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第22話 援軍

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「相変わらずマイペースな子ね。まぁ、あなた達よりはよっぽど可愛げがあるけど」

 彼方たちの窮地に現れた盟子。あなた達という部分で、彼方、波佐見、品緒の順に目をやる。

「お前はアニメ同好会の阿仁盟子!! 何故こんな所にいる? 昨日のうちに腹話術部が始末しているはずでは!?」

「あんな根暗なお子様で私を倒そうなんて百年早いのよ」

 苦戦してぎりぎりのところで助けられたにもかかわらず、高飛車な盟子。彼女らしいといえばそれまでだが。

「ちぃ、所詮は腹話術部ということか! 同好会ごときに遅れをとるとは部の風上にも置けん。やはり私自らが向かうべきだった!」
「同好会、同好会とうるさい男ね。彼方達もムカツクけど、やっぱり今一番ぶん殴ってやりたいのはあなただわ! アニメ同好会奥義、コスプレ・チェーンジ!」

 毎度お馴染みの盟子の変身タイム。今回のコスプレは、周りに合わせてか、女武者だった。将棋の武将達のようないかつい鎧ではなく、女性的なたおやかで軽そう鎧(もっとも、鎧というもの自体、女性的な要素のないものなのだが)。鎧としての効果は、武将達には劣るだろうが、見た目では断然、盟子の方が格好いい。その辺りが実にアニメ的である。
 腰に下げられているのは、真っ赤な鞘に収まった一振りの刀。使い手が女性であることを考慮して作られたのか、やや小振りである。

「和製ジャヌ・ダルク見参。貴殿らに協力するのは癪でござるが、今は波佐見の方に憤りを感じる故、拙者も協力するでござるよ」

 武士ってホントにそんな喋りをしてたのか?と思ってしまうようなお約束の口調。女性が使うと、なおのこと違和感がある。

「助かる! ……しかし、奴は手強いぞ。数の差の上に、あの守りだからな」
歩歩歩ふふふっ。そういうことだ。今更お前一人が増えたところで、どうにかなる私の守りではない」

 盟子が現れようと、いきなり訳のわからない格好にコスプレしようとも、波佐見は動揺の欠片さえ見せない。それだけ、自分の作った陣形に自信があるということだ。

「彼方殿、本気でこんな相手を手強いなどと言っておられるのか?」
「何か手があるのか?」
「造作もないでござるよ」
「たいした自信だな。そこまで言うのなら、見せてもらおうか」
「それでは御覧にいれるとしよう」

 まだ将棋フィールドのマス目の中に入っていない盟子は、マス目の外の縁をテクテク歩いて行き、波佐見が守りを固めている美濃囲いの後ろにまでやってきた。

「な、何のつもりだ?」

 金(6一)の更に後ろに立つ盟子は、波佐見の声には答えず柄に手をかける。

「問答無用の居合い抜き!」

 鞘を滑る速度で通常の剣戟以上の速度を得た、抜くと斬るとを同時に行う居合いの剣。それが、後ろ向きのまま立ち尽くしていた金の鎧をまとった武将に向けられる。
 ほとんど目に映らないその一撃。場に残ったのは、一瞬の光の輝きのみ。すでに一旦は鞘から離れた剣も、今はすでに元の鞘に収まっている。油断していた者には、盟子は静止したままでいるようにしか見えないだろう。だが、確かに盟子の刀が閃いたことは、すぐに証明された。
 金将の体が縦に真っ二つになり、次の瞬間にはただの将棋の駒へと変化したのだ。ただ、その駒は真っ二つに割れてはいるが。

「諸行無常でござる」

 よくわからない感想をもらす盟子が、自分の方に飛んできた二つに割れている金の駒を受け止める。

「な……」

 いきなり自信を持っていた囲いを支える柱の一人を失った波佐見は声もない。それでも、なんとか気力を振り絞って言葉を絞り出す。

「お、お前! いきなりどこから攻撃を仕掛けてくるんだ!? マスの外から攻撃してくるなんて、反則だぞ!」

 必死の形相で訴える波佐見に対して、盟子は涼しげな顔をしてさらっと言ってやる。

「別に拙者はそなたに付き合って将棋をやるなどとは一言も申してはござらんよ」
「ちょっと待って! そ、そんなのアリか?」
「アリもアリ、モハメッド・アリでござる」

「意味はわかりませんけど、なんだか説得力ありますね~」
「そ、そうか?」

 そのやりとりを眺めるだけの彼方ととろりんは、相変わらず間抜けな会話を繰り広げる。

「……くぅ、お前みたいな同好会になめられたままでいるほど、私は温厚ではないぞ。こうなったら、みんなで袋にしてやる! 金将、銀将、やってしまえ!」

 しかし、残っている金も銀も前を向いたままで、後ろの盟子に向かおうという気配すら見せない。

「ど、どうした?」
「そんなこともわからないでござるか? 将棋の駒が、マスの外にいる相手に攻撃できるわけないでござろう」
「な、なんだと! そ、そんな……。それでは、そちらからは攻撃し放題なのにこちらからは全く手が出せないということか?」

 えらく不条理な話である。

「ひ、卑怯な……。しかし、私の戦略のプロ。何か手があるはず……」

 波佐見は腕を組んで目を閉じ、考え込む。そして、しばし思考を巡らした後、目をかっと見開いた。

「そうだ! さすが私だ。天才だ! この手でお前もおしまいだぞ!」
「ちょっと待て」

 起死回生の策をやっと打とうとした波佐見を彼方が止める。
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