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夜明けの散歩を貴方と

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家から一番近い海岸に到着し、補整された綺麗な道を海を眺めながら手を繋いで歩いた
まだ太陽が昇ってないが、辺りは薄明るくなってきたけれど、街灯がポツリ、ポツリと路を照らしている

遠くに釣り人らしき人や、停泊している船が見えるが、周りには誰も居らず、2人の静かな足音と波の音だけが響いていた

「……士郎さん、手、離さないで、ね…」
押しては引いていく波の音と遠くまで広がる黒い海を見ていると、不意に連れ去られそうな感覚になり、急に不安になってくる

離れたら、もう2度と繋がれないような気がして、怯えたようにギュッと彼の手を握りしめて目を伏せる

「雪兎、大丈夫。おいで」

遊歩道を進むと一層開けた場所に出た
海を眺めれるベンチがあり、そこにゆったり座りながら士郎さんが手を差し伸べてくれる

隣に座ればいいのに、今は少しでも多く彼に触れていたくて、膝の上にちょこんと乗って身体を預けて、彼の首元に顔を埋める
海の潮の香りと彼の匂いが混ざり合って、さっきまでの不安が溶けていくように落ち着く

このままずっと抱き締めて欲しい
ずっと、側に居て欲しい…


「雪兎、愛してる。今日は、怖いのに付いて来てくれてありがとうな」
重ねた手や額、頬にキスをしてくれる
くっきりと歯型の付いた頸にキスをされた瞬間、触れた部分が熱くてドキドキする
「士郎さんが一緒なら、平気…。ひとりだと、まだ怖いけど、こうして抱っこしてくれてたら大丈夫だから…」
「雪兎、怖い夢を見たら俺の名前を呼んで?俺が、夢の中でも雪兎を助けに行くから
絶対に、雪兎をひとりぼっちにはさせないから」
士郎さんの熱い視線に小さく頷き、胸に頭を擦り寄せる



どれくらいそうしていたのかわからないけれど、ゆっくり辺りも明るくなってきた

朝日が海と空の境目からゆっくり上がっていく
濃い夜が、朱い陽に溶けて混ざり合っていく

陽が上がるにつれて、空は白く明るくなっていき、僕の恐怖も一緒に溶かされていくようだった


「綺麗…。」
目の前に広がる美しい景色に目を見開き、目に焼き付ける

ずっと部屋に閉じこもって、眺めるのは決まった景色ばかりだった
何度か外に連れて行って貰っても、周りの人の視線が怖くて俯いてばかりで、景色を見る余裕なんてなかった


「雪兎、これからも色んな景色を見に行こう。一緒に美味しい物を食べて、色んなところに遊びに行こう。雪兎、愛してる。ずっと、俺の側に居てくれ」

左手の薬指にシンプルな指輪を嵌めてくれる
朝日に照らされた指輪がキラキラと輝いていて、とても眩しくて、無意識に涙が溢れ落ちる

返事をしようにも嬉しくて、言葉が詰まってしまい話すことが出来ない

「ひっく…しろ、さ…僕も、あいして、る…ずっと、ずっと…側に居させて」

ギュッと強く抱き締め合い、何度も深い口付けを交わした






「はぁ…、朝になっちゃった…
士郎さん、今日もお仕事なのに…ごめんなさい…」
まだ平日なのを思い出し、罪悪感と寂しさでしょんぼりと落ち込む
今から家に帰ってすぐに出ても遅刻は確定だろうし、何よりもちゃんと寝ていないのが気になる


「雪兎、美味しいモーニングでも食べに行こうか。そのあとホテルとかでゆっくり寝て、起きたらまたデートに行こう。あ、仕事は消化しきれてない有給があるから今日くらい休んでも問題ないよ。仕事なんかより、雪兎との時間の方が大切だし。このまま役所に婚姻届も出しに行きたいしね」

仕事を休むことを前提に、サクサクと今日の予定を決めていく士郎さんに、罪悪感も寂しさも薄れていき、クスクス笑いが出てしまう

「士郎さん、上司さんに怒られちゃうよ?」
「俺は雪兎と居れるなら今の会社なんて辞めて、在宅で出来る仕事に転職するのもアリなんだけどな…」
本気なのか冗談なのかわからない士郎さんの口振りに、愛しさと嬉しさが混じり
「士郎さん、大好き。でも、冗談で僕なんかの為に転職しちゃダメだよ」





士郎さんが急に休んだ職場は、本日1日阿鼻叫喚な状況に陥っていたらしい

後日、本気で退職届を提出しようとしているのを発見し、流石にお説教してしまった

士郎さん本人は怒られているはずなのに、すごく嬉しそうにしながら僕を膝の上に乗せて、左手を重ねるように握ってくる

2人の薬指にはお揃いの指輪が輝いていた
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