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第72話 スクープ第二弾
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21日目。俺は選択を迫られていた。
エルシーを休ませるかどうか。
イングリッドは恋愛スキャンダル、カレンはミコトさんと喧嘩中、ウェンディは声が出ない。それぞれがトラブルを抱えており、今こそほかを出し抜く好機であることは間違いない。しかし、エルシーは捻挫している。無理をさせれば悪化し、最終盤の大事な局面で動けなく恐れもある。
安全策を取るべきか、それとも勝つためにリスク承知で攻めるべきか……。
決断を下せないまま、俺はエルシーへと目を向けた。
「ショウさん、私は大丈夫です! 今こそ勝つために頑張りましょう!」
エルシーは赤いツインテールを揺らし、懸命に訴えかけてきた。彼女は瞳は熱意に満ちている。
そんな彼女を見て、俺は何を迷っていたんだと自分を叱りたい気持ちになった。
俺は彼女のプロデューサーだ。答えなんて決まっているじゃないか。
「エルシー、今日と明日は完全休養だ。その足をちゃんと治そう」
驚きの表情がエルシーの顔に浮かび、すぐにそれは不満の色に変わった。
「ショウさん! 優勝を諦めたんですか!?」
俺は静かに首を横に振る。
「諦めてなんていないよ。諦めていないからこそ、今は休養するんだ。しっかり休んで万全な状態にする――それが優勝するための最善手だ」
エルシーは一瞬目を見開き、そしてじっと俺を見つめた。俺の言葉の真意を探るように。
しかし、次の瞬間、彼女の表情はふっと和らいだ。
「……わかりました。ショウさんを信じます」
彼女の柔らかな声に、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
強がるだけではない、彼女の真の強さに触れた気がする。
「ありがとう、エルシー」
俺は力強く頷いた。
勝つことばかり考えて、目の前のエルシーが見えなくなるところだった。
今なら勝てる可能性があるからと、負傷している女の子に無理をさせる――そんなこと現実世界だったらするか? そう思ったら答えはすぐに出た。
俺にとってはこのアナザーワールドの世界だって現実と同じだ。相手がNPCだとしても、大事な人に無理をさせることなんてできるはずがない。クエストが終わった後も、きっとエルシーにはその後の未来がある。それを潰してしまう可能性があること、するわけにはいかない。
それに、これが勝つための一番の近道だと思っているのも本当のことだ。足を直して完璧なパフォーマンスをみんなに見せる。それが一番大事なことだ。
こうして、俺は21日目と22日目をエルシーの完全休養日とした。
そして迎えた23日目。朝からエルシーは、俺の前で元気いっぱいに跳ねてみせた。
「ショウさん、もう足はすっかりよくなりました!」
その生き生きとした姿を目にし、俺は胸を撫で下ろす。
20日目も合わせると3日間、何もせずに過ごしてしまったが、それが決して無駄な時間ではなかったと思う。
元気なエルシーの姿を見られただけで嬉しいし、この休養期間で俺とエルシーの絆は前よりも強まったと感じている。
「よし、エルシー! まずは街頭パフォーマンスだ! 元気な君の歌と踊りを、みんなに見せてやろう!」
「はいっ!」
エルシーの返事は明るく、力強かった。
その日のパフォーマンスは、まったくブランクを感じさせないものだった。それどころかむしろ、体中から踊りたいって気持ちが溢れているような生き生きとしたそのパフォーマンスは、今まで以上に魅力的に見えた。
「大丈夫、俺達は負けない」
エルシーのパフォーマンスを見ながら、俺は力強くそんな言葉を吐いた。
続く24日目。俺達が行った中音楽劇場のライブは超満員。観客達はエルシーのパフォーマンスに熱狂し、舞台が揺れるほどの歓声が響き渡った。
そして、25日目がやってくる。
この日の行動終了後には、また予想順位発表がある。予想順位が見られるのは今回が最後だ。次はもう本番の選挙になる。
「エルシー、今日も中音楽劇場でライブだ! 頼むぞ!」
「はいっ!」
エルシーはツインテールを揺らしながら、元気に応えてくれた。
捻挫の件以降、俺達の間には一層確かな信頼感が生まれていた。
エルシー2日連続のライブにも嫌な顔一つ見せやしない。むしろ楽しんでいるようにさえ見える。
俺とエルシーの視線が合い、自然と互いを見つめ合った。
気のせいかもしれないが、彼女の瞳が潤んでいるように見える。
もしかして、エルシーは俺のことを――
「大変よ!」
突然鋭い声が響き、勢いよく扉が開いた。せっかくの良い雰囲気が、あっと言う間にぶち壊されてしまった。
この展開、覚えがあるぞ……。
扉の方に視線を向けると、この前と同じように、息を切らしたキャサリンが部屋の中に入ってきていた。手にはまた号外と思われる紙を握っている。
「……キャサリン、来るのは構わないが、せめてノックくらいはしてくれよ」
「細かいことはいいじゃない。二人で何か変なことをしていたわけじゃないんでしょ?」
「うっ……」
つい言葉に詰まってしまった。
エルシーとはまだ何もしてはいない。それなのに、なぜか罪悪感を覚えてしまう。
「そんなことより、これを見なさいよ!」
俺の後ろめたさには気づかなかったようで、キャサリンは目の前に、手にした紙を突きつけてきた。俺は言われるままにそれに目を落とす。
『スクープ! イングリッドに黒い噂! 反社会的組織との繋がりが!?』
前回が深夜の密会デートで、今度は反社との付き合いか……。
さすがに二回目となると、驚きよりも、呆れの方が強くなる。
「メイのやつ、何をやってるんだよ……」
そういえば、「裏社会の方から手を回すことだってできる」とか言ってたもんなぁ。
メイの言葉を思い出し、思わずため息が零れてしまった。
エルシーを休ませるかどうか。
イングリッドは恋愛スキャンダル、カレンはミコトさんと喧嘩中、ウェンディは声が出ない。それぞれがトラブルを抱えており、今こそほかを出し抜く好機であることは間違いない。しかし、エルシーは捻挫している。無理をさせれば悪化し、最終盤の大事な局面で動けなく恐れもある。
安全策を取るべきか、それとも勝つためにリスク承知で攻めるべきか……。
決断を下せないまま、俺はエルシーへと目を向けた。
「ショウさん、私は大丈夫です! 今こそ勝つために頑張りましょう!」
エルシーは赤いツインテールを揺らし、懸命に訴えかけてきた。彼女は瞳は熱意に満ちている。
そんな彼女を見て、俺は何を迷っていたんだと自分を叱りたい気持ちになった。
俺は彼女のプロデューサーだ。答えなんて決まっているじゃないか。
「エルシー、今日と明日は完全休養だ。その足をちゃんと治そう」
驚きの表情がエルシーの顔に浮かび、すぐにそれは不満の色に変わった。
「ショウさん! 優勝を諦めたんですか!?」
俺は静かに首を横に振る。
「諦めてなんていないよ。諦めていないからこそ、今は休養するんだ。しっかり休んで万全な状態にする――それが優勝するための最善手だ」
エルシーは一瞬目を見開き、そしてじっと俺を見つめた。俺の言葉の真意を探るように。
しかし、次の瞬間、彼女の表情はふっと和らいだ。
「……わかりました。ショウさんを信じます」
彼女の柔らかな声に、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
強がるだけではない、彼女の真の強さに触れた気がする。
「ありがとう、エルシー」
俺は力強く頷いた。
勝つことばかり考えて、目の前のエルシーが見えなくなるところだった。
今なら勝てる可能性があるからと、負傷している女の子に無理をさせる――そんなこと現実世界だったらするか? そう思ったら答えはすぐに出た。
俺にとってはこのアナザーワールドの世界だって現実と同じだ。相手がNPCだとしても、大事な人に無理をさせることなんてできるはずがない。クエストが終わった後も、きっとエルシーにはその後の未来がある。それを潰してしまう可能性があること、するわけにはいかない。
それに、これが勝つための一番の近道だと思っているのも本当のことだ。足を直して完璧なパフォーマンスをみんなに見せる。それが一番大事なことだ。
こうして、俺は21日目と22日目をエルシーの完全休養日とした。
そして迎えた23日目。朝からエルシーは、俺の前で元気いっぱいに跳ねてみせた。
「ショウさん、もう足はすっかりよくなりました!」
その生き生きとした姿を目にし、俺は胸を撫で下ろす。
20日目も合わせると3日間、何もせずに過ごしてしまったが、それが決して無駄な時間ではなかったと思う。
元気なエルシーの姿を見られただけで嬉しいし、この休養期間で俺とエルシーの絆は前よりも強まったと感じている。
「よし、エルシー! まずは街頭パフォーマンスだ! 元気な君の歌と踊りを、みんなに見せてやろう!」
「はいっ!」
エルシーの返事は明るく、力強かった。
その日のパフォーマンスは、まったくブランクを感じさせないものだった。それどころかむしろ、体中から踊りたいって気持ちが溢れているような生き生きとしたそのパフォーマンスは、今まで以上に魅力的に見えた。
「大丈夫、俺達は負けない」
エルシーのパフォーマンスを見ながら、俺は力強くそんな言葉を吐いた。
続く24日目。俺達が行った中音楽劇場のライブは超満員。観客達はエルシーのパフォーマンスに熱狂し、舞台が揺れるほどの歓声が響き渡った。
そして、25日目がやってくる。
この日の行動終了後には、また予想順位発表がある。予想順位が見られるのは今回が最後だ。次はもう本番の選挙になる。
「エルシー、今日も中音楽劇場でライブだ! 頼むぞ!」
「はいっ!」
エルシーはツインテールを揺らしながら、元気に応えてくれた。
捻挫の件以降、俺達の間には一層確かな信頼感が生まれていた。
エルシー2日連続のライブにも嫌な顔一つ見せやしない。むしろ楽しんでいるようにさえ見える。
俺とエルシーの視線が合い、自然と互いを見つめ合った。
気のせいかもしれないが、彼女の瞳が潤んでいるように見える。
もしかして、エルシーは俺のことを――
「大変よ!」
突然鋭い声が響き、勢いよく扉が開いた。せっかくの良い雰囲気が、あっと言う間にぶち壊されてしまった。
この展開、覚えがあるぞ……。
扉の方に視線を向けると、この前と同じように、息を切らしたキャサリンが部屋の中に入ってきていた。手にはまた号外と思われる紙を握っている。
「……キャサリン、来るのは構わないが、せめてノックくらいはしてくれよ」
「細かいことはいいじゃない。二人で何か変なことをしていたわけじゃないんでしょ?」
「うっ……」
つい言葉に詰まってしまった。
エルシーとはまだ何もしてはいない。それなのに、なぜか罪悪感を覚えてしまう。
「そんなことより、これを見なさいよ!」
俺の後ろめたさには気づかなかったようで、キャサリンは目の前に、手にした紙を突きつけてきた。俺は言われるままにそれに目を落とす。
『スクープ! イングリッドに黒い噂! 反社会的組織との繋がりが!?』
前回が深夜の密会デートで、今度は反社との付き合いか……。
さすがに二回目となると、驚きよりも、呆れの方が強くなる。
「メイのやつ、何をやってるんだよ……」
そういえば、「裏社会の方から手を回すことだってできる」とか言ってたもんなぁ。
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