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第49話 ルルーなりの晩餐
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聖王レリアナ到着のその日は、セレモニー的なものは何も行われず、簡単な城内の案内だけで、あとはレリアナ達の疲れを癒すための自由な時間にあてられた。
また、その夜の食事はルルーの提案により、ルルー、キッド、ミュウ、ルセイとレリアナ、グレイ、ティセ、フィーの8人だけで開催された。厨房付きの部屋の中、レリアナ達白の聖王国の四人は席についているが、紺の王国の四人の姿は対面の席にない。
とはいえ、レリアナ達はそのことを失礼には感じていない。それどころか、むしろ恐縮していた。
なぜなら、ルルー達4人は厨房にいて、料理の準備をしているのだから。
主に作るのはルルーで、三人はその簡単な手伝いと食事を運ぶ役割に当たっていた。
ちなみに、冒険者時代に自分で食事を用意していたこともありミュウは料理が上手だった。ルイセは味付けに関しては色々と問題があったが、手先が器用で食材を切ったりするのは誰よりもうまいくらいだった。一番問題があったのはキッド。ミュウと同じように冒険者を経験しているのに、早急に調理においては戦力外と判断され、料理の皿運びが主な仕事となっていた。
厨房で一番汗をかいているのはルルー。王族でありながら、ルルーは自ら料理ができた。
財政が逼迫し、王宮の料理人達を雇えなくなったときに備え、ルルーは折を見て彼らから料理を学んでいたのだ。キッドがこの国に来て以降国力は拡大し、今ではそういった心配もしなくて済むようになっているが、ルルーはいまだ料理の勉強を続けていた。
もっとも、腕前でいえば、プロの料理人達にはかなわない。
それでも、ルルーは自ら料理を用意することで、歓迎の気持ちをレリアナ達に示したかったのだ。
ルルーが中心となって作り上げた料理を、キッド達が運んでいく。
コース料理として提供しては一緒の食卓につけないので、料理は作りきってすべてを並べていく。
並んでいく料理は、王宮料理に比べれば、質も量も劣っていた。
郊外の農場で取れた新鮮な季節の野菜をたっぷり使用した風味豊かなスープ、新鮮なハーブとレモンを使ったソースをかけたローストチキン、手作りで焼き上げた香ばしいパン、その程度の料理だった。
大国である白の聖王国の聖王一行に提供するには、失礼と捉えられるかもしれないが、それでもこれがルルーなりの誠意の形だった。
主たる厨房の後片付けは食後に回し、簡単な片付けだけを終えたルルー達も席につき、ようやく食卓に全員がそろう。
「お待たせしてすみません、レリアナ様」
「いえ……ルルー王女はお料理をなさるんですね」
レリアナの顔は意外そうだった。王族が自ら料理を作るというのは、この世界の常識からは外れたことなので、その反応は自然なものだ。
「まだまだ腕の方は未熟なんですけどね。でも、いざという時に、自分で食事くらい作れないといけないと思いまして」
「たくましいですね。……でも、私も料理は作れるんですよ」
レリアナ言葉に、ルルーだけでなく、キッド、ミュウ、ルイセも驚きの顔を向ける。いい意味で王族らしくないルルーの行動に慣れているキッド達だったが、よその国にもルルーのような王がいるとはさすかに思ってもみない。
「レリアナ様こそ意外ですね。紺の王国と違って白の聖王国は大国なので、そういったこととは無縁なものと思っていました」
「確かに白の聖王国は大きな国ですが、私は聖王になる前はただの下級貴族の娘でしたから。その頃は、専属の調理人もおらず、使用人が料理を作ってくれていたのですが、私もよく手伝いをしてたんですよ」
白の聖王国では神の天啓を受け聖王が選ばれるが、選ばれた者のそれまでの素性はあまり公にはされない。レリアナについても貴族の家の出だという情報は他国にも伝わっているが、具体的なことについては詳しく知られていなかった。
それだけに、レリアナから直接語られたその事実に、ルルーはどこか親近感を覚える。
「ぜひその頃のお話をお聞かせいただきたいです!」
聖王レリアナではなく、ただのレリアナだった頃の話。それはレリアナがもう語ることはないと思っていた話。それをよりによって、他国でしかも王女相手にすることになるとは、レリアナも思ってさえいなかった。
それは今の聖王国の実情を知るにはまったく意味のない話でもある。だからこそレリアナは感じる。少なくとも今は、聖王としてではなく、一人のレリアナという人間として、ルルーが向かい合ってくれていることを。
「……ぜひ。私もルルー様のことをもっと知りたいです」
向かい合う席の二人は、互いに近しいものを感じ見つめ合った。
「レリアナ様、ルルー王女、お二人が仲良くしていただけるのは大変結構なのですが……せっかくの料理が冷めてしまいますよ」
二人の話の腰を折るのは気が引けたが、目の前でルルーの料理の旬の時間が過ぎていくのに耐えきれず、キッドがとうとう口を挟んだ。
「すみません、みなさん。つい夢中になってしまって。お口に合うかどうかわかりませんが、どうぞお召し上がりください」
聖教会に属するレリアナ達とルルーとでは食事の前の祈りの方法は異なる。各自がそれぞれのやり方で祈りを終えると、8人は食事に手を付け始めた。
ルルーとレリアナは互いの立場も忘れたかのように、話に花を咲かせていく。
その二人につられるように、どこか固いところがあったキッドやフィー達も、それぞれに話をはじめ、いつのまにかその場は楽しい宴の場となっていた。
また、その夜の食事はルルーの提案により、ルルー、キッド、ミュウ、ルセイとレリアナ、グレイ、ティセ、フィーの8人だけで開催された。厨房付きの部屋の中、レリアナ達白の聖王国の四人は席についているが、紺の王国の四人の姿は対面の席にない。
とはいえ、レリアナ達はそのことを失礼には感じていない。それどころか、むしろ恐縮していた。
なぜなら、ルルー達4人は厨房にいて、料理の準備をしているのだから。
主に作るのはルルーで、三人はその簡単な手伝いと食事を運ぶ役割に当たっていた。
ちなみに、冒険者時代に自分で食事を用意していたこともありミュウは料理が上手だった。ルイセは味付けに関しては色々と問題があったが、手先が器用で食材を切ったりするのは誰よりもうまいくらいだった。一番問題があったのはキッド。ミュウと同じように冒険者を経験しているのに、早急に調理においては戦力外と判断され、料理の皿運びが主な仕事となっていた。
厨房で一番汗をかいているのはルルー。王族でありながら、ルルーは自ら料理ができた。
財政が逼迫し、王宮の料理人達を雇えなくなったときに備え、ルルーは折を見て彼らから料理を学んでいたのだ。キッドがこの国に来て以降国力は拡大し、今ではそういった心配もしなくて済むようになっているが、ルルーはいまだ料理の勉強を続けていた。
もっとも、腕前でいえば、プロの料理人達にはかなわない。
それでも、ルルーは自ら料理を用意することで、歓迎の気持ちをレリアナ達に示したかったのだ。
ルルーが中心となって作り上げた料理を、キッド達が運んでいく。
コース料理として提供しては一緒の食卓につけないので、料理は作りきってすべてを並べていく。
並んでいく料理は、王宮料理に比べれば、質も量も劣っていた。
郊外の農場で取れた新鮮な季節の野菜をたっぷり使用した風味豊かなスープ、新鮮なハーブとレモンを使ったソースをかけたローストチキン、手作りで焼き上げた香ばしいパン、その程度の料理だった。
大国である白の聖王国の聖王一行に提供するには、失礼と捉えられるかもしれないが、それでもこれがルルーなりの誠意の形だった。
主たる厨房の後片付けは食後に回し、簡単な片付けだけを終えたルルー達も席につき、ようやく食卓に全員がそろう。
「お待たせしてすみません、レリアナ様」
「いえ……ルルー王女はお料理をなさるんですね」
レリアナの顔は意外そうだった。王族が自ら料理を作るというのは、この世界の常識からは外れたことなので、その反応は自然なものだ。
「まだまだ腕の方は未熟なんですけどね。でも、いざという時に、自分で食事くらい作れないといけないと思いまして」
「たくましいですね。……でも、私も料理は作れるんですよ」
レリアナ言葉に、ルルーだけでなく、キッド、ミュウ、ルイセも驚きの顔を向ける。いい意味で王族らしくないルルーの行動に慣れているキッド達だったが、よその国にもルルーのような王がいるとはさすかに思ってもみない。
「レリアナ様こそ意外ですね。紺の王国と違って白の聖王国は大国なので、そういったこととは無縁なものと思っていました」
「確かに白の聖王国は大きな国ですが、私は聖王になる前はただの下級貴族の娘でしたから。その頃は、専属の調理人もおらず、使用人が料理を作ってくれていたのですが、私もよく手伝いをしてたんですよ」
白の聖王国では神の天啓を受け聖王が選ばれるが、選ばれた者のそれまでの素性はあまり公にはされない。レリアナについても貴族の家の出だという情報は他国にも伝わっているが、具体的なことについては詳しく知られていなかった。
それだけに、レリアナから直接語られたその事実に、ルルーはどこか親近感を覚える。
「ぜひその頃のお話をお聞かせいただきたいです!」
聖王レリアナではなく、ただのレリアナだった頃の話。それはレリアナがもう語ることはないと思っていた話。それをよりによって、他国でしかも王女相手にすることになるとは、レリアナも思ってさえいなかった。
それは今の聖王国の実情を知るにはまったく意味のない話でもある。だからこそレリアナは感じる。少なくとも今は、聖王としてではなく、一人のレリアナという人間として、ルルーが向かい合ってくれていることを。
「……ぜひ。私もルルー様のことをもっと知りたいです」
向かい合う席の二人は、互いに近しいものを感じ見つめ合った。
「レリアナ様、ルルー王女、お二人が仲良くしていただけるのは大変結構なのですが……せっかくの料理が冷めてしまいますよ」
二人の話の腰を折るのは気が引けたが、目の前でルルーの料理の旬の時間が過ぎていくのに耐えきれず、キッドがとうとう口を挟んだ。
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聖教会に属するレリアナ達とルルーとでは食事の前の祈りの方法は異なる。各自がそれぞれのやり方で祈りを終えると、8人は食事に手を付け始めた。
ルルーとレリアナは互いの立場も忘れたかのように、話に花を咲かせていく。
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