【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

こうらい ゆあ

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おまけ

ひとりぼっちのお留守番

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今日は珍しくまだ士郎さんが帰って来ない

お昼過ぎに電話があった
「雪兎、ごめん。今晩、どうしても外せない飲み会に強制参加させられることになって…
絶対すぐに帰るから!出来るだけ、すぐに!定時と同じくらいすぐに帰るからっ!」
なんだかすっごく必死に言ってくるから、つい笑ってしまって

「大丈夫だよ?士郎さん、たまには会社の人と飲みに行くのもお仕事だと思うし…
僕は先にご飯食べて待ってるから
あ、士郎さんが帰ってくるまでは起きてていい?顔を見て、『お帰りなさい』って言いたいから…」
「…………」

電話の向こうが急に静かになったのを不思議に思い、何度か名前を呼んでみると微かに返事があった
「やっぱり、飲み会には参加しないって言ってくる…」
絞り出すように決意を秘めた声でとんでもない事を言い出す彼に目を見開き

「士郎さん、今日はどうしても行かなきゃなんでしょ?
帰って来たら、ご褒美用意しとくから…って、ご褒美になるのかわかんないけど…」
「即終わらせて帰るから、ご褒美用意していて!」
勢いよく返事をされ、さっきまでの不満気な声が明るくなったのを感じて安心する

「うん。気を付けてね。飲み過ぎない程度に楽しんできて」



そんなやり取りをしたのが数時間前
いつもならもう帰ってくる時間だけど、今日はまだ帰って来ない

少し寂しく感じながらも、自分用に用意したご飯をモソモソと食べ始める
自分の為に作るご飯はやる気が出なくて、久々にカップ麺にしてしまった
カップ麺、普段食べる事なんてなくて、いつ振りだろう?って楽しみにしてたのに…

最初の一口は美味しかったのに
「美味しいね」って、言っても誰も居なくて
いつもなら、士郎さんが先に「美味しい」とか「これまた作って」とか色々言ってくれるのに…
今日は僕ひとりぼっちで…

前は、ひとりで食べるなんて当たり前だったのに…
カップ麺も、ずっと食べ慣れてたはずなのに…

「美味しいはずなのに、美味しくないや…」
ポツリと口から溢れてしまった声に溜息が出てしまう


慣れているはずのこの時間を寂しいと感じてしまう



早々にご飯を食べ終え、ソファーに膝を抱えて座りながらテレビを見る
まだ20時を過ぎたところで、士郎さんからの連絡は来ない
ただ流しているだけのテレビを眺める

CMの度に時計を見てしまい、時間が全然経っていないのを感じて溜息が漏れてしまう
「士郎さん、楽しんでるかな?美味しいモノ、食べてるかな?
あ、お酒飲んだ後だから、お味噌汁くらいなら食べてくれるかな?」
何もしない時間が落ち着かなくて、思い付くままにしじみのお味噌汁を作る
すぐに出来上がってしまって、時間が余ってしまって…

「お弁当用におにぎり作ろう…
要らなくても、明日の僕のお昼ごはんか朝ごはんにすればいいよね」
さっきから声に出してしまっている自分に気付き笑ってしまう
「僕、独り言多すぎだよ…」


好きな人を思いながらおにぎりを作り、お皿に並べる
梅とおかかとウィンナー
それぞれ2個ずつ作ってラップをする


「まだ、だよね…」
やることがなくなってしまい、でも、まだ帰って来ない士郎さんに寂しさが募る
リビングの椅子に掛けられていた士郎さんの上着を羽織る

フワッと香る士郎さんの匂いに、袖の辺りをクンクンと匂いを嗅いでしまう
「ふふっ…士郎さんの匂いがする」
彼に背後から抱き締めて貰ってるような感覚に、つい笑みが溢れる
「早く、帰ってきてほしいなぁ…」


どれくらい待ったんだろ…
23時を過ぎても、士郎さんがまだ帰って来ない
絶対、帰って来てくれるって思うけど、不安が募っていく

「どうしたんだろ…どこがで事故でもあったのかな…」
スマホを何度見ても、連絡が入ってなくて…
メールをしても既読にならない

「……士郎さん、誰かと一緒…だったらヤダな…」
不意に過去の元番のことを思い出してしまい、泣きそうになる

遊びに行く度、発情期ヒートの度に帰って来たら、他のΩの匂いを付けて帰って来る彼
士郎さんはあの人とは違うってわかってるけど、不安になってしまう…

寝室から、士郎さんの枕を持って来てギュッと顔を埋めるように押し当てる
大好きな彼の匂いに、何度も「大丈夫」と繰り返し呟き

「もうすぐ帰ってくるはず…大丈夫、きっと…大丈夫」
玄関の扉の前にちょこんと座り、枕を抱えながら待ち続けた

「……嫌われ、ちゃうかな…」
女々しい自分の行動に不安になりながらも、彼の温もりを早く感じたいとギュッと強く枕を抱き締めてずっと待った



いつの間にか眠ってしまって、まだ眠たい目を擦って自分を包む暖かい温もりを確認する
ギュッと包み込むように僕を抱き締めて眠る士郎さんについ笑みが溢れる
「おかえりなさい…良かったぁ…」
彼の胸に顔を埋めて匂いを嗅ぐと、いつもの士郎さんの匂いに少しのタバコの匂いとお酒の匂い、あと、僕の匂いだけがした

他のΩの人の匂いはない…
僕だけの、いつもの士郎さんの匂い

「士郎さん、大好き…士郎さん…」
ずっと寂しかった気持ちがほろほろと崩れていく
明日のお休みは、ずっと一緒にいて欲しいな…
今日、寂しかったって…ちゃんと言いたいなぁ…






【士郎side】

乾杯だけして帰るつもりだった
雪兎には昼間に飲み会に参加しなければいけなくなった旨を連絡しているとはいえ、こんな終電近くまで付き合わされるつもりは毛頭もなかった…

珍しく酔っ払った桐ヶ谷さん…
雪兎の、実の兄であるこの人に絡まれなければ…

「俺の理央はすっごく可愛いんです!可愛いだけじゃなくて、元気で明るくて…俺の、俺のことを、愛してくれてるんです!」
呂律も回らないくせに、ずっとこの調子で俺に絡んできて、昔の雪兎の写真と今の恋人の写真を交互に見せてくる

雪兎の写真は見たいが、その恋人のは要らない
ってか、雪兎の写真は俺にデータを送って、そのスマホのは消して欲しい
実の兄だからといって、いつまでその写真を持っているんだと文句を言いたくなる

まだ中学生くらいの幼さの残る雪兎
もう第二の性の診断後なのか、少し寂し気な笑顔を浮かべる写真に庇護欲が刺激される

「聞いてますか?だから、理央は、ゆきと顔は似てはいるけど、理央の方がずっと可愛くてですね!」
大人しく聞いていたが、いい加減イライラしてしまい
「……桐ヶ谷さん、そろそろ終わりにしませんか?」
怒気を孕む低い声で笑みを浮かべて声をかける

「まだです!まだ理央の魅力をお伝え出来てない!」
と声高らかに言った瞬間、背後から現れた小柄な青年に思い切り頭を殴られる

「なに恥ずかしいこと言うてんねん!」
真っ赤な顔で仁王立ちしている青年にみんな呆気に取られる
「すみません、酔っ払いの龍月たつきのお迎えに来ました。
皆さん、本当にすみません!
ほら、龍月たつき、帰るよ!ちゃんと自分で立って!」

へべれけになりながらも、恋人の顔を確認した桐ヶ谷さんは凄く嬉しそうな顔をして恋人に抱き付き、仲良く帰っていった

あの人のあんな姿を見るのはみんな初めてて、戸惑いながらも仲の良さについ和んでいた…俺以外は…

「絶対、雪兎の方が可愛い」
誰にも聴こえないくらいの声でボソッと呟くも不満な顔は隠すことができなかった




やっと、家に帰り着くももう日付は変わってしまっており、雪兎は先に寝てしまっているだろうと静かに玄関の扉を開ける

普段なら廊下の電気が消えているはずなのに、廊下もその奥に見えるリビングも電気は付けっぱなしだった
「ただいま…」
音を立てないように静かに入ると、壁にもたれ掛かり、雪兎には大き過ぎる俺の上着を羽織り、俺の枕を大事そうに抱き抱えて顔を埋めて眠っている愛する番が目に入る

「ずっと、待っててくれたのか…遅くなってごめんな」
涙の跡がないのを確認し、荷物を玄関に置いたまま宝物を抱き締めるように雪兎を抱えて寝室に向かう

「やっぱり、雪兎が一番可愛い。俺の、俺だけの可愛い雪兎…」
枕を静かに取って、代わりに俺がギュッと抱き締めると眠りながらも、嬉しそうに顔を擦り寄せてくる

雪兎のそんな可愛い行動を見ていると、一気に酔いが回ってきて、そのまま一緒に眠ってしまった


明日というか、今日の休みはずっと一緒に居よう
寂しい思いをさせてしまった番を少しでも安心させてやろう

「愛してる。雪兎…おやすみ」




士郎さんを玄関でじっと待つ雪兎


もう一枚いただいてしまった(*,,•ω(ω<,,✱)
おかえりなさい!

トリュフ様@trufflechocolat が描いて下さって、可愛過ぎておまけ書いちゃいました!
このイラストを自慢したかっただけのおまけです“(⌯¤̴̶̷̀ω¤̴̶̷́)✧
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