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1話「家族との約束」(1)
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「そんな……そんな……」
夜、俺は山の上に一人。
山頂から見下ろした麓の光景に、思わず息を呑む。
視界に入ったのは真っ赤な業火に包まれ、黒い煙が立ち込める自分の故郷の姿だった。
その日、俺は――全てを失った。
第一章【家族との約束】
四方八方を緑の山に囲まれた小さな村、キリノコ村。
その村の中央に建つ、古びた小さな家。
家の壁はモロい。雨季には雨漏りもするくらい屋根も傷んでいる。今日は幸い快晴だ。
俺はその家に、妹と母親を含めた家族三人で、仲良く暮らしている。
「母さん、今日の体調はどうだい。具合は悪くないか?」
俺は木製の椅子に座り、病気でベッドに寝込み続けている母を毎朝、看病している。
「えぇ、平気よ。ジャック」
「それなら良かった。そろそろ薬が切れそうだからまた隣町から買って来るよ」
「いつも迷惑ばかり掛けて悪いわね」
母は落ち込んだ表情を見せながら暗い声でそう言った。
「平気さ、俺の事は気にしなくて良いよ」
毎日暗い表情を母は見せる。
母は七年前に重い病気に掛かったせいで、両足がまったく動かない。
だから二年もの間、一度もベッドの上から動けていない。
それに全身がやせ細り、顔色も悪い。心身共に疲労が増していくばかりだ。
「ごめんね、無力な母親で。せめてこの足さえ動けば貴方達を少しでも楽にしてあげられるのに……」
「そんな事ないよ。それに俺は母さんとメイが幸せでいてくれたら、どんなに辛い事があっても幸せだよ」
俺が優しくそう言うと、母は心配そうな顔を見せた。
「ジャック……」
俺は不安な表情を浮かべる母を見て、奥歯を強く噛みしめる。
(母さんは心配性だし、とても優しい。だからこそ体を蝕む病気がとても憎い)
すると母は何故か急に両手を合わせた。
「そうだわ、ジャック。貴方は今日で14歳ね」
「う、うん。そうだけど、どうかしたの?」
すると母親は掛け布団の下から何かを取り出した。
「貴方の為にマフラーを編んでみたの。さあ首を出して」
茶色の布で編まれたマフラーを母さんから優しく首にかけてもらった。
「肌触りはどう? チクチクしない?」
「うん平気だ。ありがとう母さん。とても嬉しいよ。大事にするね」
「それなら良かったわ」
母さんは久々に、とても素敵な笑顔を見せてくれた。
(母さんの笑顔はやっぱり綺麗だな)
母の嬉しそうな笑顔を見ているだけで自分にも自然と笑みが生まれる。
するとギィっと玄関の扉を開ける音が、俺の背後から微かに聞こえてきた。
「お兄ちゃん、まだいる?」
「メイ、どうした?」
古い木製の扉を開いて顔を覗かせた幼い女の子。名前はメイ。俺の妹だ。
「お兄ちゃん、これ。私からのプレゼントだよ」
赤くしもやけになった両手で渡してきたのは細い糸を編んで作られた、色彩で綺麗な細い腕輪だった。
「これはブレスレットか?」
俺がそう尋ねるとメイは大きく首を頷かせた。
「うん! そうだよ!」
「どれどれ……」
俺は早速、メイから貰ったプレゼントを左手首にはめる。
綺麗な石で作られたブレスレットはピッタリと俺の手首にハマった。
それを間近で見ていたメイは腕のサイズがピタリと合ってホッとしたのか、少しだけ笑みを見せた。
「これ、メイが作ったのか。凄く時間かかっただろ?」
「下手でごめんね。私って不器用だから……」
妹は自分で出来が悪いと感じていたのか、少しだけ落ち込んだ表情を見せた。
寒さで荒れた妹の両手を、俺はギュッと両手で包み込むように優しく握り締める。
「うんうん、そんな事ない。俺はすごく嬉しいよ。大事にする。ありがとうメイ」
俺がそう言うと妹は嬉しそうに微笑んだ。
「うん! 気に入ってもらえて嬉しいなぁ」
妹の笑顔も母の笑顔と同じぐらい大好きだ。
(2人が幸せでいてくれるなら、俺はどんな困難も乗り越えられる)
俺は自分の足元にある鞄に視線を傾けて、フッと思い出す。
「おっと、そろそろ仕事に行く時間だ」
「なら、私がお見送りするよ」
俺は椅子を立ち、仕事用の肩掛け鞄を持つ。そして玄関の扉を開ける。
「ジャック、気を付けてね」
母さんの優しい声が聞こえ、背後を振り返る。
「うん、わかった。母さんも無理せずゆっくりと休んでくれよ」
「わかったわ、気を使ってくれてありがとう。いってらっしゃい」
そう言って俺は扉を開き、メイと共に外へ出る。
玄関の扉を閉める際、母は少し心配した顔で俺をベッドの上から見送っていた。
仕事に出る際、母は俺の事を毎日暗い表情で見送る。ずっと俺の事を心配しているみたいだった。
「それじゃあメイ、今日も母さんの看病をよろしく頼むぞ」
「うん、任せて!」
メイは明るくニッコリとした表情で笑う。
「いつも、悪いな。本当だったら同い年の子達と一緒に外で遊びたいだろ?」
「ううん、平気だよ。私はお兄ちゃんやお母さんと一緒に居られるだけで嬉しいから」
そう言ってメイは白い歯を見せながら微笑む。
メイのかわいい笑顔を見る度に、気を遣わせてしまっている気がして、少しだけ胸が苦しくなる。
「それじゃあ、母さんを寂しくさせないようにずっと側に寄り添っていてくれよ」
「もちろん! お兄ちゃんとの約束なら絶対に守るよ!」
俺はメイの頭を右手で優しく撫でる。
「約束だ。俺も出来るだけ早く帰ってくるからな」
「うん!」
俺と妹は小指を切って約束した。
そして俺は妹に母の看病を任せて、一人で仕事に向かう。
「じゃあ、行ってくるよ」
「お兄ちゃん、気を付けてね!」
妹は仕事に行く自分に笑顔で手を振ってくれた。
夜、俺は山の上に一人。
山頂から見下ろした麓の光景に、思わず息を呑む。
視界に入ったのは真っ赤な業火に包まれ、黒い煙が立ち込める自分の故郷の姿だった。
その日、俺は――全てを失った。
第一章【家族との約束】
四方八方を緑の山に囲まれた小さな村、キリノコ村。
その村の中央に建つ、古びた小さな家。
家の壁はモロい。雨季には雨漏りもするくらい屋根も傷んでいる。今日は幸い快晴だ。
俺はその家に、妹と母親を含めた家族三人で、仲良く暮らしている。
「母さん、今日の体調はどうだい。具合は悪くないか?」
俺は木製の椅子に座り、病気でベッドに寝込み続けている母を毎朝、看病している。
「えぇ、平気よ。ジャック」
「それなら良かった。そろそろ薬が切れそうだからまた隣町から買って来るよ」
「いつも迷惑ばかり掛けて悪いわね」
母は落ち込んだ表情を見せながら暗い声でそう言った。
「平気さ、俺の事は気にしなくて良いよ」
毎日暗い表情を母は見せる。
母は七年前に重い病気に掛かったせいで、両足がまったく動かない。
だから二年もの間、一度もベッドの上から動けていない。
それに全身がやせ細り、顔色も悪い。心身共に疲労が増していくばかりだ。
「ごめんね、無力な母親で。せめてこの足さえ動けば貴方達を少しでも楽にしてあげられるのに……」
「そんな事ないよ。それに俺は母さんとメイが幸せでいてくれたら、どんなに辛い事があっても幸せだよ」
俺が優しくそう言うと、母は心配そうな顔を見せた。
「ジャック……」
俺は不安な表情を浮かべる母を見て、奥歯を強く噛みしめる。
(母さんは心配性だし、とても優しい。だからこそ体を蝕む病気がとても憎い)
すると母は何故か急に両手を合わせた。
「そうだわ、ジャック。貴方は今日で14歳ね」
「う、うん。そうだけど、どうかしたの?」
すると母親は掛け布団の下から何かを取り出した。
「貴方の為にマフラーを編んでみたの。さあ首を出して」
茶色の布で編まれたマフラーを母さんから優しく首にかけてもらった。
「肌触りはどう? チクチクしない?」
「うん平気だ。ありがとう母さん。とても嬉しいよ。大事にするね」
「それなら良かったわ」
母さんは久々に、とても素敵な笑顔を見せてくれた。
(母さんの笑顔はやっぱり綺麗だな)
母の嬉しそうな笑顔を見ているだけで自分にも自然と笑みが生まれる。
するとギィっと玄関の扉を開ける音が、俺の背後から微かに聞こえてきた。
「お兄ちゃん、まだいる?」
「メイ、どうした?」
古い木製の扉を開いて顔を覗かせた幼い女の子。名前はメイ。俺の妹だ。
「お兄ちゃん、これ。私からのプレゼントだよ」
赤くしもやけになった両手で渡してきたのは細い糸を編んで作られた、色彩で綺麗な細い腕輪だった。
「これはブレスレットか?」
俺がそう尋ねるとメイは大きく首を頷かせた。
「うん! そうだよ!」
「どれどれ……」
俺は早速、メイから貰ったプレゼントを左手首にはめる。
綺麗な石で作られたブレスレットはピッタリと俺の手首にハマった。
それを間近で見ていたメイは腕のサイズがピタリと合ってホッとしたのか、少しだけ笑みを見せた。
「これ、メイが作ったのか。凄く時間かかっただろ?」
「下手でごめんね。私って不器用だから……」
妹は自分で出来が悪いと感じていたのか、少しだけ落ち込んだ表情を見せた。
寒さで荒れた妹の両手を、俺はギュッと両手で包み込むように優しく握り締める。
「うんうん、そんな事ない。俺はすごく嬉しいよ。大事にする。ありがとうメイ」
俺がそう言うと妹は嬉しそうに微笑んだ。
「うん! 気に入ってもらえて嬉しいなぁ」
妹の笑顔も母の笑顔と同じぐらい大好きだ。
(2人が幸せでいてくれるなら、俺はどんな困難も乗り越えられる)
俺は自分の足元にある鞄に視線を傾けて、フッと思い出す。
「おっと、そろそろ仕事に行く時間だ」
「なら、私がお見送りするよ」
俺は椅子を立ち、仕事用の肩掛け鞄を持つ。そして玄関の扉を開ける。
「ジャック、気を付けてね」
母さんの優しい声が聞こえ、背後を振り返る。
「うん、わかった。母さんも無理せずゆっくりと休んでくれよ」
「わかったわ、気を使ってくれてありがとう。いってらっしゃい」
そう言って俺は扉を開き、メイと共に外へ出る。
玄関の扉を閉める際、母は少し心配した顔で俺をベッドの上から見送っていた。
仕事に出る際、母は俺の事を毎日暗い表情で見送る。ずっと俺の事を心配しているみたいだった。
「それじゃあメイ、今日も母さんの看病をよろしく頼むぞ」
「うん、任せて!」
メイは明るくニッコリとした表情で笑う。
「いつも、悪いな。本当だったら同い年の子達と一緒に外で遊びたいだろ?」
「ううん、平気だよ。私はお兄ちゃんやお母さんと一緒に居られるだけで嬉しいから」
そう言ってメイは白い歯を見せながら微笑む。
メイのかわいい笑顔を見る度に、気を遣わせてしまっている気がして、少しだけ胸が苦しくなる。
「それじゃあ、母さんを寂しくさせないようにずっと側に寄り添っていてくれよ」
「もちろん! お兄ちゃんとの約束なら絶対に守るよ!」
俺はメイの頭を右手で優しく撫でる。
「約束だ。俺も出来るだけ早く帰ってくるからな」
「うん!」
俺と妹は小指を切って約束した。
そして俺は妹に母の看病を任せて、一人で仕事に向かう。
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