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第18話 中断
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「うーむ。個人の問題だけでなく、町にも被害が出始めていますか。……芳しくありませんね、この状況は」
遠くから盟子と操の戦いの様子を見守っていた男──哲学部部長、希哲学──にとって今の状況はおもしろくない。
学園内でのいざこざですんでいる間は静観もしていられる。だが、学園内の問題が学園の外にまで出てしまうことは避けなければならない。
希哲学は動くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇
『オラオラ。オレらを倒すんダロ。早くここまで来いヤ』
「くぅ、一体どうすれば……」
盟子はだんだんと狭められてくる包囲網の中で、なんとか打開策を打ち出そうと頭をひねる。
(ここは一旦退くべきかな。操の言う通り、ここでの戦いは不利すぎる。それに、戦って勝つメリットもないもの。……でも、どうやってこの包囲網を脱出するっていうの?)
自問自答するメイコ。脱出口を探すべく瞳を動かす。
(道の前と後ろに山と居並ぶ人形達。簡単に抜け出させてくれるとはとても思えないわね。……だったら、操を討つか。わざわざ山ほどいる人形達を倒さずとも、それらを操っている操を倒せばすべて済むはず。……でも、それは向こうも百も承知。厚い守りをどう突破して操の元までたどり着けばいいの?)
前後に目を配りながら退くべきか征くべきか思い悩むメイコ。
ふいにそのメイコを闇が包みむ。いや、盟子だけでなく、周りの人形、そして操とみーくんもその闇の中に取り込まれていた。
『オイ! 何をしやがった?』
いきなり闇の中に放り込まれてパニックになりそうなメイコだったが、みーくんのその言葉で少し冷静さを取り戻すことができた。少なくとも、相手が仕掛けてきた技ではない。それがわかっただけでも大きい。
「怖い?」
こういう状況でハッタリをかませるだけの根性がメイコにはある。
『バーロー。こんな闇ごときでこのオレ様がびびるとでも思っているのカヨ!』
──人形に心があると思いますか?
その声はふいに頭の中に直接聞こえてきた。それはメイコの声でも、操の声でも、みーくんの声でもない、別の声。男のものであるということだけはわかる。
「……人形にだって心があるに決まっている。だって僕はこうしていつもみーくんと喋っているもの」
メイコは操が答えるのを見て、自分も答えてみることにした。答えは、自分の考えうんぬんよりも、操と反対のものを選ぶ。
「人形に心があるはずがないわ。だって人形には脳も神経もないんだもの」
その答えに操は珍しくムッとした表情を見せたが、何か言おうとする前に次の声が聞こえてきた。
──では、人間には心があると思いますか?
「……当たり前じゃないか」
仏頂面の操。敢えて操の逆を行くと決めているメイコにしても、さすがにこの質問に対してはノーとは言えない。
「そうね。人間には心があるわね」
──では、その心は体のどこの部分にあるのですか?
「それは頭、その中でも脳味噌でしょうね」
今度はメイコが先に答えた。操は黙ったままだ。
──それでは、培養液の中で人間の脳だけを生かし続けた場合、その脳だけのものに心が存在していると思いますか?
「な、何よ、その質問。そんなありえない仮定にどう答えろっていうのよ」
──ですが、あなたの意見に従ったならば、その培養液の脳には心が存在しているはずではないですか?
心は脳にあると言った手前、メイコは首を横には振れない。
「そうよ。その培養液の中の脳にも心は存在しているわ」
「……そうだろうか? そんな脳に心は存在しているのだろうか? だって、目も耳もないんだよ。その脳は一体どこから何を感じるっていうんだい。そんな不気味なものに比べたら、人形の方がよっぽど心を持っていると言えるよ」
メイコは操の意見にさえ反論が思い浮かばなかった。
──ところで、もしも人間に心なんて存在しないと考えていたら、どうなったと思いますか?
「そんなの非常識よ。だったら、あたしが今こうして何かを感じ、ものを考えいるこのことはどう説明するの?」
──それは脳における単なる化学反応にすぎないとしたら? あなた方の感情や思考などもただの物理現象の一つにすぎないとしたらどうです?
「えっ。そんな……」
──もし、人間には心など存在しない。心があるように感じるのは、物理現象がそう感じるように働いているだけ。人間はただの「もの」の延長上にあるもの。
──そう考えたら、人と人形の間の差なんてほとんどありませんね。つまり、人と人形とは対等だということです。
「……僕とみーくんは同じ存在だってことなの?」
──そうです。無理に人も人形も心があると考えずとも、こういう考えによって人形との結び付きを考えることもできるのですよ。操君、あなたは今まで無理に人形を人間化させすぎてはいませんでしたか?
「……そんなことは」
操はみーくんと見つめ合い、沈黙する。
(阿仁盟子さん、今のうちです。空間を開きますから、どこかへ逃げてください)
どういうことか尋ねる間もなく、メイコの前に光の道が現れた。
彼女は躊躇もなく飛び込む。深い洞察力と、いざという時の大胆さ。メイコはその二つを備えている。
光の先にあったのは、元の商店街。ボロボロになったショーウィンドゥ、散らばるマネキンの破片が、先の戦いのあった場所であることを物語っている。しかし、その戦いの相手となった操の姿はそこになかった。
それに、不思議なことにこの場には通行人も全く見当たらない。戦いが始まって逃げ出したのはわかるが、その後それが収束しても、いまだ誰の姿も見えないことには疑問を感じる。まるで、人払いの結界でも張られているかのような静寂が辺りを包んでいる。
「今のは一体……」
訳のわからないメイコだが、ここに残るのは得策ではないと判断するくらいの力は十分に持ち合わせている。地面に落としていた本屋の紙袋を拾うと、すぐに駆け出し、この場から離れて行った。
その数分後。操もみーくんと共にその場所に戻ってきた。謎の声の主の姿は、やはり見当たらないが。
「……戦う気をなくさせ、僕の技をも破る。そして、僕の中に大きな靄を残させる……。一体何者の仕業なの?」
操は更にその場で十数分立ち止まったまま、様々なことに考えを巡らせた。
遠くから盟子と操の戦いの様子を見守っていた男──哲学部部長、希哲学──にとって今の状況はおもしろくない。
学園内でのいざこざですんでいる間は静観もしていられる。だが、学園内の問題が学園の外にまで出てしまうことは避けなければならない。
希哲学は動くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇
『オラオラ。オレらを倒すんダロ。早くここまで来いヤ』
「くぅ、一体どうすれば……」
盟子はだんだんと狭められてくる包囲網の中で、なんとか打開策を打ち出そうと頭をひねる。
(ここは一旦退くべきかな。操の言う通り、ここでの戦いは不利すぎる。それに、戦って勝つメリットもないもの。……でも、どうやってこの包囲網を脱出するっていうの?)
自問自答するメイコ。脱出口を探すべく瞳を動かす。
(道の前と後ろに山と居並ぶ人形達。簡単に抜け出させてくれるとはとても思えないわね。……だったら、操を討つか。わざわざ山ほどいる人形達を倒さずとも、それらを操っている操を倒せばすべて済むはず。……でも、それは向こうも百も承知。厚い守りをどう突破して操の元までたどり着けばいいの?)
前後に目を配りながら退くべきか征くべきか思い悩むメイコ。
ふいにそのメイコを闇が包みむ。いや、盟子だけでなく、周りの人形、そして操とみーくんもその闇の中に取り込まれていた。
『オイ! 何をしやがった?』
いきなり闇の中に放り込まれてパニックになりそうなメイコだったが、みーくんのその言葉で少し冷静さを取り戻すことができた。少なくとも、相手が仕掛けてきた技ではない。それがわかっただけでも大きい。
「怖い?」
こういう状況でハッタリをかませるだけの根性がメイコにはある。
『バーロー。こんな闇ごときでこのオレ様がびびるとでも思っているのカヨ!』
──人形に心があると思いますか?
その声はふいに頭の中に直接聞こえてきた。それはメイコの声でも、操の声でも、みーくんの声でもない、別の声。男のものであるということだけはわかる。
「……人形にだって心があるに決まっている。だって僕はこうしていつもみーくんと喋っているもの」
メイコは操が答えるのを見て、自分も答えてみることにした。答えは、自分の考えうんぬんよりも、操と反対のものを選ぶ。
「人形に心があるはずがないわ。だって人形には脳も神経もないんだもの」
その答えに操は珍しくムッとした表情を見せたが、何か言おうとする前に次の声が聞こえてきた。
──では、人間には心があると思いますか?
「……当たり前じゃないか」
仏頂面の操。敢えて操の逆を行くと決めているメイコにしても、さすがにこの質問に対してはノーとは言えない。
「そうね。人間には心があるわね」
──では、その心は体のどこの部分にあるのですか?
「それは頭、その中でも脳味噌でしょうね」
今度はメイコが先に答えた。操は黙ったままだ。
──それでは、培養液の中で人間の脳だけを生かし続けた場合、その脳だけのものに心が存在していると思いますか?
「な、何よ、その質問。そんなありえない仮定にどう答えろっていうのよ」
──ですが、あなたの意見に従ったならば、その培養液の脳には心が存在しているはずではないですか?
心は脳にあると言った手前、メイコは首を横には振れない。
「そうよ。その培養液の中の脳にも心は存在しているわ」
「……そうだろうか? そんな脳に心は存在しているのだろうか? だって、目も耳もないんだよ。その脳は一体どこから何を感じるっていうんだい。そんな不気味なものに比べたら、人形の方がよっぽど心を持っていると言えるよ」
メイコは操の意見にさえ反論が思い浮かばなかった。
──ところで、もしも人間に心なんて存在しないと考えていたら、どうなったと思いますか?
「そんなの非常識よ。だったら、あたしが今こうして何かを感じ、ものを考えいるこのことはどう説明するの?」
──それは脳における単なる化学反応にすぎないとしたら? あなた方の感情や思考などもただの物理現象の一つにすぎないとしたらどうです?
「えっ。そんな……」
──もし、人間には心など存在しない。心があるように感じるのは、物理現象がそう感じるように働いているだけ。人間はただの「もの」の延長上にあるもの。
──そう考えたら、人と人形の間の差なんてほとんどありませんね。つまり、人と人形とは対等だということです。
「……僕とみーくんは同じ存在だってことなの?」
──そうです。無理に人も人形も心があると考えずとも、こういう考えによって人形との結び付きを考えることもできるのですよ。操君、あなたは今まで無理に人形を人間化させすぎてはいませんでしたか?
「……そんなことは」
操はみーくんと見つめ合い、沈黙する。
(阿仁盟子さん、今のうちです。空間を開きますから、どこかへ逃げてください)
どういうことか尋ねる間もなく、メイコの前に光の道が現れた。
彼女は躊躇もなく飛び込む。深い洞察力と、いざという時の大胆さ。メイコはその二つを備えている。
光の先にあったのは、元の商店街。ボロボロになったショーウィンドゥ、散らばるマネキンの破片が、先の戦いのあった場所であることを物語っている。しかし、その戦いの相手となった操の姿はそこになかった。
それに、不思議なことにこの場には通行人も全く見当たらない。戦いが始まって逃げ出したのはわかるが、その後それが収束しても、いまだ誰の姿も見えないことには疑問を感じる。まるで、人払いの結界でも張られているかのような静寂が辺りを包んでいる。
「今のは一体……」
訳のわからないメイコだが、ここに残るのは得策ではないと判断するくらいの力は十分に持ち合わせている。地面に落としていた本屋の紙袋を拾うと、すぐに駆け出し、この場から離れて行った。
その数分後。操もみーくんと共にその場所に戻ってきた。謎の声の主の姿は、やはり見当たらないが。
「……戦う気をなくさせ、僕の技をも破る。そして、僕の中に大きな靄を残させる……。一体何者の仕業なの?」
操は更にその場で十数分立ち止まったまま、様々なことに考えを巡らせた。
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