【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

こうらい ゆあ

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巣作り出来ないΩくん

12.

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 仕事から帰ると、部屋の電気が付いておらず、真っ暗だった。
 いつも居るはずのリビングに行っても、雪兎の姿は見当たらない。
 ただ、部屋のあちこちにほんのりと甘くて良い匂いが漂っていた。

「雪兎、また我慢させちゃったみたいだな……」
 言葉と同時につい溜息が漏れてしまう。
 まだ遠慮がちな恋人に、素直に甘えて欲しいと思うものの、雪兎の性格を考えると難しい。
「ふぅ……とにかく、今はデロデロに甘やかすか……」
 発情期の始まってしまった愛しい恋人が待つ寝室に、静かに向かう。

 早く抱きしめてやりたいが、驚かせてまた怯えさせるわけにはいかない。
 できるだけ静かに部屋に入るようにする。

 部屋に入ったとたん、他の部屋よりも一層濃厚な甘い香りについ顔が緩んでしまう。
 ベッドの上で膨らむシーツを見つけ、愛おしげに抱きしめてやる。
 桃のような濃厚な甘くて優しい香りを、顔を埋めて匂いを胸いっぱいに吸い込む。

「ただいま、雪兎。発情期ヒートが来ちゃったのか。連絡してくれて良かったのに」
 雪兎のフェロモンのニオイを嗅いでいるだけで、中心が熱くなるのを感じる。

 早く抱きしめて、たくさんキスをしてやりたい。
 雪兎の全身を舐めてやりたい。
 俺のモノを奥まで挿れて、うなじを噛んでやりたい。

 αのオスの本能を抑え込み、雪兎が顔を出すのをじっと静かに見守る。
 もぞもぞとシーツの中から不安げな表情で顔を覗かせ、俺の顔を確認した瞬間、ふわりと笑みを浮かべていた。
 愛してやまない恋人の行動を見て、抑えていたはずのフェロモンが溢れ出してしまう。
「雪兎のフェロモンで部屋が満たされてる。早く雪兎をいっぱい愛してあげたくなるよ」
 ギュッと強く抱きしめながら、ついフェロモンのことを口にしてしまう。

 気付いた時には、雪兎の表情は見る見ると曇っていき、今にも泣き出しそうにクシャリと顔を歪め、うなじを押さえていた。
「ごめんなさい……。僕の、フェロモン……臭いよね。……嫌な思いさせて、ごめんなさい……」
 自らのうなじをガリガリと傷つけるように、引っ掻いている。
 その手を掴み、そっと口付ける。

「ごめん。違うから……雪兎のフェロモンはすごく甘くて良い香りだよ。……だから、もっと俺を求めて出して欲しい」
 俺には堪らなく良い香りなのに、雪兎は自分のニオイを嫌っている。
 フェロモンのコトを話すと、いつもうなじを押さえて傷を付けようとしてしまう。

 雪兎の白く簡単に折れてしまいそうな細い首。
 さっき引っ掻いたせいで、赤い筋がいくつか出来てしまった。
 そんな傷よりも、俺が『番』としてのしるしを付けてやりたい。
 二度と消えない噛み痕を付けてやりたい。

 俺の醜い欲を隠すように、甘く、優しく雪兎に囁きながら、頬や目元に口付けを落としていく。
「雪兎、愛してるよ。早く、雪兎を満たしてあげたい」

 俺の言葉に不安げな表情のまま、ゆっくりシーツを開いて迎え入れてくれる。
 まだ行為に慣れていないのか、不安そうな姿にも愛しさが募っていく。

 そんな雪兎の周りをコッソリ見渡し、シーツ以外何も見当たらないことに、内心落胆してしまう。

 今日も、シーツか……

 ベッドの周りを見ても、自分の服は一切ない。
 今回も巣作りはして貰えなかったのだと、寂しさが増していき、つい雪兎自身に聞いてしまう。
「雪兎、欲しいモノとかして欲しいことある?雪兎が安心出来るなら、なんでも用意するよ」
 どんな服が巣材として欲しいのか教えて欲しい。
 どういう物が雪兎の好みで、何を用意すれば巣を作ってくれるのか……

 それとも、俺の物では作りたくないのか……教えて欲しい……

 俺の問いに、ふるふると小さく首を横に振る雪兎の仕草に、胸が締め付けられる。
 まだ、足りないのだろうか……
 側に居ることができなかったから……
 一人で発情期ヒートにさせてしまったから……
 俺よりも、前の番相手の方がいいのか……

 雪兎のコトを考えていると、服の裾を少しだけ摘まんで引っ張られる。
「士郎さんが居てくれたら、何もいらないです。ギュッて、して……。士郎さんにいっぱい触れて欲しい」
 少し俯きながらも、恥ずかしそうに言う雪兎に愛しさが溢れだしてしまう。

「そんなことでいいの?雪兎、愛してる。たくさん可愛がってあげるね」
 窒息しそうな程強く抱きしめ、触れるだけのキスを繰り返す。

 雪兎の発情期は比較的軽めのように見える。
 毎日コッソリ飲んでいる抑制剤の影響なのか、それとも、雪兎が我慢しているだけなのか……
 他のΩの発情期がどういうものかを知らないが、比較的軽いんだと思う。
 ただ、抑制剤を飲むことを止めさせられない俺のせいかもしれない。

『番』になれば、発情期ヒートも安定するし、抑制剤なんかも飲まなくて済むのに……

「士郎、さん……」
 キスの合間に甘えるような声で名前を呼ばれ、余計なことを考えることを止める。
 今は、大切なΩである雪兎をドロドロになるまで甘やかして、我慢していることを全て吐き出させてやる。

「雪兎、愛してる」
 何度も口内に舌を差し入れ、舌を絡めて溶かしていく。
 呼吸の合間に何度も「愛してる」と言葉を紡ぐも、その度に不安げな目をしてくる雪兎の上顎の窪みをゆっくりとなぞる。
「ん……ふぁ……」
 腰がピクッと震えるのがわかり、執拗に刺激を与えてやる。

 一度堰を切ってしまえば、淫らに俺を誘惑する雪兎。
 いつも何かを我慢している彼が、素直に甘えられるように……
 余計なことを考えられないように……
 快楽のみを与えてやる。
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