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第40話 対落研

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「よーし、ついにたどりついたぞ! 生徒会室!」
「長かったですね。いつもなら五分で来られるような距離なのに」

 本当に長かったと彼方はしみじみと思う。息継ぎなしで二十五メートル泳いだ時の、ラスト五メートルに匹敵するほど長く感じた。

「それじゃあ、扉を開けるわよ」

 そう言って盟子がドアに手をかけた時──

「ちょっとお待ちください。その扉を開けるのは、この秘密兵器にして最終兵器たる落研会長、落合おちあいひろしを倒してからにしてもらいましょう!」

 誰かがドアに手をかけるのをそこでじっと待っていたのか、柱の陰から小太りの男がタイミングよく姿を現した。
 落研を名乗るものの、落語家然とした服装をしているわけではなく、服装は学校の制服で、今までの相手ほど見かけの威圧感(いかがわしさ?)はない。
 そのためか、あるいは単にクラブマスターとの戦いに慣れてしまったためか、落合博を見ても彼方達は驚いた様子をほとんど見せていない。

「しかし、いかに秘密兵器でも落研じゃなぁ」
「どうせ、小話聞かせて笑い殺す、とかいうのが関の山って感じよね」
「あるいは~、つまらない話を聞かせて眠らせてるっていう技かもしれませんよ~」

 とろりんにまでバカにされる落研。それの存在価値って一体……

「あなた方はどうやら落研をなめているようですね。ならば、私の真の力をお見せしましょう!」

 言うなり落合博は着ていた制服を無理矢理引っ張って脱ぎ捨てた。ボタンがついたままだったので、ボタンが弾けて宙を舞う。また、ズボンの方は、腹に力を入れてベルトを断ち切ることにより自然と下に落とす。
 そしてその制服の下から現れたのは──なぜか野球のユニフォーム姿。

「行きますよ! 落研奥義、三冠王打法!」

 ユニフォーム姿になった落合博は柱の陰からバットとボールとを取り出し、いきなりノックを始めた。柱の後ろに自動でボールを放る機械でも置いてあるのか、ポンポンポンとボールは次々に送られ、落合博は空振り一つせずにそれをすべて打っていく。まさに千本ノック状態。

「いてっ! な、なんなんだよ、こいつ!」
「でも、硬球ではなくテニスボールなので、致命的に痛いってわけではありませんね」
「だけど、これのどこが落語研究会なのよ?」

 腕で頭をかばいながら縮こまっている盟子の言葉を耳にし、落合博はノックやめて首をひねる。

「落語研究会? 誰がそんなこと言いました?」
「あなたが自分で言ったでしょうが! 落研の落合博だって!」

「ええ。だから、私は『落合研究会』会長の落合博ですよ」
「…………」

 落合博の言葉をしばし反芻する彼方達。

「落合って、昔活躍した野球選手のあの落合? たしか、息子が声優をしているあの落合?」
「他にどの落合がいるって言うんですか?」

「言われても昔の選手すぎてなぁ。現役の頃とか知らないし」
「ネットで検索してください!」

「つまり、落合研究会、略して落研なのね」
「はい、そうですよ──ってみなさん、なんだか殺気だってません?」

 うつむき気味の顔の中、異様にぎらぎら光る瞳。ほかの顔の部分にはそんな様子は微塵もないのに、何故かそこだけ笑いの形になっている口元。そんなおかしな雰囲気をした彼方達が落合博の方に一歩のそっと近寄る。
 気圧され、後ずさる落合博。バットをつっかえ棒にして、無意識に下がろうとする体をそこでなんとか押しとどめた。

「……一度、冷静に話し合いましょか?」

「うるさい! 天文部奥義、惑星八連撃!!」
「ぶぎゃぎゃぎゃ!」

「アニメ同好会奥義、北斗百烈拳! アータタタタっ」
「ひでぶっ!」

「無視された恨みです。マジック部奥義、射殺!」
「うぎゃー!」

「おまけの、とろりんパ~ンチ!」
「…………やられた~」

「なんか虚しい戦いだったな」

「……なんか一人銃殺していた人がいたような気がするんだけど」

「忘れましょう、今のは。あんな人とかかわったのは人生の汚点でしかありません」

「あなたとかかわったのも似たようなもんだと思うけど……。まぁ、今のは気にしないことにするわ」

 四人は気を取り直して、再び生徒会室の扉の前に立った。
 今度は彼方がそれに手をかける。

「行くぞ、みんな!」

 そしてドアが開かれた。
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