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第37話 それぞれの人形
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『結局たいして役にはたたなかったナ。まぁ、ハナから期待してなかったケド』
「……そうだね。やっぱり僕らだけで十分だね」
操は、倒れた美少女仮面を介抱するどころか、そちらに目を向けることさえしない。
「仲間がやられたのにまだやる気?」
「仲間? 誰のことを言ってるの? まさか、あの変な女の人? 冗談はやめてほしいな。こんな人、仲間でもなんでもないよ。僕の仲間はみーくん達人形だけだ」
再び赤く輝くみーくんの瞳。拡散したビームの雨が彼方達を襲う。
『やったカ?』
光の雨が上がった後、そこには無傷の四人が立っていた。
それぞれの前には、淡く輝く小さな物体が一つずつ浮かんでいた。それを目にした操の顔が、気の毒に思えるほどに青ざめる。
「……その子達は!?」
彼方の前には昔流行ったロボットアニメのプラモデル、盟子の前には自分が作ったガレージキット、とろりんの前にはいつも彼女が抱いて寝ているかえるのぬいぐるみ、品緒の前には五寸釘の刺さった藁人形……。
「これは俺が作ったプラモ……。こいつが助けてくれたのか?」
「先週仕上げたばかりのガレキじゃないの! なんでこんなところに!?」
「私のけろっぴだ~。遊びに来てくれたの~?」
「一昨日確かに神社の木にしかと打ち付けたはずの藁人形が何故……」
ドカッ
品緒は彼方に蹴飛ばされた。
「……腹話術部の奥義に反応してここまで来たの? でも、どうして君らはそいつらの味方をするんだい!? そいつらは君らを人形としてしか捉えていない人達なんだよ! そんな人達と一緒にいても不幸になるだけなんだよ!」
操は彼方達にではなく、彼らの前に浮かんでいる人形達に必死に呼びかけた。それは、彼方達と喋っている時からは想像もできないほどの魂がこもった心からの言葉だった。
操の訴えかける目を正面から受ける人形達。だが、当の人形達も操に負けないくらい何かを訴えかけていた。──少なくとも操にはそう感じられた。
ふいに飛び込んでくる様々なヴィジョン。
「こいつだけは全力で作ってやるぜ。なにしろ俺の一番好きなマシンだからな」
彼方がニッパーで切り離したパーツにヤスリをかけ、尖った部分をそぎ落とす。
「お前が巨大化してくれればなぁ。空なんて自由に飛び回れるのに」
接着剤がはみ出さないように気を配りながらパーツを組み立てていく。
「プラモ狂四郎の世界なら、俺とお前の力を示してやれるのになぁ。どっかがあのシステムを開発してくれないかな」
震える指で初めての色塗りに挑戦する。
「ああっ! このパイロットの塗りは会心の出来だったのに、キャノピーの中に隠れて見えないようになるじゃないか! なんてこったい」
「愛しのルル様、今私が作ってあげますからね」
レジンのパーツを離剥剤を落とすための溶液に浸したその後、歯ブラシにクレンザーと中性洗剤を混ぜ合わせたものをつけて、それぞれのパーツを丁寧にこする。
「凛々しいですわ、ルル様」
余分の部分を余裕をもってニッパーで落とし、その残った部分をヤスリや紙ヤスリできれにい整える。
「肩がこってきた……。でも頑張る!」
パーツのずれや気泡をパテで埋めた後、サーフェイサーを吹き付ける。
「ぴったりくる目のデカールがないじゃない! うーっ! こうなったら自分で描いてあげるわよ!」
一番細い筆を取り出して、全神経を集中し瞳を描き始める。それは手術の外科手術に匹敵する細やかな作業だった。
「けろっぴ、一緒に寝ようね~」
かえるの人形を抱きしめつつ、眠りに落ちる。
「さぁ、けろっぴ~、起っきしようね」
ベッドから身を起こし、かえるの人形を抱いて立ち上がる。
「けろっぴ、朝ゴハンだよ~」
ジャムのたっぷりついたトーストをかえるの口に押し当てる。
「こらっ、吐露! けろっぴはゴハンは食べないのよ!」
「この恨み晴らさでおくべきか」
カコーン
釘を打つ音が葉音だけしか聞こえない林の中に響きわたる。
最後のヴィジョンだけは、途中で丸めて捨てる。
操の意識は現実に舞い戻ってきた。
「……君らにとってその子達は──」
『まやかしダ! 騙されるナ!』
操の動揺を断ち切ろうと、またもみーくんの瞳が赤い危険な輝きを灯す。
「ま、待って、みーくん!」
しかし操の静止の声も間に合わず、すきっ歯の間から拡散するビームが飛び出した。
ビームの雨が4体の人形に降り注ぐ――
「────!!」
動く三つの影。
「痛っ!」
くぐもった三つの悲鳴が上がる。
「き、君らは……」
操はお化けでも見たかのような驚きを示している。見開かれているその目の先にあるものは──自分の身を盾にして人形達を守っている彼方、盟子、とろりんの痛々しげな姿。
「俺の会心の作品を壊されてたまかるかよ!」
「ルル様はあたしの命よ! やらせはしないわ!」
「けろっぴ~、大丈夫だったぁ?」
自分の人形が無事であることを確認し、傷つきながらも三人は満足げな表情を浮かべていた。
操はその三人を複雑な表情で見つめる。……なお、一人だけ動かず無傷だった品緒の藁人形は、今の攻撃で燃え尽きていた。
「……そうだね。やっぱり僕らだけで十分だね」
操は、倒れた美少女仮面を介抱するどころか、そちらに目を向けることさえしない。
「仲間がやられたのにまだやる気?」
「仲間? 誰のことを言ってるの? まさか、あの変な女の人? 冗談はやめてほしいな。こんな人、仲間でもなんでもないよ。僕の仲間はみーくん達人形だけだ」
再び赤く輝くみーくんの瞳。拡散したビームの雨が彼方達を襲う。
『やったカ?』
光の雨が上がった後、そこには無傷の四人が立っていた。
それぞれの前には、淡く輝く小さな物体が一つずつ浮かんでいた。それを目にした操の顔が、気の毒に思えるほどに青ざめる。
「……その子達は!?」
彼方の前には昔流行ったロボットアニメのプラモデル、盟子の前には自分が作ったガレージキット、とろりんの前にはいつも彼女が抱いて寝ているかえるのぬいぐるみ、品緒の前には五寸釘の刺さった藁人形……。
「これは俺が作ったプラモ……。こいつが助けてくれたのか?」
「先週仕上げたばかりのガレキじゃないの! なんでこんなところに!?」
「私のけろっぴだ~。遊びに来てくれたの~?」
「一昨日確かに神社の木にしかと打ち付けたはずの藁人形が何故……」
ドカッ
品緒は彼方に蹴飛ばされた。
「……腹話術部の奥義に反応してここまで来たの? でも、どうして君らはそいつらの味方をするんだい!? そいつらは君らを人形としてしか捉えていない人達なんだよ! そんな人達と一緒にいても不幸になるだけなんだよ!」
操は彼方達にではなく、彼らの前に浮かんでいる人形達に必死に呼びかけた。それは、彼方達と喋っている時からは想像もできないほどの魂がこもった心からの言葉だった。
操の訴えかける目を正面から受ける人形達。だが、当の人形達も操に負けないくらい何かを訴えかけていた。──少なくとも操にはそう感じられた。
ふいに飛び込んでくる様々なヴィジョン。
「こいつだけは全力で作ってやるぜ。なにしろ俺の一番好きなマシンだからな」
彼方がニッパーで切り離したパーツにヤスリをかけ、尖った部分をそぎ落とす。
「お前が巨大化してくれればなぁ。空なんて自由に飛び回れるのに」
接着剤がはみ出さないように気を配りながらパーツを組み立てていく。
「プラモ狂四郎の世界なら、俺とお前の力を示してやれるのになぁ。どっかがあのシステムを開発してくれないかな」
震える指で初めての色塗りに挑戦する。
「ああっ! このパイロットの塗りは会心の出来だったのに、キャノピーの中に隠れて見えないようになるじゃないか! なんてこったい」
「愛しのルル様、今私が作ってあげますからね」
レジンのパーツを離剥剤を落とすための溶液に浸したその後、歯ブラシにクレンザーと中性洗剤を混ぜ合わせたものをつけて、それぞれのパーツを丁寧にこする。
「凛々しいですわ、ルル様」
余分の部分を余裕をもってニッパーで落とし、その残った部分をヤスリや紙ヤスリできれにい整える。
「肩がこってきた……。でも頑張る!」
パーツのずれや気泡をパテで埋めた後、サーフェイサーを吹き付ける。
「ぴったりくる目のデカールがないじゃない! うーっ! こうなったら自分で描いてあげるわよ!」
一番細い筆を取り出して、全神経を集中し瞳を描き始める。それは手術の外科手術に匹敵する細やかな作業だった。
「けろっぴ、一緒に寝ようね~」
かえるの人形を抱きしめつつ、眠りに落ちる。
「さぁ、けろっぴ~、起っきしようね」
ベッドから身を起こし、かえるの人形を抱いて立ち上がる。
「けろっぴ、朝ゴハンだよ~」
ジャムのたっぷりついたトーストをかえるの口に押し当てる。
「こらっ、吐露! けろっぴはゴハンは食べないのよ!」
「この恨み晴らさでおくべきか」
カコーン
釘を打つ音が葉音だけしか聞こえない林の中に響きわたる。
最後のヴィジョンだけは、途中で丸めて捨てる。
操の意識は現実に舞い戻ってきた。
「……君らにとってその子達は──」
『まやかしダ! 騙されるナ!』
操の動揺を断ち切ろうと、またもみーくんの瞳が赤い危険な輝きを灯す。
「ま、待って、みーくん!」
しかし操の静止の声も間に合わず、すきっ歯の間から拡散するビームが飛び出した。
ビームの雨が4体の人形に降り注ぐ――
「────!!」
動く三つの影。
「痛っ!」
くぐもった三つの悲鳴が上がる。
「き、君らは……」
操はお化けでも見たかのような驚きを示している。見開かれているその目の先にあるものは──自分の身を盾にして人形達を守っている彼方、盟子、とろりんの痛々しげな姿。
「俺の会心の作品を壊されてたまかるかよ!」
「ルル様はあたしの命よ! やらせはしないわ!」
「けろっぴ~、大丈夫だったぁ?」
自分の人形が無事であることを確認し、傷つきながらも三人は満足げな表情を浮かべていた。
操はその三人を複雑な表情で見つめる。……なお、一人だけ動かず無傷だった品緒の藁人形は、今の攻撃で燃え尽きていた。
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