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第55話 王城とそれぞれの野営地
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翌日、ルルーはルイセの負傷の報告を臣下から聞き、慌ててルイセのもとを訪ねた。
「ルイセさん、大丈夫ですか!? ……あれ、そちらの方はティセさん?」
なぜルイセの部屋にティセがいるのかわからず、ルルーは首を傾げた。
当のティセは所在なさげに頭を下げる。親善外交中にティセが使用していた部屋はすでに片付けられているため、昨夜、ルイセはティセを自室に連れていき治療を行いそのまま泊めていた。
そのルイセはといえば、一人だけいつも通りの平然とした顔をしている。
「ルルー王女、ご心配なく。肋骨が二本折れただけなのでたいしたことないです」
「肋骨二本!? 折れただけ!?」
転んで膝を擦りむいただけ、みたいな感じでルイセに答えられ、ルルーは一瞬たいしたことなくてよかったと思いかけたが、すぐにそんなレベルの負傷ではないことに気付き、素っ頓狂な声を上げた。
「よく見たら、ティセさんまで腕を吊ってらっしゃるじゃないですか!? 一体何があったんですか!?」
「敵の襲撃を受けました。おそらくソードさんを倒した相手です。ティセさんはその戦いに手を貸してくださいましたが、ご覧のとおり右腕を骨折されてしまいました」
「骨折!? 白の聖王国の貴族のかたに骨折させてしまうなんて、なんとお詫びを……って、敵の襲撃ってなんですかそれ!?」
情報量が多すぎてルルーは理解が追い付かなくなってくる。
「おそらくティセさんが白の聖王国の貴族というのは嘘だと思うので、そこは心配ないかと思います。このかたはどちらかというと、私側のかたかと思いますので」
「いや、これでも私、一応貴族の出なんだけど……」
申し訳なそうに告白するティセ。ルイセはそちらに素早く顔を向けると、さも意外だという顔を浮かべた。
「あ、そうなんですか。それは失礼しました。まさか貴族のお嬢様があんな体術を使われるとは思わず」
「まぁ、色々あったからね」
「ちょっと待ってください! もうなにがなんだか……とりあえず、一から全部説明してください!」
少々お怒り気味のルルーに、二人は昨夜のことを事細かく説明するハメになった。
話の流れから、ルイセは以前のティセの襲撃のことも説明せざるを得なくなったが、そのことをルルー達に黙っていたことがバレ、ルイセはそのことに関して改めてお叱りを受けることとなってしまった。
なお、ティセには、色々理由をつけて王女直々の王城への滞在許可が下りることとなった。
◆ ◆ ◆ ◆
赤の王国軍の野営地の本部天幕に向かう人影が一つ。
それはまぎれもなくラプトの姿だった。
単独で紺の王国の王城に侵入しルイセ及びティセとの戦闘を行ったラプトは、無事王都から脱出し、この場所へと戻ってきていた。
「ルージュ、戻ったぞ」
あれほど探しても見つからなかったラプトが堂々と天幕の入り口を開いて入ってくるのを見て、ルージュは目を丸くする。
「あなた、一体今までどこに行っていたのよ!? 何日も姿を見せないで!」
「すまんな。ミュウという奴と戦いたくて紺の王国の王都に行っていたんだが空振りだった」
真顔で言うラプトに、ルージュはやれやれといった顔を向ける。
「はぁ? なに馬鹿な冗談を言っているのよ!」
ラプトの実力は知っているつもりだが、さすがのルージュもまさか本当にそんなことをするとは思いもしない。本当のことをごまかすために適当なことを言っていると考えるのも当然だった。
「冗談を言った覚えはないが……。お前の言うとおり戦場にいたほうが強い奴に会えそうだ」
「正直に言うつもりはないのね。……まぁいいわ。とにかく、もう勝手にどこかに行ったりはしないってことよね?」
立場上ラプトはルージュの部下ということになっているが、ラプトにその気はなく、ルージュもこの男が単純に自分の言うことを聞くとは思っていない。二人の関係は対等なものだった。むろし、ルージュがラプトの力を必要としているのに対して、ラプトは別にルージュの力を必要としていないことを考えると、ラプトの方が上かもしれない。
「安心しろ。お前に従って戦場にいることが強い奴と戦う一番の近道というのなら、ここから離れるつもりはない」
「わかったわ! だったらすぐに戦いの準備をしてあげるわよ!」
ルージュが軍を動かさなかったのはラプトがいないというただその理由のみ。
その問題が解消された今、赤の王国軍が慌ただしく動き始めた。
◆ ◆ ◆ ◆
赤の王国軍の動きは、すぐにキッド達の知るところとなった。
王都からの援軍が出発したとの報せを受けているが、残念ながらまだ到着はしていない。
キッド達は、元々いた兵と、キッドとミュウが連れてきた追加の500の兵とで、赤の王国軍に対抗するしかなかった。
戦闘準備で天幕の外で忙しそうに兵達が行き交う中、本部天幕ではキッド、ミュウ、エイミ、ソードが顔を突き合わせ軍議を行っていた。
「今回の全体指揮はエイミに任せる」
「私でいいの?」
王がいないこの場では、軍事においては軍師のキッドが立場上トップだった。順当に考えればキッドが総指揮を取ることになる。もしそうでないとしても、次は騎士団長のミュウがその任に就くのが妥当だった。
しかし、キッドが総指揮官に指名したのはエイミだった。
「ここの兵の多くは黒の帝国軍の兵だった者達だ。エイミの方が彼らのことをよくわかっている。それに、向こうには竜王破斬撃を使えるルージュと、ソードを降したラプトがいる。ソードが前線に出られない以上、その二人をなんとかするのは、俺とミュウの役目だ。俺達はフリーに動いて二人を何とかする」
キッドの隣でミュウが力強くうなずく。わざわざ話し合わなくとも二人の想いは一つだった。
「わかったわ。その二人をなんとかしてくれるのなら、私の指揮でこの戦いに勝って汚名返上してみせるわ」
「頼もしいね。ただ……ソード、あなた、後方とは言え本当に戦場に出るつもり?」
ミュウは心配げな顔をソードへと向けた。
ソードの傷は決して軽いものではない。右手はまだまともに剣を握れるような状態ではなかった。キッドとミュウはソードに、黒の都へ戻って補給などの後方支援の任に就くよう勧めたが、ソードは頑なに戦場に残ると言い張り、この地を離れようとはしなかった。
「この体でもエイミの支援くらいはできる。それにこの腕はちゃんと体にくっついている。いざとなれば剣を振るうことも可能だ」
医療班から聞いたソードの怪我の具合を考えれば、まだとても剣を触れるような状態でないことはキッド達もわかっている。だが、ソードからその言葉には、この男なら本当に平気で剣を振るいそうに思える力強さがあった。
「無理だけはするなよ」
「わかってる。迷惑はかけんさ」
ソードといい、エイミといい、先の戦いの敗北を自分の責任だと思っているのだとキッドは感じる。
(ルルーから受けた信頼を返したいと思ってくれているんだろうな。だが、あまり気負ってほしくはないな)
「いいか、みんな。俺達は赤の王国軍に領地を奪われているが、取られたなら取り返せばいいだけだ。でも、命だけは失えば二度と取り戻せない。そのことだけは肝に銘じておいてくれ」
「わかってるって」
「心しておくわ」
「……了解した」
当然だといわんばかりの笑顔でうなずくミュウ、固い表情でうなずくエイミとソード。反応は違ったが、それぞれにキッドの想いを受け取った。
そこに、天幕の外から何やら騒がしい声が近づいてくる。
なにごとかと自然に四人の視線が天幕の入り口へと向いた。
まもなく、天幕の外から呼びかける声が聞こえてくる。
「キッド様、近くで怪しい者を捕らえ、尋問しようとしたのですが、なにやらキッド様に会わせろ、さもないと魔法攻撃をするぞと騒ぎ出しまして……いかがいたしましょうか」
兵の言葉に四人は顔を見合わせ、それぞれに戸惑いの表情を浮かべる。
「一体どんな奴なんだ? ここに連れてきてくれるか?」
「それが、あまりに会わせろとうるさく言うものですから、魔法を唱えられないようさるぐつわをかました状態で連れてきております」
「……わかった。俺が確認する」
キッドは天幕を出て、兵達が連れてきたという怪しい者に目を向けた。
「フィー!? なんでこんなとこに!?」
そこには、さるぐつをされた上に左右から兵達に拘束されているフィーユが、涙目で立っていた。
「ルイセさん、大丈夫ですか!? ……あれ、そちらの方はティセさん?」
なぜルイセの部屋にティセがいるのかわからず、ルルーは首を傾げた。
当のティセは所在なさげに頭を下げる。親善外交中にティセが使用していた部屋はすでに片付けられているため、昨夜、ルイセはティセを自室に連れていき治療を行いそのまま泊めていた。
そのルイセはといえば、一人だけいつも通りの平然とした顔をしている。
「ルルー王女、ご心配なく。肋骨が二本折れただけなのでたいしたことないです」
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「骨折!? 白の聖王国の貴族のかたに骨折させてしまうなんて、なんとお詫びを……って、敵の襲撃ってなんですかそれ!?」
情報量が多すぎてルルーは理解が追い付かなくなってくる。
「おそらくティセさんが白の聖王国の貴族というのは嘘だと思うので、そこは心配ないかと思います。このかたはどちらかというと、私側のかたかと思いますので」
「いや、これでも私、一応貴族の出なんだけど……」
申し訳なそうに告白するティセ。ルイセはそちらに素早く顔を向けると、さも意外だという顔を浮かべた。
「あ、そうなんですか。それは失礼しました。まさか貴族のお嬢様があんな体術を使われるとは思わず」
「まぁ、色々あったからね」
「ちょっと待ってください! もうなにがなんだか……とりあえず、一から全部説明してください!」
少々お怒り気味のルルーに、二人は昨夜のことを事細かく説明するハメになった。
話の流れから、ルイセは以前のティセの襲撃のことも説明せざるを得なくなったが、そのことをルルー達に黙っていたことがバレ、ルイセはそのことに関して改めてお叱りを受けることとなってしまった。
なお、ティセには、色々理由をつけて王女直々の王城への滞在許可が下りることとなった。
◆ ◆ ◆ ◆
赤の王国軍の野営地の本部天幕に向かう人影が一つ。
それはまぎれもなくラプトの姿だった。
単独で紺の王国の王城に侵入しルイセ及びティセとの戦闘を行ったラプトは、無事王都から脱出し、この場所へと戻ってきていた。
「ルージュ、戻ったぞ」
あれほど探しても見つからなかったラプトが堂々と天幕の入り口を開いて入ってくるのを見て、ルージュは目を丸くする。
「あなた、一体今までどこに行っていたのよ!? 何日も姿を見せないで!」
「すまんな。ミュウという奴と戦いたくて紺の王国の王都に行っていたんだが空振りだった」
真顔で言うラプトに、ルージュはやれやれといった顔を向ける。
「はぁ? なに馬鹿な冗談を言っているのよ!」
ラプトの実力は知っているつもりだが、さすがのルージュもまさか本当にそんなことをするとは思いもしない。本当のことをごまかすために適当なことを言っていると考えるのも当然だった。
「冗談を言った覚えはないが……。お前の言うとおり戦場にいたほうが強い奴に会えそうだ」
「正直に言うつもりはないのね。……まぁいいわ。とにかく、もう勝手にどこかに行ったりはしないってことよね?」
立場上ラプトはルージュの部下ということになっているが、ラプトにその気はなく、ルージュもこの男が単純に自分の言うことを聞くとは思っていない。二人の関係は対等なものだった。むろし、ルージュがラプトの力を必要としているのに対して、ラプトは別にルージュの力を必要としていないことを考えると、ラプトの方が上かもしれない。
「安心しろ。お前に従って戦場にいることが強い奴と戦う一番の近道というのなら、ここから離れるつもりはない」
「わかったわ! だったらすぐに戦いの準備をしてあげるわよ!」
ルージュが軍を動かさなかったのはラプトがいないというただその理由のみ。
その問題が解消された今、赤の王国軍が慌ただしく動き始めた。
◆ ◆ ◆ ◆
赤の王国軍の動きは、すぐにキッド達の知るところとなった。
王都からの援軍が出発したとの報せを受けているが、残念ながらまだ到着はしていない。
キッド達は、元々いた兵と、キッドとミュウが連れてきた追加の500の兵とで、赤の王国軍に対抗するしかなかった。
戦闘準備で天幕の外で忙しそうに兵達が行き交う中、本部天幕ではキッド、ミュウ、エイミ、ソードが顔を突き合わせ軍議を行っていた。
「今回の全体指揮はエイミに任せる」
「私でいいの?」
王がいないこの場では、軍事においては軍師のキッドが立場上トップだった。順当に考えればキッドが総指揮を取ることになる。もしそうでないとしても、次は騎士団長のミュウがその任に就くのが妥当だった。
しかし、キッドが総指揮官に指名したのはエイミだった。
「ここの兵の多くは黒の帝国軍の兵だった者達だ。エイミの方が彼らのことをよくわかっている。それに、向こうには竜王破斬撃を使えるルージュと、ソードを降したラプトがいる。ソードが前線に出られない以上、その二人をなんとかするのは、俺とミュウの役目だ。俺達はフリーに動いて二人を何とかする」
キッドの隣でミュウが力強くうなずく。わざわざ話し合わなくとも二人の想いは一つだった。
「わかったわ。その二人をなんとかしてくれるのなら、私の指揮でこの戦いに勝って汚名返上してみせるわ」
「頼もしいね。ただ……ソード、あなた、後方とは言え本当に戦場に出るつもり?」
ミュウは心配げな顔をソードへと向けた。
ソードの傷は決して軽いものではない。右手はまだまともに剣を握れるような状態ではなかった。キッドとミュウはソードに、黒の都へ戻って補給などの後方支援の任に就くよう勧めたが、ソードは頑なに戦場に残ると言い張り、この地を離れようとはしなかった。
「この体でもエイミの支援くらいはできる。それにこの腕はちゃんと体にくっついている。いざとなれば剣を振るうことも可能だ」
医療班から聞いたソードの怪我の具合を考えれば、まだとても剣を触れるような状態でないことはキッド達もわかっている。だが、ソードからその言葉には、この男なら本当に平気で剣を振るいそうに思える力強さがあった。
「無理だけはするなよ」
「わかってる。迷惑はかけんさ」
ソードといい、エイミといい、先の戦いの敗北を自分の責任だと思っているのだとキッドは感じる。
(ルルーから受けた信頼を返したいと思ってくれているんだろうな。だが、あまり気負ってほしくはないな)
「いいか、みんな。俺達は赤の王国軍に領地を奪われているが、取られたなら取り返せばいいだけだ。でも、命だけは失えば二度と取り戻せない。そのことだけは肝に銘じておいてくれ」
「わかってるって」
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「……了解した」
当然だといわんばかりの笑顔でうなずくミュウ、固い表情でうなずくエイミとソード。反応は違ったが、それぞれにキッドの想いを受け取った。
そこに、天幕の外から何やら騒がしい声が近づいてくる。
なにごとかと自然に四人の視線が天幕の入り口へと向いた。
まもなく、天幕の外から呼びかける声が聞こえてくる。
「キッド様、近くで怪しい者を捕らえ、尋問しようとしたのですが、なにやらキッド様に会わせろ、さもないと魔法攻撃をするぞと騒ぎ出しまして……いかがいたしましょうか」
兵の言葉に四人は顔を見合わせ、それぞれに戸惑いの表情を浮かべる。
「一体どんな奴なんだ? ここに連れてきてくれるか?」
「それが、あまりに会わせろとうるさく言うものですから、魔法を唱えられないようさるぐつわをかました状態で連れてきております」
「……わかった。俺が確認する」
キッドは天幕を出て、兵達が連れてきたという怪しい者に目を向けた。
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