【完結】キミの記憶が戻るまで

ゆあ

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side-琥太郎

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昨晩いきなり現れた男が、俺のストーカーらしい
今は疲れて眠ってしまった可愛い恋人の頭を撫でながら、彼から聞いた話を一つずつ思い返していた


自分の名前はわかる
仕事も、有名カフェチェーン店の本社で営業として働いていたんだと、持っていた名刺を見て朧げながらも思い出した

今、俺のベッドに頭を乗せて眠る彼、まもるは、最近付き合い出した俺の可愛い恋人、らしい

電車で痴漢に遭い、怖くて声も出なかったところを俺が助けたのが、出会いのきっかけだと目を輝かせながら話していた
その時に、俺に一目惚れしてくれたらしい

そして、別れたはずなのに、復縁を求めてストーカー紛いなことを始めてきた元恋人なのが、昨晩の平凡たぬき顔のアイツらしい

アイツがいたから、なかなかまもるとは交際することが出来なかった
確かに、ストーカーになるくらい俺のことを想っている奴が、可愛いまもるを見たら嫉妬で何をするかわからないものな…


一時でも、あんな奴と付き合ってたのかと、自分自身に疑問を覚えるも、ストーカーみたいな行為を繰り返して、昨日も病院まで来ていたところを見ると、仕方なく付き合って、すぐに別れを告げたんだと、過去の俺の行動を分析してみる


「とりあえず、身体には異常がないようだし、記憶喪失って言っても一過性のものだろう。
早く仕事にも復帰しないとな…」

昨晩から付きっきりで世話をしてくれる、健気な恋人の寝顔につい頬が緩む
猫っ毛の柔らかいクルクルした髪に指が絡んで気持ちいい
今は閉じられているが、潤んだ大きな瞳は俺のことが好きで堪らないと言ってくる
リップでも塗っているみたいなプルプルの唇にキスをしたくなるものの、恋人とは言え、寝込みを襲うのはどうかと何とか理性で押し止まる


「退院したら、まずはスマホをどうにかしないとな…」

スマホは、病院に入る前に壊れたらしい

彼が階段から落ちるのを身を挺して庇い、一緒に落ちたせいで道路に吹っ飛んだスマホ

運悪くそこを車が通過して、スマホはぺちゃんこ、中のデータは諦めた方が良さそうだった

だから、今の自分のことを思い出す手掛かりは、恋人であるまもるから聞くしか方法がなかった
家に戻れば、パソコンなりノートなり、自分に関する物があるだろうから、徐々にでも思い出すことは出来るだろう



ただ、まもるからの話しだけでは、何か引っ掛かるものがあった
何が…と言われても、それが何なのかはわからないが、胸に棘でも刺さっているような、何かが気になる

思い出さなければいけない何か…
俺にとって、一番大切なことを……
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