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第65話 魔剣ブレイカー
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ミュウはキッドとともに城内にある宝物庫へと向かって進んでいく。
「そういえば、フィーは?」
黒の都へはフィーユも一緒に戻ってきたはずなのに、ここ最近姿を見ていないことをミュウは気にしていた。
「フィーなら白の聖王国に戻るって言って、昨日出ていったよ。王都にいるティセと合流してから帰るらしい」
「そうなんだ。来る時も突然なら帰る時も突然なんだね。でも、ティセまで手を貸してくれていたのは驚きだよ」
王都でのラプトとの一件はすでに二人とも報告を受けている。その戦いでティセが助力してくれたことも、そして腕を負傷したことも。
「白の聖王国とはこの先も友好関係を築けるといいんだけどな」
「そうだね。そうすれば赤の王国との戦いだけに集中できるし」
二人が地下への階段を下りていくと、宝物庫の前にソードの姿が見えてきた。
「あれ、ソード?」
「宝物庫の鍵はソードとエイミが持っているからな。中の案内も兼ねて付き合ってくれるようソードに頼んでおいたんだ」
「そういうわけだ。二人ともついてきてくれ」
物々しい鍵を使って扉を開けると、ソードは宝物庫の中に入っていった。キッドとミュウもそれに続く。
緑の公国と宝物の取り分を協議した際に、キッドもミュウも一度この部屋に入っているが、それ以来の入室となる。とはいえ、二人とも宝石や装飾品の類にはあまり興味がないため、中の物についてはそれほど覚えていない。
「宝石や美術品が多いが、武器や防具も収蔵している。もっとも、その多くは実用性を伴わない装飾的価値のある物だがな」
「でしょうね。貴族が欲しがる剣と、剣士が欲しがる剣とはイコールじゃないもの」
ソードの言葉にはミュウも同意するだけだった。そのため、キッドに誘われて宝物庫に来はしたが、ミュウ自身はそれほど期待をしていない。
「とはいえ、すべてがそういう物だというわけではない。魔剣と呼ばれるものも、ここにはある」
「魔剣……」
以前ソードは魔装と呼ばれる鎧を装備していた。ミュウに傷をつけられ、その後も補修して使用していたものの、先日のラプトとの戦いでさらにひどく破損したため今は装備していないが、あの鎧は、名工が作り上げ、魔法的な力ではなく、人の力で世の常識を超えた性能を持つに至った鎧だった。
それと同様のものが剣にもある。名工の魂が乗り移ったかのような奇跡の剣、あるいは名工の想像さえ超えた能力を得た神秘の剣、それらを魔剣と呼んでいる。
「ちょっとそこで待っていてくれ」
ソードは宝物庫の更に奥の部屋へと入っていった。
(魔剣かぁ。個人的にはあんまりいい印象はないんだけどね)
ミュウも魔剣持ちの剣士と会ったことは何度かある。だが、彼らは己の腕を磨くことよりも、より優れた武器を手に入れることに心血を注いでいるように見え、ミュウはあまり好感を持てなかった。
しばらくして、ソードが鞘に収まった一本の剣を持ってきた。
長さはミュウの使っていた剣とそれほど変わらないが、鞘に入った状態だが、それでも刀身が広くて太いのがわかる。
「これはブレイカーと呼ばれる魔剣だ」
「ブレイカー?」
ソードは頷いてその剣を鞘ごとミュウに渡した。
今まで使っていた剣とは明らかに違うずっしりとした重さをミュウは腕に感じる。
「その剣は、最強の剣を作ることを追い求めた男が、己の才能をすべてを注ぎ込んで作り上げたと言われている」
「最強の剣?」
最強の剣という言葉にミュウは違和感を覚える。剣士によって身体能力も剣技も違い、求める剣もそれぞれに違う。そのため、誰かにとって最適な剣であっても、別の誰かにとっては最適な剣ではありえない。それだけに、最強の剣と言われもも想像がつかないのだ。
疑念めいた顔でミュウはブレイカーを鞘から抜き、握ってみた。
(――――!? この感じは!)
握っただけで剣から何か人の意志のようなものが伝わってくる。とはいえ、剣に意志があるはずがない。それは剣に込められた名工の意志なのだとミュウには感じられる。
(……壊せ……壊せ……自分以外の剣をすべて壊せ……まるでそう言っているみたい)
「ブレイカーは、相手を斬るためよりも、相手の剣を破壊するために作られた剣だ。その剣を握った者には、相手の剣の最も脆弱な部分がわかるという。そこを的確に狙い、打ち続ければ、その武器を破壊できるだろう」
「なるほど。この剣以外の剣をすべて壊してしまえば、この剣が最強ってわけね」
ミュウは最強の剣の意味を理解した。確かにその方法なら、最強の剣たりうるかもしれないとは思える。
「ミュウ、どんな感じだ?」
キッドは心配げな顔でミュウを見ている。
剣自体に関してキッドは素人だ。剣を見る目が特別あるわけでもない。しかし、剣士としての自分を見る目に関しては、ミュウはキッドに一目置いていた。
ミュウは鞘を近くの棚に置くと、両手で魔剣ブレイカーを握って構えをとる。
「キッド、どう思う?」
「んー、なんか美しくないかな?」
抽象的な感想だったが、ミュウにはその言葉はしっくりきた。この剣の目指す戦い方は、ミュウも美しくないと感じていたから。
それが構えにも出てしまっているのかもしれない。
(それに、剣から伝わってくる作り手の想いみたいなもの……これは戦いの邪魔になる。剣士にとって剣は身体の一部。身体の一部が勝手なことを考えているのは歪みでしかないかな)
ミュウは鞘を再び手に取ると、ブレイカーをそこに戻した。
「そういえば、フィーは?」
黒の都へはフィーユも一緒に戻ってきたはずなのに、ここ最近姿を見ていないことをミュウは気にしていた。
「フィーなら白の聖王国に戻るって言って、昨日出ていったよ。王都にいるティセと合流してから帰るらしい」
「そうなんだ。来る時も突然なら帰る時も突然なんだね。でも、ティセまで手を貸してくれていたのは驚きだよ」
王都でのラプトとの一件はすでに二人とも報告を受けている。その戦いでティセが助力してくれたことも、そして腕を負傷したことも。
「白の聖王国とはこの先も友好関係を築けるといいんだけどな」
「そうだね。そうすれば赤の王国との戦いだけに集中できるし」
二人が地下への階段を下りていくと、宝物庫の前にソードの姿が見えてきた。
「あれ、ソード?」
「宝物庫の鍵はソードとエイミが持っているからな。中の案内も兼ねて付き合ってくれるようソードに頼んでおいたんだ」
「そういうわけだ。二人ともついてきてくれ」
物々しい鍵を使って扉を開けると、ソードは宝物庫の中に入っていった。キッドとミュウもそれに続く。
緑の公国と宝物の取り分を協議した際に、キッドもミュウも一度この部屋に入っているが、それ以来の入室となる。とはいえ、二人とも宝石や装飾品の類にはあまり興味がないため、中の物についてはそれほど覚えていない。
「宝石や美術品が多いが、武器や防具も収蔵している。もっとも、その多くは実用性を伴わない装飾的価値のある物だがな」
「でしょうね。貴族が欲しがる剣と、剣士が欲しがる剣とはイコールじゃないもの」
ソードの言葉にはミュウも同意するだけだった。そのため、キッドに誘われて宝物庫に来はしたが、ミュウ自身はそれほど期待をしていない。
「とはいえ、すべてがそういう物だというわけではない。魔剣と呼ばれるものも、ここにはある」
「魔剣……」
以前ソードは魔装と呼ばれる鎧を装備していた。ミュウに傷をつけられ、その後も補修して使用していたものの、先日のラプトとの戦いでさらにひどく破損したため今は装備していないが、あの鎧は、名工が作り上げ、魔法的な力ではなく、人の力で世の常識を超えた性能を持つに至った鎧だった。
それと同様のものが剣にもある。名工の魂が乗り移ったかのような奇跡の剣、あるいは名工の想像さえ超えた能力を得た神秘の剣、それらを魔剣と呼んでいる。
「ちょっとそこで待っていてくれ」
ソードは宝物庫の更に奥の部屋へと入っていった。
(魔剣かぁ。個人的にはあんまりいい印象はないんだけどね)
ミュウも魔剣持ちの剣士と会ったことは何度かある。だが、彼らは己の腕を磨くことよりも、より優れた武器を手に入れることに心血を注いでいるように見え、ミュウはあまり好感を持てなかった。
しばらくして、ソードが鞘に収まった一本の剣を持ってきた。
長さはミュウの使っていた剣とそれほど変わらないが、鞘に入った状態だが、それでも刀身が広くて太いのがわかる。
「これはブレイカーと呼ばれる魔剣だ」
「ブレイカー?」
ソードは頷いてその剣を鞘ごとミュウに渡した。
今まで使っていた剣とは明らかに違うずっしりとした重さをミュウは腕に感じる。
「その剣は、最強の剣を作ることを追い求めた男が、己の才能をすべてを注ぎ込んで作り上げたと言われている」
「最強の剣?」
最強の剣という言葉にミュウは違和感を覚える。剣士によって身体能力も剣技も違い、求める剣もそれぞれに違う。そのため、誰かにとって最適な剣であっても、別の誰かにとっては最適な剣ではありえない。それだけに、最強の剣と言われもも想像がつかないのだ。
疑念めいた顔でミュウはブレイカーを鞘から抜き、握ってみた。
(――――!? この感じは!)
握っただけで剣から何か人の意志のようなものが伝わってくる。とはいえ、剣に意志があるはずがない。それは剣に込められた名工の意志なのだとミュウには感じられる。
(……壊せ……壊せ……自分以外の剣をすべて壊せ……まるでそう言っているみたい)
「ブレイカーは、相手を斬るためよりも、相手の剣を破壊するために作られた剣だ。その剣を握った者には、相手の剣の最も脆弱な部分がわかるという。そこを的確に狙い、打ち続ければ、その武器を破壊できるだろう」
「なるほど。この剣以外の剣をすべて壊してしまえば、この剣が最強ってわけね」
ミュウは最強の剣の意味を理解した。確かにその方法なら、最強の剣たりうるかもしれないとは思える。
「ミュウ、どんな感じだ?」
キッドは心配げな顔でミュウを見ている。
剣自体に関してキッドは素人だ。剣を見る目が特別あるわけでもない。しかし、剣士としての自分を見る目に関しては、ミュウはキッドに一目置いていた。
ミュウは鞘を近くの棚に置くと、両手で魔剣ブレイカーを握って構えをとる。
「キッド、どう思う?」
「んー、なんか美しくないかな?」
抽象的な感想だったが、ミュウにはその言葉はしっくりきた。この剣の目指す戦い方は、ミュウも美しくないと感じていたから。
それが構えにも出てしまっているのかもしれない。
(それに、剣から伝わってくる作り手の想いみたいなもの……これは戦いの邪魔になる。剣士にとって剣は身体の一部。身体の一部が勝手なことを考えているのは歪みでしかないかな)
ミュウは鞘を再び手に取ると、ブレイカーをそこに戻した。
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