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1話「家族との約束」(4)
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その真っ黒な煙を見た俺は、すぐに察する。
黒い煙は間違いなく、自分の故郷がある位置から上がっていた。
(あの煙は、まさか・・・)
俺は肩に掛けていた鞄とランプ、そしてパンの入った布袋を地面に投げ捨てて、坂道を一気に駆け登る。
「はあはあ……」
息を切らしながら、ようやく山の上に辿り着く。
そして山の麓の故郷に視線を向ける。
「そんな……そんな……」
俺は一瞬自分の眼を疑った。
何故なら自分の住む村が火の海になっていたからだ。
ほぼ全ての家が大きな炎に包まれている。
その瞬間、俺の頭の中に家族の顔が過った。
「メイ! 母さん!」
俺は急いで山を下る。そして一気に村の出入り口まで降りて来た。
(どうしてこんな事に!?)
どこを見渡しても目に入るのは灼熱の地獄と化した村の姿だけ。
なぜ自分の住む村がこんな悲惨な状況になっているのかさっぱりわからない。
そしてもう一つ気がかりなことがある。それは村に人影が見当たらない事だ。
みんながどこに消えたのかわからない。
(一体……何があったんだ?)
とにかく俺は自分の家を目指して、燃える村の路上を走り回る。
しかしどこを見渡しても村には人の影が一切ない。
「メイ、母さん、みんな、どこだ! いるなら返事をしてくれ!」
何度も大声で安否を確認するが、聞こえるのは火の音だけ。
俺はきっとみんな何処かに避難しているだろうと思い、そのまま家に向かう。
まるで夢を見ているかのような信じられない気分だった。
でも一つだけ気掛かりな事がある。
(まさか盗賊の仕業なのか? でもこんな雨でぬかるんだ山道を集団で通ってくるなんてとても考えられないし、相当な時間もかかるはず)
俺は無我夢中に走る。巨大な炎に包まれている村の中を。
自分の家を目指してただひたすら全速力で走り抜ける。
(それに、この村の建物に付けられた火はまだ新しい。今さっき放火されたばかりのようにも思える。だけど人の姿がまったく見当たらないなんてどう考えてもおかしい。状況的に考えて、とても人間の仕業とは考えにくい)
俺は家に向かって走りながら、何処の誰の仕業なのかを必死に考える。
(ありえない事が現実で起きている。一体何が? みんなは何処に行った?)
様々な思考を張り巡らせて考えるものの、まったく状況を理解できない。
そして疑問を解消できないまま、俺はようやく自分の家の前に辿り着く。
「はあはあ・・・良かった、俺の家は燃えてない」
なんとか俺の家は火から免れていた。
しかし家の壁の一部と屋根が崩壊している。
玄関の木製扉も跡形もなく消えていた。
俺は恐る恐る、家の中を玄関から覗く。
家の床には崩れた屋根や壁の瓦礫などが酷く散乱していた。
一体誰がこんな酷い事をしたのかはわからない。
でも今はメイと母さんが無事であればそれで良い。
「母さん! メイ!」
返事はない。そしてベッドに母の姿は見当たらない。
(みんな逃げたのか?)
きっとメイも母さんも無事だと信じながら、俺は床に転がる割れた瓦礫を避けて、母さんが寝ていたベッドの近くに足を進める。
「うっ!?」
その時、瓦礫が足先にひっかかりつまずき、たまたま視線を床に落とす。
そして俺は、ベッド付近にある崩れた小さな瓦礫の下に何か落ちているのを発見する。
「これは……そんな……嘘だ、嘘だ」
俺は驚き、大きく両眼を見開く。
そしてそれを見て動揺する。動揺するしかなかった。
何故なら瓦礫の下からはみ出していたのは、無残に千切れた血塗れの幼い子供の片腕と、大人の片腕だったからだ。
その二つの両腕はお互いの手を強く握り締めたまま床に落ちていた。
「ああ……ああ……」
俺はその二つの千切れた腕を見てすぐに誰の遺体なのかわかった。
「母さん……メイ……」
それは間違いなく二人の手だった。妹のしもやけになった手と、病気で細くなっていた母の手だから。
見ただけで家族二人の千切れた片腕だとすぐにわかった。
黒い煙は間違いなく、自分の故郷がある位置から上がっていた。
(あの煙は、まさか・・・)
俺は肩に掛けていた鞄とランプ、そしてパンの入った布袋を地面に投げ捨てて、坂道を一気に駆け登る。
「はあはあ……」
息を切らしながら、ようやく山の上に辿り着く。
そして山の麓の故郷に視線を向ける。
「そんな……そんな……」
俺は一瞬自分の眼を疑った。
何故なら自分の住む村が火の海になっていたからだ。
ほぼ全ての家が大きな炎に包まれている。
その瞬間、俺の頭の中に家族の顔が過った。
「メイ! 母さん!」
俺は急いで山を下る。そして一気に村の出入り口まで降りて来た。
(どうしてこんな事に!?)
どこを見渡しても目に入るのは灼熱の地獄と化した村の姿だけ。
なぜ自分の住む村がこんな悲惨な状況になっているのかさっぱりわからない。
そしてもう一つ気がかりなことがある。それは村に人影が見当たらない事だ。
みんながどこに消えたのかわからない。
(一体……何があったんだ?)
とにかく俺は自分の家を目指して、燃える村の路上を走り回る。
しかしどこを見渡しても村には人の影が一切ない。
「メイ、母さん、みんな、どこだ! いるなら返事をしてくれ!」
何度も大声で安否を確認するが、聞こえるのは火の音だけ。
俺はきっとみんな何処かに避難しているだろうと思い、そのまま家に向かう。
まるで夢を見ているかのような信じられない気分だった。
でも一つだけ気掛かりな事がある。
(まさか盗賊の仕業なのか? でもこんな雨でぬかるんだ山道を集団で通ってくるなんてとても考えられないし、相当な時間もかかるはず)
俺は無我夢中に走る。巨大な炎に包まれている村の中を。
自分の家を目指してただひたすら全速力で走り抜ける。
(それに、この村の建物に付けられた火はまだ新しい。今さっき放火されたばかりのようにも思える。だけど人の姿がまったく見当たらないなんてどう考えてもおかしい。状況的に考えて、とても人間の仕業とは考えにくい)
俺は家に向かって走りながら、何処の誰の仕業なのかを必死に考える。
(ありえない事が現実で起きている。一体何が? みんなは何処に行った?)
様々な思考を張り巡らせて考えるものの、まったく状況を理解できない。
そして疑問を解消できないまま、俺はようやく自分の家の前に辿り着く。
「はあはあ・・・良かった、俺の家は燃えてない」
なんとか俺の家は火から免れていた。
しかし家の壁の一部と屋根が崩壊している。
玄関の木製扉も跡形もなく消えていた。
俺は恐る恐る、家の中を玄関から覗く。
家の床には崩れた屋根や壁の瓦礫などが酷く散乱していた。
一体誰がこんな酷い事をしたのかはわからない。
でも今はメイと母さんが無事であればそれで良い。
「母さん! メイ!」
返事はない。そしてベッドに母の姿は見当たらない。
(みんな逃げたのか?)
きっとメイも母さんも無事だと信じながら、俺は床に転がる割れた瓦礫を避けて、母さんが寝ていたベッドの近くに足を進める。
「うっ!?」
その時、瓦礫が足先にひっかかりつまずき、たまたま視線を床に落とす。
そして俺は、ベッド付近にある崩れた小さな瓦礫の下に何か落ちているのを発見する。
「これは……そんな……嘘だ、嘘だ」
俺は驚き、大きく両眼を見開く。
そしてそれを見て動揺する。動揺するしかなかった。
何故なら瓦礫の下からはみ出していたのは、無残に千切れた血塗れの幼い子供の片腕と、大人の片腕だったからだ。
その二つの両腕はお互いの手を強く握り締めたまま床に落ちていた。
「ああ……ああ……」
俺はその二つの千切れた腕を見てすぐに誰の遺体なのかわかった。
「母さん……メイ……」
それは間違いなく二人の手だった。妹のしもやけになった手と、病気で細くなっていた母の手だから。
見ただけで家族二人の千切れた片腕だとすぐにわかった。
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