国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい

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第67話 ミュウの新しい剣

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 ミュウはルルーとキッドの許可を得て、緑の公国へと戻ってきていた。
 とはいえ、彼女が向かうのは城ではない。古くから馴染みにしている鍛冶職人のもとだった。

「おじさん、いる?」

 ミュウが久々に店に顔を出すと、相変わらずの仏頂面で店主がミュウを迎える。年は60歳を超えるだろう。顔に刻まれた多くの皺が、彼が作り上げてきた剣の数を表しているかのようだった。

「随分と久しぶりだな」

「ちょっと今、任務で紺の王国の方にいるからね」

「とすると、刃こぼれした剣を直しに帰ってきたってところか?」

「んー、惜しい!」

 ミュウはいたずらっ子のような顔で、折れた愛剣を男の前のカウンターに置いた。
 その剣を見た男が白髪混じりの眉をひそめる。

「……また随分と派手にやらかしたもんだな」

「まぁ、相手が相手だったからね……」

「わかってると思うが、折れた剣は元に戻せないぞ」

「それはわかってるよ。……でも、この柄を使って、同じような剣を新たに作ることはできるよね?」

「そりゃできるが……剣を買い直した方が手っ取り早いぞ?」

「それじゃダメなの! 刃が折れたとしても、この剣が、この柄が、私の剣なの。全く同じ剣は作れなくても、おじさんなら、その魂を継いだ剣を作れるよね!」

 それがミュウの選んだ答えだった。
 ブレイカー、菊一文字、村正、どれも以前ミュウが使っていた剣よりも優れた剣なのかもしれない。だが、そのどれもが今の自分にふさわしい剣だとミュウには思えなかった。
 どの剣を選んだとしても、これまでミュウが磨いてきた剣術を捨て、その剣にあった剣術を磨き上げる必要がある。それもまた剣の極みに達する道なのかもしれないが、ミュウはそうとは捉えなかった。
 彼女が選んだのは、この剣をただ誰よりも速く振る、愚直なまでにそれを追い求めてきた自分の剣の道だった。これまで馬鹿みたいに信じてきたその道をいまさら変えるつもりはない。そして、そのためには、もはや身体の一部と思えるほどに振り続けてきたこの剣が必要だった。

「……わかった」

 ミュウに真摯な瞳を向けられ、男は彼女の強い想いを汲み取って深くうなずくと、カウンターの上の折れた剣と鞘を受け取った。
 鞘があれば剣の長さもわかる。折れた刃を直すことはできないが、同じ長さや太さの刃を作ることは可能だ。ただ、同じように作ったとしても、前と同じ性能の刃になるとは限らない。むしろ、同じ質の刃になることの方がありえない。
 剣の材料となるのは鋼だが、そこに混じる炭素や他の金属の種類や割合、それに炉の性能や温度など、様々な要因により、出来上がる刃には差が生まれる。そしてさらにそこに鍛冶師の腕も加わり、剣の刃として完成する。
 ミュウが前から使っていた剣の刃がなかなかの出来であることは手直しをしてきた男も知っている。あのクラスの刃を作れることは稀だ。しかし、逆に言えば、あれ以上の刃を作れる可能性もあるということだった。
 ミュウから静かだが鬼気迫るような想いを感じた男は、どこまでやれるかわからないが、付き合いの長いこの女剣士に自分の持てるだけの力をつぎ込んだ剣を用意してやろうと心の中で固く決意していた。

「よろしくお願いします」

 ミュウは深く頭を下げた。

◆ ◆ ◆ ◆

 一週間が過ぎた頃、ミュウは鍛冶屋の主人から呼び出された。
 ミュウは逸る心を抑え、店へと向う。

「おじさん、どうなった!?」

 店主の男はミュウの顔を見ると、鞘に収まったミュウの剣を無言で差し出す。
 ミュウは一歩一歩ゆっくり男へ近づき、鞘ごと自分の剣を受け取った。
 折れた剣を納めていた時とは違う、しっかりした重さが腕へと伝わってくる。
 ミュウはその重さで自分の剣が完成したことを実感する。

「抜いてみていい?」

 男は黙ったまま力強くうなずいた。
 ミュウは普段のように鞘を腰に提げ、鞘に納まったままの柄を握る。

(うん! やっぱりこの感触だよ!)

 魔剣や代替の剣の柄を握ったときとは違う、自分の指にフィットしたしっくりくる感じに、ミュウは懐かしさを覚える。
 満足しながら、ミュウはいつもように剣を抜いた。何度も繰り返してきたその動作は、鞘に刃が触れる音さえさせない。新しい刃に変わってもそれは同じだった。素早くそして静かに抜いた剣を、ミュウは目の前に掲げる。

「この刃って……」

 さすがに菊一文字や村正の刃の美しさにはかなわない。そもそも鍛造方法さえわからない剣と比べる方がおかしいが、それでもミュウはその新しい刃に目を奪われた。見た目は今まで見てきた剣の刃とそれほど変わらなく見える。だが、それでもなぜか心を惹かれた。

「さすがだな。見ただけで感じるものがあるか」

 ミュウは店主へと顔を向ける。

「元となる鋼の質、炉の温度、作製時の気温や湿度など様々な要因で同じように作っても刃の出来には差がでる。なかなか狙ってできるようなものではないが――その刃は間違いなく、俺が今まで作ってきた刃の中でも最高のものだ。俺程度の鍛冶師では魔剣なんてやつは何本作ろうが生み出せやしないが、俺程度の凡人が作れる最高のものを生み出せたと自負している。百本に一本、いや、千本に一本作れるかどうかってやつだ。言うなれば、千本に一本の剣ワンオブサウザンドだ」

千本に一本の剣ワンオブサウザンド……。振ってみてもいい?」

「店に傷をつけるなよ」

「そんな腕じゃないことは知ってるでしょ」

 ミュウはカウンターから離れ、周囲に空間を作ると、その剣を一振りする。
 まるで空気どころか空間さえ切り裂く鋭さだった。

(まるで剣の先まで自分の腕みたい!)

 握り続けてきた柄はもはや身体の一部だった。だが、この刃は今日初めて出会ったもの。それにもかかわらず、まるで自分の腕と一体になったようにミュウは感じていた。その長さも重さも慣れたものだからということもあるかもしれないが、それだけではない目に見えない何かが自分と繋がったような感覚を覚える。

「どうだ、ミュウ? その剣は以前の剣の魂を受け継いでいるか?」

「うん! この剣だよ! この剣こそ、魂を継いでくれた私の剣だよ!」

 その剣は魔剣ではない。あくまで超高品質なだけのただの剣だ。
 それでもミュウにとっては最高の剣だった。少なくとも本人はそう確信していた。

(結局私にできるのは剣の速さを追い求めることだけ! それには今まで一緒に戦ってくれたこの剣が必要なんだよ!)

 ラプトに二刀流に対抗するためにミュウ自身も二刀流で応じるというのは、ある意味では理にかなった戦術かもしれない。だが、ミュウは安易とも言えるその道を選ばなかった。考え抜いた末に、ミュウはさらなる速さでラプトの力に対抗すると決めていた。

(嵐花双舞は速さを追求し、二撃目が一撃目に追いついた奇跡ともいえる技。でも、ラプトにはそれでは届かない。だけど、もし二撃目が一撃を追い越したら? それほどの速さにまで達することができれば、ラプトにだって負けないはずだよ!)

 一本の剣で放つ二連撃で、二発目の方が一撃目により先に敵に斬り付ける――それはもはや物理的にあり得ない意味さえ不明な動きだ。だが、ミュウはこの剣とともにそれを目指すつもりだった。結局自分にできる戦い方はそれだけだとミュウはもう腹をくくっていた。
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