、兵士のカードと武器や魔法や罠のカードを使い、互いの王を倒すという戦術的要素のあるカードゲームだ。
「ここで私の青の騎士で、あなたの青の魔術師に突撃攻撃よ!」
サーラの攻撃宣言を聞き、ルブルックはニタリと口もとに笑みを浮かべながら、伏せていたカードを表に向けた。
「残念だが、ここで落とし穴トラップ発動だ。これで青の騎士の体力はゼロ。次は俺のターンだが、青の魔術師がそっちの王に攻撃をして勝負あり。俺の勝ちだな」
サーラは顔を歪ませながら持っていたカードを机の上に投げ捨てた。
「……つまんない。私の五連敗じゃない」
「サーラは相手の狙いをもっと考えたほうがいいぞ。自分が勝つパターンしか考えてないだろ?」
ルブルックの指摘に、おもしろくないサーラは唇を尖らせる。
「そんなことはないけど……あなたが私の手を読みすぎてるのよ! 何をやってもすべて見透かされているようで腹が立つわ! ……今回の白の聖王国との戦いも、あなたが指揮を執っていれば、もっとスムーズに勝てているんじゃないの?」
「いや、レオンハルト殿下もサイラス殿も、よくやっているさ」
王族批判とも取られかねないサーラの言葉を聞いても、ルブルックは咎めもせず笑っていた。
今回の遠征軍に、ルブルックは立場上軍師として同行しているものの、戦いの指揮は執っていない。この遠征軍の総大将は第二王子のレオンハルトが務め、実際の指揮はその腹心とも言えるサイラス将軍が執っていた。
青の王国には、第一王子のセオドルと、第二王子のレオンハルトによる後継者問題があり、貴族や軍人もそれぞれの派閥にわかれている。
セオドルとレオンハルトとでは母親が違い、セオドルは若くして亡くなった前王妃の子で、レオンハルトは現王妃の子である。王宮内でも力を示す現王妃の後ろ盾もあり、弟でありながら、レオンハルトを推す者達は多い。セオドルが知性派なのに対して、レオンハルトは肉体派であり、軍関係者の人気も高かった。
今回の遠征軍も、王子がわざわざ出向く必要はなかったのだが、兄セオドルに対して自分の力を示すためにレオンハルトが総大将に名乗りをあげていた。そのレオンハルトの下で指揮を執るサイラス将軍はレオンハルト派の急先鋒とでも言える人物の一人であり、二人の結束は固い。
ルブルックはどちらの派閥にも属しているつもりはなかったが、自分の派閥でないものは相手の派閥とでも考えているのか、レオンハルトとサイラスからは距離を置かれ、今回の戦いでは指揮権を与えられていない。
それでも、青の王国最高の魔導士であるルブルックの力は戦いにおいて絶対に必要となるものなので、戦いへの参加と自由な行動は認められていた。また、ルブルックからの戦略や戦術の提案にも二人は聞く耳を持ち、サイラス将軍はここまでは概ねルブルックから事前に提案された戦術通りの行動を取っている。
ルブルックが直接指揮を執った方がよりスムーズに動けていただろうが、結果自体はそこまで大きく変わっていないというのがルブルックの見立てだった。
「先代の聖王が相手ならともかく、聖王レリアナが相手なら我が軍は負けんよ」
「まぁ、私も負けるとは思っていないけど」
「それより、もうここらでゲームはやめるか?」
「……もう一勝負よ。まだ私が勝ってない」
サーラは机の上にぶちまけたカードを拾い集め始めた。
青の導士ルブルックは、白の聖王国にキッドが加わったことをまだ知らない。
◆ ◆ ◆ ◆
数日後、青の王国軍と白の聖王国軍が戦場で相対した。これが4度目の戦いとなる。
「聖王国は性懲りもなく前回と同様兵同士の間を開けた防御陣形のようね」
「もう少し何か手を打ってくるものと思っていたが……ただの小娘がトップではこんなものか」
サーラとルブルックは、青の王国軍の主力本隊から離れたところから戦場を見ていた。
この陣形に対する戦術はすでにサイラスやレオンハルトに提案してある。それを活かすかどうかは彼ら次第だとルブルックは割り切っていた。
とはいえ、彼らに重用されていないからといって投げやりになるような男でもない。彼らが自分の戦術通りに動く動かないにかかわらず、ルブルックは自軍のために自分のすべきことをするつもりだった。
「こちらから動くようね」
サーラが自軍の兵達に目を向ける。
青の王国軍の騎兵隊が先頭に立ち、それに続いて軽装歩兵達が進軍を開始していた。
三度目の時と同様、騎兵とそれに続く歩兵により、密集陣形を組めない敵の弱いところを突いて一気に陣形を崩す作戦のようだった。
「今回もあなたの進言した戦術そのままね。自分達で策を練らないのなら、あなたに指揮を任せればいいのに」
「下手なプライドで俺の言葉を受け入れず、独自の戦術で動くより余程いい。レオンハルト殿下にもサイラス殿にも、何が最善か判断する能力はある。それで十分だ」
「あなたはそれでいいの?」
少なくともサーラ自身にはルブルックのことをどうこう思う気持ちはないつもりだ。しかし、実力がある者が正当に評価されず、能力に見合う待遇を受けないことには腹立たしく感じる。
サーラは自分のイラつきをそう解釈していた。
「かまわんさ。……さてと、この状況ならわざわざ俺が海王波斬撃を使わずとも勝てるだろうが、俺が動くことでより楽に勝てるのならそっちの方がいい。俺達も前に出るとしようか」
ルブルックは手綱に力を込め、自分の馬を前に進めた。
「わかったわ」
サーラもそれに続いていく。
敵に近づくにつれ、聖王国軍の陣形がより詳しく見えるようになり、サーラは眉をひそめた。
「ねぇ、ルブルック。聖王国軍の隊列だけど……」
「サーラも気づいたか。明らかに脆いところがあるな。いくら小娘がトップだとしても、お粗末すぎる……」
サーラが気づいた聖王国軍の陣形の綻びには、ルブルックもすでに気づいてた。
とはいえ、訝しく思いはしたものの、指揮権のないルブルックはそれ以上何かしようとはしなかった。
たとえその綻びが、相手の仕掛けた罠だったとしても、今の青の王国軍の勢いなら罠ごと叩き潰してしまうだろう。それに、もし何かあっても自分の海王波斬撃でなんとでもなる。ルブルックにはそういった自信があった。
しかし、ルブルックは知らない。その敵陣の最も脆いところに、キッドという魔導士がいるということを。
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