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side-琥太郎

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まもるは、退院するまで毎日俺の世話をする為に会いに来てくれた

献身的な彼の姿に愛しさが募っていく

なのに、彼を見詰める度に、何故か胸の奥にチクリと何か刺さっているような、不愉快な痛みを感じていた

「やっと退院出来てよかったね。まだ記憶は曖昧かもだけど、これからいっぱい思い出を作れば問題ないよ」
まもるが俺の腕にしがみ付き、嬉しそうに頬を寄せながら話し掛けてくる

やはり、記憶がない俺のことが不安なのか、すぐに擦り寄ってくっついて来る姿に早く全部を思い出してやらなきゃな。って思っていた

「ありがとうな、まもるが居てくれたから取り乱さずにすんだよ。
絶対、まもるとの大切な思い出は一つ残らずちゃんと思い出すから、待っててくれよ」
「思い出さなくていいっ!!」
不意に大きな声あげる彼に驚き、目を見開いて撫でようとしていた手を引っ込める

「あ、ごめ…えっと、無理に思い出して、琥太郎こたろうがしんどくなるのは嫌だから。僕は今のままで充分幸せだから」
泣き出しそうな顔で縋るように言ってくる姿に堪らず、人目も気にせずに強く彼を抱き締める
「ありがとう。まもるのこと……」

『愛してる』と言いたいのに、言葉が何故か出てこない
言おうとすると、何故が苦いものが上がってくるようで、言葉にすることができないでいた

「………琥太郎こたろう?どうしたの?」
不安げな表情を浮かべるまもるの頬を撫でて安心させるように微笑む
「とりあえず、俺の家に戻ろう。帰ったら、何か思い出すかもしれないし」

彼と腕を組み、タクシーで家の近くまで送って貰う




見覚えのあるマンションに辿り着く
いつもだと、人に見られるのを恥ずかしがって、人目がないのを確認してからじゃないと手を繋いで歩いてくれなかった恋人の事を思い出し、クスッと笑いが出る

「ここ、誰かに見られるんじやないかっていつもビクビクしながら手を繋いでいたよな」
まもるに向かって、思い出したことを口にするも、何か違和感を感じる

「そ、そうだね。でも、今は誰も居ないし…。僕、今は琥太郎こたろうと一緒に触れ合っていたいから…これからは、いっぱい手を繋いでね」

何か焦っているようなまもるの姿に、やはり人目を気にしているんだと勝手に解釈するようにし、浮かんだ違和感を無理矢理消し去る

「早く部屋に行こう?ここに居たら、誰かに見られちゃう」
俺の腕を引っ張っていく彼に、やはり見られることに焦っているだけだと自分を納得させ、連れて行かれるままに部屋に向かった


701号室


角部屋のここが、俺の部屋らしい
持っていた鍵で扉を開くも、室内は物がほとんどなく、あるのは段ボールに詰められている状態だった
「もうすぐ僕の部屋で同棲する予定だったから、色々片付けてたんだよ」

引っ越しの準備中だと話すまもるの話に納得し、頭を撫でる
「そっかぁ…、同棲直前なのにこんなことになって悪かったな」

仕事で使っているらしいノートパソコンや着替えはすぐに出しやすい段ボールにまとめられていた
まもる、ありがとう。すぐにでも同棲したいが、今の状況だと迷惑をかけてしまうから、もう少し落ち着いてからでもいいかな?出来るだけ早く、一緒に住めるようにするから」

文句を言いたげに頬を膨らませる恋人の頬を撫で、頬に触れるだけのキスをする

キスをした瞬間、何故が胸がモヤモヤし、それ以上触れることを戸惑ってしまう


恋人に触れているはずなのに、なんでこんなに心が騒つくんだ?


彼と共に近くのファミレスにて夕食を済ませ、1人部屋に戻ってきた

スマホはとりあえず新しいものを手に入れることが出来、アドレスなどはなんとか復活することが出来て安堵した


「明日、会社に行って今後の相談をしないとな…」
今後もその会社で働けるのか、今までの自分がどうだったのか、疑問ばかりが頭に浮かぶ

「せめて、写真かLINEの内容が復活してくれれば手掛かりになったんだけどな…」
戻らなかったデータに落胆し、深く溜息を漏らす
明日の準備を整えて早めに眠りについた。
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