国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい

文字の大きさ
上 下
55 / 157

第53話 四色の魔導士

しおりを挟む
四色ししきの魔導士』とは、この島に伝わる伝説に出てくる四人の魔導士のことだ。
 赤の導士、青の導士、白の導士、黒の導士、それぞれの色の衣をまとった四人の魔導士。その四人の魔導士が、この島に混乱が満ちた時、王を助け騎士を率いて世界を救うというお話だ。
 御伽噺といってしまえばそれまでだが、この島の人間なら誰もが知っている話だった。
 赤の王国の魔導士ルージュは、いつの頃からか国の者から「赤の導士」と呼ばれるようになり、自分こそが最高の魔導士であるという自負とともに、自らもその二つ名を名乗るようになっていた。

「ルージュ様、野営地の隅から隅まで探したのですが、やはりラプト様の姿は見当たりません」

 赤の王国野営地の本部天幕で、部下からの報告を受けたルージュは、美麗な顔を怒りにゆがめて部下を睨みつける。
 この部下が悪いわけではないとわかっていても、つい顔に出てしまうのはルージュの悪い癖だった。

「……もう一度探してもらえるかしら」

「は、はい……」

 部下の顔はこれ以上何度探しても同じですよと言いたげだったが、ルージュはそれを咎めることもなく、また逆に指示を撤回することもなく、命令を遂行させるために下がらせた。

「はあ……あのバカ武人はどこへ行ったのやら」

 紅の髪と紅の瞳を持つ美女ルージュは、一人になると、憂いを帯びた表情でため息をつく。
 彼女が部下に探させているのはラプト。一騎打ちにてソードを倒した男だった。
 ルージュは赤の王国の宮廷魔導士にして軍師。ラプトはそのルージュが見つけてきて、赤の王国の将へと取り立てた男だった。
 部隊を指揮する能力ではまだまだ未熟なとこがあるが、個の力だけを見ればラプト以上の戦士をルージュは知らない。ルージュの推薦を受けたラプトが、その力を証明するため、女王の前で赤の王国の名だたる騎士達を一蹴して見せた時のことをルージュは今でも思い出す。
 今回の紺の王国との戦いにおいても、ルージュの竜王破斬撃の後、敵将ソードをラプトが打ち倒したことは勝利に大きく貢献していた。もしあそこでラプトがソードを止めてくれなかったら、部隊を立て直され、ああも簡単に勝てなかったことはルージュも認識している。
 紺の王国との戦いにおいて、ラプトは欠くことのできない男だった。

「だというのに、そのラプトはどこにいったのよ、もう!」

 戦いを終えて以降、ラプトは姿を消していた。
 もともと地位や名誉や金のために赤の王国に仕えた男ではない。
 より強い相手と戦える、そう言ってルージュに誘われたからついてきた男だ。その目的が果たせないとなったら、躊躇いもなく赤の王国を離れかねない。ラプトとはルージュでも縛ることのできない男だった。

「ラプトがいないんじゃ、下手に仕掛けられないじゃないのよ……」

 思い通りに動いてくれない最強の部下のことを考えると、ルージュは頭が痛くなる。彼女は疲れたように椅子に深く座って項垂れた。
 最初の戦いを終えて以降、赤の王国軍が紺の王国軍に攻撃を仕掛けていないのは、実のところこのラプト不在によるものだった。

◆ ◆ ◆ ◆

 紺の王国では、残ったルイセが援軍の準備を着々と進めていた。
 赤の王国以外に紺の王国が国境を接するのは、緑の公国と白の聖王国の二カ国。緑の公国とは同盟関係にあり、白の聖王国も先の外交交流を見る限り早急に軍事行動を取ってくる可能性は低い。そのため、王都には防衛に必要な最低限の兵だけを残して、援軍は十分な兵を送ることとなっている。
 そのこともあり、ルイセの仕事はなかなかに多忙だった。それでも、昼の激務を終えたルイセは、夜になりようやく部屋に戻ってきた。
 やれやれと軍服を脱いで楽になろうとしたところで、ルイセは城の外に明らかな敵意を感じ取った。

(……またですか)

 つい最近似たようなことがあったことをルイセは思い出す。
 だが、今回はあの時とは違っていた。あの時のティセは殺気を振りまき、こちらが出ていくのを待っている状態だったが、今度の敵意は明らかに城内へと近づいてきている。

(この感じはティセさんではありませんね。ですが、おそらくは相当の使い手……)

 ルイセは武器を手に取ると、急いで部屋から飛び出した。
 しばし敵意に向かって駆けたところで、ルイセは二階の窓から中庭にいる人影に気付く。

(見つけた!)

 ルイセは躊躇いもなく二階の窓から身をひるがえし、ほとんど音もさせずに着地した。
 ルイセの存在に気付いた相手に向かい、ルイセは厳しい視線を向ける。

「何者ですか!?」

「俺の名はラプト。……ちょうとよかった。中に入ったはいいが、道に迷っていたところだ。……ミュウという者のところへ案内してくれないか?」

 ルイセの鋭い誰何の声にも相手は慌てた様子さえ見せなかった。
 180cmを超える体躯の男で、袖の短い服からのぞく腕はまるで鋼のようだ。長い黒髪は無造作に伸び、前髪も伸びすぎたのか片目が隠れてみえる。隠れていない切れ長の目は鋭く、黒い瞳の中には野性味とともに思慮深い戦略家を思わせる知性の光も蓄えている。

「ミュウさんに何の用でしょうか?」

「ソードという男を倒した時に奴が言っていたんだ。ミュウという剣士は自分以上だと。それを聞いていてもたってもいられなくなってな」

(ソードさんを倒したですって? ……もしかして、赤の王国との戦いでソードさんを倒したのはこの男!? ……だとしたら、ミュウさんやキッド君の前に現れる前に、私が今ここで倒しておくまで!)

 ルイセは無言で双剣を抜いて構えた。

「やる気になってくれているようだが、もしかしてお前がミュウか?」

「違いますよ。ただ、あなたとミュウさんを会わせるつもりはないだけです」

 ラプトは背中に大剣サイズの剣を二本も背負っているが、まだそれを抜いてもしない。だが、ルイセは相手が構えるのを待つつもりなどなかった。どうやってソードを倒したのかわからないが、それが事実ならば手加減や様子見をしている余裕がある相手ではないことはわかる。そのため、いきなり全力でいくつもりだった。

闇の虜囚ダークゾーンが使えればよかったのですが、空には雲もなく月が出ていて使えません。ですが、幻影刃ファントムブレイドなら十分使える暗さ!)

 魔法発動の声をつぶやくと、幻影を残してルイセは闇に紛れる。

(まずは足の筋を斬って動きを封じます。詳しいことはそれから聞き出せばいいこと!)

 魔法で自分の姿に闇を重ねたルイセはラプトの背後を取り、二本の刃でラプトの脚に斬り付けた。以前にティセには特異な方法で接近を察知されたが、普通の人間が初見でこの攻撃を防ぐのは至難の業。
 ルイセの双剣がラプトの脚へと食い込んだ。
 しかし、ラプトの足の筋に到達するまでにルイセの刃の勢いがみるみる減退する。
 ラプトの鍛え上げた筋肉が、鎧のようにルイセの刃を受け止めていた。

(判断を誤ったか!? 首を狙うべきでしたか!)

 ルイセがさらに刃に力を込める前に、ラプトの足が回し蹴りがルイセに襲い掛かる。

(くっ!)

 ルイセはそれ以上斬り付けるのを諦め、ティセの時にしたように、自ら飛んでダメージを受け流そうとする。だが、ラプトの蹴りはティセの時以上の速さと衝撃だった。
 ルイセは脇に蹴りを受け大きく跳ね飛ばされる。

(しまった!?)

 転がりながら起き上がったルイセは脇腹を押さえる。

(肋骨を何本かやられました。動きを封じるのではなく、頸動脈を狙うべきでした……)

 今更後悔しても遅かった。武器を握ったまま跳んだので、まだルイセの手に武器はあるが、肋骨が折れたせいで呼吸は荒く、間違いなく動きにも影響が出てくる。

「なかなかの使い手だな」

 ラプトは背中に×の字に背負った二本の剣に手を伸ばして、引き抜いた。どちらの剣も大剣に近い長さにもかかわらず、それぞれ片手で悠々と構える。

(剣も抜いてない相手にこのざまとは……これは私の最大のミスかもしれませんね)

 ルイセの背中に冷たい汗が流れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...