【完結】キミの記憶が戻るまで

こうらい ゆあ

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あの日から、櫻井さくらいさんからのお誘いやプレゼントが増えた気がする
何気ないメールとか、仕事終わりのちょっとしたデートとか…
まるで、最近付き合ったばかりのカップルみたいでムズムズする



やっと、オレの休みと櫻井さくらいさんの休みが合って、約束していたデートに行くことになった

行き先は教えて貰えなかったけれど、電車の方向的に神戸に行くのだろうと予想できた
「朝陽、元町の中華街とか神戸のパンとか、異人館改装のコーヒー屋に行きたいって言ってただろ?」
彼の口から紡がれる魅力的な場所につい目が輝いてしまう

「えっ!なんで知って…ってか、今からそこ全部行くの?時間とか行ける?」
行ってみたい場所、気になる食べ物、華やかな街並みについ心が躍る

「案外、歩いて回れる場所だよ。
まずは北野坂の方から回って、お昼もその辺りで食べようか。美味しいピザのお店があるらしいから。豚まんはオヤツで食べるだろ?」
つい食べ物の話になるとワクワクしてしまう


「あ、ここ?ココだよな!」
異人館をそのまま使ったコーヒー屋にテンションが上がり、彼の手を握って早く早くと言うように手を引いて歩き出す
「メニュー一緒なのに、なんか特別感ある!めっちゃ写真撮りたい!」
店内を物珍しげに物色し、建物や家具を夢中になって写真に収めていく

そんな子どものようにはしゃぐオレを、嬉しそうに見つめてくる彼と目が合ってしまい、急に照れ臭くなり
「えっと…、つ、次行きましょう!ほ、ほらっ、まだまだ見たいところとか行きたい場所もあるし!」



もうすぐ12月のはずなのに、秋晴れのせいでなんだか暑い気がする
握った手を離さないのは、人混みで迷子にならない為だし
今日が楽しみだったのは、来月から仕事が忙しいから、今日が今月最後の休みだから…


誰に何も言われてないのに、言い訳ばかりが頭の中をグルグルする



「朝陽、ここ結構急な坂道だから、転けないように気をつけて」
彼のオレを見る目が優しくて、いつも以上にドキドキしてしまう
繋いだ手から、ドキドキがバレてしまわないか不安になる



南京町で有名な豚まんも食べた、お肉屋さんのコロッケも食べた、さっきの異人館通りとは全く異なる雰囲気の中華街
道中にもたくさんのものに心惹かれて、でも、何故か懐かしくって

初めて来たはずなのに、前にもこうやって誰かと笑いながら歩いたような気がする

「朝陽、神戸ポートタワーのところに行こうか。
今からなら夕陽も綺麗だし、神戸って言ったらあそこだろ?」
彼に導かれるように歩いて行く
今日だけでも結構歩いて疲れているはずなのに、もっと一緒に居たくて
離れたくなくて、ただ、一緒に居れる理由を無意識に探した



夕陽に照らされて、オレンジ色に染まる街並みと海が目の前に広がる

海の近くなのに綺麗に補整された道
神戸って言われるとよく映像とかで出されるあの場所につい笑みが溢れてしまう
「確かに、神戸って言ったらココイメージするかも」

辺りには家族連れやカップルが多く、みんな楽しそうにしているのが見える



「今日は、ありがとうございました。オレの行きたいところばっかり振り回してた気がする」
2人で海を眺めながらゆっくりと歩いた
陽が静かに海に溶けていき、夜がやってくる

街に色鮮やかな明かりが灯り、また景色が変わっていく



「ひよ…」
後ろから包み込むように抱き締められ、歩みを止める
普段なら、こんな所で抱き締められるのなんて嫌なのに、今は…、今だけはオレもこうしていたかった

「ひよ、キミの記憶が戻るまで…、いや、記憶が戻らなくても、ずっと、ずっとひよだけを愛している」
彼の熱い吐息を耳元で感じる
ギュッと強く抱き締める手に、自分の手を重ねる
ゆっくり目を閉じて、一呼吸した後に目を開け

「ごめんなさい…。オレ、やっぱり櫻井さくらいさんとのこと、思い出せないや…
櫻井さくらいさんのこと、恋愛対象として好きだけど、こんな中途半端なオレが一緒に居ちゃダメだと思う
だから、ごめんなさい」

彼の手をそっと振り解き、腕の中から抜け出す

「12月まであと3日あるけど…、ごめんなさい。もう、オレのこと、口説かないで」
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