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第29話 外の二人
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「夏樹君! 彼方殿らは?」
「私にも~、わかりません~」
とろりんも皆の姿が見えないので不安らしく、今にも泣き出しそうな顔で周りを見回す。
『どうやらあなた方はクリスチャンだったようですね』
「その声は希哲学! 姿を見せろ!」
声はすれども姿は見えず。声の聞こえた位置から場所を割り出すにも、まるで頭の中に直接飛び込んでくるようなその声からは、場所の特定は不可能だった。
『あなたがたは敬虔なクリスチャンのようで、神の存在を真剣に信じられたようですが、ほかの人達はそうではなかったようですよ』
「どういうことだ!?」
波佐見は姿の見えない声に対して叫んだ。
『つまり、神など信じていない彼らにとって、あなたの用いた証明の方法は信じるにたるものではなかったということです。元々デカルトのやり方は、唯一絶対の神という概念を持っていない日本人にとっては理解し難いもの──いえ、頭では理解できても、心からは実感も納得もできないものと言うべきですか』
「でも、私はクリスチャンじゃないですよ~」
『ですが、神の存在は信じているのではないですか?』
「はい~。そんなの当たり前ですよ~」
とろりんの言葉には逡巡の欠片もない。
『……純粋な方ですね。羨ましいほどに』
単純と言える相手に対して、その言葉は厭味ではなく賛辞として送られた。
「では、ほかの皆は一体どうなったんだ?」
『彼らはまだ哲学フィールドの中にいます。……私はもう少し彼らと哲学を楽しませてもらうことにしますよ。あなた方の相手は別の方がなさるようですし。それでは──』
「ま、待て!」
姿の見えない声に向かって呼びかけるが、返事は静寂のみ。
「くっ……」
自分が彼方達の役に立てず、しかも自分だけが脱出してしまったことに罪悪感を覚えた波佐見は、肩を落としてうつむく。
──だが、ふいに複数の気配を感じて顔を上げた。
「────!」
そこには総勢十一人の新たな刺客が立っていた。
「希哲学が言っていた別の相手というのはお前達のことだな」
波佐見の前に現れたのは、同じ柄の半袖短パンを身につけた十一人の男達(ただし、一人だけは、柄の違う長袖の服を着ている)。彼らの短パンから伸びた足は、とろりんの腰くらいはあろうかというほど太くて逞しい。
「生徒会付属サッカー部。生徒会長の命により、お前達をここで倒させてもらう!」
腕にキャプテンマークをつけた男が一歩前に出て、指を突きつけた。
しかし、それに対しても波佐見は焦りの表情一つ浮かべず堂々としている。
哲学フィールドでは結局彼方達の役に立てなかった。ならば、このサッカー部程度は自分一人で何とかしせみせる。──それが波佐見の意地だった。
「数で来たからといって、この将棋部部長、波佐見将棋をなんとかできると思っているのか? 歩っ、私も随分となめられたものだな」
波佐見は懐に手を入れ、駒をその手に握ると、自分の後ろでちらちらとサッカー部員たちを覗き見ているとろりんの方に顔を向けた。
「夏樹君、下がっていたまえ」
とろりんはうなずいて、下駄箱の陰に身を隠す。それを確認した波佐見は前に向き直る。
「将棋部奥義、武将召還プラス武将初期配置」
波佐見は十九の駒を一度に放り投げた。それらは、波佐見のいる位置を王として将棋の駒の最初の配置と同じ位置で、次々と実体化していく。
「これで二十対十一。形勢逆転だな」
だが、それを目《ま》の当たりにしても、サッカー部の連中は、動じた様子を少しも見せない。
「空野彼方達との戦いは見せてもらった。お前の弱点はすでに見切っているぞ」
「はったりを言う」
しかし、敵の言葉に波佐見の強気の表情がわずかに崩れを見せ始めている。
「ようし、みんな行くぞ。キックオフだ!」
こうして、彼方達をまだ哲学フィールドに残しつつ、波佐見対サッカー部の戦いが開始された。
「私にも~、わかりません~」
とろりんも皆の姿が見えないので不安らしく、今にも泣き出しそうな顔で周りを見回す。
『どうやらあなた方はクリスチャンだったようですね』
「その声は希哲学! 姿を見せろ!」
声はすれども姿は見えず。声の聞こえた位置から場所を割り出すにも、まるで頭の中に直接飛び込んでくるようなその声からは、場所の特定は不可能だった。
『あなたがたは敬虔なクリスチャンのようで、神の存在を真剣に信じられたようですが、ほかの人達はそうではなかったようですよ』
「どういうことだ!?」
波佐見は姿の見えない声に対して叫んだ。
『つまり、神など信じていない彼らにとって、あなたの用いた証明の方法は信じるにたるものではなかったということです。元々デカルトのやり方は、唯一絶対の神という概念を持っていない日本人にとっては理解し難いもの──いえ、頭では理解できても、心からは実感も納得もできないものと言うべきですか』
「でも、私はクリスチャンじゃないですよ~」
『ですが、神の存在は信じているのではないですか?』
「はい~。そんなの当たり前ですよ~」
とろりんの言葉には逡巡の欠片もない。
『……純粋な方ですね。羨ましいほどに』
単純と言える相手に対して、その言葉は厭味ではなく賛辞として送られた。
「では、ほかの皆は一体どうなったんだ?」
『彼らはまだ哲学フィールドの中にいます。……私はもう少し彼らと哲学を楽しませてもらうことにしますよ。あなた方の相手は別の方がなさるようですし。それでは──』
「ま、待て!」
姿の見えない声に向かって呼びかけるが、返事は静寂のみ。
「くっ……」
自分が彼方達の役に立てず、しかも自分だけが脱出してしまったことに罪悪感を覚えた波佐見は、肩を落としてうつむく。
──だが、ふいに複数の気配を感じて顔を上げた。
「────!」
そこには総勢十一人の新たな刺客が立っていた。
「希哲学が言っていた別の相手というのはお前達のことだな」
波佐見の前に現れたのは、同じ柄の半袖短パンを身につけた十一人の男達(ただし、一人だけは、柄の違う長袖の服を着ている)。彼らの短パンから伸びた足は、とろりんの腰くらいはあろうかというほど太くて逞しい。
「生徒会付属サッカー部。生徒会長の命により、お前達をここで倒させてもらう!」
腕にキャプテンマークをつけた男が一歩前に出て、指を突きつけた。
しかし、それに対しても波佐見は焦りの表情一つ浮かべず堂々としている。
哲学フィールドでは結局彼方達の役に立てなかった。ならば、このサッカー部程度は自分一人で何とかしせみせる。──それが波佐見の意地だった。
「数で来たからといって、この将棋部部長、波佐見将棋をなんとかできると思っているのか? 歩っ、私も随分となめられたものだな」
波佐見は懐に手を入れ、駒をその手に握ると、自分の後ろでちらちらとサッカー部員たちを覗き見ているとろりんの方に顔を向けた。
「夏樹君、下がっていたまえ」
とろりんはうなずいて、下駄箱の陰に身を隠す。それを確認した波佐見は前に向き直る。
「将棋部奥義、武将召還プラス武将初期配置」
波佐見は十九の駒を一度に放り投げた。それらは、波佐見のいる位置を王として将棋の駒の最初の配置と同じ位置で、次々と実体化していく。
「これで二十対十一。形勢逆転だな」
だが、それを目《ま》の当たりにしても、サッカー部の連中は、動じた様子を少しも見せない。
「空野彼方達との戦いは見せてもらった。お前の弱点はすでに見切っているぞ」
「はったりを言う」
しかし、敵の言葉に波佐見の強気の表情がわずかに崩れを見せ始めている。
「ようし、みんな行くぞ。キックオフだ!」
こうして、彼方達をまだ哲学フィールドに残しつつ、波佐見対サッカー部の戦いが開始された。
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