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第30話 暴かれる嘘

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「ジョー、お前の企みは見破った!」

「────!!」

 つばぜり合いのまま、丈のラブパワーが動揺で激しくゆらめく。互角の状態にあった二機だったが、その動揺の影響か、次第にブラオヴィントがドナーを押して行く。

「エレノアの影武者を乗せることにより、彼女を危険にさらすことなく前線で戦わせる。──お前の考えそうなことだ!」

 その言葉で真実を見抜かれていないことを理解し、丈のラブパワーの動揺が消え失せた。それと同時に、押され気味だった鍔迫り合いが、再び互角の態勢に戻る。
 その二機に接近してくるラブリオンがいる。
 女王親衛隊長ロケットのラブリオンだが、そのラブパワーは先ほどの丈以上に不安定に揺れているように感じられる。

「シーナ殿、さっきの攻撃はどういうことですか! エレノア様に剣を向けられるなんて、本気で落とされる気なのですか!?」

「お前は何年エレノアの側に仕えてきたんだ! そのラブリオンから出ているラブパワーをしっかりと感《み》てみろ。それにエレノアは乗っていない!」

「そんなバカな! あのラブリオンに、エレノア様以外の人間が乗るなんてことがあるはずがありません!」

 青の国の王家の人間は、今はエレノアとミリアのみ。ミリアがクィーンミリアにいる以上、エレノア以外の王族がそのラブリオンに乗っている可能性はありえない。王族用ラブリオンに、王族以外の人間が乗っているなんて、この世界の人間には想像することさえできない。

「疑う前に、自分のラブパワーで、そのラブリオンのラブパワーを感じてみろ!」

 言われてロケットは王族専用ラブリオンに意識を集中する。
 いつも感じ続けてきた強く貴く美しいラブパワー。しかし、それはマシン表面からうっすらと感じられるのみ。中にあるラブパワーは、エレノアのラブパワーとは全くの異質。それは、エレノアのラブパワーの清々しさとは似ても似つかない、追い詰められたものの恐怖と焦りに彩られたラブパワー。
 王族専用ラブリオンに一般の者が乗るはずがないという固定観念が、そんな簡単なことに今まで気づかせなかったのだ。

「確かに! これはエレノア様のラブパワーではない!」

「そういうことだ。ずっとエレノアのことを見てきたお前が気づかなかったとは、情けないぞ」

「返す言葉もありません……。ですが、王族専用ラブリオンに王族以外の者が乗るのは、王族詐称と同じ。そのことが発覚すれば本人が処刑されるだけでなく、一族の者まで処罰されるのです。まさかそんな大それたことをしてくるなんて、この世界の者ならば誰も考えはしませんよ」

 ロケットの言葉に椎名はぞっとする。

「処刑!? ラブリオンに乗っただけでか!?」

「もちろんです。そうしていかなければ、王家の権威は守れません」

「……ジョー、お前、そんな思い切ったことをさせて、どう責任を取るつもりだ!」

「こちらにはこちらの事情がある!」

「くっ……」

「親衛隊長、しばらくの間でいい、ジョーの相手を頼む!」

「了解しました!」

 ブラオヴィントと女王親衛隊長のラブリオンの体《たい》が入れ替わり、女王親衛隊長が丈の相手をして椎名がフリーとなる形になった。
 そして、自由に動けるようになった椎名のブラオヴィントは王族専用ラブリオンに向かう。

「させるか!」

 吼える丈。そして、その行く手を遮るロケット。

「貴様ごときがこのオレを止められると思っているのか!」

 丈とドナーの戦闘能力はこの戦場にいるものの中でも1、2を争うほどに高い。だが、ロケットとて剛の者。丈を倒すことは難しいとしても、その足を止めるくらいのことは、やってやれないことはない。

「えーい、邪魔をするな!」

「そういうわけにはいかない! 貴様は個人的にも許せない奴だから!」

 普段クールな丈もこのときばかりは必死だった。ドナーからも、激しさが感じられる。
 しかし、ロケットとしてもここはやすやすとドナーを行かせるわけにはいかなかった。自分が尊敬し続けてきたエレノア、彼女の心を虜にし自分から奪っていった男。君主と家臣以上の関係をエレノアに求めていた訳ではない。ただエレノアの側で働け、エレノアのために戦うことができればそれだけで充分だった。

「それなのに、貴様は!!」

「こいつ、やるっ!」

 女王親衛隊長からほとばしる激しいラブパワー。簡単に突破できる敵でないと思わせるだけのその力が、丈に冷静さを取り戻させる。

「シーナを気にしていては、こいつを突破するのも無理か。ならば、まずはこいつを倒すまで! その後で椎名の件はなんとかする!」

 丈は女王親衛隊長を本気であたらねばならない敵と認識した。そうなった時の丈は、椎名とエレノアのことで余計な気を使い、思わぬミスを犯すようなことはまずありえない。それが丈という人間の強さである。

「落とすっ!」

 ドナーが牙を剥く。本気を出したその牙の鋭さは、猫や鼠どころか、獅子や虎さえ食い破る龍の牙である。

「うくっ! これがジョーのドナーの力か! シーナ殿はよくこんな敵の相手をなさっていたものだ」

 裂帛の気合いで打ち下ろされるドナーのラブブレード。ロケットはなんとかそれを受け続けるが、剣を受けるたびに全身を貫いていく丈のラブパワーの衝撃波は凄まじい。

「いくら腕が立つとはいえ、所詮はこの世界の人間。王族クラスのラブパワーがあるならともかく、ただの兵士ごときにこのオレの相手が務まるものか」

 苦戦を強いられるロケット。だが、ロケットの目的は丈を倒すことではない。丈の足止めをすることなのだ。
 ロケットがそうやって踏ん張っているうちに、当の椎名は王族専用ラブリオンにたどりつき、後ろから羽交い締めにしていた。

「捕まえたぞ、偽物!」

「────!」

 乗っている者は、無言のまま抵抗を見せるが、元々のラブパワーの差があるうえ、王族専用ラブリオンは戦闘用に作られていないときている。その抵抗は、椎名にとっては抵抗らしい抵抗になっていなかった。

「正体を暴いてやる!」

 後ろから掴んでいるブラオヴィントの手が、王族専用ラブリオンの前に回され、コックピットを覆う胸部装甲に手がかけられる。

「シーナ殿! 何をなさるのか!?」

 何も知らない味方の兵達が非難の声を上げる。敵方は、エレノアにも被害が及ぶのを恐れて、ただ指をくわえて見つめるだけ。

「みんな! いいか、よく見ろ! こいつに乗っているのはエレノアではない!!」

 ラブパワーを通して広がる椎名の声。それと共に、一つ目の装甲が引き剥がされた。
 そして、第二番目の装甲も少しずつはがされていく。
 差し込む光により次第に明らかになっていく秘匿の空間。

「やはりな!」

「ちっ、シーナの奴!」

「まさか……」

 あらわになったコックピットの中に晒される一人の兵士の姿。それはエレノアの優美な様とは似ても似つかない。
 椎名、丈、ロケットがそれを確認し、三者三様の表情を浮かべる。
 ラブリオンを止め、その偽物を凝視する両軍の兵士達の顔は、ロケットと同様信じられないものを見るかのようだった。

◇ ◇ ◇ ◇

「そういう手を使ってきたか……。私達では考えつかない手ね。この世界の人間でないジョーならばこその策」

 敵のやり方を評価しつつも、ミリアには釈然としないものがあった。

「けど、姉さんがよくもこんなことを許したものね……。それにあの兵士、よく乗り込むことを了承した。……いくらジョーでも、これほどのタブーを犯させるだけの求心力があるとは思えないんだけど」

 クィーンミリアのブリッジで、ミリアは戦場を見つめたまま首をかしげた。

◇ ◇ ◇ ◇

「おい、お前! バレたら処刑ということがわかっていて、ジョーのこんな策に手を貸したのか!」

 椎名の鋭い声が、王族用ラブリオンの中から姿を見せた男に向けられる。

「ち、違う! 俺は悪くない。俺は悪くないんだ!」

「な、なんだこいつ!?」

 姿が露わになった途端、見苦しいまでの狼狽ぶりを見せる男に、椎名は唖然とする。

「ジョー様がエレノア様を殺≪あや≫めてしまい、それで俺は脅されてこのラブリオンに──」

 きらめく光。王族専用ラブリオンのコックピットを光弾が撃ち抜く。そこにいた兵士の姿など、一瞬のうちに光の中に消え失せた。

「なっ!?」

 そのラブリオンを押さえていた椎名は声もない。

「男のおしゃべりはみっともない」

 事も無げに呟く丈。
 今のラブショットを放ったのは、ほかの誰でもない。ジョーのラブリオン、ドナーだった。
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