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第36話 対抗策
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「……仮面の人、これはどういうことなんだ?」
「そんなことあなたは気にしなくていいのよ。フォローは私がしてあげるから、あなたは全力で戦いなさい」
「……よくわからないけど、とりあえずそうさせてもらうよ」
操はとりあえず今は深く考えるのはよそうと結論を下した。そして、みーくんの目が三度赤く輝く。
「甘いぞ。出る技と、その方向がわかっているのなら、回避は可能だ」
彼方と盟子は光の軌道を計算し、そこから体を外す。
「……甘いのは、そっちだよ。拡散ビーム」
光を撃つ瞬間、みーくんが自分のすきっ歯を下ろした。歯と歯の間を通る光、歯に反射して普段とは違う軌道を通る光。そんな種種の光が、網のようになって彼方達に襲いかかる。
「まずい! とろりん!」
彼方は咄嗟に残った八つの惑星のうち五つをとろりんの防御に回した。そのため自分の身を守るのに使えるのはわずか三つ。拡散し、多方向から飛び込んで来る光を防ぐのにその数では少々足りなかった。いくつかの光の筋が彼方をかすめていく。幸い分散されている分、一つ一つの光の威力は弱くなっており、多少食らったところで致命傷になるような攻撃ではなくなっていた。だが、それでも多数の浅い裂傷を作るのには充分である。
ビームの嵐が収まった時、一番ダメージを受けていたのは盟子だった。さすがにロッドだけで防げるはずもなく、全身傷だらけで、服もところどころ裂けている。しかし、手でかばっていたのか、さすがに顔だけは守られていて傷らしい傷は見えない。
とろりんの方は、五つの星を送り込んだのが功を奏したようで、彼方の位置からでははっきりとわかるような傷は見当たらない。
彼方はそのとろりんの守りに集中した分ダメージを受けたが、盟子ほどの被害ではない。
「こりゃ、マジで手強い敵だな」
「ええ。相手の秘密がわからない限り、かなりマズイことになりそうね」
傷だらけになった服を悲しげに見やりながら盟子が同意する。
「あの~」
「怪我でもしたか、とろりん?」
「いいえ~、部長のおかげでなんとか~。それより~、ちょっと気になったことがあるんですけど~」
「なんだ、どうした? あの変態仮面の正体でもわかったのか?」
その言葉に美少女仮面が一瞬肩をびくっとさせたが、今の彼方にそれを見て笑ってる余裕などありはしない。
「そうじゃなくって~、さっきから部長達が攻撃するたびに~、地の文に変な傍点の付いた文章が現れてるんですよ~」
何か言ってはいけないことを言っているような気もするが、深く考えてはいけない。
「……確か文学部って言ってたよな」
美少女仮面は再び肩をびくっとさせる。だが、これはさっきのとは内容が違っている。先のは変態仮面という言葉に反応した怒りによるもので、今回は自分の技の秘密がバレるかもしれないという焦りからだ。
「そうか! わかったぞ。地の文に干渉し、起こるべき出来事を自分の思うように変化させられる。それが文学部の奥義なんだな!」
「……まさかこんなに早く気づかれるとは思わなかったわ」
美少女仮面は彼方の指摘をあっさりと認めた。しかし、それは秘密を知られたくらいで破られるはずがないという自分の技に対する自信故だった。
「でも、それがわかったからと言ってどうだというの? あなた達に地の文への干渉が阻止できて?」
「た、確かに……」
「何を言ってるんですか、彼方君!」
今の今まで地面に倒れていた品緒が、ようやく復活して起き上がる。
「今まで寝ていて楽をしていた品緒、何かいい手があるというのか?」
「……なんだかトゲのある言い方ですね」
「そう感じるのは、お前の心にやましさがあるからだ」
「……そんなことより、今は敵と戦うことの方が重要ですよ」
「そうよ。何か策があるならさっさと言いなさいよ」
品緒は話のすり替えに成功した。
「相手が地の文をいじくることができるのならば、ようは地の文を出現させなければいいんです」
「それってつまり……」
「会話文だけで戦えばいいんです」
「ちょっと、そんな非常識なことが許されるとでも思っているの!」
美少女仮面の抗議はもっともだが、彼方達が聞く耳を持っているはずがなかった。
「天文部必殺、地球百烈拳!」
「おおっ。彼方君の意志に従い、地球が謎の覆面さん目がけて飛んで行きますよ」
「そしていきなりカウンターでヒット! さらに地球で往復ビンタ炸裂!」
「ちょ、ちょっと、こんなのって……」
「せっかくコスプレしてるんだから、あたしの力も使っておくわ。さぁ、みんなの傷、治してあげるわよ」
「天井があるのに、何故か雲を裂いて青空が広がっていきますよ」
「あっ! 天使です~。空から天使が舞降りて来ました~!」
「そしてその天使達が俺達の周囲を飛び回り、一気に怪我が回復、気力充実!」
「滅茶苦茶よ、こんなの滅茶苦茶よ!」
「お前に言われたくないっちゅうに!──と言いつつ、天文部必殺、惑星七連撃!」
「おおっ。出ましたな。今回は木星はありませんけど、残った七つの星による連続攻撃」
「ジャブ、ジャブ、フック、ジャブ、ストレート、ジャブ、そしてとどめのアッパー! 決まったーっ! 覆面女の体が宙を舞う」
「そ、そんなぁーっ!」
「吹っ飛びながら抗議の声を上げてますね。器用な人だ」
ドコっ
廊下に落ちた美少女仮面。起きあがる様子は見えない。覆面の下の素顔は、白目を剥いて気絶しているようだ。
「そんなことあなたは気にしなくていいのよ。フォローは私がしてあげるから、あなたは全力で戦いなさい」
「……よくわからないけど、とりあえずそうさせてもらうよ」
操はとりあえず今は深く考えるのはよそうと結論を下した。そして、みーくんの目が三度赤く輝く。
「甘いぞ。出る技と、その方向がわかっているのなら、回避は可能だ」
彼方と盟子は光の軌道を計算し、そこから体を外す。
「……甘いのは、そっちだよ。拡散ビーム」
光を撃つ瞬間、みーくんが自分のすきっ歯を下ろした。歯と歯の間を通る光、歯に反射して普段とは違う軌道を通る光。そんな種種の光が、網のようになって彼方達に襲いかかる。
「まずい! とろりん!」
彼方は咄嗟に残った八つの惑星のうち五つをとろりんの防御に回した。そのため自分の身を守るのに使えるのはわずか三つ。拡散し、多方向から飛び込んで来る光を防ぐのにその数では少々足りなかった。いくつかの光の筋が彼方をかすめていく。幸い分散されている分、一つ一つの光の威力は弱くなっており、多少食らったところで致命傷になるような攻撃ではなくなっていた。だが、それでも多数の浅い裂傷を作るのには充分である。
ビームの嵐が収まった時、一番ダメージを受けていたのは盟子だった。さすがにロッドだけで防げるはずもなく、全身傷だらけで、服もところどころ裂けている。しかし、手でかばっていたのか、さすがに顔だけは守られていて傷らしい傷は見えない。
とろりんの方は、五つの星を送り込んだのが功を奏したようで、彼方の位置からでははっきりとわかるような傷は見当たらない。
彼方はそのとろりんの守りに集中した分ダメージを受けたが、盟子ほどの被害ではない。
「こりゃ、マジで手強い敵だな」
「ええ。相手の秘密がわからない限り、かなりマズイことになりそうね」
傷だらけになった服を悲しげに見やりながら盟子が同意する。
「あの~」
「怪我でもしたか、とろりん?」
「いいえ~、部長のおかげでなんとか~。それより~、ちょっと気になったことがあるんですけど~」
「なんだ、どうした? あの変態仮面の正体でもわかったのか?」
その言葉に美少女仮面が一瞬肩をびくっとさせたが、今の彼方にそれを見て笑ってる余裕などありはしない。
「そうじゃなくって~、さっきから部長達が攻撃するたびに~、地の文に変な傍点の付いた文章が現れてるんですよ~」
何か言ってはいけないことを言っているような気もするが、深く考えてはいけない。
「……確か文学部って言ってたよな」
美少女仮面は再び肩をびくっとさせる。だが、これはさっきのとは内容が違っている。先のは変態仮面という言葉に反応した怒りによるもので、今回は自分の技の秘密がバレるかもしれないという焦りからだ。
「そうか! わかったぞ。地の文に干渉し、起こるべき出来事を自分の思うように変化させられる。それが文学部の奥義なんだな!」
「……まさかこんなに早く気づかれるとは思わなかったわ」
美少女仮面は彼方の指摘をあっさりと認めた。しかし、それは秘密を知られたくらいで破られるはずがないという自分の技に対する自信故だった。
「でも、それがわかったからと言ってどうだというの? あなた達に地の文への干渉が阻止できて?」
「た、確かに……」
「何を言ってるんですか、彼方君!」
今の今まで地面に倒れていた品緒が、ようやく復活して起き上がる。
「今まで寝ていて楽をしていた品緒、何かいい手があるというのか?」
「……なんだかトゲのある言い方ですね」
「そう感じるのは、お前の心にやましさがあるからだ」
「……そんなことより、今は敵と戦うことの方が重要ですよ」
「そうよ。何か策があるならさっさと言いなさいよ」
品緒は話のすり替えに成功した。
「相手が地の文をいじくることができるのならば、ようは地の文を出現させなければいいんです」
「それってつまり……」
「会話文だけで戦えばいいんです」
「ちょっと、そんな非常識なことが許されるとでも思っているの!」
美少女仮面の抗議はもっともだが、彼方達が聞く耳を持っているはずがなかった。
「天文部必殺、地球百烈拳!」
「おおっ。彼方君の意志に従い、地球が謎の覆面さん目がけて飛んで行きますよ」
「そしていきなりカウンターでヒット! さらに地球で往復ビンタ炸裂!」
「ちょ、ちょっと、こんなのって……」
「せっかくコスプレしてるんだから、あたしの力も使っておくわ。さぁ、みんなの傷、治してあげるわよ」
「天井があるのに、何故か雲を裂いて青空が広がっていきますよ」
「あっ! 天使です~。空から天使が舞降りて来ました~!」
「そしてその天使達が俺達の周囲を飛び回り、一気に怪我が回復、気力充実!」
「滅茶苦茶よ、こんなの滅茶苦茶よ!」
「お前に言われたくないっちゅうに!──と言いつつ、天文部必殺、惑星七連撃!」
「おおっ。出ましたな。今回は木星はありませんけど、残った七つの星による連続攻撃」
「ジャブ、ジャブ、フック、ジャブ、ストレート、ジャブ、そしてとどめのアッパー! 決まったーっ! 覆面女の体が宙を舞う」
「そ、そんなぁーっ!」
「吹っ飛びながら抗議の声を上げてますね。器用な人だ」
ドコっ
廊下に落ちた美少女仮面。起きあがる様子は見えない。覆面の下の素顔は、白目を剥いて気絶しているようだ。
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