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何度も来たことのあるマンション
付き合ってすぐの時は、ここに来るのも恥ずかしくて、マンションの前でウロウロしてたっけ
上から覗いてた琥太郎が、幸せそうに笑って迎えに来てくれた
人目が気になって、外ではなかなか手も繋げなかった
ずっと繋いでいたいのに、誰かに見られたらって思うとすぐに離しちゃって…
離れた手が寂しくて寒かった
冬なら、琥太郎がポケットに手を入れてくれて、こっそりずっと握ってたっけ…
ちゃんと憶えてる
一つ、一つ、どれも大切な想い出
忘れたくない、大切なもの
701号室
平日の夕方なのに、やけに静かで、時間がゆっくり流れているように感じる
部屋の前まで来て、やっと思い至る
「ははっ…、平日なんだから、居るわけ、ないか…」
琥太郎が仕事中なのを思い出し、乾いた笑いが漏れる
そのまま扉を背にズルズルと座り込み、膝を抱えて帰りを待つことにした
会ったら、最初にちゃんと謝ろう
許して貰えないかもしれない
もう嫌われてるかもしれない
でも、ちゃんと謝って、琥太郎のこと、やっぱり好きだって伝えよう
あと、あの時のコトはちゃんと文句を言わなきゃ
傷付いたって
苦しかったって
オレのこと、一番好きって言ったのに忘れるなって
それで…それで……
廊下を硬い革靴で歩く音が聞こえる
いつの間にか空は暗くなっており、12月の寒空で待っていたせいで身体は冷え切っていた
「竹内…?」
ずっと聞きたかった愛しい人の声に、勢いよく顔を上げる
「琥太郎…琥太郎…コタ」
名前を呼ぶ度に涙が溢れ落ちる
言いたいことが色々あるのに、言葉に出来なくて、ただ名前を呼ぶしか出来なかった
オレが名前を呼ぶと、目を見開いて弾かれたように駆け寄り、強く抱き締めてくれた
冷え切った身体に、琥太郎の熱が伝わり、これは現実だと実感できる
「コタ、ごめんっ!ごめん、なさい…ちゃんと、思い出した…から
コタのこと、全部…思い出して…オレ、コタが…」
好きと言おうとした瞬間、琥太郎に噛み付かれるようなキスをされる
いつぶりだろう、やっと、やっと、触れ合うことが出来た
どれくらい時間が経ったのかわからない、唇を離した時に、2人とも息が上がってしまっていた
離れたくないというように、額を合わせたまま琥太郎と目が合い笑ってしまう
「コタ、愛してる。いっぱい傷付けて、ごめん。嫌わないで」
「ひよ…ひよ…愛してる。俺こそ、傷付けた。こんなに愛してるのに…」
冷えた頬を温めるように両手で包まれ、触れるだけのキスをされる
もっと、もっと琥太郎に触れて欲しい
もっと、琥太郎を、感じたい
誰かが来る足音が聞こえ、ここがマンションの廊下だということを思い出して顔が熱くなる
「コタ、続きは部屋でして…もっと、コタに触れて欲しい…」
耳まで真っ赤になりながら、彼の手に自分の手を重ね、頬を擦り寄せる
部屋の鍵を開け、腕を引かれ雪崩込むように室内に入る
どちらからともなく唇を重ね、貪るように何度もキスをした
「ひよ、ひよ…愛してる」
キスの合間に何度も名前を呼ばれる
その都度、オレも…と言いたいのに、息も絶え絶えでちゃんと応えることが出来なかった
「コ、タ…まっ、て…コタ、ちょ…待って」
琥太郎の両頬を押さえてなんとかキスを止め、真っ赤になった顔で訴える
「オレ、準備してないから…それに、ココだと声…ヤダ…」
さっきまでがっついていたのに、急に恥ずかしくなり、琥太郎から顔を背ける
部屋は段ボールやら服が散らばっており、荒れた状態にクスッと笑ってしまう
「コタ、荒れてた?」
一時も離れたくないというように、オレに抱き着いて離れず、拗ねたような顔で肩に顔を埋めている琥太郎に愛しさが募る
「当たり前だろ、ひよにフラれて…本気で落ち込んだ。もう、会えないかもしれないって…
でも、ひよに名前を呼んで貰えてよかった…」
泣いているのか、埋められた肩が濡れるのがわかる
愛しくて仕方ない琥太郎の頭を優しく抱きしめ
「コタ、愛してる。もう、オレのこと忘れないで」
付き合ってすぐの時は、ここに来るのも恥ずかしくて、マンションの前でウロウロしてたっけ
上から覗いてた琥太郎が、幸せそうに笑って迎えに来てくれた
人目が気になって、外ではなかなか手も繋げなかった
ずっと繋いでいたいのに、誰かに見られたらって思うとすぐに離しちゃって…
離れた手が寂しくて寒かった
冬なら、琥太郎がポケットに手を入れてくれて、こっそりずっと握ってたっけ…
ちゃんと憶えてる
一つ、一つ、どれも大切な想い出
忘れたくない、大切なもの
701号室
平日の夕方なのに、やけに静かで、時間がゆっくり流れているように感じる
部屋の前まで来て、やっと思い至る
「ははっ…、平日なんだから、居るわけ、ないか…」
琥太郎が仕事中なのを思い出し、乾いた笑いが漏れる
そのまま扉を背にズルズルと座り込み、膝を抱えて帰りを待つことにした
会ったら、最初にちゃんと謝ろう
許して貰えないかもしれない
もう嫌われてるかもしれない
でも、ちゃんと謝って、琥太郎のこと、やっぱり好きだって伝えよう
あと、あの時のコトはちゃんと文句を言わなきゃ
傷付いたって
苦しかったって
オレのこと、一番好きって言ったのに忘れるなって
それで…それで……
廊下を硬い革靴で歩く音が聞こえる
いつの間にか空は暗くなっており、12月の寒空で待っていたせいで身体は冷え切っていた
「竹内…?」
ずっと聞きたかった愛しい人の声に、勢いよく顔を上げる
「琥太郎…琥太郎…コタ」
名前を呼ぶ度に涙が溢れ落ちる
言いたいことが色々あるのに、言葉に出来なくて、ただ名前を呼ぶしか出来なかった
オレが名前を呼ぶと、目を見開いて弾かれたように駆け寄り、強く抱き締めてくれた
冷え切った身体に、琥太郎の熱が伝わり、これは現実だと実感できる
「コタ、ごめんっ!ごめん、なさい…ちゃんと、思い出した…から
コタのこと、全部…思い出して…オレ、コタが…」
好きと言おうとした瞬間、琥太郎に噛み付かれるようなキスをされる
いつぶりだろう、やっと、やっと、触れ合うことが出来た
どれくらい時間が経ったのかわからない、唇を離した時に、2人とも息が上がってしまっていた
離れたくないというように、額を合わせたまま琥太郎と目が合い笑ってしまう
「コタ、愛してる。いっぱい傷付けて、ごめん。嫌わないで」
「ひよ…ひよ…愛してる。俺こそ、傷付けた。こんなに愛してるのに…」
冷えた頬を温めるように両手で包まれ、触れるだけのキスをされる
もっと、もっと琥太郎に触れて欲しい
もっと、琥太郎を、感じたい
誰かが来る足音が聞こえ、ここがマンションの廊下だということを思い出して顔が熱くなる
「コタ、続きは部屋でして…もっと、コタに触れて欲しい…」
耳まで真っ赤になりながら、彼の手に自分の手を重ね、頬を擦り寄せる
部屋の鍵を開け、腕を引かれ雪崩込むように室内に入る
どちらからともなく唇を重ね、貪るように何度もキスをした
「ひよ、ひよ…愛してる」
キスの合間に何度も名前を呼ばれる
その都度、オレも…と言いたいのに、息も絶え絶えでちゃんと応えることが出来なかった
「コ、タ…まっ、て…コタ、ちょ…待って」
琥太郎の両頬を押さえてなんとかキスを止め、真っ赤になった顔で訴える
「オレ、準備してないから…それに、ココだと声…ヤダ…」
さっきまでがっついていたのに、急に恥ずかしくなり、琥太郎から顔を背ける
部屋は段ボールやら服が散らばっており、荒れた状態にクスッと笑ってしまう
「コタ、荒れてた?」
一時も離れたくないというように、オレに抱き着いて離れず、拗ねたような顔で肩に顔を埋めている琥太郎に愛しさが募る
「当たり前だろ、ひよにフラれて…本気で落ち込んだ。もう、会えないかもしれないって…
でも、ひよに名前を呼んで貰えてよかった…」
泣いているのか、埋められた肩が濡れるのがわかる
愛しくて仕方ない琥太郎の頭を優しく抱きしめ
「コタ、愛してる。もう、オレのこと忘れないで」
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