上 下
39 / 47

第39話 最後の刺客

しおりを挟む
「はぁー、はぁー」

 生徒会室に走り込んでくるなり、副会長はその場で犬のように荒く口で呼吸し出した。

「どうしたのよ? やっと戻って来たと思ったら、帰ってくるなりそんなに息切らせて……ってあなた、いつの間にかずいぶんボロボロになってるけど、何かあったの?」

 麗奈は怪訝そうな視線を上下させ、埃まみれで白くなっている副会長の制服をみやる。

「い、いえ! 何もありません! 天地神明に誓って!」
「そんなにムキにならなくても……。それより、腹原操とあなたの推薦した文学部はどうなったの?」

 どう見ても副会長の慌てぶりは普通ではなかったが、麗奈にはあえてそのことを追求する気はなかった。彼女には金魚のフンのごとき部下のことよりも、重要な問題が山積しているのだから。

「文学部の美少女仮面はかなり頑張って相手を苦しめたんですけど……」
「な、何? その美少女仮面って?」

 聞き流したくとも、聞き流せないほどの訳がわからない恥ずかしい言葉を受け、思わず副会長の話を遮った。副会長はその質問にしどろもどろになる。

「いっ!? そ、それはともかくとして、とにかく文学部は健闘したんですけど、敵の卑怯な技の前に惜しくも涙を飲む結果となりまして……」
「ようするに負けたのね」

 麗奈の視線は冷たかった。副会長はしゅんと肩を落とす。

「……はい。そういうことです」
「はぁ。全く役に立たない人達ばかりねぇ。……でも、あなた、まるで見て来たみたいに話すけど、近くで見ていたの?」

「いっ。そ、それは……そんな気がするなーってことで……」

 その質問に副会長は再びしどろもどろになる。

「なんか怪しいわねぇ」
「あ、怪しくありませんよ。フリーメイソンくらい怪しくないですよ」

「それって滅茶苦茶怪しいんだけど……まぁ、いいわ。それよりも次の策を考えないと」
「次の策も何も、こうなったら秘密兵器であるこの私が出るしかないでしょう」

 その言葉は麗奈のものでも、副会長のものでもなかった。それは、最後に一人残ったクラブマスター──落研会長のもの。

 背丈は標準だが、横は普通以上。中年太りのように出たおなかが、制服を窮屈そうに見せている。顔はダラしない感じだが、どことなく不敵な笑みを始終浮かべている。

「秘密兵器って、誰がそんなこと決めたのよ」
「それはともかく、私が出るからには大船に乗った気持ちでいてください」

 落研会長は、胸をポンと叩きつつ、麗奈達の前に通って扉の方に歩いて行く。

「……ドロ船でなきゃいいけどね」
「はっはっは。そりゃおもしろい。ですが、大丈夫です。私の船はきらびやかな豪華客船。言うなれば、タイタニック号です」

「それじゃどっちにしろ沈むでしょうが!」
「はっはっは。それもそうですな」

 馬鹿な笑い声を上げながら落研の男は生徒会室の扉を開け、廊下に出て行った。

「……会長、あんなのでホントに大丈夫なんでしょうか?」
「さぁ? でも、あれはあなたが連れて来たんでしょ?」

 その言葉を受け、副会長は目を大きく見開き、首と両手をブンブン横に振る。

「とんでもない! あんな人、私は知りませんよ。会長が連れて来られたんじゃないんですか?」

「私だってあんなの呼んだ覚えないわよ!」

「じゃあ、あの人、なんでここにいたんでしょう?」

「…………」
「…………」

 麗奈と副会長は二人そろって首をひねった。

「……それと、各クラブの予算書見ていて、もう一つ気になることを見つけたのよ」
「どうしたんですか?」

「うちの学校には落語研究会って存在していないのよ」

 麗奈は予算書をペラペラペラってめくってクラブの名前を確認するが、やっぱり落語研究会の名前はない。部員が一人しかいないようなクラブや同好会でも、とりあえずここに名前くらいは書かれているはずなのに。

「へっ? でも、あの人、落研の会長だって言ってませんでしたっけ?」
「そう。確かにそう言ってたのよ。だから、不思議なのよねぇ」

 考えれば考えるほど、二人の疑問は深まるばかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貞操観念が逆転した世界に転生した俺が全部活の共有マネージャーになるようです

卯ノ花
恋愛
少子化により男女比が変わって貞操概念が逆転した世界で俺「佐川幸太郎」は通っている高校、東昴女子高等学校で部活共有のマネージャーをする話

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

処理中です...